Asia CentreとInternational Media Support(IMS)が2026年1月に発表した報告書“Climate Disinformation in Indonesia: Prioritising Development Over Indigenous Peoples’ Vulnerability”は、気候偽情報が先住民族の権利侵害を正当化する構造を実証的に明らかにしている。本報告書はカンボジア、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイの6カ国を対象とした調査シリーズの一部であり、各国のベースライン調査と地域報告で構成される。
インドネシアの先住民族は人口の18〜26%(5,000万〜7,000万人)を占め、1,000以上のコミュニティが存在する。政府は国連先住民族権利宣言(UNDRIP)の定義を「インドネシア人の大半が先住民」として拒否し、2003年以来先住民法案(IP Bill)は議会で停滞している。この法的認知の欠如は、ジョコ・ウィドド政権(2014〜2024年)の「新開発主義」とプラボウォ・スビアント政権(2024年〜)の「人間中心」開発モデルのもとで、先住民族の構造的脆弱性を悪化させてきた。国家戦略プロジェクト(PSN)は2016〜2024年に233件(総額3,780億ドル)が実施され、2014〜2024年の期間に687件の土地紛争が記録され、925名の先住民が刑事訴追された。
調査設計と方法論
調査は3段階で実施された。第1段階(2025年8〜11月)では文献調査により用語定義と調査範囲を確定した。第2段階(2025年10月〜2026年1月)では、先住民コミュニティ代表、先住民CSO、環境INGO、メディアINGO、独立メディア組織など12名の専門家に対するキー・インフォーマント・インタビュー(KII)を実施した。第3段階では先住民CSO代表者による2回のフォーカス・グループ・ディスカッション(FGD)(2025年12月11日、2026年1月7日)で予備的知見を検証し、2026年1月21日のジャカルタでのNational Conveningで主要知見を提示・検証した。回答者の身元は安全上の理由から匿名化されている。
気候偽情報の4形態
企業のグリーンウォッシング
Royal Golden Eagle(RGE)グループは2015年に「ゼロ森林破壊」政策を約束したが、実際には子会社が2016〜2023年に1,475ha以上の自然林を伐採した。子会社Asia Pacific Resources International Limited(APRIL)は#APRIL2030や#RestorasiEkosistemRiauといったハッシュタグでソーシャルメディアキャンペーンを展開し、環境インフルエンサーをエコツアーに招待して偏った認識を広めている。しかし2013年から同社のRestorasi Ekosistem Riauプロジェクトはグリーンウォッシングで非難されており、RGEグループは北カリマンタンのTarakan島に新パルプ工場を建設し、カリマンタンとパプアの637,933haの自然林が伐採リスクにある。
国有Mining Industry Indonesia(MIND ID)も「持続可能な鉱業」を標榜するが、子会社PT Freeport IndonesiaはAmungmeコミュニティの神聖地Grasberg鉱山で環境破壊的な採掘を実施し、強制移住や資源略奪を引き起こした。これに対しOne Percent Trust Fundを設立して年間収益の1%を環境教育に充てると発表したが、実質的にはグリーンウォッシングの一環である。
偽の気候解決策の推進
Forestry and Other Land Use(FoLU)Net Sink 2030プロジェクトは2030年までに1億4,000万トンのCO2削減を目標とするが、進行中の森林破壊率と農業開発のための森林伐採を許可する規制枠組みにより、専門家は非現実的と評価している。
REDD+のKatingan Mentayaプロジェクトは中央カリマンタンの149,800haをカバーする最大級の事業だが、実際に吸収する量の3倍の炭素クレジットを主張したと非難されている。プロジェクトは60年間で年間745万トンのCO2排出を防止すると推定し、3,000万トン相当のクレジットを発行して2017年以来2億1,000万ドルを稼いだが、誇張された森林破壊リスクを通じて正当化されている。またDayakコミュニティの土地権を侵害し、2014年に約束された5haの土地を付与しなかった。
