スペイン・ポルトガルの偽情報四半期報告:移民・AI生成コンテンツ・大統領選が三つ巴で交差したQ1 2026

スペイン・ポルトガルの偽情報四半期報告:移民・AI生成コンテンツ・大統領選が三つ巴で交差したQ1 2026 ファクトチェック

 本稿が紹介するのは、IBERIFIER(Iberian Digital Media Observatory、イベリア・デジタルメディア観測所)が2026年6月に公開した「Spain & Portugal fact-checking brief Q1 – December 2025 – February 2026」である。IBERIFIERはスペインと ポルトガルを対象とする欧州委員会出資のデジタルメディア観測拠点であり、EU全体のファクトチェック・研究ネットワークであるEDMO(European Digital Media Observatory)の国別・多国間ハブとして機能している。構成機関は13大学、5ファクトチェック機関・通信社、5研究センターで、コーディネーターはナバラ大学(ラモン・サラベリア教授)が務める。欧州委員会の助成プログラムDIGITAL-2023-DEPLOY-04のもとでIBERIFIER Plusとして運営されており、助成参照番号は101158511である。

 本報告書の作成にはスペイン側からAFP España、InfoVeritas、Maldita.es、Newtral、Verificatの5機関、ポルトガル側からPolígrafoの1機関が参加しており、当四半期に6機関合計で実施した検証件数の平均は252件に達する。報告書はQ1期間(2025年12月〜2026年2月)のイベリア半島における主要な偽情報ホークスと偽情報ナラティブを体系的に整理したものであり、後半ではラテンアメリカのファクトチェックネットワークLatamChequea(26機関、15カ国)との共同分析によるラテンアメリカ動向も収録している。

 報告書の性格上、EDMOハブとして欧州委員会から資金提供を受けているという構造的文脈は読者が把握しておくべき前提である。公的資金による研究・ファクトチェック活動であり、機関が政策立案者向けに戦略報告書を作成することも任務に含まれるため、偽情報対策政策との親和性を持つ。報告書の記述自体は各ファクトチェック機関の具体的な検証事例に基づいており、ナラティブ分析と事例列挙が並行する構成を取っている。


両国に共通する偽情報ナラティブ:移民×制度不信×越境増幅

 スペインとポルトガルの双方で最も顕著に観察されたのは、移民問題を中心軸として政府・民主主義制度への不信を増幅させる複合型ナラティブである。移民は単独の話題として扱われるのではなく、選挙不正・社会給付の不公正配分・犯罪・文化的脅威といった複数のフレームと接合されて流通した。報告書はこのパターンを「移民が政治的アクターと結びつき、票集めのために無統制な移民受け入れを支持しているという虚偽の主張」として整理している。

 両国に共通するもう一つの主要クラスターは、ニコラス・マドゥロ拘束をめぐる偽情報波である。米国によるマドゥロ拘束の報道は、AI生成画像・動画の大量生成を誘発し、スペイン左派によるマドゥロ支持ストライキや抗議行動に関する虚偽情報がSNS上で急速に拡散した。この事例の特徴は、Maldita.es、Newtral、AFP España、InfoVeritas、Verificat、Polígrafoという6機関全員が横断的に検出した点にあり、国境をまたいで同一のナラティブが同期して流通したことを示している。


スペイン:国内政治・社会領域の偽情報

アダムス鉄道事故の陰謀論転化

 コルドバ県アダムスでの鉄道事故は、国内災害が地政学的陰謀論へと転化するパターンの典型事例として報告書に記録されている。事故直後から偽メッセージ・改竄画像・AI生成コンテンツが「本物の記録」として流通し、死傷者数に関する虚偽情報も同時に拡散した。陰謀論としてはロシアまたはイスラエルによる妨害工作説、「悪魔的儀式」との関連付けが登場したほか、「スペイン政府がエジプト・モロッコ・ウズベキスタンの鉄道インフラへの投資を国内安全対策より優先した」という主張が組み合わされた。後者は政府の政策選択に対する批判的感情を利用した虚偽の文脈づけであり、出来事の国内的意味を国際的・政治的問題へ置き換えるナラティブ構造を持つ。

V16緊急ビーコンと監視国家ナラティブ

 新たに義務化されたV16緊急ビーコンは、政府による個人監視強化というナラティブの媒体として利用された。オンライン上では「ビーコンがドライバーを常時GPSで位置追跡する国家監視装置だ」「EUで規制されていない」「DGT(スペイン交通局)が義務化による財政的利益を得る」といった虚偽情報が流通した。さらに、公式導入前に政府が代替機器「V27」への切り替えを決定したという偽情報まで拡散した。報告書はこのパターンを「法的文書や公式声明の改竄・意味変容によって制度不信を醸成する典型的手法」と位置づけている。

