なぜ人は誤情報を共有するのか?心理学研究が明らかにした権力動機の役割

なぜ人は誤情報を共有するのか?心理学研究が明らかにした権力動機の役割 論文紹介

 近年、ソーシャルメディア上で誤情報が拡散される問題が注目を集めています。この現象の背後にある心理的要因を解明するために行われた論文「Why do people share (mis)information? Power motives in social media」を紹介します。この研究は、権力動機(他者を影響したい、支配したいという欲求)が誤情報の共有行動にどのように影響するかを詳細に調査しました。


研究の背景

 現代のソーシャルメディアは、情報拡散の主要な場となっていますが、正確な情報だけでなく、誤情報も広がりやすい環境を生み出しています。この研究では、以下の点に焦点を当てています。

  1. 誤情報共有の動機: 人々がなぜ誤情報を共有するのか。
  2. 権力動機の影響: 他者を支配・影響したいという欲求が、情報共有行動にどのように作用するか。
  3. 実際の権力との関係: 職業的な権力が情報共有行動に与える影響。

研究デザイン

4つの研究の構成

 この研究では、1882人の参加者を対象に4つの研究が実施されました。具体的には以下のような内容です。

研究1: 支配性と誤情報共有

  • 目的: 支配性(dominance)が情報共有行動にどのように影響するかを調査。
  • 方法: ニュース投稿のシミュレーションタスクで、参加者が誤情報を含む投稿を共有する頻度を観察。加えて、日常的なソーシャルメディアでの共有頻度を自己申告。
  • 結果:
    • 支配性が高い人は、日常的にもシミュレーションタスクでも共有頻度が高い。
    • 特に誤情報を共有する傾向が確認された。
    • 情報共有が権力感を増幅させることも明らかに。

研究2: 権力価値と情報共有

  • 目的: 支配性だけでなく、権力価値(power values)の影響を検証。
  • 方法: シミュレーションタスクを改良し、複数の投稿ブロックでの共有頻度を測定。
  • 結果:
    • 権力価値は情報共有行動全般に影響を与える。
    • 支配性よりも、権力価値が全体的な共有頻度に強く関連。
    • 誤情報共有の割合は、支配性と権力価値の両方に関連。

研究3: 文脈依存的権力動機

  • 目的: ソーシャルメディア上での影響力を求める文脈依存的な権力動機が、情報共有行動に及ぼす影響を調査。
  • 方法: 実験で参加者を「高権力」「低権力」「中立」の3条件にランダム割り振り。その後、シミュレーションタスクと日常的な行動を評価。
  • 結果:
    • 他者への影響力を求める動機が、誤情報共有行動をさらに促進。
    • 実際の権力(職業的地位)は、誤情報共有には直接的な影響を与えない。

研究4: 職業的権力と情報共有

  • 目的: 実際の職業的地位が情報共有行動に与える影響と、情報共有を通じた権力感の充足を調査。
  • 方法: 管理職と非管理職の参加者を比較し、シミュレーションタスクと日常行動を分析。
  • 結果:
    • 職業的地位そのものは、支配性や権力価値ほど大きな影響を与えない。
    • ただし、管理職の参加者は一般的に共有頻度が高い。

具体的な発見と解釈

誤情報共有の背後にある動機

  • 支配性や権力価値が高い人は、「影響力」を求める心理的動機から、誤情報を共有する傾向がある。
  • 情報共有を通じて得られる「権力感」が、行動をさらに促進する。

実際の権力の影響

  • 職業的な地位や実際の権力そのものは、誤情報共有にはほとんど影響を与えない。
  • この結果は、「権力感」が行動の鍵であることを示唆。

研究が示唆するもの

この研究から得られる重要な示唆は次の通りです。

  1. 誤情報対策への応用
    • 誤情報を共有する行動の背後には、心理的な動機があることが明らかになった。
    • 単なる情報規制ではなく、影響力を健全に行使する方法を示す教育や啓発が重要。
  2. 社会的な理解の深化
    • ソーシャルメディアでの情報共有行動が、個人の心理的な充足感と密接に結びついている。
    • 誤情報共有の問題を解決するには、個人の動機に焦点を当てた取り組みが必要。

おわりに

 この研究は、誤情報が単なる無意識のミスではなく、意図的に共有される場合があることを明らかにしました。特に、「影響力を求める」という動機が行動の鍵となっています。この知見は、今後の誤情報対策において重要な基盤となるでしょう。

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