プラボウォ大統領は2024年12月にパーム油農園拡大を促し、これらの農園がCO2吸収に有益と述べたが、パーム油農園は森林破壊の主要要因であり、天然林をモノカルチャーに転換して生物多様性喪失を引き起こしている。
経済進歩への訴求
2025年、農地・空間計画大臣は2年以上生産的に使用されていない土地を「未使用」と宣言し、土地改革プログラムに追加すると述べた。公式認識された「MHA領土」は除外されるが、大多数の先住民領土が未認識のため接収リスクにある。
Rempang Eco-City AreaのPSN(2023)は17,000haの慣習的先住民地を接収し、世界第2位のガラスとソーラーパネル製造ハブ、300,000以上の雇用創出として推進されたが、主流メディアは地元コミュニティへの影響を省略した。Batam Indonesia Free Zone Authority広報責任者は、建設完了後に住民がプロジェクトに肯定的になると述べ、BP Batam会長は移転を望まない住民を「教育」する努力を称賛した。
パプアでは小規模農家の混作が「非生産的」と描写され、大規模パーム油農園と対比される。主流メディアは経済成長への訴求を通じてパーム油農園を推進し、先住民の「非効率的」土地使用と国家の「生産的」管理という対比を強化している。
気候変動への貢献の責任転嫁
インドネシアは世界の気候変動否定者の18%をホストしている。2014年のSinabung噴火やKelud噴火、2022年のCianjur地震の際、宗教指導者が災害を「罪の結果」と位置づける言説が広まった。Dewan Dakwah Islamiyah IndonesiaのMalangブランチ指導者はCianjur地震を性的少数派の罪と結びつけた。2024年調査では回答者の21.5%が罪深い行動が気候危機に貢献すると強く同意した。
プラボウォ政権は環境NGOを「外国勢力」と攻撃する物語を支持している。2025年6月、当時のエネルギー・鉱物資源大臣はRaja Ampatのニッケル鉱業批判を外国の中傷キャンペーンと主張した。またFacebook上で気候変動が高周波活性オーロラ研究プログラムや世界経済フォーラムとの陰謀の結果とする投稿が循環した。
2021年COP26でウィドド前大統領はGlasgow Leaders’ Declarationに署名し2030年までに森林損失逆転にコミットしたが、同日、政府はAntaraを通じてそのような約束をしたことはないと否定した。2019年の森林火災では衛星画像が311万haの焼失を明らかにしたが、政府は70,000haの森林と64万haの泥炭地と発表し、独立分析と大きく乖離した。共著者Gaveauは出版1か月後に追放された。
ニッケル鉱業会社PT Gema Kreasi PerdanaはWawonii島住民が報告する水質汚染を産業活動ではなく豪雨に帰し、水質回復に貢献したと主張したが、実際には水は濁ったままである。
先住民への4つの影響
環境意思決定からの排除
Omnibus Law(2020)は漁業ライセンス権限を地方政府から海洋水産省に再中央集権化した。以前は中央政府が大規模漁業、州政府が中規模漁業、地区政府が小規模漁業を管理していたが、現在はすべて中央政府の管理下にある。これによりYoutefa湾のEnggros村のような沿岸コミュニティは地元漁業管理から排除され、大規模開発による水質汚染がマングローブ林と漁業を脅かしている。
Law on Conservation of Biological Natural Resources and Their Ecosystems(2024)では、30の議会会議のうち2回のみが公開され、先住民の貢献は制定草案に含まれなかった。生物多様性保護区の多くが慣習領土と重複し、先住民は土地強奪に曝露されている。
Mandalika都市開発・観光プロジェクトでは、EbunutとUjuntのSasakコミュニティが警察監視下の「社会化フォーラム」に招待され避難を指示された。Asian Infrastructure Investment Bankの基準はFPIC(協議)を要求するがFPIC(同意)は不要で、150の移住家族のうち79世帯のみが300万ルピア(192ドル)を受領した。
