以前に紹介した「Science」誌の記事では、偽情報研究が直面する課題として「保守層が偏って標的にされている」という批判があることが書かれています。この背景には、偽情報対策が一部の政治勢力に利用され、表現の自由を抑え込む手段として使われているという懸念が存在します。2024年の大統領選挙が共和党のトランプの勝利で終わり、共和党の影響力が強まっている中で、この問題の今後の動向が注目されます。
今回は、Center for Countering Digital Hate(CCDH)に対する下院の書簡とFTCによるマスク氏への圧力に関する文書を通じて、偽情報対策の裏に潜む政治的対立について探ります。
CCDHへの書簡
2024年11月7日、米国下院のジム・ジョーダン議員率いる委員会が、CCDHのCEOであるイムラン・アーメッド氏に対して召喚状を発行しました。CCDHは、ソーシャルメディア上での偽情報やヘイトスピーチに対抗する活動を行っており、特にイーロン・マスク氏のXに対して批判的な立場をとっています。マスク氏がXの買収後に表現の自由を重視する方針を打ち出し、偽情報対策を緩和したことがCCDHの標的になりました。
ジョーダン議員が発行した召喚状の意図は、CCDHがアメリカ政府やソーシャルメディア企業とどのように協力し、特定のコンテンツやアカウントを抑制してきたのかを明らかにすることにあります。この召喚状の背景には、CCDHが政府や企業と共謀して、特定の意見を抑え込む手段として偽情報対策を利用しているのではないかという懸念があるのです。特に保守派の間では、CCDHが「左派的な視点を擁護し、保守的な意見を抑制する」役割を果たしているとみなされています。
FTCによるハラスメント疑惑
イーロン・マスク氏がXを買収した直後から、連邦取引委員会(FTC)が同社への調査と情報要求を強化しました。FTCのリナ・カーン委員長は、マスク氏の買収後すぐにXに対する合意命令を策定し、同社に対してユーザーデータの管理に関する厳しい要件を課しました。これに伴い、FTCはマスク氏のXに対して多くの情報提供要求を行い、特にマスク氏に関する社内コミュニケーション全般を提出するよう求めるなど、通常の監査を超えた行動を取っています。
このような行動について、ジム・ジョーダン議員は「政治的ハラスメント」として問題視し、FTCが偽情報対策の名の下に特定の人物や企業に対して圧力をかけていると非難しています。この背景には、マスク氏がXを「表現の自由を守る場」として再構築し、従来の偽情報対策の基準を見直したことが、特定の政治勢力や政府機関の不興を買っているという構図があります。
偽情報対策をめぐる政治的対立と共和党の台頭
大統領選の勝者となったトランプ氏の影響力が再び高まる中、共和党の保守的な勢力は、偽情報対策が一部の政治勢力によって不当な形で利用されているとする批判を強めています。特に、マスク氏のXが「リベラルな偏向に対抗するための表現の自由の場」として支持を集める一方で、CCDHのような団体やFTCが「検閲の手段」として偽情報対策を利用しているとの認識が広まっています。
この対立の根底には、保守派が偽情報対策に対して抱く不信感と、政府機関が情報統制を行っているとの疑念があります。こうした背景から、偽情報対策が表現の自由を侵害するリスクについての議論が活発化しており、この問題は選挙における重要な争点の一つとなっています。
今後の展望
Xおよびマスク氏への政府や非営利団体の圧力は、偽情報対策が単なる情報の管理にとどまらず、政治的な意図を含む問題として捉えられていることを浮き彫りにしています。特定の意見や人物に対する「偽情報」としてのレッテル貼りがどのような影響をもたらすのか、また偽情報対策がいかにして公平で透明性のあるものとするかが今後の大きな課題です。この問題は、米国社会全体にとっての表現の自由と情報の透明性に関わるものであり、今後もその動向に注目することが求められるでしょう。
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