欧州評議会が2025年3月5日に公開した「Europe Press Freedom Report 2024」は、欧州の報道の自由に関する包括的な分析を行う年次報告書だ。今年のレポートでは、政治的圧力、暴力、ハラスメント、司法による弾圧、公共放送の独立性の侵害といった問題が指摘されている。特に、選挙期間中のメディアへの圧力や、ジャーナリストに対する攻撃の増加が顕著だった。
2024年の欧州における報道の自由の状況
レポートでは、報道の自由を脅かす要因として、以下のような具体的な問題が挙げられている。
1. ジャーナリストへの攻撃とハラスメントの増加
- ジョージアでは、2024年の議会選挙前後で独立系メディアに対する攻撃が激増。
- 選挙期間中に70人以上のジャーナリストが攻撃され、選挙後の抗議デモでも90人以上の記者が警察の暴力にさらされた。
- また、政府は「外国影響力透明化法」を施行し、国外資金を受け取るメディアに対して厳しい制限を課している。
- スロバキアでは、政治家によるジャーナリスト攻撃が問題化。
- ロベルト・フィツォ首相が「ジャーナリストは血に飢えた悪党だ」と発言し、メディアに対する敵対的な態度を強めた。
- 実際に、記者に対する暴力事件が多発している。
- ウクライナとロシアの戦争がメディアに与える影響
- ウクライナでは、前線での取材中に複数のジャーナリストが死亡。
- ロシアでは、戦争関連の報道を行うジャーナリストが「外国のスパイ」扱いされ、投獄されるケースが増加。
2. SLAPP(戦略的な嫌がらせ訴訟)
- スロバキアでは、首相が批判的な記者を提訴
- フィツォ首相は、自身の政治に批判的な書籍の出版を巡り、記者と出版社に対し20万ユーロの損害賠償を請求。
- これは、記者を黙らせる目的で行われるSLAPP訴訟の典型例とされている。
- フランスの「国境なき記者団」に対する攻撃
- フランスの大手メディア企業ヴィヴェンディが、国境なき記者団の偽サイトを作成し、誹謗中傷の情報を拡散。
- これを受け、国境なき記者団はフランスの裁判所に訴訟を提起。
- EUの対応:反SLAPP指令
- こうした動きを受け、EUは反SLAPP指令を制定し、不当な訴訟を早期に却下できる法的枠組みを整備。
- 各加盟国に対し、SLAPP対策の国内法を整備するよう求めている。
3. 公共放送の独立性の危機
- スロバキア政府が公共放送「RTVS」を解体し、新組織を設立
- 政府寄りの新放送局「STVR」を設立し、従来のRTVSの経営陣を一新。
- これにより、報道の独立性が損なわれる懸念が強まっている。
- イタリアでは、政府がRAI(国営放送)に対して政治的圧力を強化
- 政府に批判的な番組が打ち切られるケースが増えている。
4. 偽情報と報道の自由
このレポートでは、偽情報がジャーナリズムに与える影響についても触れられている。
- AIを使ったディープフェイクがジャーナリストの信用を傷つける
- セルビアの記者ディンコ・グルホンジッチは、AI生成のフェイク映像によってナチス支持者であるかのように仕立て上げられ、大量の脅迫を受けた。
- こうした手法がジャーナリストの信用を失墜させるために利用されるケースが増加。
- 選挙における偽情報の拡散
- ジョージアでは、ロシアが偽情報キャンペーンを展開し、EU支持派の候補者に対する中傷が拡散。
- ルーマニアでは、SNSを利用して事実と異なる選挙関連情報が広まるケースが増加。
- EUの対応
- 「欧州民主主義シールド」と呼ばれる新たな枠組みを導入し、選挙関連の偽情報対策を強化。
- デジタルサービス法(DSA)により、XやFacebookなどのプラットフォームに対し、偽情報対策を義務化。
まとめ
レポートは、欧州における報道の自由が政府の圧力、暴力、訴訟、偽情報の拡散によって脅かされていることを詳しく指摘している。特に、ジョージアやスロバキアの状況は深刻であり、公共放送の独立性が奪われ、ジャーナリストに対する攻撃が増加している。
一方で、EUは「欧州メディア自由法(EMFA)」「反SLAPP指令」「デジタルサービス法(DSA)」などを導入し、報道の自由を守るための対策を強化している。しかし、偽情報と報道の自由のバランスをどう取るかが今後の課題となる。特に、SNSでの偽情報対策が強化される一方で、報道の自由が制限される可能性もあり、引き続き注目が必要だ。
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