Erasmus+の青少年分野で実施されている小規模協力事業「DIGI-STORY — Digital Storytellers: Empowering Youth Through Media Literacy and Transmedia」は、共通報告書「Young People’s Online Behaviour: A Cross-National Study」を2026年10月に公開した。対象はチェコ、スペイン、ポルトガルの若者165人で、質問票調査と専門家フォーカスグループの結果をまとめている。作成したのは、チェコのEduHive、スペインのNeotalentway、ポルトガルのStorytellmeの3団体である。プロジェクト番号2025-1-CZ01-KA210-YOU-000361741が示すとおり、チェコのErasmus+国家機関に申請・採択された案件である。KA210はErasmus+のうち「小規模パートナーシップ」と呼ばれる枠で、少数の団体が比較的短期間で教材や手法を開発することを想定している。報告書は2026年10月7日、EUの青少年プログラムを支援する資源センター網SALTO-YOUTHの教材データベースToolboxに、「Young People’s Online Behaviour: Common Report」の名で掲載された。性格としては学術調査ではない。プロジェクトの第2作業パッケージ「研究と分析」の活動A2に位置づけられたニーズ分析であり、後続の主要成果物「Online Behaviour Guide」の設計根拠として書かれている。報告書の中心的な主張は、若者のデジタル能力に関する自己認識と実際の行動の間に体系的なずれがあるというものである。そのずれは、とりわけ誤情報、アルゴリズム、倫理の領域で顕著だとされる。
調査設計と標本
報告書は量的手法と質的手法を組み合わせた混合研究法を採る。量的部分は各国で実施したオンライン質問票で、1か国あたり約50〜65人、対象は15〜30歳の若者、分析は記述統計にとどまる。質的部分はメディアリテラシー、教育、ユースワークの専門家によるフォーカスグループで、調査結果の妥当性確認と戦略的優先事項の特定を目的としている。ただし、参加した専門家の人数、国別構成、実施時期は記載されていない。報告書は、この組み合わせによってデジタル能力の自己認識と実際のオンライン行動の双方を把握できると位置づけている。
| 国 | 回答者数 | 主な構成 |
|---|---|---|
| チェコ | 65 | 中等教育の生徒(16〜18歳)が73% |
| スペイン | 50 | 大学生または就労者が66% |
| ポルトガル | 50 | 中等教育の生徒(16〜18歳)が68% |
| 合計 | 165 | 年齢範囲13〜30歳(図表上の表記) |
報告書は、3か国の標本には高い一貫性があり、国間の比較可能性と結果の信頼性が担保されていると記す。しかし上の表のとおり、チェコとポルトガルでは高校年代が7割前後を占めるのに対し、スペインでは大学生と就労者が3分の2を占める。生活段階の構成が異なる以上、国差として読まれる数値の一部は年齢と生活段階の差である可能性が残る。年齢範囲の表記も揺れている。方法論の節では15〜30歳、標本の図では13〜30歳とされ、質問票の年齢選択肢も13〜15歳から始まっている。
質問票は付録に全文が収録されている。構成は人口統計(国、年齢、職業)、オンライン行動とメディア消費、コンテンツ制作とデジタル制作、創造性・主体性・起業、責任ある安全なオンライン行動、デジタル・エコロジーとウェルビーイング、学習形式の希望の7ブロックで、計26問である。各ブロックには、プロジェクトが掲げる3つの具体目標のどれに対応するかが付記されている。末尾には個人データ処理への同意文があるが、法律番号や団体名・所在地の記入欄が空欄のまま残っている。収録されているのは各国が実際に配布した版ではなく、共通の雛形と見られる。
利用時間とプラットフォーム
全3か国で多数派が1日2〜6時間以上をオンラインで過ごしており、報告書はソーシャルメディアの集中的な利用を共通の前提として確認している。国による差は、1日4時間以上利用する層の比率に表れる。
| 国 | 1日4時間以上 | 報告書の注記 |
|---|---|---|
| チェコ | 70% | 3か国で最も高い |
