北マケドニアにおける偽情報と外国影響工作の実態:Metamorphosis Foundation 2025年調査報告

北マケドニアにおける偽情報と外国影響工作の実態:Metamorphosis Foundation 2025年調査報告 情報操作

 Metamorphosis Foundation for Internet and Society(スコピエ拠点の北マケドニアのNGOで、インターネットとデジタル社会に関する調査・政策提言を専門とする)は2026年3月、「The Effect of Disinformation and Foreign Influences on Democratic Processes in North Macedonia in 2025」を公表した。編集はFilip StojanovskiとDanche Danilovska-Bajdevska、調査実施はINDAGO社が担当した。

 本調査は2022年および2023年に同機関が実施した同名調査の第三弾であり、経年比較を設計上の中核に置いている。公開世論調査(CATI方式、固定・携帯デュアルフレーム、標本n=1,100、誤差±2.95%、信頼水準95%)と、2024年1月から2025年10月にかけての国内オンラインメディア監視を組み合わせた混合設計を採用する。多段階層別確率標本はスコピエを含む8地域・都市農村別・民族別(マケドニア系63.4%、アルバニア系26.0%、その他10.6%)・性別・年齢別に比例配分されており、調査期間は2025年10月6〜17日である。

 機関バイアスについては明示的な開示が必要だ。本報告書はオランダ王国・IFEX・IRI(米国際共和研究所)・EU・TechSoupなど西側志向の助成者が支援するプロジェクトの一環として作成されており、Metamorphosis自体が民主主義推進・EU統合支持を機関ミッションに掲げている。提言セクションにはそうした立場からの政策アドボカシー色が濃く出ており、調査データの解釈においてもその文脈を念頭に置く必要がある。なお、メディア監視部分はMetamorphosisが運営する地域ハブ「Western Balkans Anti-Disinformation Hub(antidisinfo.net)」の四半期報告書を一次資料としており、同機関が監視者・分析者・提言者の三役を兼ねる構造上の制約がある。


メディア環境と信頼構造

 情報取得チャネルの利用率を見ると、国内テレビ局が89%で首位を占め、SNSが80%でこれに続く。ただし年齢層による断絶が鮮明で、60歳以上では国内TVへの依存が97%に達する一方、SNS利用は50%にとどまる。逆に18〜29歳ではSNSが93%、国内TVが71%と逆転する。30〜49歳の中間層は両媒体をほぼ均等に利用する。デジタル媒体では国内オンラインポータルが66%、地域圏のポータルが54%、インフルエンサーの投稿を情報源とする市民も38%に上る。注目すべきは、市民の85%が個人的な対面接触・口コミから情報を得ているという点で、未検証情報の高速流通を可能にする構造的条件として機能している。

 信頼度の分布は利用率と乖離する。国内TVを信頼する市民は48%であるのに対し、SNSへの信頼は26%にとどまる。ラジオは利用率こそ41%だが信頼度は52%と最高水準を示す。国内オンラインポータルへの信頼は34%、地域圏・地域外ポータルはそれぞれ33%・36%と、SNSを上回って評価されている。経年トレンドとしては、デジタルメディアへの信頼が緩やかに上昇している。オンラインポータルへの信頼は2022年の27%から2025年の35%へ、SNSは21%から26%へそれぞれ増加した。他方、国内TV(49%→48%)・国際TV(48%→47%)・ラジオ(59%→52%)・紙媒体(40%→34%)はいずれも横ばいないし低下傾向にある。


陰謀論・偽ナラティブへの浸透

 偽情報耐性の実態は厳しい。65%の市民が「世界の戦争や経済危機を操る秘密の権力集団が存在する」という主張を信じており(2022年は71%)、COVID-19を「経済・政治的利益のために意図的に作られた」と信じる市民は66%で、2022年と同水準を維持している。ケムトレイル(飛行機雲が毒物散布の証拠)を信じる市民は37%で2023年の39%からわずかに低下しているが、この主張を否定する市民(36%)よりも依然として多い。数値の絶対水準として、三年間にわたるメディアリテラシー活動・ファクトチェック活動の蓄積を経てなお、主要な陰謀論信奉率が60〜70%台を維持し続けているという事実は、情報環境介入の有効性に対する根本的な問いを提起している。

