イスラエル・ハマス紛争とオンライン情報環境：誤情報と憎悪の拡散を追う

　2025年1月23日に The Institute for Strategic Dialogue (ISD) が発表したレポート「Conflict Amplified: Disinformation and Hate in the Israel-Hamas War」は、2023年10月7日のイスラエル・ハマス紛争を皮切りに、オンラインで広がる誤情報と憎悪表現について詳細に分析しています。この調査は、英国、フランス、ドイツを中心に、SNSプラットフォームでの極端な内容や情報操作の動向を追跡しました。

具体例で見るオンライン環境の実態

オンライン活動のピーク

　レポートでは、紛争に関連する重要な出来事に伴い、オンラインでの活動が急増した様子が明らかにされています。

2023年10月7日：ハマスによる攻撃後、反ユダヤ主義と反イスラム教徒の憎悪表現が急増。イスラエル軍が自国民を殺害したとする誤った陰謀論が広まりました。
2024年4月：イランのミサイル攻撃がドイツやフランスで反イスラム教徒感情を煽り、Telegram上でのデマ拡散が活発化しました。
2024年8月：イギリスのサウスポート暴動では、「移民が攻撃の加害者」という誤情報が極右グループによって拡散され、暴動の火種となりました。

極右・極左勢力の動き

　極右や極左勢力は、それぞれのイデオロギーを強化するために紛争を利用しました。

イギリスでは、極右活動家トミー・ロビンソンがイスラエル支持を表明する一方、一部の極右グループは反ユダヤ主義的な視点からパレスチナ支持を拡散しました。
フランスでは、プロクレムリンのメディアが「西側の武器がハマスに渡った」と主張し、ウクライナ紛争と紛争を関連付ける誤情報を流布しました。

プラットフォームの役割

　このレポートは、各SNSプラットフォームが誤情報の拡散に果たした役割にも注目しています。

Telegramは、極端なナラティブや情報操作の中心的なハブとして機能。プロクレムリン勢力が活発に活動し、反米・反移民の感情を煽りました。
**X（旧Twitter）**では、国際的なニュースや主要な出来事に関する会話が活発でしたが、ヘイトスピーチも多く観察されました。
FacebookとInstagramでは、モデレーションの影響か、活動量は比較的低い傾向がありました。

技術と手法による洞察

　このレポートは、自然言語処理（NLP）やトピックモデリングを駆使して、オンライン上の誤情報と憎悪表現を効率的に分析しました。具体例として、以下が挙げられます：

誤情報ネットワークの可視化：SNS上での対立構造を示し、反ユダヤ主義や反イスラム教徒の憎悪がどのように広がったかを解明。
プロクレムリン広告の分析：フランスとドイツで展開されたFacebook広告を調査し、ウクライナ支援武器がハマスに使用されたとする誤情報を特定。

結論：多面的なオンライン環境への対応が必要

　このレポートは、オンライン情報環境の複雑性と、それが社会に及ぼす影響を深く掘り下げています。特定の勢力や国家が紛争を利用して自身の目的を達成しようとする様子は、情報操作の現代的な課題を浮き彫りにしました。これにより、SNSプラットフォームや政府機関がどのように対応すべきかという指針が提示されています。