| スペイン | 46% | 6時間以上は10%で3か国中最少、重度利用は抑制的 |
| ポルトガル | 36% | 4時間以上は最少だが6時間超が16%、分布が二極化 |
プラットフォームでは、InstagramとYouTubeが3か国に共通する軸となり、二次的なプラットフォームで国ごとの差が出る。報告書はこれらのプラットフォームが、視覚的で展開が速く、アルゴリズムに駆動される情報環境を形づくっていると要約する。国差の典型例として強調されるのがDiscordである。チェコの回答者の51%、ポルトガルの44%が利用している一方、スペインの若者では8%にとどまる。報告書はこれをゲーム文化とコミュニティ文化の違いと解釈している。ただし、スペイン標本が年長寄りであることの影響は検討されていない。
注意すべきは時間区分である。付録の質問票では、利用時間の選択肢は「0〜2時間」「2〜4時間」「4時間超」の3段階しかない。それにもかかわらず、本文は6時間以上の比率を国別に報告している。可能性は二つある。各国の実査票が共通雛形より細かい区分を持っていたか、別の設問から算出したかである。いずれにせよ報告書に説明はない。国別報告書は付録にリンクされているが、共通報告書だけでは数値の出所を確認できない。
プロシューマー論と制作スキル
報告書の理論的な軸は、消費者であると同時に制作者でもある「プロシューマー」という概念である。3か国とも、大半の若者は自作のデジタルコンテンツを作成・共有した経験を持つ。それでも多数派は、自らを主に視聴者の側にいると見なしている。報告書は、この行動と自己認識のずれをDIGI-STORYにとっての機会と位置づける。自らをアクティブな制作者と認識する比率は、ポルトガル6%、スペイン約8%、チェコ12.3%である。報告書はここから、プロシューマーの役割は未発達だと結論づける。制作の基盤となる技能も低い。動画編集アプリやグラフィックデザインツールなど基本的な制作ツールについて「知識がない」と答えた割合は、チェコで20%、スペインで28%に達する。制作経験がある層でも、制作の頻度は低く、技能も基礎的な水準にとどまるとされる。
一方、制作の目的と学習への関心には大きな国差がある。
| 指標 | スペイン | チェコ |
|---|---|---|
| トランスメディア・ストーリーテリングの学習への関心 | 44%が「関心あり」「非常に関心あり」 | 52%が関心なし |
| 社会変革・啓発のためのコンテンツ制作意欲 | 74%が「たぶん」「ぜひ」 | 低く、娯楽と自己表現を優先 |
報告書は、スペインをプロジェクトの中核的使命に最も合致する国と評し、チェコを最も無関心な国としている。ここで、自己認識を尋ねる設問の設計に触れておく必要がある。この設問の選択肢は「どちらかといえば消費者で、時々投稿する」と「アクティブな制作者(動画、ブログ、グラフィックなど)」の二つしかない。まったく投稿しない純粋な消費者という選択肢は存在しない。したがって「大半が消費者と自認している」という結果は、設問構造がほぼ必然的に生む分布でもある。6〜12.3%という制作者比率は、強い自己定義のほうを選んだ層の割合として読むべきである。
アルゴリズム理解と自己評価
報告書が5つの課題の筆頭に挙げるのは、デジタル技能への過信である。報告書によれば、全3か国でアルゴリズムが表示内容に与える影響を理解しているという自信は高いが、その知識を説明・応用する力は限られている。例として挙げられるのは次の2国である。チェコでは74%が理解していると答えたが、多くが実践的な明確さを欠いている。ポルトガルでは96%が自信を示したが、行動には欠落がうかがえる。報告書はこれを、知覚と能力の間の体系的なギャップと表現する。
ただし、この結論の後半には測定上の裏付けが示されていない。質問票にあるのは、アルゴリズムが表示内容にどう影響するかを理解している自信を5段階で問う設問だけである。アルゴリズムの仕組みに関する知識を客観的に測る設問も、説明を求める自由記述もない。「実践的な明確さを欠く」という判断は、誤情報への対応や倫理への配慮など他の設問の結果からの推論か、専門家フォーカスグループの評価に依拠していると考えられる。同一回答者の自己評価と客観テストを突き合わせる過信研究の測定とは性質が異なり、引用する際には区別が必要である。同様に、プライバシー設定の管理に自信があるとする回答は全3か国で55%を超える。これについては報告書自身も、実際の技能ではなく過信を反映している可能性があると付記している。
