V-Dem(Varieties of Democracy)は、世界各国の民主主義の現状を分析するプロジェクトであり、毎年発表されるレポートは、各国の民主主義の劣化や独裁化の進行を示す指標として広く参照されている。2025年版レポートでは、「世界の民主主義レベルは1985年の水準に後退し、独裁国家が民主国家を上回った」と警鐘を鳴らしている。
本記事では、V-Demレポートの主なポイントを紹介した上で、特に偽情報(disinformation)との関連について詳しく見ていく。
1. V-Dem 2025年版レポートの主要ポイント
(1) 世界の民主主義は後退
- 1985年の水準まで民主主義が後退
- 世界の平均的な民主主義レベルは1985年、国ごとの平均では1996年の水準に戻った。
- 独裁国家の数が民主国家を超える
- 民主国家:88か国、独裁国家:91か国
- 世界人口の72%が独裁国家に居住
(2) 「第3の独裁化の波」は継続中
- 45か国が独裁化進行中(世界人口の38%)
- 19か国は民主化進行中(世界人口の6%)
- 選挙不正・メディア統制・市民社会の抑圧が共通パターン
(3) 2024年の選挙と民主主義の影響
- 61か国で選挙が行われたが、大勢を変えたのは11か国(7か国が悪化、4か国が改善)
- 政治的暴力が深刻化(メキシコでは37人の候補者が暗殺、アメリカではトランプ暗殺未遂)
- 分極化が進み、選挙の正当性を巡る偽情報が増加
このように、V-Demは民主主義の危機を警告しているが、その背景には「偽情報」の問題が深く関わっていると分析している。
2. V-Demレポートにおける偽情報
V-Demは、偽情報の拡散が独裁化の重要な要因であると指摘している。
(1) 政府による偽情報の活用
- 独裁化する政府の半数以上が偽情報を積極的に利用
- ロシアは「偽情報指標」でほぼ最大スコア を記録
- エルサルバドル、ジョージア、ハンガリー、インド、セルビアなどが政府主導の偽情報拡散国として挙げられる
V-Demによれば、偽情報の目的は以下のように整理できる。
✅ 敵対勢力の信用を失墜させる(野党・ジャーナリストの排除)
✅ 選挙結果への信頼を揺るがせる(社会の分裂を促進)
✅ 政権支持を高めるプロパガンダとして利用
(2) 偽情報と政治的分極化
V-Demは、偽情報の拡散によって社会が分極化し、それが独裁化を加速させると分析している。
- 分極化が進むと、政府のプロパガンダが効果を増す
- 2024年のアメリカ大統領選挙は「毒性レベルの分極化」と評価
- メキシコ、スロバキア、アメリカでは、選挙関連の政治暴力が発生
(3) メディア統制との関係
- 独裁化する政府はメディアを操作し、批判勢力を排除する
- 政府が偽情報を利用し、反対意見を封じ込めるためにメディアを管理する傾向がある
- CNNやワシントン・ポストへの圧力、報道の自由の低下が問題視される
3. V-Demレポートの評価と疑問
V-Demレポートのデータは有益だが、評価には以下のような疑問が残る。
(1) 「偽情報」とは何か?
V-Demの報告では、偽情報の定義が明確ではなく、「政府が発信する情報=偽情報」と断定する傾向がある。
- 例えば、ブラジルやポーランドでは、左派政権が偽情報を取り締まることで「民主化した」と評価されているが、その情報統制自体は問題になっていない。
(2) 右派政権への偏った評価?
- トランプ政権のメディア対応は厳しく批判される一方、バイデン政権の情報統制はほとんど問題視されていない。
- ハンガリーやインドの右派政権は「独裁化」と評価されるが、フランスのマクロン政権の強権的対応はあまり批判されない。
(3) 選挙の自由 vs. 支配層の固定化
- V-Demは、選挙が公正かどうかを重視するが、「政権交代が起きても支配層が変わらない」場合の問題をあまり扱っていない。
- 例えば、アメリカは二大政党制で支配層が固定化されているが、それを「独裁化」とは評価していない。
4. まとめ
V-Demレポートは、偽情報が独裁化を促進する要因である と指摘しているが、その評価基準には一定の偏りがある可能性がある。
- 政府が偽情報を利用することで独裁化が進むという指摘は妥当だが、「偽情報」の定義が政治的に偏っている可能性がある。
- 右派政権に対する厳しい評価と、左派政権への緩い評価のバランスが気になる。
結論として、V-Demのデータは有用だが、その評価をそのまま受け入れるのではなく、政治的なバイアスや前提を踏まえて慎重に読み解く必要がある。
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