ミームは陰謀論をどう「安定」させるのか

ミームは陰謀論をどう「安定」させるのか 陰謀論

――反復されるテンプレートが文化を支える

 インターネット・ミームはしばしば「遊び」や「創造性」の象徴として語られてきた。だが、2025年1月24に公開されたGodwinらによる研究「Internet Memes as Stabilizers of Conspiracy Culture: A Cognitive Anthropological Analysis」は、それとは真逆の方向からミームを捉える。ミームは陰謀論コミュニティにおいて、創造性というよりもむしろ反復性を通じて、文化的な安定装置として機能しているのだという。

 この研究は、COVID-19をテーマにした二つのRedditサブレディット(r/NoNewNormalとr/CoronavirusCirclejerk)で2020年から2022年にかけて共有された544のミームを分析対象とし、「繰り返される定型ミーム要素」がどのようにしてコミュニティの世界観を支えているのかを検証している。

ミームは「文化的表象」である

 本研究の出発点は、ミームを「文化的表象(cultural representations)」と見なす認知人類学の枠組みにある(Sperber 1996; Strauss & Quinn 1998)。すなわち、ミームは単なる視覚的ジョークではなく、集団の共有された理解を外在化したものであり、それが反復されることで文化の持続性に寄与する。

 この観点から重要なのは、特定のテンプレートやキャラクターが何度も使い回されているという点である。Godwinらは、分析対象のうち308件に定型ミーム要素が確認され、そのうち200件に含まれていた49のテンプレート・キャラクターが特に頻出していたと報告する。たとえば、「NPC Wojak」「Two Buttons」「Distracted Boyfriend」「Yes Chad」などは、単なる人気テンプレート以上の意味を持つ。

「欺瞞」「妄信」「優越」:繰り返される3つの文化テーマ

 ミームが何を描いているかという点では、分析は3つの文化テーマに収束する。それぞれに典型的なミームテンプレートが対応しており、明確な役割分担がなされている。

1. Deception(欺瞞):シャドウ・エリートの二枚舌

 このテーマでは、政府や企業、科学機関といった権威が「嘘をついている」ことが強調される。

例:Two Buttons(2つのボタン)

スーパーヒーローが「98%効果あり!」「やっぱり効果が低いので3回目を打て」という二つのボタンを前に困惑している。
→ ワクチン政策の矛盾を皮肉るもの。

例:Distracted Boyfriend

科学が「伝統的なワクチン開発」より「クイック&ダーティなCOVIDワクチン」に目を向ける。横には札束を抱えたビル・ゲイツの画像。
→ 科学が公衆衛生より利益に動機づけられていると主張する。

2. Delusion(妄信):大衆の愚かさ

 ここでは「マスク」「ワクチン」「ウクライナ支援」など、主流派的立場をとる人々の矛盾や無批判性が笑いの対象となる。

例:NPC Wojak

「フルはマスクのおかげで減った!」「でもCOVIDが流行ってるのはマスクしないから!」と自家撞着するNPC。
→ 「思考停止の大衆」を象徴するキャラクター。

例:Swole Doge vs. Cheems

かつては強かった自由な個人(Swole Doge)が、今ではマスクとロックダウンに従う弱い存在(Cheems)になっている。
→ 「昔は良かった」型の文化的懐古と嘲笑。

3. Superiority(優越):目覚めた少数者としての自己像

 陰謀論者自身は「真実を見抜く者」として描かれる。ミームを通じて、他者と自己の間に明確な知的ヒエラルキーを設けている

例:Soyjak vs. Yes Chad

Soyjakが「一人でも救えるなら!」と訴えるが、Yes Chadは「自由を一つでも失うならNO」と返す。
→ 感情ではなく原理に従う理性的個人としての自己像。

例:IQ Bell Curve / Midwit

平均的知能のMidwitが「ワクチンを打つのは当然」と言う中、端のIntrovert Boyは「情報操作だ」と独自の解釈を提示。
→ 「本当の知性は常識に騙されない」という自己正当化。

ミームは「分裂を防ぐ共通言語」である

 興味深いのは、こうしたミームがコミュニティの内部的安定装置としても機能している点である。陰謀論コミュニティにはしばしば細部をめぐる争いや分裂がつきまとうが、定型的なミームは共通の価値観や敵像を再確認する場となり、争点を整理し、連帯感を高める役割を果たしている。

 また、HumorとPlayの要素も重要だ。NPCやSoyjakのようなミームキャラを繰り返し使うことで、「分かる人には分かる」内輪のユーモアが成立し、新たな参加者を引き込む力もある。ミームの面白さゆえに、「陰謀論を冗談として扱うこと」が許容される土壌ができあがる

結論:ミームは遊びではない

 この研究の最大の示唆は、インターネット・ミームが「文化の構造的な再生産」に深く関わっているという点にある。特に陰謀論的世界観の中では、創造的というより反復的な使い回しがこそが文化を支えている。その意味で、NPC Wojakが今日も使われ続けていることには、単なる流行以上の構造的な意味がある。

 こうした視点は、陰謀論だけでなく、極右、QAnon、ポピュリズム的言説の拡散など、他の政治的・社会的運動にも適用可能だろう。ミームを追うことは、文化の安定と変容を追うことに他ならない。

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