駐ウクライナEU代表部は2026年10月7日、Third Quarterly Monitoring Report on Pro-Russian Disinformation Targeting EU–Ukraine Relations (June – August 2026)を公開した。本体のPDF(DARE_Compilation Q3 2026_ENG.pdf)は14ページで、表題は「Tensions in Ukraine-Poland Relations, Ukrainian Drones on the Black Market and Termination of Temporary Protection for Ukrainians Liable for Military Service」である。作成したのは、EU代表部が支援する「Regional EU Disinformation Resilience-related Network of Journalists」と、EUが資金を出すEU-UA Disinformation Awareness and Resilience(DARE)プロジェクトのチームである。前者はウクライナ各州の地域媒体12社で構成される。EUの資金で運営される事業が「EUとウクライナの関係」を標的とする偽情報を扱う以上、反証の多くがEU機関の決定や欧州委員会の世論調査に依拠する構造は最初から押さえておく必要がある。報告書自身も末尾で二点を明記している。内容は参加12媒体の報道・監視・分析に基づくもので、EUの公式見解ではない。また、取り上げた媒体がクレムリンと結びついている、あるいは意図的に偽情報を流したとは限らない。
報告書の位置づけ:12の地域媒体による四半期編纂
報告書は四半期報告の第3号で、春季の傾向(前号)の継続を指摘する。問題設定は、クレムリンと親ロシアの宣伝者がEU・ウクライナ関係と欧州統合改革を利用し、「EU加盟国はウクライナを対等な相手とみなさず、その資源を搾取している」と信じ込ませようとしているというものである。
各媒体が自らの地域の情報空間(主にTelegram、一部Facebookと被占領地のオンライン媒体)で検出した事例をファクトチェック記事にまとめ、DAREチームが主題別に再編集する形式である。参加媒体と、各媒体が今回寄せた記事は次の通りである。
| 媒体 | 拠点・性格 | 今回の記事 |
|---|---|---|
| Zaxid.net | リヴィウのオンライン媒体 | ’Rising Cost of Lige’ And Lying Rhetoric Questions |
| Rayon.in.ua | 全国のハイパーローカル媒体ネットワーク | From the Real Problem to Hate Speech |
| Rubryka | 情報通信社 | Clickbait and Semi-Truth |
| Kordon Media | スームィ州 | ’Ukraine Will Not Be Taken to the EU and Will Be Exploited’ |
| 18000 | チェルカースィ州の情報通信社 | From ‘Reserve+’ to Shaking Hands With Zelenskyy |
| Informer | オデーサ州 | Fake Polish Magazine, Womens Mobilisation And Insults of Finlands President |
| Pershyi Zaporizkyi | ザポリージャ州(被占領地を含む) | The EU ‘Closes the Borders’ and Ukrainian Is Banned in Poland |
| 0629.com.ua | ドネツク州(被占領地) | Who Caused the Heat Wave in Europe? |
| Gwara Media | ハルキウ州 | Summer Wave of Russian Disinformation About the EU |
| Galka.if.ua | イヴァーノ=フランキーウシク州 | The Military Liable Are Sent Away, Women Are Checked, Rights Are Taken? |
