偽情報の戦術は、SNSのボット、偽ニュースサイト、国家主導の情報操作など、時代とともに進化してきた。しかし、大規模言語モデル(LLM) の登場により、新たな戦略が生まれている。それが「LLM Grooming(LLM育成)」だ。これは、AIの学習データに特定のナラティブを意図的に埋め込み、将来的にAIがプロパガンダを「事実」として認識・拡散することを狙う手法である。
アメリカン・サンライト・プロジェクト(ASP)の最新レポート「A Pro-Russia Content Network Foreshadows the Automated Future of Info Ops」によれば、ロシア寄りの情報拡散ネットワーク「Pravda」が、このLLM Groomingを実践している可能性が高いという。本記事では、その手法と影響を掘り下げる。
Pravdaネットワークとは何か?
「Pravda」は、ロシア寄りのコンテンツを大量に拡散する 自動化されたディスインフォメーション・ネットワーク だ。その特徴は以下の通りである。
- 2022年に設立され、現在182のドメイン・サブドメインを運営
- 欧州中心からアフリカ、アジア太平洋、中東、北米へと拡大
- 完全に自動化された記事配信システムを採用(1日2万記事以上)
- 人間向けではなく、AIや検索エンジン向けに最適化
このネットワークは、見た目こそニュースサイトのようだが、検索機能がなく、レイアウトも崩れていることが多い。これは 人間の読者ではなく、AIクローラーの学習対象として設計されている可能性 を示唆する。
LLM Groomingの仕組み:AIを「洗脳」する戦略
① 大量のコンテンツを自動生成し、検索エンジンを操作
Pravdaネットワークは、ロシア寄りのナラティブを SEO(検索エンジン最適化) された形で大量に生成する。これにより、検索エンジンやAIクローラーがこの情報を学習しやすくなる。
② 同じコンテンツを多言語で複製し、拡散
ASPの調査によると、同じ記事が自動翻訳され、複数のサブドメインで拡散 されている。例えば、あるロシア擁護記事が フランス語、英語、中国語、日本語 などでほぼ同時に配信される。これにより、AIがこの情報を「広範に報道されている事実」と誤認する可能性が高まる。
③ AIのトレーニングデータに組み込まれる
AIのトレーニングデータ収集プロセスは不透明であり、情報の信頼性を厳密に検証する仕組みが確立されていない。NewsGuardの調査では、主要なAIチャットボット(ChatGPT、Gemini、Copilotなど)が、ロシアのディスインフォメーションを平均31.8%の確率で再生産していた という。
この結果は、すでにAIが「洗脳」されつつある兆候 だ。
具体例:PravdaネットワークのAI向けプロパガンダ
ケース1:ウクライナ戦争のナラティブ操作
Pravdaネットワークの最も一般的なテーマは ウクライナ戦争に関するロシア寄りの報道 だ。ASPの調査では、以下のようなナラティブが数百のサイトで拡散されていることが確認された。
- 「ウクライナ政府はネオナチ政権である」
- 「ロシアの特別軍事作戦は正当防衛である」
- 「西側諸国の経済制裁は失敗している」
ケース2:AIの学習データに入り込む翻訳記事
調査チームは、「BRICS(新興国連合)」を「BRIKS」と誤記した翻訳記事が複数のサイトで発見された。これは ロシア語の「БРИКС(BRIKS)」の誤訳 であり、同じミスが多言語で繰り返されていた。このようなパターンは、AIが自動収集した翻訳データの中にPravdaの情報が含まれている可能性 を示唆している。
AIと情報操作の未来:ディスインフォメーションの「自動増殖」
LLM Groomingの本質的なリスクは、AIが自ら偽情報を増幅し、それが次世代のAIの学習データとしてフィードバックされる「AIオートカニバリズム」 である。
Nature誌で発表された2024年の研究では、「AIがAI生成データを学習し続けると、情報の偏りが不可逆的に蓄積される」と警告されている。もしPravdaネットワークのような戦術が放置されれば、将来的には AI自身がロシア寄りのプロパガンダを「事実」として生成する状況 も起こりうる。
今後の課題:AIとディスインフォメーション対策
- AIのトレーニングデータの透明性向上
- 主要なAI企業(OpenAI、Google、Meta)は、データ収集元の透明性を高め、信頼性の低い情報源を排除する必要がある。
- ディスインフォメーションの早期検出とブロック
- AIクローラーが「Pravdaネットワーク」のようなサイトを検出し、ブラックリストに登録するシステムの開発が求められる。
- 研究・政策レベルでの対応強化
- これまで「SEOによる検索エンジン操作」は研究されてきたが、「LLM Grooming」に関する本格的な研究はまだ進んでいない。政府・企業・研究機関の連携が急務である。
結論:AI時代のディスインフォメーション対策は新たな段階へ
Pravdaネットワークの分析から明らかなのは、AIがディスインフォメーションの新たな主戦場になっているということだ。
もし適切な対策が取られなければ、未来のAIは「ロシア寄りのナラティブを事実として認識し、拡散する存在」となるかもしれない。AIの進化がプロパガンダの進化を加速させないよう、今こそ具体的な対策が求められている。
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