Blueskyに埋め込まれたイランの情報操作:CSISフューチャーズラボによる9,000件投稿のナラティブ・ネットワーク分析

Blueskyに埋め込まれたイランの情報操作:CSISフューチャーズラボによる9,000件投稿のナラティブ・ネットワーク分析 プラットフォーム

 米国の安全保障・国際政策シンクタンクであるCSIS(Center for Strategic and International Studies)のフューチャーズラボは2026年5月、米イラン軍事衝突を背景としたイランの情報操作キャンペーンをBluesky Socialのデータから分析した報告書「Tapping into America’s Distaste for Forever Wars: The Spread of Iranian Narratives on Bluesky」を公開した。執筆者はフューチャーズラボの准データフェロー、Jose M. Macias IIIおよびリサーチインターンのNico Vaccaである。

研究の背景:戦場での敗北と情報空間での攻勢

 報告書の導入部が設定する構図は明確である。米国とイスラエルは軍事的に優勢を保ち、イランの最高指導者は除去され、防衛指導部は解体され、ミサイル能力は劣化した。しかし報告書はこの軍事的成功の機会費用として、イランが情報空間で効果的に競争し続けていると論じる。マルチプラットフォームの偽情報キャンペーンを通じ、イランは西側の一般市民の心理に働きかけており、先行するハマス・ヒズボラとの紛争でも同様の手法が確認されている。2023年10月7日の攻撃以降、Microsoftのレポートはイランのサイバー作戦が2021年の約6件から2023年10月だけで11件に増加したことを記録し、Metaはイスラエル国内の宗教的分断、保守・リベラルの対以色列批判、ネタニヤフ首相批判を扱うイラン関連アカウントを削除している。2025年の米・イスラエルによるイラン核施設攻撃後、イランのナラティブを拡散するアカウントは1億2,600万件を超えるエンゲージメントと推定2億2,400万件のビューを記録したとする報告も引用されている。報告書はイランの情報作戦をロシア・中国が確立した非対称的プレイブックの変種として位置づける。ロシアのキャンペーンが社会内の分断増幅と西側民主主義制度への不信醸成を中心とするのに対し、イランはロシアと中国双方の戦術を重複させながら、既に分断した米国国内に対してAIが加速する規模と反復サイクルでキャンペーンを展開しているとする。Graphikaは本紛争がディープフェイクや他のAI生成メディア、偽情報、協調的な不正行動を含む「混雑したオンライン脅威環境」を生み出していることを観測している。

研究設計と手法

プラットフォーム選定と対象期間

 研究チームはBluesky SocialをRプログラミング言語でアクセス可能な無償オープンAPIを持つプラットフォームとして選定した。Blueskyのウェブトラフィックは2025年7月時点で米国が約50%、次いで日本(約6%)、英国(約5%)、ドイツ(約5%)、ブラジル(約4%)と推定されており、ユーザーベースの70%が西側諸国から構成される。データ収集期間は2026年2月28日から3月31日で、19のコアアカウントのフィードに基づき9,012件の投稿が分析対象となった。なおこのうち5,263件(58%)はコアアカウント自身による投稿で、残余はコアアカウントがリポストした外部アカウントの投稿である。

コアアカウントの選定基準

 研究チームはイランの偽情報アカウントに関する既存研究を参照し、疑わしいアカウントを特定するためのTTPを定義した。具体的な基準はボット的投稿行動(短時間での大量投稿・リポスト)、米司法省によりフラグが立てられたイランのウェブサイトへのリンク共有、オーガニックエンゲージメントの希薄さ、機会主義的なナラティブ転換の速さ、その他真正性に欠ける傾向である。報告書は明示的に「これらのTTPはイランへの確定的帰属を証明するものではなく、先行研究で報告されたイラン関連影響工作と一致する高信頼度サンプルを特定するものである」と断っており、分析結果をイラン国家・IRGCによる組織的影響工作の確定的証拠として読み取ることはできない。

ナラティブ分類:BERTopic + Claude Sonnet 4.6

 ナラティブ分類には2段階の手法が採用された。BERTopic(Hugging FaceトランスフォーマーとクラスベースのTF-IDFを組み合わせたトピックモデリング手法)が投稿のキートピックを抽出し、次にAnthropicのClaude Sonnet 4.6がその内部のナラティブテーマを解析した。研究チームはBERTopicとSonnetの分類結果を精査して10のナラティブクラスターを構築し、さらに3つの主要テーマに統合した。

センチメントと毒性の定量化

 拡散傾向の計量にはvaderSentiment(VADERの複合スコア:-1が最大ネガティブ、+1が最大ポジティブ)とDetoxifyの毒性スコア(0〜1のスケール)を使用した。VADERはソーシャルメディアの文体に適した辞書・規則ベースのツールで、Detoxifyは脅迫・侮辱・アイデンティティに基づくヘイトを検出できる。エンゲージメントへの影響を測定するため、従属変数をlog(1 + repost_count)に変換した回帰モデルが適用された。ネットワーク構造の可視化にはPythonのNetworkXとRのigraph・ggraphが使用された。

