インターネット上で急速に拡散する偽情報の中でも、アイデンティティに基づく偽情報(Identity-Based Disinformation, IBD) は特に注目されています。これは、ジェンダー、人種、LGBTIQ+などの社会的アイデンティティを悪用し、社会的分断や偏見を助長する偽情報を指します。
欧州対外行動庁(EEAS)は2024年11月8日、IBD対策のための新しいガイドラインを発表しました。このガイドラインでは、OSINT(オープンソース情報)ツールの活用を中心に、偽情報への具体的な対応策が紹介されています。
ガイドラインの目的と背景
IBDは、社会の結束を損ない、民主主義への信頼を揺るがすリスクがあります。EEASの新しいガイドラインでは、IBDの影響を最小化するための具体的な調査手法とツールが提供されています。
IBDの特徴:5Wで理解する
ガイドラインでは、IBDの本質を「5W」で整理しています:
- Who(誰がターゲットか):社会的に脆弱なグループ(例:ジェンダー、人種、性的指向)。
- What(どのような手法か):操作された画像や動画、誤解を招く投稿。
- Where(どこで広がるか):FacebookやTwitter、Telegramなど多様なプラットフォーム。
- When(いつ広がるか):選挙や国際イベントのタイミングで拡大。
- Why(なぜ広がるか):社会的分断を助長し、政治的またはイデオロギー的な目的を達成するため。
OSINTツールの役割と活用
EEASは、IBD対策の一環として以下のようなOSINTツールを推奨しています:
① 影響評価ツール
- BuzzSumoやHoaxyを活用し、偽情報の拡散範囲と影響を測定。
例:特定のデマがどれだけの人にリーチしたかを追跡。
② アーカイブツール
- Archive.todayやWayback Machineでデジタル証拠を保全。
例:過去のウェブページを記録し、改ざんを防止。
③ 協調性評価ツール
- InVID-WeVerifyやCooRnetで、偽情報のネットワークや連携を分析。
例:複数アカウント間の協調的な活動を特定。
④ 信頼性確認ツール
- TinEyeやInVID-WeVerifyで画像や動画の信憑性を確認。
例:画像の履歴を調査し、加工や誤用を特定。
⑤ ネットワーク分析ツール
- MaltegoやGephiを使い、偽情報の発信元や拡散経路を特定。
例:特定アカウントの情報拡散ネットワークを可視化。
偽情報対策における倫理と責任
ガイドラインは、偽情報対策において倫理と責任を重視しています。特に、以下の点に注意が必要です:
- 民主主義と人権の維持:
偽情報対策が、情報の自由や民主主義を侵害しないよう配慮。
- 脆弱なグループの保護:
調査や対応の過程で二次被害を避けること。
- 個人情報保護:
OSINTツールの利用における法的リスクの管理。
結論:IBD対策の重要性と未来
EEASのガイドラインは、アイデンティティに基づく偽情報の問題に正面から取り組む一歩です。OSINTツールの活用や倫理的な対応を通じて、社会の分断を防ぎ、信頼を回復することが期待されています。
今後、他国でも同様のガイドラインが採用されることで、国際的な偽情報対策がさらに進展するでしょう。
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