移民正規化プロセスへの選挙不正ナラティブ

 スペイン政府による在留外国人の特例正規化措置は、「政府が数百万人にバックグラウンドチェックなしで市民権を付与し、将来の選挙支持基盤を構築しようとしている」という虚偽ナラティブの核となった。加えて「新たに正規化された個人は次回選挙からすぐに投票できる」という事実と異なる主張も広まった。移民と犯罪・性的暴行の関連付けは特にカタルーニャ地方を標的にして流通し、報告書はこれを「女性の安全に焦点を当てた感情的反応を引き出すための道徳的パニック手法」と分析している。ガリシアの非正規移民が他の住民には利用できない社会給付を受けているという主張(Maldita.es)、ガリシアの移民が犯罪記録証明書なしでスペイン国籍を取得できるという主張(InfoVeritas)も検証対象となっている。


スペイン:国際・健康・著名人分野の偽情報

エプスタイン文書クラスターの政治的転用

 エプスタイン関連文書は当四半期においても偽情報の焦点クラスターとして機能し続けた。AI生成画像や文脈を無視した映像素材を用いてペドロ・サンチェス首相、元首相ホセ・マリア・アスナル、スペイン王室メンバーをエプスタインの犯罪ネットワークと結びつける虚偽情報がVerificatの検証対象となった。別の事例では、マリア・コリーナ・マチャドとサンチェスがエプスタインと関係しているという虚偽主張が改竄画像・捏造文書によって流通した(Maldita.es)。さらに映画俳優レオナルド・ディカプリオが「食人的行為」に参加したという捏造ナラティブや、ビル・ゲイツ・Jay-Z・クリントン夫妻・スティーヴン・ホーキングをエプスタインの島と結びつける改竄画像も検証されている。

健康・ワクチン分野の反科学的ナラティブ

 健康分野では、元ファイザー幹部マイク・イェードンによるCOVID-19パンデミック否定・ワクチンによる意図的大量被害の主張(Maldita.es)、「オランダの科学者がCOVID-19ワクチンにより少なくとも3,500万人が死亡したと発見した」という虚偽情報(Maldita.es)、科学論文の誤読によるワクチンと発がんリスクの因果関係捏造(Maldita.es)が確認されている。また「WHOがハムやソーセージを喫煙と同等に発がん性があると分類した」という主張(InfoVeritas、Polígrafo)、生検が体内でがん細胞を広げるという科学的根拠のない主張(InfoVeritas)なども検証対象となった。


ポルトガル:2026年大統領選挙期間の偽情報

候補者への虚偽発言捏造と公人の偽エンドースメント

 2026年1月のポルトガル大統領選挙期間中は、デジタルプラットフォーム全体で偽情報キャンペーンが顕在化した。最も集中的に観察されたのは、実際には執筆・公開されたことのない記事・声明・オピニオンを含む捏造画像や、公人が特定候補を支持または拒否しているかのように見せる改竄動画・画像の流通である。Polígrafoが具体的に検証した事例としては、テレビ司会者マヌエル・ルイス・グーシャが社会主義への反対票を呼びかけたとする虚偽、元政治家アントニオ・ホセ・セグーロが無制限移民受け入れを支持しポルトガルのモスクが多すぎるという考えに反対しているという虚偽などが挙げられる。

 候補者や政治的アクターに対する偽の発言として最も多かったのは、「無統制な大量移民への支持」を表明したというフレームであり、これは票集めのための戦略的立場として提示されていた。報告書はこのパターンを「民主主義プロセスそのものへの不信を生み出し、選挙の正当性を損なうことを目的としている」と位置づける。

ポルトガルの国際的地位をめぐる誤情報

 大統領選挙の文脈では同時に、他のEU諸国と比較したポルトガルの否定的な描写を強化するための誤情報も流通した。具体的には「ポルトガルは適切な食事を確保できない国民の割合が欧州で最も高い国の一つ」「ポルトガルは欧州で最も高い付加価値税率を持つ」といった、文脈から切り離されたあるいは不正確な社会経済指標が使用された。報告書はこの手法の目的を「国家衰退の認識を強化し、公共政策および国家への信頼を弱体化させること」と分析している。

