政府は偽情報と戦っているのか、それとも利用しているのか?

政府は偽情報と戦っているのか、それとも利用しているのか? 偽情報対策全般

 偽情報対策は、多くの政府が掲げる重要な課題となっている。しかし、政府自身が偽情報の発信者でありながら、同時にその対策を推進するという矛盾が存在する。この問題を深掘りしたのが、2025年3月10日に公開されたMarius Dragomirの論文 Probing the Paradox: Are Governments Fighting or Fueling Disinformation? だ。

 この論文は、政府の偽情報対策が、実際にはメディア統制や言論の抑圧につながっている ことを実証的に示している。特に、国家がどのように公的メディアを管理し、偽情報対策法を利用して独立系メディアを抑え込んでいるのかが分析されている。


政府が推し進める「偽情報対策」の本当の目的

 論文の主張は単純ではない。偽情報の拡散は確かに問題であり、規制の必要性も認められる。しかし、政府が掲げる「偽情報対策」が、本当に市民のためのものなのか、それとも政権のためのものなのか という点に焦点を当てている。

 Dragomirは、国営メディアの独立性や、政府の情報統制の手法を世界170カ国のデータを基に比較分析 し、いくつかの重要な傾向を明らかにした:

  1. 国営メディアの大半は政府の影響を受けている
    • 調査対象となった601の国営メディアのうち、84%が政府の直接的なコントロール下にある ことが判明。
    • 65%のメディアは、政府が完全に管理 しており、事実上のプロパガンダ機関となっている。
  2. 偽情報対策の法制度は、権威主義国家ほど強化される
    • 世界で導入された「偽情報対策法」のうち、90%以上が権威主義国家または「欠陥のある民主主義」国家 で採用されている。
    • こうした法律は、偽情報を防ぐ目的で制定されるものの、実際にはジャーナリストや反政府的な言論を取り締まる道具 になっている。
  3. 民主主義国家でも偽情報対策がメディア管理に利用されつつある
    • フランス、カナダ、デンマーク、台湾など、報道の自由が確立しているとされる国々でも、近年「偽情報対策法」が制定されている。
    • これらの国では、政府による言論統制のリスクは低いものの、偽情報規制が「国家による情報管理」の第一歩となる懸念が指摘されている。

「偽情報対策」は新たな検閲システムになり得るのか?

 論文では、特に「政府が偽情報対策の名のもとに、メディアや言論の自由を制限している例」をいくつか紹介している。

例1:ルーマニアのニコラエ・チウカ首相の「英雄伝説」

  • 2004年のイラク戦争で、「ルーマニア軍を率いた英雄」として報じられたニコラエ・チウカ将軍(後のルーマニア首相)。
  • しかし2022年、彼の博士論文が盗用であることが暴露されるとともに、彼の「英雄伝説」自体が完全な捏造 だったことが明らかになった。
  • だが政府はメディアを利用し、この報道を「フェイクニュース」として封じ込めた。

例2:ロシアの偽情報統制

  • ロシア政府は「偽情報対策」を名目に、報道機関に対する統制を強化。
  • 「政府の公式発表と異なる情報」を流したメディアには高額の罰金や閉鎖命令を出している。
  • 国際機関の調査では、ロシアの国営メディアの100%が政府の意向を反映 していると評価された。

まとめ

 政府による偽情報対策の進め方は難しい問題だ。日本でも、政府がSNS上の偽情報拡散を抑制するための法整備を進めている。総務省や内閣官房が主導し、プラットフォーム規制やファクトチェック体制の強化が議論されている。しかし、この動きが「市民を守るため」なのか、それとも「政府にとって都合の悪い情報を抑制するため」なのか、慎重に見極める必要がある。

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