Nusantara Capital City(IKN)建設は東カリマンタンの256,000haで進行中だが、105,000haが51の先住民コミュニティの慣習領土と重複している。事前協議なく土地取得が進められ、先住民は脅迫・強制を報告している。Indigenous Women’s Association調査では、1,116人の先住民女性の67.4%が土地・資源管理の意思決定に関与したことがなかった。
強制移住
Presidential Regulation on Forest Area Regulation(2025)下で軍事タスクフォースが設立され、370万haの違法パーム油農園と1,063の違法鉱業作業を取り締まるとされるが、実際には地元コミュニティをターゲットにしている。2025年7月までにAceh州で15,000haを取得し、地元のドリアンとキャンドルナッツ作物を標的とし、土地は国有企業PT Agrinas Palma Nusantaraに移転された。Riau州Tesso Nilo国立公園では約40,000人が強制移住させられた。
南パプアのPSN Meraukeは200万ha以上(サトウキビ50万ha含む)を必要とし、そのうち316,463haがYei慣習地域、残りはMalind、Maklew、Khimaima、Yeiコミュニティの慣習地で50,000人以上に影響を与える。事前協議なく許可が発行され、9人の国連特別報告者が軍事力使用と強制移住について懸念を表明した。
PT Toba Pulp LestariはBatak Tobal人々の慣習林の40%と重複するパルプウッド利権を持ち、2020年12月以降306haの自然林を伐採した。2015〜2022年に75名の先住民が犯罪化され、2022年にSorbatua Siallagan長老が禁錮2年・罰金10億ルピア(60,000ドル)の判決を受けた(控訴で無罪)。
先住民知識の弱体化
焼畑農業は森林破壊の主因として汚名化されているが、実際の主因は産業プランテーションである(UNFCCC 2015)。Sasi慣行(資源管理制度で収穫と休息を交互に行う)も都市近郊で放棄が進んでいる。南パプアのMuting村ではPT Agri Cipta Persadaが2017年に進出し、Sasi禁止標識を支持する住民と企業支持の住民の間で対立が生じた。
IKN建設は薬用植物・工芸材料の喪失、祖先墓地の破壊をもたらしている。中部ジャワのLambo-Mbay DamのPSNはRenduコミュニティの食料安全保障と伝統(干ばつ耐性キャッサバ・ソルガム栽培、ヤシ果実・竹の全利用)を脅かしている。先住民女性は森林資源の知識を持ち世代間伝達者として機能するが、リーダーシップは過小評価され「被害者」としてのみ描写される傾向がある。
犯罪化
Omnibus Lawは国家戦略地域計画を確立し、慣習ベースの土地保有を認識しないため、戦略地域に住む先住民は犯罪化されている。2022年にSorbatua Siallagan長老が1932年以来の家族地で違法占拠を理由に有罪判決を受けた(控訴で無罪)。Conservation Law(2024)でも、Flores島の農民が1932年以来の祖先地を自然公園に指定され逮捕されたが、2024年に最高裁で逆転した。
Strategic Lawsuit Against Public Participation(SLAPP)も広く使用されている。2020年にスマトラのPT Bangka Asindo Agri汚染に対する集団訴訟を計画した会議に出席した6名の村人が「地位濫用」「文書偽造」で起訴された(元自治会長だったが会議時は退任していたため)。2021年に控訴裁判所でAnti-SLAPP Lawに基づき無罪となったが、プロセスは経済的・感情的負担をもたらした。2023年には活動家Fatia MaulidyantiとHaris Azharがパプアのニッケル鉱業と軍事化の関連を指摘し「名誉毀損」で訴えられた(2024年1月に全容疑却下)。
2025年5月、北マルクのMaba Sangaji村の27名の農民がPT Positionによる森林破壊・水質汚染・移住に抗議して逮捕され、11名が「恐喝」「凶器携帯」「鉱業活動妨害」で起訴された。「凶器」とは農業用の刃物であり、彼らの存在は「preman」(組織犯罪集団)事件として故意に歪曲された。
構造的要因の分析
