マケドニアのInstitute of Communication Studiesが2025年3月に発表したレポート『The Narrative Trap: Exposing Harmful Narratives used by Politicians and Media』は、政治家とメディアがどのように有害ナラティブを生み出し、拡散するのかを分析している。この研究は、2023年から2024年にかけての9か月間、選挙期間中と通常時の政治的ナラティブを比較し、どのような影響を与えているかを詳細に調査している。
有害ナラティブとは何か
レポートでは、有害ナラティブを「政治家やメディアが意図的に拡散する、社会に悪影響を及ぼすストーリー」と定義している。これらのナラティブは、社会の分断を助長し、政府や公共機関への信頼を低下させることを目的としている。具体的には、以下のようなナラティブが観察された。
- 政府や公共機関への不信感を煽る(Undermining trust in institutions)
- 情報を恣意的に取捨選択する(Biased selection)
- 対立を強調し、社会の分断を促進する(Fomenting division)
- ポピュリズム的な言説(Populism)
- 誤情報・偽情報の拡散(Disinformation)
- 政治家同士の誹謗中傷(Character attacks)
具体例
選挙期間中のネガティブキャンペーン
レポートによると、選挙期間中には対立候補に対する根拠のない攻撃的なナラティブが頻繁に発信された。例えば、「国家を裏切った」「外国勢力と結託している」などの主張がSNSやニュースメディアで拡散され、事実確認がなされることはほとんどなかった。
造語を使ったレッテル貼り
政治家が対立候補を揶揄するための造語(ネオロジズム)を作成し、支持者に拡散させる手法も指摘されている。例えば、「独裁者」「裏切り者」などのレッテルが意図的に用いられ、対立候補の印象を操作する試みが見られた。
陰謀論の拡散
「外国の秘密結社が政治を操っている」などの陰謀論が、証拠を示さずに広められたケースもあった。これらの主張は特定の政治勢力を攻撃するために利用され、信憑性の低い情報源が繰り返し引用されることで一定の支持層に浸透した。
ヘイトスピーチと民族対立の煽動
選挙戦において、特定の民族や宗教グループに対するヘイトスピーチが公然と行われた例もある。「○○民族はこの国にふさわしくない」「外国人が我々の職を奪っている」といった発言が政治家やメディアを通じて広められた。
情報の意図的な切り取り
特定の政策に関して、一部分だけを報道し、全体像を伝えないことで誤解を生じさせる手法も観察された。例えば、増税政策について「税率が上がる」とだけ報道し、その背景にある補助金制度や恩恵については一切触れないケースがあった。
メディアの役割
レポートは、メディアが政治家の発言を批判的に検証せずにそのまま伝えることで、有害ナラティブの拡散を助長していると指摘している。特に、以下の問題が挙げられている。
- ジャーナリズムの倫理基準が守られていない
- 特定の政党寄りの報道が強まっている
- SNSでの拡散により、感情的なナラティブが広がりやすい
また、選挙期間中には、メディアの報道姿勢がさらに偏り、特定の政党や候補者に有利な情報のみを伝えるケースが増えた。
社会への影響
有害ナラティブが広がることで、以下のような問題が発生する。
- 社会の分断が深まる:「我々 vs 彼ら」の対立が強調され、異なる意見を持つ者同士の対話が困難になる。
- 民主主義の基盤が揺らぐ:感情的な情報が優先され、政策の実質的な評価が難しくなる。
- 政府への不信感が強まる:事実よりも印象が重視されることで、政治の安定性が損なわれる。
まとめ
本レポートは、政治家とメディアがどのように有害ナラティブを生み出し、拡散するのかを詳細に分析している。特に、選挙期間中にナラティブが強化され、社会の分断や民主主義の弱体化を引き起こすことが示されている。報道機関の中立性や倫理基準の強化が求められるとともに、市民がメディアリテラシーを向上させることの重要性も強調されている。
コメント
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