2024年6月6日〜9日の欧州議会議員選挙は、EUの民主主義の中核を支える重要なイベントでした。一方で、SNSプラットフォームを利用した偽情報の拡散が、選挙の公平性や透明性を脅かす要因として注目されました。これを背景に、German-Austrian Digital Media Observatory はSNSプラットフォームの偽情報対策の取り組みが詳細に分析した「CoP Monitor – Report 2024」を発表しました。本記事では、このレポートの内容を紹介します。
レポートの目的と背景
このレポートは、ヨーロッパ選挙を契機に、SNSプラットフォーム(Facebook、Instagram、TikTok)による偽情報対策の現状を評価したものです。レポートでは、これらのプラットフォームが採用した施策の有効性を3つの段階で分析しています。
- プラットフォームの自己報告(Level A):
各プラットフォームが自ら宣言した施策や進捗を確認。 - 独立したファクトチェック(Level B):
ファクトチェック組織がSNS上の偽情報事例を調査。 - 政党のSNS戦略分析(Level C):
各政党が選挙期間中に使用したSNS戦略を検証。
特に、偽情報が民主主義に与える影響、AI生成コンテンツやディープフェイクの脅威に焦点が当てられています。
レポートの主な発見
1. AI生成コンテンツとディープフェイク
プラットフォームは、AI生成コンテンツにラベルを付け、ユーザーに透明性を提供しようとしました。ただし、選挙関連のディープフェイクは少数ながら確認され、特にウクライナ戦争に関連したフェイクニュースが問題となりました。
2. 移民と亡命問題に関する偽情報
偽情報の多くは移民や亡命問題に集中し、特に右翼政党AfDがこのトピックを利用して分断を煽る戦略を採用しました。具体例として、移民と犯罪を結び付ける誤解を広める投稿が挙げられます。
3. TikTokの透明性不足
TikTokは政治広告を禁止しているとしていますが、非公式な政治広告の存在が確認されました。また、偽情報の報告手続きが不十分で、ユーザーが投稿を報告しても対応されないケースが多いことが判明しました。
4. プラットフォームごとの対応の違い
Metaは、ファクトチェック結果を投稿に直接リンクさせるなどの透明性を提供しています。対照的にTikTokは、偽情報に対する対応が不透明であり、投稿の削除基準やプロセスが明確ではありません。
5. 政党のSNS戦略
緑の党(Bündnis 90/Die Grünen)は、最も多くの予算をSNS広告に投入し、TikTokも積極的に活用しました。AfDは広告支出が少ない一方で、挑発的な投稿を用い、ユーザーの反応を引き出す戦略を採用しました。
レポートが示す課題
レポートでは、プラットフォームや選挙プロセスにおける構造的な問題点が明らかにされ、以下の改善が提言されています。
- 感情的な広告の規制:
怒りや恐怖を煽る広告を特別な形態の偽情報として認識し、規制を強化する。 - 政治広告の共通定義の導入:
プラットフォーム間で統一されたルールを設け、透明性を確保する。 - 国際的な協力の強化:
偽情報の発信源を追跡し、国際的な規制を整備する必要性。 - AI検出技術のさらなる進化:
AI生成コンテンツをより効果的に検出する仕組みの導入。
最後に
SNSプラットフォームは広告収入をビジネスモデルの中核としており、特に政治広告や感情を刺激するコンテンツは、ユーザーのエンゲージメントを高めることで収益を押し上げる重要な要素となっています。さらに、レポートが指摘するように、偽情報の多くは感情的な内容であり、プラットフォームのアルゴリズムがこれらの投稿を優先的に拡散する仕組みを持っていることも問題です。これにより、プラットフォームは広告収益を増加させる一方で、社会的な分断を助長するリスクを高めています。
EUは、このような状況に対応するため、SNSプラットフォームに対する規制を一層強化する方向に進むと予想されます。
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