2025年2月26日にPLOS ONEで公開された論文「Bluesky: Network topology, polarization, and algorithmic curation」（Quelle & Bovet, 2025）は、新興の分散型SNS Bluesky について、ネットワーク構造、政治的分極化、アルゴリズムによるキュレーションの影響を包括的に分析した研究である。本記事では、この論文の主要な内容を紹介する。
論文の目的
BlueskyはTwitterに似たマイクロブログ型のSNSであり、分散型ネットワークの仕組みを持つ。この論文では、Blueskyのネットワークの特徴を明らかにし、以下の3つの点について詳細に分析を行っている。
- ネットワーク構造: Blueskyのフォロー、リポスト、いいね、返信といったユーザー間の関係がどのような構造を持つのか。
- 政治的分極化: Blueskyのユーザーはどのような政治的傾向を持ち、どのような情報が共有されているのか。
- アルゴリズムの影響: ユーザー主導で設計できる「カスタムフィード」の利用状況と、その影響。
ネットワーク構造：Twitterとの類似点
論文では、Blueskyのネットワーク特性を分析し、既存の大規模SNS（Twitterなど）と似た構造を持っていることを明らかにした。
- 重尾分布（heavy-tailed distribution）: 一部のユーザーが非常に多くのフォロワーを持つ一方、大多数のユーザーはフォロワーが少ない。
- 高いクラスタリング係数（high clustering coefficient）: ユーザー間の関係が密集したコミュニティを形成。
- 短い平均経路長（short path length）: ユーザー同士の距離が短く、情報の拡散が速い。
これらの特徴は、Twitterなどの中央集権型SNSと共通しており、分散型SNSであってもネットワーク構造に大きな違いはない ことが示唆される。
Blueskyにおける政治的分極化
Blueskyのユーザーがどのような政治的傾向を持ち、どのようなニュースが共有されているのかについても分析が行われた。
- ニュースのシェア傾向
- 左派寄り（Left-Center）のニュースが 63.4%
- 右派（Right）のニュースは 7.9%
- フェイクニュースの拡散は 0.14% にとどまる
この結果から、Twitterの運営方針の変化（特にイーロン・マスクの買収）により、リベラル寄りのユーザーがBlueskyに移動した可能性が示唆されている。
また、個別の問題における意見の対立も分析されている。特にイスラエル・パレスチナ問題 については、
- プロ・パレスチナ派とプロ・イスラエル派の明確なクラスターが形成。
- フォロー関係では多様な意見が含まれるが、実際の議論（返信・コメント）は明確に分極化。
カスタムフィードの利用状況と影響
Blueskyでは、ユーザーが独自の推薦アルゴリズム（フィード）を作成できる。この仕組みは、従来のSNSの「不透明なアルゴリズム推薦」に対する対抗策とされている。
しかし、論文の分析によると、カスタムフィードの利用は限定的であり、実際にはデフォルトのフィードが主流 となっている。
- 約4万のカスタムフィードが作成されたが、実際に多くのユーザーに利用されているのはごく一部。
- 最も利用されているのは「For You（Discover）」などのデフォルトフィード。
この結果は、「アルゴリズムの透明性が高まればユーザーの行動が変わる」という仮説に対し、慎重な検討が必要であることを示している。
結論
この論文は、分散型SNSの理念と実際のユーザー行動の間にギャップが存在することを示している。「分散型SNSは本当に従来のSNSとは異なるのか？」という問いに対して、データに基づいた考察を提供している。
- ネットワーク構造はTwitterと類似しており、分散型であることが特に大きな影響を与えているわけではない。
- ユーザーの政治的傾向については左派寄りであるものの、個別の問題では明確な分極化が見られる。特にイスラエル・パレスチナ問題では、はっきりとした意見のクラスターが形成されていた。
- Blueskyの特徴であるカスタムフィードは多くの種類が作成されたものの、実際にはデフォルトのフィードが主に利用されている。アルゴリズムの自由度が必ずしもユーザー行動を変えるわけではないことが示された。
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