三つのナラティブテーマ

 テーマ別のエンゲージメント集計は以下の通りである。

テーマ投稿数比率平均リポスト平均いいね平均リプライ画像含有率動画含有率
テーマ1:被害を受けながら勝利する軍・指導部19%45.21387.8130.7%39.7%
テーマ2:イスラエルによる選択的戦争26%54.21427.6530.9%30.2%
テーマ3:西側内部の分断増幅23%15047028.428.8%26.7%
その他32%9428115.637%27.2%

テーマ1:被害を受けながらも勝利する軍・指導部

 このテーマの投稿群はイランの攻撃作戦・防衛作戦を軍事的強さと戦略的正当性の証拠として位置づけるものである。実際の作戦成果と並行して、米軍基地やサウジアラビアの米大使館への攻撃成功を描写したAIディープフェイクや誇張されたコンテンツが含まれ、これは米国の最初の攻撃の3日前にGraphikaが検出した、戦争の高コストを警告しながらイランの能力を誇張・捏造するSNS上の協調キャンペーンと一致する。紛争開始後も米軍の死傷者数・士気低下・軍人家族の苦難に焦点を当てた捏造コンテンツが継続して流通した。アリー・ハメネイー師を西洋の侵略に対する殉教者として描くAI生成コンテンツ、世界規模のハメネイー支持デモを描写する素材、核能力を正当な主権行使として正当化するナラティブも観測された。ただし回帰分析の結果、テーマ1の投稿はリポスト数においてベースラインより約35%低いパフォーマンスを示した(β = −0.429、p < 0.01)。動画含有率が39.7%と最も高いことは、このテーマが視覚的証拠の提示を重視する設計になっていることを示唆するが、拡散効率はテーマ3に大きく劣る。

テーマ2:イスラエルによる選択的戦争

 このテーマはイスラエルを紛争の主要な侵略者として描写し、西側諸国の関与をイスラエルへの従属として枠組みする。クレムソン大学の研究が本データセットと共鳴する事例として挙げるのは、英国が「イスラエルの戦争」に参加することを疑問視するBluesky投稿で、トランプ大統領がイランに缶詰になりネタニヤフ首相が上から見下ろすAI画像が使われていた。民間人被害のアトロシティ・フレーミングも主要なパターンで、テヘランのガンジー病院の疎開・被害を新生児病棟への直接攻撃として拡散した事例が外部研究に記録されており、本データセットではMinab学校攻撃に関する投稿がBERTopicの非ノイズデータの6.8%を占めた。イスラエルを「テロリスト」「アパルトヘイト国家」「ジェノサイド国家」と描写する明示的な反シオニスト的フレームも確認され、「Jizzrael」「zi0」「sionazi」「IsraHell」のような侮辱的造語化が反復使用された。回帰結果ではテーマ2はリポストがベースラインより約20%多く(β = 0.186、p < 0.01)、ネガティブ感情が拡散に有利に働くことが裏付けられた。

テーマ3:西側内部の分断増幅

 最も高いエンゲージメントを記録したのがこのテーマである。平均リポスト150件、いいね470件、リプライ28件という数値は他テーマを大きく上回り、回帰分析でも他テーマのベースラインに対して約41%のリポスト増加が推定された(β = 0.341、p < 0.01)。推定ユーザービュー数は293,666件で、これはデータセット全体の累積ビュー数770,431件の約38%に相当する。

 投稿の第一の語り口は、利己的・腐敗した指導部によって操られた戦争という枠組みである。データセット内には「紛争はエプスタイン・ファイルから目をそらすための陰謀」という主張、バロン・トランプが紛争直前に石油先物を購入したという虚偽主張などが含まれていた。第二の語り口は米国の機関・企業への攻撃と偶発的なサーバー障害の責任主張を組み合わせて国内混乱の印象を形成するものである。第三の語り口はホルムズ海峡の混乱を経由したガソリン・食品価格・インフレ・SNAP(補助栄養支援プログラム)への影響を具体的に描写し、「戦争は市民の家計問題」というフレームで直接性を付与した。AI生成の星条旗に覆われた棺、戦争を後悔する兵士、親に「行かないで」と懇願する子どもを描いた動画もこのカテゴリーに含まれた。地理的範囲は米国内にとどまらず、データセットにはオーストラリアの政治ハッシュタグに特化したBERTopicクラスター、英国・スコットランド・アイルランドのユーザーを装ったIRGC関連アカウント(クレムソン研究)、テキサス・カリフォルニア・ベネズエラ・チリを主張するスペイン語クラスターも観測された。本データセットはスペイン語・ポルトガル語投稿でこの発見を補完している。

