オンライン偽情報における説得技術の分析:分野ごとの特徴を探る

オンライン偽情報における説得技術の分析:分野ごとの特徴を探る 論文紹介

 偽情報は、特定のメッセージを伝えるために高度な説得技術を利用し、人々の意見や行動を操作しようとします。近年の研究は、このような説得技術がどのように使われているかに注目してきましたが、多くの場合、COVID-19や気候変動といった特定の分野に限られていました。

 今回紹介する論文「A Cross-Domain Study of the Use of Persuasion Techniques in Online Disinformation」は、異なる分野(イスラム関連問題、COVID-19、気候変動、ロシア・ウクライナ戦争)における説得技術の使用傾向を比較分析したものです。この研究では、16種類の説得技術を使って、分野ごとに異なる特徴を明らかにしています。

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1. 感情を揺さぶる技術:全分野で共通する手法

 論文によると、以下の2つの説得技術は、全ての分野で広く使用されています:

  • 感情的な言葉(Loaded Language): 強い感情(恐怖や怒りなど)を喚起することで理性的な判断を妨げます。
  • 疑念の喚起(Doubt): 信頼できる情報源や事実への信頼を揺るがし、混乱を招きます。

 例えば、COVID-19に関連する偽情報では、「#コロナウイルスは非常に恐ろしい、そして恐怖を感じさせるものだ」という表現が見られました。このような恐怖心を煽ることで、受け手が冷静に事実を評価することを難しくします。


2. 分野ごとの説得技術と具体例

(1) イスラム関連問題

  • 主な技術:
    • レッテル貼り(Name Calling-Labeling)
    • 反復(Repetition)
    • 因果の単純化(Causal Oversimplification)

具体例

  • 「全てのムスリムテロリストは、サウジアラビアのテロリストが9/11で行ったのと同じ理由で殺害を行っている。」
    → 反復により、誤った主張を真実のように感じさせる「真実の錯覚効果」を利用しています。
  • 「中間的な立場は存在しない。穏健なイスラムというものはない。」
    → 二者択一の構図を作り、イスラム教が過激であると主張。

(2) COVID-19

  • 主な技術:
    • 恐怖を煽る(Appeal to Fear-Prejudice)
    • スローガン(Slogans)

具体例

  • 「ビル・ゲイツによれば、COVID-19のRNAワクチンは私たちのDNAを永久に変更する。」
    → ワクチンに対する恐怖心を煽り、不安を増幅します。
  • 「私たちの生活がかかっている。経済を再開させなければならない。」
    → 短く覚えやすいスローガンで、特定の行動を支持させます。

(3) 気候変動

  • 主な技術:
    • 権威への訴え(Appeal to Authority)
    • 誇張・最小化(Exaggeration-Minimisation)

具体例

  • 「最新のIPCCレポートは、実際の気温が予測を上回ったことを示している。」
    → 科学的権威を利用して、信憑性を高めます。
  • 「過去には、温暖化が地球上の生命にとって脅威となったことは一度もない。」
    → 問題を軽視することで危機感を弱めます。

(4) ロシア・ウクライナ戦争

  • 主な技術:
    • 偽善の指摘(Appeal to Hypocrisy)
    • 罪の連想(Guilt by Association)

具体例

  • 「ナチスの象徴が日常的に使用されている。」
    → ウクライナ兵をナチスに関連付けることで否定的な印象を与えます。
  • 「この悪に立ち向かうため、我々の兵士は勇敢に肩を並べて戦っている。」
    → 愛国心を利用して、ロシアの行動を正当化します。

3. 結論

 この論文の分析から、説得技術はすべての分野で共通して使用されるものがある一方で、分野ごとに異なる特徴や適応が見られることが明らかになりました。例えば、気候変動では科学的権威を利用する技術が多い一方、COVID-19では恐怖やスローガンが多用されています。

 このような研究は、偽情報対策において極めて重要です。偽情報がどのように特定の聴衆に合わせて設計されているかを理解することで、より効果的な対策を講じることができるでしょう。

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