Centre for Information Resilience(CIR)が2026年2月13日に公開した報告書 “El Fasher: A Timeline of Violence Following the RSF Takeover” は、スーダン内戦における最も重大な局面の一つを体系的に記録した調査文書である。CIRはロンドンを拠点とする非営利の情報検証・研究機関で、紛争地帯のオープンソース情報を専門的に収集・分析するSudan Witnessプロジェクトを運営している。本報告書は同プロジェクトの成果として、2025年10月26日から28日にかけてスーダン北ダルフール州の州都エルファシェルで発生した、準軍事組織RSF(Rapid Support Forces、迅速支援部隊)による都市制圧と、その過程で記録された大規模な人権侵害を時系列で再構成したものだ。
報告書全体は戦争犯罪のOSINT検証として構成されているが、その末端には偽情報・メディア研究の観点から看過できない素材が含まれている。RSFが組織的に展開した情報管理戦略――対抗ナラティブの流布、暴力の英雄化、加害者の”逮捕劇”の演出――は、武力衝突の文脈における情報操作の典型的なパターンを示しており、本稿ではその構造を詳細に検討する。ただしその分析の射程を正確に理解するためには、CIRが何を、どのような手法で検証したかを把握しておく必要がある。
調査の対象と手法
CIRが分析対象としたのは、2025年10月25日から11月初旬にかけてソーシャルメディアに投稿された映像・画像、および商業衛星によるサンプル画像である。映像の検証にはジオロケーション(地形・植生・建築物の照合による撮影場所の特定)、SunCalcを用いた影の長さ比較による撮影時刻推定、PeakVisorによる山岳輪郭マッチング、そしてVantor(旧Maxar)およびPlanet Labsの衛星画像との照合が組み合わされた。個人の同定には、複数の映像に繰り返し登場する人物の顔・服装・装備の照合が用いられている。
CIRが確認した映像・画像の出典はTelegram、Facebook、X(旧Twitter)、TikTokにまたがり、一部は親RSF系アカウント、一部は親SAF(スーダン国軍)系アカウントが投稿したものである。このような多角的なソース構成は、単一の陣営の主張に依存せず事実関係を再構成するという方法論的な強みをもたらしている一方で、各映像の検証ステータス(verified / unverified)が慎重に区別されており、確認できていない情報については明示的にその旨が記載されている。
10月26日:制圧の構造と大量拘束
2025年10月25日夜、SAF(スーダン国軍)はエルファシェルからの撤退命令を下した。翌26日午前6時から10時にかけて、RSFはSAF第6歩兵師団基地を制圧し、続いて同日10時から18時の間に第271防空旅団基地、第154砲兵基地、州知事官邸周辺を含む複数の要所を次々と掌握した。CIRは少なくとも10本の映像をこれらの場所にジオロケーションし、RSFが基地内部を自由に移動し、掌握状態を維持していることを確認している。
制圧と並行して、エルファシェル西郊では大規模な民間人の拘束が開始された。CIRが確認した15本の映像と衛星画像の照合により、エルファシェル西方約3kmの集落付近(Location A)からグルネイ方向に向かう砂道上(Location B)、そして市外周の土壁の検問所「グルネイ・ゲート」付近(Location C)の3地点で、同一グループとみられる被拘束者が記録された。映像上で観察された被拘束者数は少なくとも600人、CIRの推計では700人超に上り、成人男性が主体ながら女性と子どもも含まれていた。
Location Aで撮影された映像には、RSF北ダルフール部門指揮官Gedo Hamdan Ahmed Abu Nashukの副官・少佐Ibrahim Gibril Omer(通称「Abu Wafi」)が映っており、地面に座る被拘束者を前にして「お前たちは全員、軍人だ。わかっている。(中略)これはタシース部隊だ」と述べている。タシース(Tasis)とはRSFが2025年2月23日に設立した政治・軍事連合「スーダン建国同盟」の通称であり、このような発言は被拘束者を戦闘員として扱う正当化言説の典型である。Location AからCへの移送はRSF戦闘員が棒を用いて強制的に行ったことが映像から確認されており、最終的に被拘束者がグルネイ方面に歩かされていく場面で記録が途絶えている。CIRはその後の被拘束者の運命を確認できていない。
上級指揮官の現地確認
