コロナワクチン接種後の月経異常:SNS上の『社会的収束の波』が情報の乱れを生んだ経緯

コロナワクチン接種後の月経異常:SNS上の『社会的収束の波』が情報の乱れを生んだ経緯 論文紹介

 コロナワクチン接種後にSNSで増加した月経異常の自己報告が、情報の乱れ(information disorder)をどのように生み出し広がったか、分析した論文「The Social Convergence of Information Disorder: Discovery and Analysis of the “Fertile Ground” of COVID-19 Vaccine Hesitancy」を紹介します。この論文では、SNS上での情報の流れを3つの「社会的収束の波(Waves of Social Convergence)」として分析し、初期段階における科学的な不確実性がどのように情報の乱れを助長したかを示しています。


社会的収束の波

第一波:自己報告の急増

  • 内容
    • 初期のワクチン接種者(医療従事者や高齢者など)が、接種後に体験した月経異常をTwitterで共有。
    • 自己報告の目的は、同様の経験を持つ他者との情報共有や安心感を得ること。
    • 投稿内容は「私だけではないのか?」という疑問や共感を求めるもので、反ワクチン運動の影響はほとんど見られず。
  • 特徴
    • 投稿は一部の人の関心を引くものの、初期段階では議論の規模は小さく、あくまで個人の体験談の共有に留まる。
    • この時点での情報空間は、混乱ではなく「集団的感覚作り(collective sense-making)」のプロセスとして機能。
  • 重要な声
    • 自己報告
      • 「ワクチンを受けた翌日に生理が始まった。これが通常の副作用なのか知りたい。」
      • 「私は生理が通常より10日早く来た。これはワクチンの影響なのか?」

第二波:科学・医療的視点の登場

  • 内容
    • 第一波の報告が積み重なる中で、科学者や医療専門家が議論に参加。
    • 個別の体験報告をデータとして扱い、月経異常がワクチンの副作用である可能性を探る研究が始まった。
    • 公的機関からの正式な見解がまだ示されていなかったため、個人として発言する医療従事者が多かった。
  • 特徴
    • この波では、SNSで共有された自己報告が「データ」として扱われ、研究や議論の素材として利用。
    • 医療従事者や研究者は月経異常の可能性を肯定しつつ、「それが一時的かつ無害である」と強調。
  • 重要な声
    • 研究者
      • ケイト・クランシー教授のような研究者が、自身の体験を共有しつつ、他の人々からデータを集めるためのプロジェクトを開始。
      • 例:「ワクチン接種後の月経に関する調査を行っています。体験を教えてください。」
    • 医療従事者
      • 医療専門家が、SNS上で自己報告を確認し、月経異常がワクチンの副作用である可能性を認めつつも、生殖能力には影響がないと説明。
      • 例:「ワクチンが月経に一時的な影響を与える可能性はありますが、生殖能力への長期的影響はありません。」

(3) 第三波:反ワクチン運動の拡大

  • 内容
    • 第一波や第二波の報告を反ワクチン活動家が利用し、「ワクチンは危険である」という既存の主張を強化。
    • 特に月経異常が「生殖能力に悪影響を与える」という恐怖心を煽るための「証拠」として利用。
  • 特徴
    • 反ワクチン活動家は、月経異常の報告を再利用し、医療機関や科学者の対応の遅れを批判することで、議論を政治的・社会的に拡大。
    • ワクチン擁護者の発言が、一部の自己報告者を疎外する結果に繋がり、議論がより複雑化。
    • ディスコースが多層的・混乱的になり、ワクチン支持者と反ワクチン活動家の間で激しく対立。
  • 重要な声
    • 反ワクチン活動家
      • 月経異常を報告する投稿を引用し、「科学や医療機関がこの問題を隠している」と主張。
      • 例:「3人の若い女性がファイザーのワクチン接種後、生理が不規則になったと話しています。科学者たちは何の説明もしていません。」
    • ワクチン擁護者
      • 反ワクチン運動に対抗するため、一部の専門家や著名人が、月経異常報告を否定。結果的に自己報告を軽視する形になり、議論のさらなる混乱を引き起こした。
      • 例:「コロナワクチンが生理に影響を与えるという話は間違いです。」

まとめ

 この論文は、SNS上での議論がどのように展開し、情報が広がったかを詳細に示しています。科学的データが不足している初期段階では、正確な説明や反論が難しく、公衆衛生機関からの公式な見解が発表されたのは、議論がSNS上で激化してから約1年後でした。特に、初期段階でのデータ不足と不確実性が、情報の乱れを助長する要因となったことが示されています。

 ワクチンの副反応のような不確実性を含む情報に対して、いかに情報の乱れを防ぐかは、今後の公衆衛生政策において重要な課題となるでしょう。

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