エンゲージメントの定量分析:感情と毒性の非対称効果

 回帰モデルは感情と毒性が拡散に与える効果について、反直観的に見える結果を明示している。VADEの複合スコアが1単位上昇(より肯定的な感情)するとリポスト数は約36.6%減少し、逆に感情スコアが中立から強いネガティブ(0から-1)へ移動するとリポストは約57.7%増加する(β = −0.456、p < 0.01)。この結果はネガティブ感情がBluesky上での拡散を統計的に支持することを示している。他方で毒性スコアはリポストに対し負の関係を持ち、毒性スコアが0.10増加するごとにリポストは約9.3%減少し、0から1への全範囲移動で約62.4%減少する(β = −0.978、p < 0.01)。すなわちネガティブな感情表現は拡散を促進するが、明示的に毒性が高い言語は逆に拡散を抑制するという分離した効果が確認された。テーマ2で観察された「Jizzrael」「sionazi」のような明示的ヘイト表現がテーマ3のような感情的に陰性だが毒性の低いコンテンツより拡散力で劣るという構図は、この結果と整合する。投稿に動画が含まれる場合、リポスト数は有意に増加する(β = 0.968、p < 0.01)。画像含有の効果も正であるが(β = 0.558、p < 0.01)、動画の方が強い効果を持つ。回帰モデルのR²は0.123で、7,042件の観測値に基づく(F = 140.578、df = 7/7034、p < 0.01)。

ネットワーク構造:15コミュニティへの埋め込み

 ネットワーク分析は19のコアアカウントが15の独立したBlueskyコミュニティに深く埋め込まれていることを示した。各コミュニティはコミュニティ内密度が高く、外部コミュニティとの接続はほとんどない。アカウント間でのリポスト露出(weighted_in)は高度に集中しており、コアアカウント5(露出5,489、リポスト元ベース3,048アカウント)とコアアカウント6(露出5,301)が群を抜く。PageRankはそれぞれ0.0825と0.0714であり、ネットワーク内での中心的地位を確認する。EdgeBetweennessは主要アカウントのほとんどでゼロ付近にとどまり、これらのアカウントがコミュニティ間のブリッジ機能ではなく各コミュニティ内の一次拡散エンドポイントとして機能していることを示す。

 アソシエーションルール分析は各コミュニティとコアアカウントの対応関係を高精度で特定した。コミュニティ9はコアアカウント5と100%の信頼度で対応し、コミュニティ3はコアアカウント15と信頼度0.999、コミュニティ6はコアアカウント1と0.999、コミュニティ11はコアアカウント12と0.999で対応する。Lift値はこれらの関連がランダムを大きく超えることを示しており、コミュニティ14→コアアカウント9のLift 68.8、コミュニティ12→コアアカウント8のLift 59.6、コミュニティ8→コアアカウント4のLift 57.1が特に高い。コミュニティ7(コアアカウント18:信頼度0.522、コアアカウント19:0.478)やコミュニティ4(コアアカウント2:0.771、コアアカウント16:0.263)のように2つのアカウントに分散する事例も存在するが、多くのコミュニティは1〜2のコアアカウントに依存する構造を持つ。

政策提言

 報告書は三つの対抗措置を提言する。第一は視覚的カウンター・メッセージングの拡大で、ホワイトハウスが超党派支持を確保したうえで映像・画像を活用した事実に基づく情報発信キャンペーンを実施し、AIフェイク動画を本物の映像で相殺するよう求める。回帰分析で動画コンテンツがリポスト数に最大の正の効果を持つことがその根拠とされ、トランプ政権が薬物密輸船や10日以内のイラン海軍壊滅を映像で共有した事例を先例として挙げる。第二は国家支援投稿のラベリング制度の再導入で、検証済みバッジやデジタル署名、「急速に状況が変化している」「大手メディア未検証」「内容が争われている」などの警告ラベルを組み合わせることを提案する。ソーシャルメディア利用者がコンテンツの出所を知った場合にエンゲージメントが低下するという先行研究を根拠に、First Amendment(言論の自由)との兼ね合いを保ちながら透明性を高める枠組みとして位置づける。第三はエージェンティックAIによる組織的なアカウント検出と解体で、「国防省」(報告書は”Department of War”と表記)との連携のもとでAIエージェントを展開し、トロールファームや偽情報アカウントを人間のモデレーターによるレビューへ誘導することを求める。報告書は米国が平時においてプロパガンダに対しAIを防衛的に使用するにとどまり、攻撃的行動を制限しているため不利な立場に置かれていると指摘し、米・イラン間の紛争が休止している現在を体制整備の好機として捉える。

機関的立場と方法論的限界

 本報告書を読む際には二点の留意が必要である。第一に、CSISはワシントンD.C.を拠点とする米国の安全保障政策シンクタンクであり、政策提言の方向性は一貫して米政府の対イラン情報作戦能力の強化に向いている。報告書に直接スポンサーは存在しないとされるが、CSISの研究全体が米国の国家安全保障の枠組みの中で生産されていることは分析の視点に反映されている。第二に、著者自身がアカウントのイランへの確定的帰属を主張しない点は注意を要する。19のコアアカウント選定は先行研究が文書化したTTPとの一致に基づいており、イラン国家またはIRGCによる組織的影響工作の確定的証拠ではないと明記されている。ナラティブが「イランの戦略的利益と整合している」という判断と「イラン国家が組織した」という主張の間には方法論的な距離があり、その点については報告書の限界として理解する必要がある。

コメント

タイトルとURLをコピーしました