ウクライナ戦争とロシアの情報操作:3年間の戦略をフランス政府機関VIGINUMが分析

ウクライナ戦争とロシアの情報操作:3年間の戦略をフランス政府機関VIGINUMが分析 情報操作

 ロシアのウクライナ侵攻から3年が経過する中、フランス政府機関VIGINUMが発表した2025年2月24日に公開したレポート『War in Ukraine: Three years of Russian information operations』は、ロシアがウクライナ戦争に関連して展開している情報操作の実態を明らかにしている。本記事では、このレポートの要点を整理し、ロシアがどのように情報戦を展開しているのかを具体例とともに紹介する。


ロシアの情報戦略:ターゲットごとに異なる手法を展開

 本レポートによると、ロシアは対象地域ごとに異なる情報操作戦略を展開している。大きく分けると以下の4つのカテゴリーに分類される。

  1. フランスを標的にした情報操作
  2. EUを標的にした情報操作
  3. ウクライナと占領地域を標的にした情報操作
  4. アフリカを標的にした情報操作

それぞれのターゲットに応じた偽情報が流布されており、その手法も多岐にわたる。


1. フランスを標的にした情報操作

 フランスはウクライナへの軍事・経済支援を積極的に行っており、そのためロシアの情報戦の主要な標的となっている。特に以下の2つの情報操作セットが確認されている。

RRN(Reliable Recent News)による偽ニュース

  • 偽情報の内容:
    • フランス政府がウクライナの戦争犯罪を隠蔽している。
    • フランス軍がウクライナに派兵する計画を進めている。
  • 手法:
    • Le Mondeやワシントン・ポストなどを装った偽サイトを作成し、Xなどで拡散。
    • フランス外務省やNATOを装ったウェブサイトも運営し、誤情報を広める。
  • 目的:
    • フランス国内の反戦感情を煽り、ウクライナ支援を弱体化させる。

Matryoshkaによるファクトチェック妨害工作

  • 偽情報の内容:
    • フェイクのニュースや証拠をメディアやファクトチェック機関に提示し、誤情報を拡散させる。
    • AI生成の動画を使い、大学の研究者を装った偽の証拠を作成。
  • 手法:
    • 偽のスクリーンショットや報告書を作成し、フランスの報道機関やファクトチェック団体に問い合わせを行う。
    • SNS上で「フランスのウクライナ支援政策は国民の支持を得ていない」との印象操作を行う。
  • 目的:
    • メディアの混乱を引き起こし、誤情報の拡散を助長する。

2. EUを標的にした情報操作

 EUでは、ロシア国営メディアのRTやSputnikが禁止されたため、新たな手法でプロパガンダを展開している。

Voice of Europe & Euromore

  • 偽情報の内容:
    • ウクライナは欧州の分裂を引き起こしている。
    • 欧州議会選挙に向けて、親ロシア派の政治家を支援する情報を拡散。
  • 手法:
    • Voice of Europeは、親ロシア派の欧州政治家をインタビューし、欧州議会選挙への影響を試みる。
    • Euromoreはロシアのプロパガンダを48カ国語で拡散し、ロシア政府の主張を広める。
  • 目的:
    • ロシア寄りの政治家を支援し、欧州の結束を弱める。

3. ウクライナと占領地域を標的にした情報操作

Portal Kombat

  • 偽情報の内容:
    • 「ウクライナ軍が親ロシア派住民を虐殺している」
    • 「ロシア軍がウクライナのナチスから解放している」
  • 手法:
    • 200以上の偽ニュースサイトを運営し、同じ内容の記事を大量に拡散。
    • ロシア政府系メディアと連携し、英語・フランス語など多言語で配信。
  • 目的:
    • 占領地域の住民のロシア支持を強め、ウクライナ政府の信頼を低下させる。

4. アフリカを標的にした情報操作

Project Lakhtaによる「フランスがアフリカ移民をウクライナ戦争に送る」キャンペーン

  • 偽情報の内容:
    • 「フランス政府がアフリカ移民をウクライナの戦争に送り込む計画を立てている」
  • 手法:
    • 2024年4月、フランスの求人サイトを装った偽広告を作成。
    • Facebookのアフリカ系移民向けページで拡散。
  • 目的:
    • フランスの評判を落とし、アフリカ諸国のロシア支持を強める。

まとめ:ロシアの情報戦の影響は限定的だが、継続的な監視が必要

 レポートは、ロシアの情報操作は多数確認されているものの、その効果は限定的であると結論付けている。その理由として、

  1. 技術的なミスや低品質なコンテンツが多いこと
  2. 欧州諸国の対策によって影響が封じ込められていること
  3. 誤情報がすぐに暴かれることが多く、大規模な世論形成には至っていないこと 

が挙げられている。とはいえ、ロシアの情報戦は今後も継続されると考えられ、今後も厳密な監視と対策が必要である。

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