グリーンエネルギーの裏で起きていること──Swedwatch『Renewables and Reprisals』が描く4カ国の実態

グリーンエネルギーの裏で起きていること──Swedwatch『Renewables and Reprisals』が描く4カ国の実態 情報操作

 再生可能エネルギーの推進は、脱炭素社会に向けた鍵とされている。しかし、Swedwatchが2025年4月に発表した報告書『Renewables and Reprisals』は、その転換が人権・環境擁護者にとっては新たなリスクの温床になっていることを明らかにしている。調査対象はブラジル、ホンジュラス、モザンビーク、フィリピンの4カ国。いずれも市民空間が脆弱で、開発に伴う抑圧が可視化されにくい地域だ。

 報告書は各国の具体的な事例を通じて、擁護者への脅迫、監視、名誉毀損、法的弾圧といった手法が組み合わされて反対の声が排除されている構造を示している。


フィリピン:先住民に対する政治的ラベリング

 Jalaur Riverに建設予定の水力発電事業では、カリナガ族を中心とする先住民が土地の権利と環境保護を理由に反対の声を上げた。その結果、彼らのリーダーたちは「共産主義の反乱勢力と関係がある」としてラベリングされ、地元に顔写真入りの警告ターポリンが掲示されたり、武装兵士による監視や恣意的な家宅捜索を受けたりしている。これは、発言を封じるために敵対的なレッテルを貼る手法が制度化されていることを示している。


ホンジュラス:太陽光発電への抗議と女性擁護者への中傷

 Los Prados太陽光発電事業を巡っては、ノルウェー企業と提携した開発計画に地域住民が反対したが、これに対して法的措置と社会的中傷が加えられた。特に女性擁護者には、私生活や婚姻歴への攻撃、性的な噂の流布といった性差に基づく中傷が集中した。一部の活動家は家族の安全を懸念して活動を休止せざるを得なかった。報告書では、これを「smear campaigns」として記述している。


モザンビーク:ダム建設をめぐる情報非対称と不安

 Mphanda Nkuwaダム計画においては、プロジェクトに関する情報が住民にほとんど共有されておらず、参加も保障されていない。調査の過程で「開発によって雇用が生まれる」という一方的な説明が繰り返される一方で、移転の可能性や環境影響などについては全く説明されていなかったという。報告書はこうした状態を、「偽りの約束(false promises)」とし、地域住民の自己決定権が尊重されていない構造的問題と位置づけている。


ブラジル:風力発電と文化的権利の軽視

 Bons Ventos風力発電プロジェクトは、アフロ系ブラジル人の伝統的共同体(キロンボ)地域で進められており、住民との事前協議が不十分であると報告されている。建設予定地には宗教儀礼の場や先祖の墓地も含まれていたが、企業側はそれを回避する十分な配慮を行っていなかった。報告書は、こうした「文化的権利」への理解の欠如もまた、開発による被害の一部であると指摘する。


「報復」の構造──沈黙を強いる手段としての制度と社会圧力

 報告書が全体を通じて示しているのは、開発に反対する声が「迷惑者」「危険分子」「反社会的存在」として扱われ、その信用や安全が奪われる構造である。訴訟による法的圧力(SLAPP)、オンライン上の誹謗中傷、監視や家族への威嚇、あるいは職場や地域での孤立など、形式は異なれどすべてが発言を封じるための報復(reprisals)として機能している。


公正な移行に不可欠な「声の保障」

 Swedwatchは、再エネ開発においてこそ「公正な移行(just transition)」の原則が必要であると強調している。これは単に労働者保護や経済的分配の問題ではなく、意思決定に参加する権利を持つ地域住民や擁護者の声が封じられないことを含んでいる。報告書では、企業や投資家が擁護者の保護を明文化したポリシーを持つべきであること、国家は司法や行政を通じた抑圧を防止すべきであることが提言されている。

コメント

タイトルとURLをコピーしました