移民×クリスマス市場×文化的脅威ナラティブ

 クリスマス期間中に流通した移民関連偽情報は、文化・宗教的脅威フレームと組み合わされていた。ドイツでムスリムのグループがクリスマス市場を襲撃する様子を映したとされる捏造動画や、リスボンの特定地区(移民人口が多いことで知られる)のバングラデシュ系コミュニティのリーダーがクリスマス祝賀を禁止したという虚偽の主張が流通した。TAP Air Portugalや欧州委員会指令に帰属する形での「クリスマス関連用語の使用禁止」、クリスマス市場が「冬のマーケット」に改称されたという虚偽主張も検証対象となっている。移民が病院の待合室に溢れている様子とされる改竄動画・画像、移民への配布を目的としたポルトガル身分証明書の大量生産という主張も記録されている。


ポルトガル:EU・詐欺・暴風雨関連偽情報

EUをめぐる「介入主義」ナラティブ

 ポルトガルにおいてEUは「過剰介入的・制限的」に描写するナラティブの標的となり続けた。当四半期に検出された具体的な主張には、18歳未満の全個人に対するSNS使用禁止令、オンラインプラットフォームへの検閲強化、ウクライナ支持指令に同意しない欧州議会議員への制裁、航空旅客権の縮小、エラスムス+プログラムの北アフリカへの拡大などが含まれる。これらのナラティブが共有する構造は「主権喪失・外部からのルール押しつけ・個人の自由の漸進的縮小」という認識を強化するものである、と報告書は指摘する。

国家機関なりすまし詐欺の拡大

 ポルトガルでは詐欺関連の偽情報が上昇トレンドを維持した。SNSおよびモバイル通信チャネルを通じた大規模詐欺キャンペーンが一般市民を標的とし、交通違反通知や国民保健サービスからの通知を装った偽情報、大手テクノロジー小売業者の大幅割引を装ったコンテンツ、政府による金融支援の虚偽告知が確認されている。報告書はこのパターンについて「デジタルリテラシーが低い層や高齢人口が多い文脈において、公式コミュニケーションへの信頼を侵食する」という機能を持つと指摘する。

暴風雨クリスティンと自然災害後の偽情報

 ポルトガルに影響を与えた「暴風雨列車」の一部を形成した暴風雨クリスティンは、虚偽の被害画像・誇張されたビジュアル・被災者への公的支援に関する誤情報を発生させた。自然災害後の情報空白期に偽情報が充填される典型的パターンであり、アダムス鉄道事故後のスペインと同様の動態が観察されている。


トピック別主要デマ事例

カテゴリ主要事例(検証機関)
環境・気候AEMET季節予報の歪曲(Maldita.es)、ダム崩壊リスクマップの誤表示(Maldita.es)、ケムトレイル有毒化学物質説(Polígrafo)、COP29での動物性タンパク質禁止説(AFP España)
ジェンダートランスジェンダー=暴力性との結びつけ(Maldita.es)、Renfeが男性200人を解雇して女性に置き換えるという虚偽(InfoVeritas)、アイルランドでの教師終身刑虚偽(Polígrafo)
移民・人種差別ガリシアの非正規移民への排他的社会給付主張(Maldita.es)、移民正規化=犯罪歴審査なし国籍付与の虚偽(InfoVeritas)、2023年映像の「現在の」移民政策文脈での再利用(InfoVeritas)、ムスリム女性への特別給付主張(Verificat)
著名人アルカラス=サンチェス圧力虚偽(Maldita.es)、ディカプリオ食人ナラティブ(Maldita.es)、エプスタインとスペイン王室の虚偽連結(Verificat)、教皇レオ14世によるマドゥロ逮捕要求声明の捏造(Newtral)
政治ボラニョス欧州資金横領捏造文書(Maldita.es)、アレグリアへの性的脅迫ネットワーク関与虚偽(Maldita.es)、Bizum取引申告義務の虚偽(AFP España)
選挙大統領選でのグーシャ「反社会主義票」虚偽(Polígrafo)、セグーロ「無制限移民支持」虚偽(Polígrafo)、1人の有権者が複数候補に署名できるという虚偽(Polígrafo)
健康COVID-19ワクチン3,500万人死亡虚偽(Maldita.es)、ニパウイルス過大リスク誇張(Newtral)、生検によるがん細胞拡散虚偽(InfoVeritas)
安全保障スペインの犯罪統計を政治家が意図的に水増ししているという主張(Newtral)、カタルーニャが他地域より危険という主張(Verificat)、共産主義反対デモとして偽ラベルされたポルトガルの暴力的デモ映像(Polígrafo)