CIRが本報告書で達成した最も重要な検証の一つは、複数の上級RSF指揮官の現地での特定である。10月26日、RSF公式Telegramチャンネルに投稿された映像から、RSF副司令官Abdulrahim Hamdan Dagalo(RSFリーダーMohamed Hamdan Dagalo「ヘメティ」の実兄)がSAF第6歩兵師団基地に在中していたことが確認された。Dagaloは11月4日にもエルファシェル市内のサウジ病院で再び映像に映っており、CIRは衛星画像との照合によりこの映像の撮影日を11月4日と特定している。この2点の確認により、上級RSF指揮官が制圧時から少なくとも9日間にわたってエルファシェルに滞在し続けていたことが裏付けられた。
同じく26日の映像からは、Dagaloと並んでGedo Hamdan Ahmed Abu Nashuk(北ダルフール部門指揮官、後に第7師団司令官と改称)、Waleed Yusef Wahal、Hussain Abo Jalakの3名も特定されている。さらにYassin Ahmed(RSF軍事通信員)およびTijani Ibrahim Moussa Mohamed(通称「Al Zeir Salem」、RSF野戦指揮官)も同基地外周の映像に映っており、CIRはこれらの人物が民間人への攻撃を認識していた可能性が高いと指摘している。
10月27日:土壁での武力衝突と処刑
10月27日早朝6時30分から7時30分にかけて、エルファシェル市街から北西約12kmに位置する土壁(berm)付近で武力衝突が発生した。CIRはSunCalcによる影の長さ比較によってこの時刻推定を行い、映像内の発言(「月曜日、10月27日、ジャンジャウィードとの決定的な戦闘」)とも整合することを確認している。衝突に関与したグループは、前日26日にエルファシェル空港とエルファシェル大学の間で衛星画像に記録されたピックアップトラック約31台と白色車両の混成コンボイと同一である可能性が高いとCIRは判断している。根拠は車両台数(31台)の一致、コンボイの一時的な集結パターン、および車両の外観照合(特徴的な改造を施したToyota Land Cruiser 1台と旧型Toyota Hilux 1台が、衝突前後の映像双方に確認された)である。
衝突の結果、土壁付近に100体超の遺体と約31台の焼損車両が残された。11月1日撮影のVantor衛星画像にはこれらが鮮明に記録されており、遺体の多数は民間人衣類を着用していた一方、焼けた武器も確認されたことから、民間人と武装勢力の双方が被害を受けたとCIRは判断している。また、複数の女性の遺体も確認されている。
この衝突後、同日11時から18時の間に複数の処刑映像が記録された。CIRが検証した10本の映像のうち6本が確認済みで、5本でRSFの徽章を身につけた者が民間人衣類の非武装男性を射殺する場面が収められていた。RSF指揮官Elfateh Abdullah Idris Adam(通称「Abu Lulu」)は4本の映像で確認され、地面に座る・横たわる計14人の男性に対し、RSF制服の戦闘員とともに小銃を発射している場面が含まれる。別の映像では土壁の上から、茂みの中でまだ動いている遺体に向けて発砲する場面も記録されている。
10月28日以降:市内での殺害と拘束施設の転用
10月28日、エルファシェル大学の医学検査科学部棟内部と入口付近で、少なくとも十数体の遺体(高齢者を含む)とその射殺場面が映像に記録された。この映像は一部のアカウントがサウジ病院での事件として拡散したが、CIRはジオロケーションにより大学構内の建物と特定した。27日に投稿された親RSF系Facebook・チャンネルの映像では、同建物前でRSF戦闘員が勝利を祝っており、CIRはこれを根拠にRSFが殺害当時その施設を制圧下に置いていたと判断している。イェール大学公衆衛生大学院が28日の衛星画像を分析したところ、エルファシェル大学周辺に変色と新たな物体の集積が観察され、殺害発生の蓋然性を補強している。
元子ども病院では、10月28日と11月4日に投稿された映像で、民間人衣類の男性多数とRSF徽章を表示した武装した男たちの姿が確認された。アフリカ司法平和研究センター(ACJPS)の報告と照合すると、この施設が制圧後の一時的な拘束センターとして機能していた可能性が高い。
国連国際移住機関(IOM)のデータによれば、2025年10月26日から2026年1月13日にかけて、エルファシェル市内および周辺村落から12万7000人超が避難した。そのうち70%は北ダルフール州内にとどまっており、タウィラに到達した人数はMSFの推計で約1万人(IOM推計で約9000人)にすぎない。この数字は、多数の市民が市外への脱出に失敗したか、グルネイ・コルマ方面などの代替ルートを試みたか、あるいはRSFによって市内に拘束されたままであることを示唆する。WHOは10月28日にサウジ病院で民間人460人が殺害されたと報告している。
情報操作の構造:本報告書が示すもの
本報告書が偽情報・メディア研究の観点から提供する最も重要な素材は、RSFが暴力と情報環境を同時に管理しようとした構造にある。この管理戦略は少なくとも以下の3つの層から構成されている。