誤情報:遭遇、無視、検証
偽情報研究の観点から最も参照価値が高いのはこの節である。誤った情報や誤解を招く情報にオンラインで遭遇した経験は90〜98%とほぼ普遍的で、3か国平均は94%に達する。一方で、遭遇後の反応、検証習慣、見抜く自信には大きなばらつきがあるとされる。
| 指標 | チェコ | スペイン | ポルトガル | 3か国 |
|---|---|---|---|---|
| 誤情報に遭遇した経験 | — | — | — | 平均94%(範囲90〜98%) |
| 遭遇時の最多反応「無視する」 | 62%(本文中では61.5%) | 52% | 64% | 60% |
| 遭遇時に「反応前に確認する」 | 13% | 26% | 16% | — |
| 共有前に「頻繁に」「いつも」正確性を確認 | — | — | — | 58% |
| 研修拡充に「ぜひ」「たぶん」賛成 | 66.1% | — | 76% | 72% |
報告書は、無視が支配的な反応である状態を「受動的な多数派」と呼ぶ。そして、反応前に能動的に検証する層が少ないことを、プログラムが直接対処できる主要な欠落と位置づけている。
この表には、報告書が論じていない緊張関係が含まれている。共有前に頻繁またはいつも正確性を確かめるという回答は58%であるのに対し、誤情報に遭遇したときの反応として確認を選んだのは13〜26%にすぎない。前者は一般的な習慣についての自己評価で、後者は具体的な場面での典型的な反応の選択である。問い方の違いが回答を大きく変えていると見られる。自己申告型のリテラシー調査では、一般論として尋ねると望ましい行動が過大に報告されやすい。本調査はその差を同一の標本内で示す一例になっている。報告書はこの差を過信の証拠として明示的には使っていない。しかし、前節の過信という結論を補強する材料としては、アルゴリズムへの自信度よりもこちらのほうが直接的である。
「無視する」を受動性として一律に欠陥と扱う枠組みにも、検討の余地がある。偽情報対策の実務では、誤情報に反応しないこと、拡散しないことはむしろ推奨される行動である。善意の引用や反論が結果として増幅につながるという指摘も多い。拡散リスクの観点で問題になるのは、無視そのものではなく、検証せずに共有する行動の頻度である。質問票は遭遇時の反応として「報告する」「他者に警告する」「時々検証せずに共有してしまう」という選択肢も用意しているが、共通報告書はこれらの数値を示していない。とりわけ未検証の共有率は拡散リスクを直接示す指標であり、国別報告書で確認する価値がある。偽りのコンテンツや信頼できないコンテンツを見抜く自信を問う設問の結果も、本文には現れない。
倫理、プライバシー、ウェルビーイング
デジタル上の責任と倫理については、著作権の認識、プライバシーへの配慮、倫理的なコンテンツ共有に欠落があるとされる。スペインでは44%がいつも倫理を考慮すると答える一方、42%は時々にとどまる。チェコでは30.8%が倫理とプライバシーに無関心と回答した。質問票上、著作権と写り込んだ人物のプライバシーへの配慮を問う設問の選択肢は「いつも」「時々」「考えない、気にしない」の3つであり、チェコの30.8%は最後の選択肢に対応すると読める。
ウェルビーイングと環境意識については、三つの課題が挙げられている。デジタルデトックスの難しさ、ネットいじめやヘイトスピーチといった有害コンテンツへの曝露、そしてデジタル活動の炭素フットプリントへの関心の低さである。
| 指標 | チェコ | ポルトガル |
|---|---|---|
| 炭素フットプリントを知っているが気にしない | 63.1%(3か国で最高) | — |
| 炭素フットプリントを知らない | — | 24% |
| 環境上の理由でデジタル活動を制限している | — | 40% |
| 定期的にデジタルデトックスができる | — | 46% |
| 常時オンラインでデトックスできない | 32% | — |
報告書は、チェコの数値をデジタル依存の強い指標と見なしている。一方でポルトガルの若者については、3つの標本の中で最も健全なウェルビーイング指標を示す集団と評価する。この評価はポルトガルの4時間以上利用が36%と最少である点と整合するが、同国には6時間超の層が16%存在するという二極化も併せて見る必要がある。ヘイトスピーチ、ネットいじめ、差別を経験または目撃したかを問う設問は質問票に含まれている。しかし共通報告書は有害コンテンツへの曝露を課題として列挙するにとどまり、国別の数値を示していない。ヘイトスピーチ研究の観点からは惜しい欠落である。
