SNSと偽情報が暴動拡大に与えた影響──HMICFRS「Tranche 2」報告書より

SNSと偽情報が暴動拡大に与えた影響──HMICFRS「Tranche 2」報告書より 偽情報対策全般

 2025年5月にHMICFRS(国王陛下の警察・消防救急監察機関)が公表した報告書「An inspection of the police response to the public disorder in July and August 2024: Tranche 2」では、2024年夏に英国各地で発生した暴動に対する警察の対応のうち、情報環境に関する検証が行われている。特に、SNS上で拡散された誤情報や煽動的投稿が、公共の秩序に影響を与えたこと、それに対する制度的対応が整っていなかったことが取り上げられている。

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拡散された偽情報とその影響

 報告書では、暴動初期にXやTelegramなどで共有された投稿が、群衆の行動に影響を与えていた事例が紹介されている。特に、サウスポートの殺人事件に関連して加害者の氏名や背景に関する確認されていない情報が拡散されたことが指摘されており、これらの投稿が憎悪的感情や誤解を引き起こしたと考えられている。複数の警察関係者は、こうした情報が暴力的な行動の誘発要因となり得たと証言している。

対応の遅れと制度上の制約

 SNS上の投稿が秩序維持に影響する可能性があることを警察は認識していたが、それを監視・分析し、対処に結びつける体制は存在していなかった。報告書では、警察はこうした新たな領域に対する備えがなく、明確な対応策を持っていなかったと評価されている。投稿の削除などに関する権限はSNS事業者側にあり、警察からの通報に迅速に応じる仕組みも制度化されていなかった。対応の実効性は企業の自主性に大きく依存しており、警察側が一貫した対応を取ることは困難だったとされている。

警察内部の組織的対応の欠如

 報告書は、偽情報や煽動的投稿に対処するための専門部門が警察内部に存在しておらず、情報の分類や優先度判断に用いる基準も統一されていなかったことを問題点として挙げている。特に暗号化された通信サービスにおいては、警察は投稿の内容を把握することもできず、どのような動員が行われているかを事前に察知する手段を持っていなかった。こうした技術的・制度的制約の下、実質的に有効な予防行動をとることはできなかったという評価が示されている。

HMICFRSによる提言

 こうした状況に対し、報告書は複数の提言を行っている。第一に、偽情報と煽動的投稿への対応を専門に担う常設機能の整備。第二に、SNS事業者との間で緊急時に即応可能な通報・削除要請のプロトコルを制度化すること。第三に、情報の脅威性を分類し、優先度を判断するための語彙や分析手順の標準化である。これらは、将来的な類似事案への対応能力を高めるために必要な組織的基盤として位置づけられている。

制度的な備えの不在

 Tranche 2報告書は、情報空間におけるリスクが実際の暴力行動と結びつき得るという前提に立ち、それに対して制度上の備えがなかったことを警察内部の課題として明確に位置づけている。報告書内の表現を借りれば、これはすでに「新たな戦場」であり、既存の対応枠組みの外にある事象である。警察組織がそれを理解していたにもかかわらず、制度としての応答手段を持っていなかったという状況が、組織的な監察の対象として可視化された形である。

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