| Ye.ua | フメリニツキー州 | ’Impossibility of Ukraine`s European Integration’ and Territorial Claims |
| Vhoru | ヘルソン州(被占領地メディアを監視) | Illusion of EU ‘Collapse’ and ‘Madness’ of Its Leaders |
件数、到達量、閲覧数の集計や事例の選定基準は示されておらず、地域ごとの代表的事例と反証手続きを集めた定性的な事例集である。検証手段は、公的機関への照会、文書番号の照合、画像のAI生成判定、撮影場所と日時の特定、引用元報道の原文確認に整理できる。
主要事例の一覧
本文で扱われる12の事例を、検出地域と手口、反証の根拠で整理すると次のようになる。検出地域は本文の記述に従った。
| 主題 | 本文での検出地域 | 手口 | 反証の根拠 |
|---|---|---|---|
| EUが兵役対象者への一時保護を2027年から打ち切る | ハルキウ、キーウ、イヴァーノ=フランキーウシク、ザポリージャ各州のTelegram | 実在の決定の強調点ずらし | 7月15日のEU理事会決定 |
| ルーマニアで越境者が拘束・旅券没収 | ハルキウ州 | 証言動画 | ルーマニア移民総監察局への照会 |
| 女性も「Reserve+」の提示が必要 | イヴァーノ=フランキーウシク、キーウ、オデーサ、チェルカースィ各州 | 実在の決定の対象拡張 | 理事会決定の適用範囲、最高会議委員会の声明 |
| ゼレンスキーがEU資金でUPA記念施設を建設 | ヴォルィーニ、ハルキウ両州、ザポリージャ州被占領地 | 偽の大統領令 | 令番号の照合 |
| ワルシャワのタクシーでウクライナ語禁止 | ザポリージャ州被占領地 | AI生成画像 | 画像分析、報道の不在 |
| ワルシャワでプーチン演説を放映 | ハルキウ州 | 文脈の切り取り | 撮影地・日時の特定 |
| 発掘後にポーランドが領土を要求 | フメリニツキー州(Facebook) | 歴史的記憶の操作 | (解釈上の批判) |
| ウクライナはEUに加盟できない | フメリニツキー、スームィ両州 | 既存の定型語り | 交渉クラスター開始、ユーロバロメーター |
| EUが軍事化しロシアとの戦争を準備 | ザポリージャ、ドネツク、ヘルソン各州被占領地、オデーサ、チェルカースィ両州 | 責任転嫁、偽の権威 | ドイツの捜査、米情報機関 |
| 制裁はEU自身を害する | オデーサ、キーウ、ハルキウ各州、ザポリージャ州被占領地 | 災害の利用 | スペインの2026年消防体制 |
| 支援兵器が闇市場とマフィアへ | オデーサ州、ザポリージャ州被占領地 | 外国報道の改変 | ANSA原文、Global Initiative Against Transnational Organized Crimeの監視 |
| ポーランド誌が国防相の横領を暴露 | オデーサ州 | 外国誌表紙の偽造 | 公式サイト、ポーランド語の不自然さ |
一時保護「打ち切り」:実在の決定を反転させる
報告書が最も紙幅を割き、要点欄でも最初に挙げているのは、EUが2027年から兵役対象のウクライナ人に一時保護を延長しないという主張である。Gwara Mediaが収集したスクリーンショットでは、ハルキウのチャンネル「На самом деле в Харькове」や「ZOV ХАРЬКОВ」が、「EU諸国が2028年3月までの一時保護延長で合意した」という見出しの直後に、「だがEUは2027年から兵役対象者への一時保護を拒否する」という一文を太字で重ねている。
報告書はこれを「強調点のずらし」の典型例と位置づける。投稿が現れたのは7月15日直後である。この日EU理事会は、欧州委員会が提案した2028年3月4日までの一時保護延長を支持し、あわせて一部の兵役対象者に、ウクライナからの合法的な出国を証明させる新条件を承認した。実際の内容は、ウクライナ法上の兵役義務を果たしていない者や出国の法的根拠を欠く者について、新規申請を拒否できる余地を設けたというものである。施行は2026年8月5日だった。チャンネル運営者は、全体の延長という主要な事実を後景に退け、限定的な条件を「兵役対象者全員への制度廃止」へと書き換えた。
