気候変動が引き起こす自然災害の影響が深刻化する中、G20でも議論されたように、誤情報がインターネット上で拡散し、気候行動の推進が妨害されています。今回のブログでは、2024年11月10日に発表されたCAAD(Climate Action Against Disinformation)の報告書を基に、偽情報が気候政策に及ぼす影響について詳しく掘り下げます。
偽情報の背景とデジタルプラットフォームの役割
気候変動に関する誤情報は、デジタルプラットフォームによって多くの人々に届き、政策や社会意識に大きな影響を与えています。SNSのアルゴリズムや広告システムが、偽情報の拡散を助長している現状が問題視されています。特に再生可能エネルギーに対する誤解を招く内容が多く、社会的な分断や政策への不信を煽る陰謀論も見受けられます。
ケーススタディ1: 再生可能エネルギーに対する攻撃
1. 風力発電と野生動物への影響
SNS上では、風力発電が野生動物に深刻な影響を与えているとする情報が拡散されています。例えば、「風力タービンが数百万羽の鳥を殺している」という根拠のない主張が広まり、ある投稿では、アメリカの象徴ともいえるワシの死骸を示す画像が「風力発電による被害」として使用されました。しかし、実際には化石燃料産業が鳥類の死因に大きく寄与しており、誤った情報が再生可能エネルギーに対する不信を煽っています。
2. ソーラーパネルの「有害性」
ソーラーパネルの設置が環境汚染やリサイクル問題を引き起こすとする誤情報も多く流れています。一部の投稿では、ソーラーパネルが効果を発揮しないという主張もありますが、これはごく一部の事例を誇張したものであり、多くの研究で再生可能エネルギーの環境負荷は低いとされています。
ケーススタディ2: 山火事とハリケーンの利用
1. 山火事と気候変動の否定
カナダやギリシャで発生した山火事について、「気候変動が原因ではなく、放火が原因」という誤情報が流布されています。特にマウイ島の火災では、「エリートによる土地の奪取計画」という陰謀論が広まり、消防や地元政府に対する不信感が増幅されました。これにより、山火事の原因に関する誤解が広がり、気候変動が火災頻度に影響しているという科学的理解が損なわれています。
2. ハリケーンと陰謀論
ハリケーンが発生すると、FEMA(連邦緊急事態管理庁)が援助を拒否しているといったデマが広まりました。ハリケーンによる被害が陰謀の一環として説明され、FEMA職員に対する暴力的な脅威も発生しました。これにより、災害対応が妨げられる危険性も指摘されています。
ケーススタディ3: メタでの化石燃料広告
メタ(旧Facebook)では、化石燃料業界が大量の広告費を投じて「カーボンキャプチャ技術」や「天然ガスはクリーンなエネルギー」といったメッセージを発信し、化石燃料が依然として必要不可欠なものであるとアピールしています。2023年から2024年にかけて、わずか8つの化石燃料企業がMetaでの広告に合計1760万ドルを費やし、7億回以上のインプレッションを記録しました。これにより、気候政策への支持が弱体化し、再生可能エネルギーへの転換が遅れる可能性があります。
調査の限界とデータ収集の問題
報告書はまた、SNSプラットフォームがリサーチツールへのアクセスを制限することで、気候変動に関する偽情報の調査が困難になっている点を強調しています。たとえば、Metaが2024年にCrowdTangleを廃止したことや、X(旧Twitter)でのAPIアクセスの有料化が挙げられます。こうしたデータ制限により、誤情報のリアルタイムの監視が難しくなっており、正確な分析が妨げられる状況です。
偽情報対策には、データ収集の自由度が不可欠です。こうした制限が続く限り、気候変動に関する誤情報の正確な把握や対策が難しくなります。プラットフォームには、研究機関に対するデータアクセスの拡充が求められています。
今後の展望と必要な政策提案
報告書の最後には、偽情報に対抗するための具体的な政策提案が記されています。特に、化石燃料広告を「社会問題・政治・選挙広告」として分類し、透明性の高い広告の運用を義務付ける必要性が指摘されています。また、SNSプラットフォームに対し、情報の透明性を確保し、誤情報の収益化を防止するための規制が求められています。
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