偽情報がもたらすリスクが増大する中、研究者の役割はますます重要になっています。EUのデジタルサービス法(DSA)は、研究者がソーシャルメディアデータにアクセスしやすくするための新たな枠組みを提供しました。しかし、その運用には課題も多いことが明らかになっています。2024年12月6日にGLOBSECが公開したレポート「Access to Data for Researchers: A State of Play」から、EUの取り組みとそこから日本が学べることを探ります。
1. レポートの背景
レポートは、EU内外の54名の研究者を対象に実施された調査結果に基づいています。偽情報や情報操作を研究する専門家たちが、どのようにデータアクセスの課題に直面しているかを具体的に示しています。
- DSA第40条の意義:
- プラットフォームが公開データと非公開データを提供する仕組みを規定。
- 目的は、偽情報などのシステミックリスクを特定し、理解を深めること。
- 国家デジタルサービス調整官(Digital Services Coordinators)が非公開データへのアクセスを管理。
2. 研究者の現状:データアクセスの壁
レポートは、DSAによって研究者が期待していた効果が完全には実現されていないことを指摘しています。
- 手続きの複雑さ:
- データアクセスの申請は煩雑で、承認には数か月かかる場合もある。
- 例:MetaのAPIアクセスに最大5か月、TikTokに7か月を要した事例がある。
- データの質の問題:
- 提供されるデータは断片的で、リアルタイム分析や詳細なネットワーク解析には不十分。
- 一部のプラットフォームでは、以前のツール(例:CrowdTangle)が持っていた機能を欠いている。
- コスト負担:
- 多くのNGOや小規模研究機関が商用ツールに依存せざるを得ない状況。
3. 解決策と未来の展望
レポートでは、データアクセスを改善するための具体的提案も含まれています:
- APIアクセスの拡充:ユーザーフレンドリーなインターフェースで、広範なデータ提供を実現。
- データの質向上:リアルタイムデータやエンゲージメント指標を含む詳細なデータセットの提供。
- 申請プロセスの簡素化:組織単位でのアクセス許可を基本とし、再申請の負担を軽減。
4. まとめ
本レポートは、偽情報対策の研究が直面する課題を明らかにし、改善に向けた道筋を示しています。この取り組みは、日本の偽情報対策においても大きなヒントを提供します。
しかし、日本の現状を見ると、プラットフォームと研究者をつなぐ法的な仕組みやデータ提供の透明性が欠如していることは明らかです。政府は、災害時や選挙期間中に偽情報の被害を抑えるため、EUのような明確な法整備と支援策を速やかに検討すべきではないでしょうか。
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