続いてハルキウ州のTelegramでは、ある男性が「違法に国境を越えたウクライナ人はルーマニアで旅券を没収され、国境警察の建物に拘束されている」と語る動画が、複数のチャンネルに同時に転載された。検証チームはルーマニア移民総監察局に照会し、ウクライナ国民の拘束や旅券没収の事例は存在しないという回答を得ている。報告書の結論では、動員と難民という敏感な主題を組み合わせた全投稿が、EUがウクライナ人を差別し「戦争を長引かせる」ために全員を送還しようとしていると直接・暗示的に非難しており、相互に連結した物語がEUへの不信と失望を形成している。
「Reserve+」と女性動員:性別の論点への連鎖
同じ主題に、性別の要素を加える投稿が続いた。成人のウクライナ人女性がEU加盟国で保護を求める際に、兵役登録アプリ「Reserve+」のデータ確認が義務になるという主張である。この主張はイヴァーノ=フランキーウシク、キーウ、オデーサ、チェルカースィの各州で検出された。18000が記録したチャンネル「Черкаси 18+」の投稿(閲覧数1,965)は、「ベルギー、ドイツ、その他のEU諸国で18歳のウクライナ人女性にReserve+の提示が求められている」と書き、出典として「Telegraf」を挙げ、根拠に「これらの国では軍事面での男女平等原則が適用されている」ことを持ち出していた。
報告書の反証は理事会決定の適用範囲に基づく。決定が軍籍の確認を求めているのは、2026年7月31日以降に一時保護を申請する者のうち、ウクライナ法上の兵役対象者である。性別や年齢にかかわらず兵役対象者にのみ適用され、女性に自動的に及ぶものではない。オデーサ州のチャンネルでは、EUが後押しする女性動員というより直接的な主張も検出された。報告書は、最高会議の国家安全保障・防衛・諜報委員会の声明を根拠に、女性の動員は実施されておらず、準備も検討もされていないこと、女性は志願によってのみウクライナ軍に入隊できることを示している。Informerが採録した画像は、徴兵事務所の記章をつけ乳児を抱いた女性兵士の背後で、EU旗の前に立つスーツ姿の男性2人が笑うという構図だった。看板には「大きな欧州の家族に入って12年」「僕はいまの兵士」と書かれていた。報告書はこれらの物語の狙いを、EUを「ウクライナ女性の命を取引する冷笑的な権力」として描くことにあるとまとめている。
ウクライナ・ポーランド関係:歴史的記憶の兵器化
要点欄によれば、夏季はウクライナ・ポーランド関係に関する虚偽・操作的主張が増加した。背景には実際の外交摩擦がある。ウクライナ特殊作戦軍の独立特殊作戦センター「北」に、「UPA(ウクライナ蜂起軍)の英雄」にちなむ名称が付与されたことをめぐり、両国関係は危機に陥っていた。宣伝者はこれを利用し、ハルキウ、ヴォルィーニ、フメリニツキー各州とザポリージャ州被占領地で偽情報を展開した。
報告書が最も鮮明な事例とするのは、「ウクライナ大統領令第579/2026号」とされる画像である。チャンネル「На самом деле в Киеве」の投稿には、ゼレンスキーがUPAの英雄の記念複合施設の建設を承認し、展示の中心をシュヘーヴィチ、バンデーラ、メーリニクらに充て、7,000万ユーロの建設費をEUが負担し、場所はヴォルィーニの虐殺が起きたルーツィク近郊であるという説明が添えられていた。拡散の時期はポーランドのヴォルィーニ虐殺犠牲者追悼日に合わせられていた。検証者が画像にある番号で実在の大統領令を照会すると、該当したのは国家警察のアンドリー・ルベリ大佐への特別階級授与の令で、記念施設への言及はなかった。報告書は、この種の投稿がポーランド側の偽情報源に流入する可能性も指摘している。
ザポリージャ州被占領地のチャンネル「Бердянск.Актуально」(登録者2.15万)は、ポーランドのタクシーに「ウクライナ語なら歩いて話せ」という掲示があるとする写真を流した。分析の結果、画像はAI生成であり、ウクライナとポーランドのどちらの報道にも、タクシーでのウクライナ語の組織的禁止を伝えるものはなかった。ハルキウの親ロシア系チャンネル群は、ワルシャワで全面侵攻開始時のプーチン演説が放映されたとする映像を流した(三つのチャンネルが同一映像に「言葉もない」という同じ文言を重ねている)。映像そのものは本物で、2026年7月14日に商業施設「Elektrownia Powiśle」付近で撮影されていた。ただし映っていたのは演説の放映ではなく、ロシアの教育の軍事化とプロパガンダを扱うドキュメンタリー「Mr Nobody Against Putin」の夏季野外上映だった。
