ポーランド大統領選2025:FIMIリスク評価レポートが示す全体像

ポーランド大統領選2025:FIMIリスク評価レポートが示す全体像 情報操作

FIMI-ISAC(Foreign Information Manipulation and Interference Information Sharing and Analysis Center)が中心となり、欧州各国の研究者やジャーナリスト、ファクトチェッカーが連携して作成した『Poland: Country Election Risk Assessment(CERA)』レポートが2025年5月7日に発表された。対象は2025年5月に予定されているポーランド大統領選挙であり、同国の選挙制度が外国勢力の情報干渉にどれほど脆弱かを多角的に検証している。

外国による影響の構造

 レポートが主眼とするのは、ロシアおよびベラルーシによる継続的な情報干渉である。影響工作の特徴は以下のように分類されている:

  • 情報操作(FIMI):SNSを通じた偽情報の流布、偽メディアサイトの構築、AIを用いたコンテンツ生成など。
  • サイバー攻撃:政党のシステム侵入、DDoS攻撃、メールアカウントのハッキングと情報リーク。
  • 物理的・社会的介入:移民問題を利用したハイブリッド戦術、国内アクターとの連携。

 代表的な作戦名には「Ghostwriter」「Doppelganger」「Operation Overload」があり、いずれも2023年の議会選から引き続き確認されている。

ナラティブの種類と拡散手段

 FIMIによるナラティブ操作は、内容面でも手段面でも多様である。報告書は以下の5つのサブナラティブを特に有力と指摘している:

  1. 反ウクライナ:歴史的対立(ヴォルィーニ事件)や財政負担を強調。
  2. ロシアの勝利は不可避:支援継続の無意味さを訴える。
  3. NATO支持は危険:ポーランドの安全を危うくするとの主張。
  4. EUによる選挙介入説:望ましくない結果が出れば無効化されるとの誤情報。
  5. 反移民:治安不安や文化的脅威を煽る。

 これらはSNS(特にX, Facebook, TikTok)を通じて拡散されており、匿名アカウントや偽装されたメディアサイトが頻繁に利用されている。

選挙制度上の脆弱性

 法制度と実務の面では、以下のような問題が指摘されている:

  • DSA未実装:Digital Services Actの国内調整が進んでおらず、違法でない偽情報に対する対応が困難。
  • AI生成コンテンツの規制空白:明示義務や追跡制度が存在しない。
  • 選挙管理機関(PKW)のデジタル対応の遅れ:オンラインでのキャンペーン監視や迅速な対応能力が限定的。

 加えて、過去の事例では野党勢力がAI音声合成とリーク資料を組み合わせて与党を批判する動画を公開し、FIMIと同等の表現手法が国内でも使われたことが報告されている。

対応策と実施状況

 ポーランド政府は以下のような対応を進めている:

  • 選挙防衛プログラム(Parasol Wyborczy):サイバー防衛・教育・通報機能を備えた国家的枠組み。
  • NASKによるSNS監視:選挙に関する誤情報の検出と分析。
  • Resilience Councilの設立:政府、学術、民間が連携する常設の助言機関。
  • 報告プラットフォーム(bezpiecznewybory.pl):市民による偽情報通報と信頼情報の提供。

 ただし、制度横断的な調整機関(Digital Services Coordinator)の設置が未了であるため、各施策の連携と実効性には課題が残る。

リスク評価と今後の課題

 レポートは以下の6分類について、「発生可能性」「影響度」「総合リスク」の3軸で評価を行っている:

リスク要因発生可能性影響度総合リスク
FIMIナラティブ
サイバー攻撃
AI偽情報
候補者等への物理的脅威
制度的不信の助長
政治勢力による不公正行為

 最も重要な課題は、選挙という制度への信頼そのものが攻撃対象となっている点にある。票の操作ではなく、選挙の「意味」や「正当性」を揺さぶる操作が行われており、それに対して民主制度がどこまで持ちこたえられるかが問われている。

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