アメリカの非営利団体「OpenTheBooks」は、政府の支出の透明性を高める活動を行っている組織です。2011年に設立され、連邦、州、地方レベルの政府がどのように納税者の資金を使用しているのかを明らかにし、そのデータを公開しています。その活動は、アメリカの主要メディアでも頻繁に取り上げられ、市民の「知る権利」を守る重要な存在となっています。
今回は、OpenTheBooksが発表した「Taxpayer Funded Censorship: How Government is Using Your Tax Dollars to Silence Your Voice(納税者が資金提供する検閲:政府はどのようにして税金であなたの声を黙らせているのか)」という報告を紹介します。
アメリカ政府による誤情報対策の実態
1. 膨大な資金投入
- 総額:2021年以降、政府は「誤情報」を研究し対策するための研究助成金として2億6700万ドルを支出しています。
- COVID-19関連:その中でも少なくとも1億2700万ドルは、COVID-19関連の誤情報対策に直接使われました。この資金は以下のようなプロジェクトに充てられました:
- 公衆への働きかけ:ワクチン接種の促進や感染防止策を広めるため、地元団体や大学に助成金を提供。
- 学術研究:SNS上の誤情報の広がりを分析し、それを抑制するための新しい技術開発に支出。
2. ソーシャルメディア企業との協力
- アメリカ政府は、FacebookやTwitter(現在のX)などのソーシャルメディア企業と連携し、COVID-19政策に批判的な投稿を「誤情報」として削除するよう圧力をかけていたことが示されています。
- Meta(旧Facebook)のCEOマーク・ザッカーバーグは、後にこの政府の圧力について「間違いだった」と認めています。
3. 政策信頼性への影響
- 科学的根拠の欠如:
- 当時広く推奨されていた「6フィート(約2メートル)のソーシャルディスタンス」というルール。2024年1月、アンソニー・ファウチ博士は、このルールが「科学的根拠に基づくものではない」と発言。
- マスクの着用やワクチンの有効性についても、後に政府の説明に矛盾があると指摘。
- 信頼喪失:
- 政府や科学者の発言が後に訂正されることで、科学や公衆衛生に対する信頼が喪失。
4. 検閲の政治的利用
- 一部の研究助成金は、トランプ元大統領を批判するプロジェクトにも使われていました。
- 例えば、ジョージ・ワシントン大学が受け取った約20万ドルの助成金は、「パンデミック時におけるポピュリストリーダーの役割」を研究し、トランプ大統領を含む特定のリーダーが「社会的連帯」を阻害したと結論付けています。
5. 技術的対策の問題
- AIを活用した誤情報対策技術が開発されていますが、これが検閲やプロパガンダに利用されるリスクが指摘されています。
- 例として、「医療誤情報」をリアルタイムで監視し分類するAI技術を開発するために約30万ドルが支出。
- 一部のプロジェクトでは、真実ではあるが文脈不足によって誤解を招く「malinformation(悪情報)」を対象に含めることで、情報制御の幅が拡大する懸念が指摘。
6. 誤情報対策の実効性と課題
- 誤情報対策は、市民に正確な情報を伝えるという建前で進められましたが、実際には以下の課題が浮き彫りになっています:
- 政府が「正しい情報」の基準を一方的に決定し、それに反する意見を封じ込める危険性。
- 公衆衛生上の施策が信頼性を欠いていたため、誤情報対策自体が新たな混乱を引き起こしたこと。
考察
アメリカの事例は、政府が誤情報対策に関わることで、以下のような問題が生じる可能性を示しています:
- 検閲の疑惑:政府主導の対策は、市民から検閲と見られる危険があります。特定の意見が抑制されることで、社会的な議論が歪められる可能性があります。
- 信頼の損失:政府が「正しい情報」を一方的に決める姿勢は、市民から「何かを隠そうとしている」と疑われ、かえって信頼を損ねる結果を招きます。
- 多様性の欠如:誤情報対策が特定の政治的・イデオロギー的立場に偏ると、多様な視点を排除するリスクが高まります。
政府や企業による誤情報対策は、透明性、公正性、そして市民の信頼を守るために慎重に設計されるべきです。政府が情報の管理者になるのではなく、市民と情報がより自由に交わる環境を整備することが、誤情報の根本的な解決に繋がるでしょう。
コメント