 気候変動に関するデータは特に懸念すべき趨勢を示す。気候変動の実在を認める市民は2022年の52%から2025年の41%へと大幅に減少し、「経済支配のための捏造」と信じる市民は24%から31%へと増加した。反ワクチン言説については唯一の改善傾向が確認できる。「ワクチンが必要な疾患は自然免疫で克服できる」という主張への信頼は2023年の39%から33%へと低下し、否定する市民(39%)が初めて上回った。

 自己の偽情報識別能力については、「識別できる」と答える市民は依然として多数派(非常に自信がある19%、やや自信がある41%)を占めるが、自信を持てない市民の割合は2023年の17%(まったく自信がない4%含む)から2025年の38%(まったく自信がない10%含む)へとほぼ倍増しており、識別自信の低下という逆説的な動向が観察される。


親ロシアナラティブの浸透と変化

 親ロシアナラティブへの市民の態度は全体としてほぼ変化していない。最も典型的な例として報告書が挙げるのは「ウクライナには米国の生物兵器研究所が存在する」という主張で、2023年・2025年いずれも39%の市民が信じており変化がない。一方、この主張を否定する市民は2023年の8%から2025年の15%へと増加しており、批判的意識のわずかな強化が見られる。ただし注目すべきは、2023年・2025年ともに53%の市民がこの問題について「意見が形成されていない」と回答している点で、地政学的ナラティブに対する高い不確実性・情報不足が持続している。

 ロシアのウクライナ攻撃については、正当化しない市民が2023年の43%から2025年の44%へとわずかに増加したが、正当化する市民も22%→21%と大きく変わらない。ロシアへの制裁を「北マケドニアにとって適切でない政策」と見なす市民は2023年の42%から2025年の45%へと増加し、制裁支持は22%にとどまる。ただしこの問題には民族間格差が大きく、マケドニア系市民の56%が制裁反対なのに対し、アルバニア系市民の44%は制裁を支持する。

 ウクライナへの支持は緩やかに強まっており、国家主権・独立への支持継続を支持する市民は2023年の34%から2025年の39%へ増加した。また国内における親ロシア的影響源の存在を認識する市民が2023年の17%から2025年の29%へと大きく増加しており、外国情報工作の可視性上昇という変化が確認できる。


地政学的態度の反転

 2023年から2025年にかけての最も顕著な変化は、市民の地政学的同盟志向の逆転である。2023年には35%がロシアとの同盟を志向し、米国・EUとの同盟志向は26%にとどまっていた。2025年にはこれが完全に逆転し、米国・EUへの志向が43%、ロシアへの志向が22%となった。報告書はこれを「dramatic shift」と評価しているが、この変化の背景にある要因—ウクライナ戦争の長期化、NATO加盟後の安全保障認識の変化、親ロシアインフルエンスへの認識向上—の相対的寄与については本調査の設計上切り分けができない。

 NATO加盟と安全保障認識の変化は数値として明確だ。加盟により「より安全だと感じる」市民は2023年の31%から2025年の46%へと増加し、「そう感じない」は36%から23%へと減少した。この変化には民族間差異が大きく、アルバニア系市民の60%がNATOによる安全感の上昇を報告しているのに対し、マケドニア系市民では38%にとどまる。

 友好国・敵対国の認識についても民族系統が強く規定する。最大の友好国にセルビアを挙げる市民は40%だが、これはマケドニア系市民の55%がセルビアを友好国と見なすのに対し、アルバニア系市民では8%に過ぎないという非対称な分布を反映している。アルバニア系市民が友好国として挙げるのはアルバニア(30%)と米国(29%)だ。最大の敵対国としてはブルガリアが45%と突出しており(マケドニア系54%、アルバニア系23%)、EU加盟交渉の文脈と不可分な形で敵対認識が形成されている。ロシアとセルビアについては民族間の認識差が最も鮮明で、アルバニア系の17%がロシアを最大の敵対国と見なすのに対しマケドニア系は1%、セルビアを最大の敵対国と見なすアルバニア系は13%だがマケドニア系は0%だ。これらの認識の民族的断層線は、外国情報工作の受容可能性の地図でもある。