第1層:対抗ナラティブの組織的拡散。 制圧直後から、RSF公式Telegramチャンネルおよび親RSF系アカウントは「エルファシェルは平穏であり、RSFの管理下にある」という内容の映像を積極的に拡散した。市民がRSFの行為を称賛する「証言」映像、RSFがグルネイで国内避難民に支援物資を提供する映像(11月12日投稿)、そして指揮官Waleed Yusef Wahalが国内避難民と共にグルネイにいる映像(10月28日投稿)がその具体例である。これらは大規模な暴力・強制移送・市内拘束という実態と正面から矛盾するコンテンツであり、国際的な報道に対抗する意図を持った情報操作とみなせる。
第2層:加害者の英雄化とAI生成コンテンツの活用。 Abu Luluによる処刑映像がオンラインで拡散すると、親RSF系アカウントはその行為を英雄的行為として称賛するコンテンツをX、Facebook、TikTokで流通させた。10月27日には、パイロット制服を着たAbu Luluを描くAI生成画像が「Abu Luluの旅行・観光」というキャプションとともに拡散し、同日には「銅像建立」を示唆するAI生成画像も投稿された。後者のキャプションはAbu Luluの暴力的行為を「Toroboro(非アラブ系武装集団を指す俗称)」「シャイギーヤ族」「シュクリーヤ族」に対する功績として称え、子孫に伝えるべき「偉業」と位置づけるものであった。これらの画像は多数のアカウントによって転載・コメント付きで拡散しており、単一の情報操作行為者ではなく、支持者コミュニティ全体による英雄化のダイナミクスを示している。
第3層:「逮捕劇」による国際的批判の吸収。 処刑映像が広範に拡散し国際的注目を集めた後、RSFは10月30日にTelegramで声明を発表し、Abu Luluが民間人への攻撃に関する調査を受けて逮捕されたと主張した。声明には、清潔な制服を着用し手錠をかけられたAbu Luluの周囲をマスクをしたRSF戦闘員が取り囲む画像が添付されていた。CIRはこの主張を独自に検証できておらず、Abu Luluが拘束状態にあるか否かも確認できていないと明記している。この一連の対応は、国際的批判が一定の閾値を超えた際に、実質的な責任追及を回避しながら形式的な「対応済み」のシグナルを発信するという危機管理的情報操作の典型的パターンである。
言説構造としての民族差別的スラー。 情報操作の文脈でもう一点注目すべきは、RSF戦闘員が拘束・処刑の場面で繰り返し使用した差別的言辞が、単なる暴力の付随物ではなく、被拘束者をSAF協力者あるいは敵勢力として位置づける正当化言説として機能していた点である。「Falangay」(ヌバ山地を拠点とするSLM/A-ミニ・ミナウィおよびJEM所属の戦闘員を指すRSFの蔑称で、スラーとして転用された)、「Nuba」(ダルフールの非アラブ系住民全般への蔑称として使用)、「奴隷」「ロバ」といった表現は、被拘束者を「SAFやSLM/A指導部に利用された存在」として描き、処刑を正当化する言説フレームを形成している。CIRが記録した複数の映像では、処刑直前に被拘束者に「俺たちは全員武装勢力だ」と言わせる強制的な言語行為も観察されており、これは被拘束者の側の「自白」という形式を通じて殺害を正当化するという意図的な演出といえる。CIRはこのような被拘束者の侮辱的扱いが、紛争関連性的暴力(CRSV)の早期警戒指標にもなり得ることをBellingcatのガイドラインを引用して指摘している。
方法論的意義
本報告書が示す調査手法の構成は、情報操作研究の観点からも参照価値がある。映像検証においてCIRが採用した手順――投稿時刻・影の長さ・音声内容・衛星画像の新旧比較による時系列再構成、個人の外見的特徴・装備・映り込み車両の複数映像間マッチング――は、紛争地帯のオープンソース調査における標準的なアプローチを高い精度で実践したものである。特に注目されるのは、確認済み映像と未確認映像の横断的な人物照合によって、未確認映像の信頼性を間接的に補強するという手法である。同一の戦闘員が確認済みの基地内映像と未確認の野外映像双方に登場することが示されると、後者の内容も真正性を持つ可能性が高まるという推論構造は、単一映像の個別検証を超えたネットワーク的証拠構成といえる。
結論に代えて
CIRの報告書は、RSFによるエルファシェル制圧が大規模な民間人拘束・処刑・強制移送を伴うものであったことをオープンソース情報のみに基づいて体系的に記録した。本報告書が持つ情報操作研究としての意義は、暴力の物理的遂行と情報環境の管理が同時並行で進行した様子が詳細に記録されている点にある。対抗ナラティブの組織的流布、AI生成コンテンツを用いた加害者英雄化、形式的「逮捕」による批判吸収という3層の情報管理戦略は、武力紛争下の情報操作が戦闘行為の補完物として機能する構造を具体的に示している。報告書は2026年2月13日時点でエルファシェルの現状は依然不明であるとし、CIRがモニタリングを継続する方針であることを記している。


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