フメリニツキー州では、ヴォルィーニ虐殺犠牲者の遺骨発掘が終われば、ポーランドがウクライナに領土を要求するという主張がFacebookで拡散した。報告書が示すスクリーンショットでは、発掘現場の写真に「なぜヴォルィーニではポーランド人の犠牲者だけを探すのか」という文字が重ねられ、反応は1,636件だった。報告書は、愛国心に訴える体裁で和解の試み自体を貶める点を問題視し、発掘と歴史家間の対話という善隣関係に不可欠な努力を損なうと結論づけている。
加盟不可能論と「EUの軍事化」
ウクライナは決してEUに加盟できないという主張を、報告書はロシアの宣伝の古典的戦術と呼ぶ。夏季はフメリニツキー、スームィ両州のTelegramで検出され、「加盟国自身がウクライナの加盟を望んでいない」という強調が加わった。Kordon Mediaの事例では、チャンネル「Мир сегодня с “Юрий Подоляка”」が、ハンガリー、ポーランド、スロバキア、チェコなどがいる限りEUに受け入れられないと語るドミトロ・コルチンシキーの動画を転載していた。反証として報告書は、6月15日に法の支配、民主的制度、行政、経済基準を扱う最初の交渉クラスター「基本」が、7月14日に「対外関係」クラスターが開かれた事実を挙げる。さらにユーロバロメーター「Attitudes towards EU Enlargement」で、EU市民の56%が拡大を支持し、52%がウクライナの加盟を支持して候補国中最高だったことも示している。
EUが軍事化し、ロシアとの戦争を準備しているという主張は、ザポリージャ、ドネツク、ヘルソン各州の被占領地とオデーサ、チェルカースィ両州で検出された。中心事例は8月4日から5日にかけての夜の出来事である。ライプツィヒ空港の貨物区域で爆発物を積んだ不審なドローンが見つかり、業務が一時止まった。ドローンはウクライナのアントノフ航空が運航する貨物機の近くにあり、その後の捜査でロシア軍参謀本部情報総局の関与が判明し、米情報機関もこれを裏づけた。しかしザポリージャ州被占領地のチャンネルは、在ベルリン・ロシア大使館の「キーウと欧州の軍国主義者のための急ごしらえの挑発」という見解を伝えた。そのうえで、ドイツにとっての主な危険はモスクワの「ハイブリッド攻撃」ではなく、ロシアとの戦争シナリオを熱心に練る政治家だと論じた。報告書はこれを責任転嫁の試みと位置づける。
ヘルソン州被占領地の媒体は、「フィンランドの政治家アルマンド・メマ」がフォン・デア・ライエン欧州委員長を紛争激化の責任者として非難し、ロシアは脅威ではないので欧州の再軍備をやめるべきだと述べたと報じた。検証の結果(The Insiderの検証記事も参照されている)、メマは2019年からフィンランドに住む配管工であった。極右政党「自由同盟」から欧州議会選挙と地方議会選挙に立候補したが、得票は100票未満で、親ロシア的・EU懐疑的な言動で知られる人物にすぎない。報告書はこれを「偽の権威の創出」と呼ぶ。政治的影響力のない周縁的人物を、影響力あるフィンランドの政治家、「欧州社会の声」として提示する手法である。
制裁・災害・腐敗:外部の出来事と外国報道の流用
要点欄は、スペインとフランスの森林火災など加盟国の自然災害が利用されたことを独立した項目として挙げている。本文で詳しく扱われるのはスペインの事例である。ザポリージャ州被占領地のチャンネル「Токмак Сегодня」(登録者1,400)は、スペインは2年連続でロシア製Ka-32ヘリなしに森林火災と戦っており、Ka-32は2024年からEU制裁で部品も技術者も得られず地上に留め置かれていると書いた。議会グループが制裁解除を求めたが、政府は決定権はEUにあると答えたという筋立てである。報告書は、制裁でKa-32の運用が困難になった点は事実と認めつつ、有効な消火航空戦力を失ったという主張を誇張と判定する。2026年にスペインが投入した体制は、水陸両用機15機、エアバスA400M用の新しい消火装備、チヌーク4機、クーガー2機であった。スペイン政府は火災の拡大を気候変動などと結びつけている。要点欄はさらに、フランスの一地域が政府援助を得るために「ウクライナ」へ改名されるという主張と、ドネツクの媒体による、欧州の熱波はウクライナのロシア製油所攻撃のせいだという主張にも触れている。報告書はこれらに共通する狙いを、EUの苦境を自らの「反ロシア」政策の帰結として描き、ウクライナを欧州の安全への脅威に仕立てることだと要約している。