EU統合への複合的懐疑論

 EU統合に関する市民の態度は、単純な賛否の軸では捉えられない多層的な懐疑論として現れている。加盟プロセスが「遅すぎる」と感じる市民は82%に達し、「EUが不公平な条件を設定している」と考える市民は69%、「二重基準を適用している」と見る市民は68%を占める。これらは情報操作上の虚偽ナラティブと部分的に重複するが、長年にわたる加盟交渉の停滞から生じる実体験に基づく認識でもある点が解釈を複雑にする。

 経済的懸念も深刻だ。加盟後に生活コスト・物価が上昇すると予想する市民は67%、移民がさらに加速すると懸念する市民は63%を占める。社会文化的次元では、「EUはリベラル・左翼・LGBTQ+価値観を推進しており伝統に反する」と考える市民が59%、主権・国家的アイデンティティへの脅威を感じる市民が40%を占める。「EUに加盟するよりも良い代替路線がある」と考える市民は33%で、41%が反対するが、明確な代替構想を示す市民は少ない。

 ブルガリアとの紛争—EU加盟の前提条件として要求されている憲法改正—については態度の硬直化が進んでいる。憲法改正に反対する市民は2023年の50%から2025年の52%へと増加し(強く反対が43%)、民族間の断絶は際立っている。マケドニア系市民の支持は17%(強く支持が10%)にとどまるのに対し、アルバニア系市民の54%が支持(強く支持が40%)する。ただし2023年のアルバニア系支持率68%から54%への低下という変化も確認されており、絶対的な親EU一枚岩ではない。

 肯定的な側面としては、「EU加盟はガバナンス改善と汚職対策に好影響を与える」と信じる市民が36%存在し、「近日崩壊する」という言説に同調する市民が25%にとどまり(安定を信じる市民43%)、制度的安定性への信頼は保たれている。懐疑・疲弊・分断の中にも欧州統合への期待が残存している構造が、本調査の観察する北マケドニアの輿論地形だ。


情報環境を流通するナラティブの7類型

 報告書のメディア監視部分は、2024年1月から2025年10月にかけてWestern Balkans Anti-Disinformation Hubが実施した四半期報告書を基に、北マケドニアの情報環境に流通したナラティブを7類型に整理している。

 EU統合否定ナラティブは加盟を民族・文化的アイデンティティの喪失として描き、ブルガリアによる加盟阻止をEUの偽善・二重基準の証拠として活用する。アルバニア系住民を「アイデンティティに無関心でEU加盟だけを望む存在」として描写し、民族間分断を深める機能を持つ。「BRICS加盟の方が有益」「EUではなくロシアとの連携が望ましい」といった代替同盟ナラティブも含まれる。

 ウクライナ戦争関連ナラティブはウクライナを腐敗した脆弱国家として描き、紛争をNATO対ロシアの代理戦争として枠組みする。ゼレンスキーへの汚職疑惑・個人的資産疑惑を流布してウクライナ政府への信頼を損なわせ、ロシアの軍事行動を正当化しようとする。臓器密売・子どもの徴兵・供与兵器の横流しなどの未確認情報も継続的に流通している。

 反西側ナラティブは米国とNATOをバルカン諸国の主権を侵食する操作的アクターとして描く。トランプ大統領の政治的立場は、「より良い西側の代表」としても「西側民主主義の機能不全の証拠」としても双方向に活用されており、ナラティブの柔軟性を示している。

 ジェンダー偽情報はヘイトスピーチとモラルパニックを組み合わせて性的少数者の権利と平等政策を攻撃する。欧州的価値観を伝統的家族への脅威として描く言説はロシアソースおよびその地域代理媒体から発信され、米国の極右グループとも連動している。子どもへの影響を誇張する操作的コンテンツが動員ツールとして機能している。