これらの影響を可能にする構造的要因は複数存在する。第1に、IP Billの2003年以来の停滞により、先住民は法的主張の根拠を欠いている。Constitutional Court判決(2013)は先住民の森林を国有でないと宣言したが、複雑な手続きにより実効性は限定的で、332,500haのみが公式認識され(識別された2,300万haのうち)、残りは接収リスクにある。
第2に、ジョコウィの新開発主義がプラボウォの「人間中心」モデルで継続され、PSNは規制プロセスを迂回し承認を迅速化し監視を削減している。軍と政府の協力強化により、PSN確保のための国家重要目標が達成されている。
第3に、メディア所有の寡占化が問題である。3社(MNC Group、Emtek、Visi Media Asia)が市場の3/4を支配し、国営通信社Antaraが政府寄りの報道を行う。独立メディアとファクトチェック組織は資源不足に苦しみ、政府系は編集利益に制約される。先住民地域の地理的孤立により記者のアクセスが困難で、正確な気候情報の収集・拡散が妨げられている。
第4に、Freedom on the Net(2024)で49/100、World Press Freedom Indexで44.13/100(127位/180カ国)と報道の自由が低下している。センシティブな問題を調査するジャーナリストは逮捕・刑事訴追・身体的暴力・デジタル攻撃に直面する。気候・人権活動家への組織的嫌がらせも一般的で、「外国工作員」「トラブルメーカー」「反開発」とラベル付けされる。
政策提言の要点
国連機関は条約遵守の監視強化、ILO条約169号批准促進、特別報告者訪問の受入、気候偽情報を人権監視マンデートに統合すべきである。インドネシア政府はUNDRIP基準に従った先住民の憲法レベルでの認識、IP Bill採択、慣習領土認識手続きの簡素化、環境ガバナンスの地方分権化、Omnibus Law廃止、新刑法の明確化、Anti-SLAPP Law強化、アムネスティ法採択、すべてのプロジェクトへの拘束力あるFPIC要件導入、アクセス可能で公平な苦情メカニズム確立が必要である。
INGOは国連人権メカニズムへの報告、運動構築支援、先住民メディアへの資金・技術支援、法的支援の促進、標的ジャーナリストへの支援を行うべきである。CSOは気候偽情報の特定・文書化・報告、デジタルリテラシーワークショップ、法的支援、反先住民ナラティブの解体、FPICトレーニング、宗教指導者の関与を推進すべきである。
メディアは気候偽情報の調査・暴露、倫理的ジャーナリズム基準の維持、SLAPP検証、説明戦術の解説、企業トラックレコードの文脈化、パートナーシップ・資金源調査、遠隔地での現地報道、先住民ジャーナリストへの投資・訓練を行うべきである。テック企業はデジタルツール・訓練の提供、農村・先住民地域の接続性イニシアチブ、より厳格なモデレーション政策、透明性報告、アルゴリズム調整を実施すべきである。
先住民コミュニティは能力構築イニシアチブ、独立メディアとの協力、デジタルリテラシー訓練、コミュニティベース監視ネットワーク、コミュニティ間知識共有、デジタルストーリーテリング、先住民女性の参加促進を推進すべきである。
分析的評価
本報告書は3つの重要な貢献を提供している。第1に、方法論的革新性として、気候偽情報と先住民影響を体系的に結びつけた実証研究は稀少であり、12件のKII、2回のFGD、詳細な文献調査による実証的アプローチが特徴である。第2に、malinformation(完全な虚偽ではなく文脈操作)が主流である点を明確にした。企業は表面的環境活動を強調しつつ子会社の破壊活動を隠蔽し、政府は「エコシティ」などの修辞で先住民排除を正当化している。第3に、開発主義・法制度・メディア環境の相互作用という構造的洞察を提供し、REDD+問題やFPIC形骸化など国際的応用可能性を持つ。
残された課題として、新Criminal Code(2023)のadat法条項が先住民正義を前進させるか国家裁量に従属させるかは不透明であり、地域差(BaliとPapuaの認識度の違い)も存在する。また2026年発行で最新状況を反映しているが、プラボウォ政権の政策展開は継続的監視が必要である。
本報告書は単なる事例紹介でなく、気候偽情報が先住民を「開発の障害」として位置づける戦略的言説であることを示した。情報操作は公衆の信頼を損ない、正当な反対の空間を縮小し、市民社会の権利防衛能力を弱体化させる。効果的な気候ガバナンス改革には、法的・経済的・メディアシステムの根本的再構築と、先住民の自己決定権の完全な認識が不可欠である。

コメント