支援兵器の闇市場流出の事例は、オデーサ州とザポリージャ州被占領地で検出された。投稿は、イタリアのマフィアがウクライナに供与された兵器と弾薬を買おうとしていると主張していた。根拠として挙げられたのは、パレルモ検事正マウリツィオ・デ・ルチアの発言をANSA通信が伝えたことと、ベルリナー・ツァイトゥングが以前に供与兵器の闇市場流出リスクを報じたことである。報告書がANSAの原文を確認したところ、記事の内容は、マフィアがウクライナの戦争で使われているものに類似した高度な兵器と、ドローンから投下する弾薬に関心を持っているというものだった。ウクライナから買うという記述はない。国際組織犯罪対策の研究組織Global Initiative Against Transnational Organized Crimeも、全面侵攻後にウクライナからEUへ組織的な武器密輸が行われた確認事例を検出していない。報告書表題の「ドローンの闇市場」はこの事例を指す。
最後の事例は、オデーサの親ロシア系チャンネルで流れたポーランド誌「Do Rzeczy」の偽表紙である。表紙には、「新国防相イェヴヘニー・フマラが120万ドルを盗み、若い愛人ダリアに使った」というポーランド語の見出しが、同誌の意匠を模して配されていた。検証では、同誌の公式サイトに該当記事がなく、実際の最新号は別の話題を扱っており、ポーランド語の文面に不自然な誤りがあることが確認された。報告書は、汚職という敏感な主題を突き、外国メディアの名で信憑性を演出した完全な捏造と分析している。
報告書から読み取れる構造と読解上の留意点
以下は報告書を踏まえた筆者の分析である。
第一に、今回の事例の多くは、何もないところから作られた虚構より、実在の出来事に寄生する型である。7月15日の理事会決定、特殊作戦センターの命名問題、ライプツィヒ空港のドローン事件、スペインのKa-32運用停止、ANSAの報道、ワルシャワでの映画上映は、いずれも実在する。操作は、強調点の移動、適用範囲の拡張、文脈の剥奪、責任の帰属先の反転という形で加えられている。完全な捏造は大統領令、雑誌表紙、タクシー画像の3件に限られ、それらも実在の令番号や実在誌の意匠、実在の摩擦を足場にしている。反証の多くが一次資料の照合で完結しているのはこの構造の裏返しである。
第二に、物語どうしの連結が明確である。一時保護の「打ち切り」は女性の「Reserve+」確認へ、さらに女性動員へと段階的に拡張され、ルーマニアでの「拘束」が加わって「EUはウクライナ人を送り返して戦争を長引かせたい」という上位の物語に統合されている。ポーランド関連でも、偽の大統領令は「EU資金」という要素を含むことで、二国間の歴史問題を反EUの物語に接続している。報告書がこの事例はポーランド側の情報源にも流れうると指摘している点は、同じ素材がウクライナ人向けには反ポーランド・反EU、ポーランド人向けには反ウクライナとして双方向に機能しうることを意味する。
第三に、被占領地のTelegramチャンネルが流通の結節点として繰り返し現れる。「Бердянск.Актуально」は軍事化、闇市場、ポーランドの各主題に登場するが、チャンネル間の転載網の構造に報告書は踏み込んでいない。
第四に、文書としての不整合がある。一時保護の主張の検出地域は、要点欄ではキーウ、オデーサ、ザポリージャ、チェルカースィ、本文ではハルキウ、キーウ、イヴァーノ=フランキーウシク、ザポリージャと異なる。ポーランド関連も、要点欄にあるリウネ州が本文にはない。フランスの改名とドネツクの熱波の主張は要点欄にしか登場せず、反証の手順は示されていない。Informerの記事題名にある「フィンランド大統領への侮辱」や、18000の記事題名にある「ゼレンスキーとの握手」も編纂物には収録されていない。編纂の過程で情報が選別・圧縮されており、引用には個別記事に当たる必要がある。
第五に、Rubrykaの記事「Clickbait and Semi-Truth」は、ウクライナ自身のメディアの釣り見出しや半端な真実が意図せず反EU認識を生む可能性を扱っているが、編纂物本文はこの論点を展開していない。実在の決定の一部だけを切り出す見出しは強調点ずらしと地続きであり、国内報道の慣行が操作の素材を供給しうるという視点は注目に値する。
総じて本報告は量的データを欠く代わりに、各州の地域媒体が自らの読者圏で何を検出し、どの一次資料で反証したかという粒度の記録を残している点に価値がある。


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