 気候偽情報は気候保護措置を経済的脅威またはエリートによる資源・人口支配の陰謀として描く。科学的コンセンサスへの不信と再生可能エネルギーへの懐疑を同時に増幅させ、緑の転換を国家経済発展への脅威として位置づける。

 反ワクチンナラティブはCOVID-19ワクチンを中心に、ワクチンを発がん・不妊・自閉症の原因として描く内容が継続的に流通した。医療専門家および医療制度全般への不信醸成を目的とした言説が含まれる。

 陰謀論カテゴリーにはケムトレイル・5G有害説・ポストパンデミック新世界秩序・NATOとサタニズムの結びつき・ワクチンマイクロチップなどが含まれる。報告書はこれらが市民的無関心を誘発し「何も変えられない」という政治的虚無主義を強化することで、民主的参加の基盤を侵食すると分析している。


偽情報発信源の認知と政策需要

 誰が偽情報を流布しているかという認識については、政治家が最大の発信源として認識されている(2023年90%→2025年81%)。メディア・ジャーナリストへの認識も高水準を維持している(85%→78%)。注目すべきは近隣諸国への認識で、ブルガリアの外交・機関が偽情報を流布していると考える市民は60%、ギリシャは52%に達し、これは主要地政学的大国に対する認識を上回る。ロシア外交・機関への認識は2022年の46%から2025年の42%へとわずかに低下した一方、米国(52%→40%)・EU(52%→39%)への認識も同様に低下しており、相対的にはロシアへの認識が高まっている。コソボ(46%)・アルバニア(43%)・セルビア(41%)についても有意な割合が偽情報発信源と見なしており、これらの認識は民族系統によって大きく分岐する。中国については2025年初測定で35%が発信源と見なした。

 学術・科学機関への認識については顕著な改善が見られる。「科学者・学術機関が偽情報を流布している」と考える市民は2022年の45%から2025年の31%へと低下し、否定する市民(52%)が初めて大きく上回った。

 政策需要については、74%の市民が政府によるメディア偽情報対策を支持し、67%が「偽情報は有害であり法的制裁が必要」と考える(2023年は75%)。国家の偽情報対処能力については評価が逆転しており、2023年には能力なしと見る市民(39%)が能力ありと見る市民(27%)を上回っていたが、2025年には能力ありが39%、能力なしが32%と逆転した。偽情報対策における主導的役割に対する期待は、メディア政策担当機関(64%)と報道機関・ジャーナリスト(56%)に集中しており、学術機関への期待は2022年の18%から26%へと増加した。


提言の構造

 報告書が提示する7本柱の提言は、「whole-of-society approach(全社会的アプローチ)」を基本概念に据えており、その枠組みはEEAS等のFIMI対処フレームワークと整合的だ。第一に、批判的思考文化の醸成と偽情報対処の国家戦略枠組みの策定・強化。第二に、デジタルサービス法(DSA)・欧州メディア自由法(EMFA)への国内法制の整合と規制機関の能力強化。第三に、選挙機関・規制当局・メディア・市民社会が連携した選挙統合性保護戦略の策定。第四に、メディア内部のファクトチェック機能と自主規制の強化。第五に、メディアリテラシー・デジタルリテラシーの長期公共政策化と正規教育への統合。第六に、FIMIへの戦略的コミュニケーションによる対処と機関間協調。第七に、偽情報ソースの脱収益化への民間セクター・広告業界の動員とメディア健全性を支える経済モデルの構築。

 提言全体として、規制・制度・市民社会の三層を統合した構造的介入を志向している点は評価できるが、制度的能力の制約が大きい西バルカンの文脈において、これらの提言がどの程度実装可能かは別の問いとして残る。報告書はその有効性について実証的根拠を提示しておらず、著者らの機関的立場に沿った規範的方向性として受け取る必要がある。

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