AI生成コンテンツとファクトチェック:3大クラスターの動態

 報告書が「AI検証」として別立てで分析しているのは、6機関全員がAI駆動のファクトチェックを実施したという点からも、当四半期においてAI生成・デジタル改竄偽情報が質的に異なる問題として認識されていることを示している。

 最も顕著なクラスターはマドゥロ拘束をめぐるものである。信頼性の高いビジュアル記録が存在しないという状況下で、軍事作戦や市民の反応を描写したとされる捏造画像・動画が大量に流通し、高感度の国際的イベントにおける混乱を増幅した。第二のクラスターは米国のICE(移民・関税執行局)による摘発を巡るものであり、AI生成コンテンツとリサイクルされた映像素材が大量に生成されたほか、マドゥロ案件とICE作戦を接続してより広い誤情報ストーリーラインを構築しようとする試みも検出された。第三のクラスターはエプスタイン案件の継続的な利用であり、AI生成画像による公人とエプスタインの虚偽結びつけ、既存事実の歪曲・再解釈が継続して観察されている。

 ラテンアメリカのデータとして報告書が引用している数字によれば、当四半期に確認されたAI偽投稿は700件を超えた。特筆すべき事例として、ネタニヤフに関する偽情報では「死亡後の本物の映像がディープフェイクだ」と主張することで逆説的に虚偽の死亡説を維持しようとするパターンが確認された。これは信憑性の判断基準そのものをターゲットにする高度な手法であり、通常のファクトチェックの枠組みでは対応が困難な動態を示している。


プラットフォーム別検出分布とラテンアメリカ動向

 プラットフォーム別の偽情報検出では、X(旧Twitter)が参加6機関全員から「最多情報拡散プラットフォーム」として挙げられた。WhatsApp・Facebook・TikTokはそれぞれ2機関から言及されている。Xの圧倒的な優位性は、情報の速度・リーチ・アルゴリズム的増幅の複合的な効果を示唆する。

 ラテンアメリカのQ1 2026動向については、LatamChequea(26機関・15カ国ネットワーク)が調査した結果をIBERIFIERがまとめている。主要トレンドは以下の5点である。第一にベネズエラへの米国介入・マドゥロ拘束(1月3日から偽情報が激化し、AI生成動画が大量流通)、第二に中東紛争(アリー・ハメネイー師の死亡をめぐる爆発・破壊の偽映像・AI生成画像)、第三に米国の移民問題とトランプ発言(ベネズエラに関する虚偽のトランプ発言の流通を含む)、第四にボリビア・コスタリカ・コロンビア・ペルーの各国選挙における候補者への虚偽発言捏造・偽世論調査、第五にメキシコの麻薬密売組織指導者「エル・メンチョ」こと、ネメシオ・オセゲラ・セルバンテスの軍事作戦に関する虚偽情報(各都市での混乱・破壊・軍関係者の偽画像)である。コロンビアとベネズエラでは正規メディアを模倣するアカウントを利用した政治家のポジショニングを目的とした協調的影響力工作キャンペーンも確認されている。


ナラティブ構造の分析的含意

 本報告書が記録している偽情報の動態を横断的に見ると、三つの構造的パターンが浮かび上がる。第一は「情報空白→陰謀論充填」のサイクルである。アダムス鉄道事故・マドゥロ拘束・暴風雨クリスティンという異なる性質の出来事が、いずれも同一のサイクルを経て偽情報クラスターを生成した。明確な情報が入手困難な急性期に、偽メッセージ・AI生成ビジュアル・文脈を無視した再利用映像が真正なドキュメントとして流通し、後から行われるファクトチェックよりも先に認知的占有を確立する。

 第二は「移民×制度不信×選挙不正」の三角構造である。スペインとポルトガルの双方で、移民をめぐる偽情報は単独のトピックとして循環するのではなく、政府の選挙的意図への疑念および社会給付制度の不公正感と結合したナラティブ構造として機能した。この構造は越境的であり、同一の論理的フレームが両国で並行して観察されている。

 第三は検証速度の問題である。「国際的な武力紛争や高知名度の政治的拘束といった事件においては、偽情報が検証をはるかに上回る速度で拡散し、AI生成の合成メディアの急速な生産と文脈から切り離された実映像の使用が組み合わさることで、出来事直後に偽の証拠印象が確立される」と報告書は指摘する。ネタニヤフの「本物映像をディープフェイクと主張する」事例は、この速度差が単なる量的問題ではなく、認識論的な問題として展開し始めていることを示す事例として記録する価値がある。

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