専門家フォーカスグループと5つの課題
専門家は国を越えて、認識と行動の間の構造的なギャップを中心的な問題として特定した。優先領域として挙げられたのは次の5つである。実践的な応用としてのアルゴリズムリテラシー、ファクトチェックと検証の技能、デジタルアイデンティティとデジタル上の足跡の管理、倫理的なコンテンツ制作、オンラインでの感情的・心理的なレジリエンス。専門家はさらに、知識型の学習から行動型の学習への転換と、体験型・シナリオ型の教育の必要性を強調した。学習形式の希望も明確で、動画、インタラクティブなコンテンツ、トランスメディア的な手法が好まれ、PDFのような従来型の形式はおおむね拒否されたという。報告書はこれらを統合し、国を横断する5つの課題として整理する。
- デジタル技能への過信
- 誤情報に対する受動的な行動
- 弱いプロシューマー・アイデンティティ
- 倫理・環境意識の限定性
- 知識が行動に適用されていないこと
そのうえでOnline Behaviour Guideに求める要件として、次の点を挙げる。行動変容と実践技能への焦点、現実のシナリオとインタラクティブな演習、トランスメディア・ストーリーテリングの活用、技術面と感情面の双方への対応、能動的なデジタル市民性と責任の促進である。結論部では、国ごとの差はあるものの驚くほど一貫したパターンが見られ、欧州レベルでの協調的で革新的な教育的対応が必要だとする。DiploFoundationによるプロジェクト紹介によれば、その後完成したガイドは6領域で構成されている。利用習慣、情報と偽情報、責任あるコンテンツの消費と制作、データ保護とオンライン上の安全、コンテンツのパーソナライズとアルゴリズム、デジタル上の足跡とプライバシー管理である。
データの読み方と限界
本報告書を偽情報・メディアリテラシー研究の文脈で引用する際には、その性格と限界を踏まえる必要がある。以下は報告書自身の記述ではなく、本文と付録の照合に基づく筆者の整理である。
- 標本と分析手法: 標本は165人と小さく、抽出方法の記載がない。配布経路や募集方法が示されていないため、参加団体の接点を通じた便宜的な標本である可能性が高い。分析は記述統計のみで、国差の統計的有意性は検定されていない。1か国50人の標本では、1人の回答が2ポイントに相当する。
- 国間の構成の違い: スペインの標本は大学生と就労者が中心で、他の2か国と生活段階が異なる。Discordの利用率や、トランスメディア・社会変革への関心に見られる国差の一部は、文化差ではなく年齢構成の差として説明できる可能性がある。
- 報告値と質問票の不整合: 利用時間の区分や年齢範囲など、共通報告書の数値と付録の質問票が整合しない箇所がある。
- 中心的結論の根拠: 過信やアルゴリズム理解の欠如という中心的な結論は、自己評価と客観的な測定を比較して得られたものではない。
- 未報告の設問: 質問票には偽情報研究に直結する設問が多く含まれている。有害コンテンツへの曝露、未検証の共有、偽情報を見抜く自信、消費するコンテンツの種類、制作の動機などである。しかし、その多くの結果は共通報告書に現れない。
それでも本報告書には価値がある。それは代表性ではなく、教材設計のためのニーズ分析として、調査票から結論、成果物の要件までの連鎖を一通り公開している点にある。とりわけ、一般的な検証習慣の自己申告(58%)と具体的な場面での確認行動(13〜26%)の乖離は示唆的である。メディアリテラシー施策の効果測定を自己申告に頼ることの危うさを、小規模ながら同一の標本内で示しているからである。また、誤情報を「無視する」ことを欠陥とみなすか、非増幅という合理的な行動とみなすかは、評価軸の選択の問題である。この問いは、リテラシー教育と偽情報対策の目標がどこで一致し、どこでずれるかを考える材料になる。付録にリンクされた国別報告書を併読し、共通報告書に現れない設問の分布を確認できれば、中欧と南欧の若年層を比較する資料としての価値はさらに高まる。


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