カナダ統計局(Statistics Canada)は2026年5月13日、カナダにおける偽情報の暴露・識別・信頼への影響を分析した論文「Shifting perceptions of misinformation in Canada: Trends in exposure, detection and trust」を『Insights on Canadian Society』誌に公開した。執筆者はHelen Foran(社会データ開発・インサイトセンター)とHoward Bilodeau(イノベーション・技術・企業統計センター)の2名。
調査の概要と位置づけ
本論文が依拠する主要データソースは、2025年春に実施されたカナダ社会調査(CSS)第17波「生活の質・気候変動・信頼」である。CSSは四半期ごとに実施される横断的な任意調査で、10州に居住する施設外在住の15歳以上を対象とし、対象外となる人口は同年齢層全体の2%未満にとどまる。第17波では約3万世帯が確率的に層化抽出され、回答率は40.3%と推計された。推計値には調査ウェイトおよびブートストラップ・ウェイトが適用されている。
比較対象として用いる第2のデータソースは、「コミュニティの人々:生活の質・情報源・信頼」を主題とした「人々とコミュニティに関する調査シリーズ(SSPC)」第3波(参照期間:2023年10月)である。こちらは7万人を対象としたサンプルで、第3波の回答率は27.2%。非回答調整とキャリブレーションを経て集団推計に使用されている。
論文は両データを用いて2023年から2025年にかけての変化を分析しているが、CSSとSSPCはサンプリング枠と方法論が異なる。論文自身が「直接比較は慎重に解釈すべき」と明示しており、本稿でもこの留保を踏まえたうえで各数値を参照する。
カナダ人の情報取得源:ニュース機関・知人・SNSの三極構造
2025年時点でカナダ人がニュースや情報を得る際に「典型的に」利用する媒体は、ニュース機関が66%でトップ、次いで知人・近しい人々が62%、SNSプラットフォームが54%、テレビ番組が52%と続く。ラジオ(38%)と紙媒体(21%)は相対的に低位にあり、動画・音声ストリーミング(34%)と政府広報(34%)は中間に位置する。科学専門家・査読誌を情報源とする層は27%にとどまる。
年齢層別の分布は劇的な逆転を示す。SNSを情報源として利用する割合は15〜24歳で78.8%、25〜34歳で77.8%であるのに対し、65〜74歳では30.0%、75歳以上では18.9%まで低下する。反対にテレビ番組の利用は15〜24歳で33.1%、25〜34歳で28.9%であるのに対し、75歳以上では83.6%に達する。ニュース機関の利用は年齢とともに単調増加し、15〜24歳の49.4%から75歳以上の78.4%へと推移する。知人を情報源とする割合は15〜24歳で75.8%と最も高く、年齢とともに緩やかに低下して75歳以上では51.3%となっており、この傾向は他の研究(トロント・メトロポリタン大学のDaisによる「カナダにおけるオンライン有害事象調査2025」)とも整合する。
ジェンダー別では、女性が知人を情報源とする割合(64.7%)が男性(58.4%)を上回る一方、男性は動画・音声ストリーミング(37.6% vs 女性30.6%)をより多く利用する。後者の差について論文は、コンテンツ制作者との「パラソーシャルな信頼関係」形成という先行研究の知見を援用して解釈している。
学歴別では、ニュース機関を情報源とする割合が学士号以上の高学歴層(72.9〜78.3%)と高校未満(53.4%)の間で約25ポイントの差があり、教育水準が情報取得源の質と一定程度相関していることが示唆される。
人種的マイノリティの情報環境:SNS依存70%が示す構造差
カナダ雇用衡平法上の「可視的少数者」として分類される人種的マイノリティのカナダ人は、情報取得においてSNSプラットフォームへの依存度が顕著に高い。2025年の数値では、人種的マイノリティの70.3%がSNSを情報源として利用しており、非マイノリティ・非先住民の47.2%と比較して23ポイントの差がある。ニュース機関については逆転が生じており、人種的マイノリティの利用率(60.2%)が非マイノリティ(68.2%)を下回る。
知人を情報源とする割合は人種的マイノリティ(63.2%)と非マイノリティ(61.0%)で大きな差がないが、論文注記によれば、年齢・ジェンダー・学歴・居住地域などを回帰モデルで統制すると知人利用の差は統計的有意性を失う。一方でSNS依存の差は統制後も有意に残存する。すなわち、人種的マイノリティのSNS利用率の高さは、他の属性の複合効果では説明できない独立した傾向として確認されている。動画・音声ストリーミング利用率も47.5%と非マイノリティ(28.1%)より大幅に高く、人種的マイノリティの情報環境は総じてソーシャルメディアおよびデジタルプラットフォームに偏重した構造にある。
月1回以上の偽情報目撃:80%という基準線
2025年のCSSデータでは、カナダ人の80%が誤解を招く・虚偽・不正確と疑われるニュースや情報をインターネット上で少なくとも月1回以上目にしていると報告した。15〜74歳のほぼ全年齢層でこの割合は80%台前後とほぼ一定であり、年齢差が統計的に明確に現れるのは75歳以上(61.6%)のみである。
ロジスティック回帰分析によれば、高校以上の学歴を持つ層と非マイノリティ・非先住民の層は偽情報を月1回以上目にする確率が統計的に有意に高い。州別ではブリティッシュ・コロンビア(84.0%)、アルバータ(82.0%)、オンタリオ(80.8%)が参照カテゴリのニューファンドランド・ラブラドール(79.2%)に対して有意に高い。農村部(82.5%)と都市部(79.6%)の間には差があるが、回帰モデルでは有意差として残らない。
重要な測定上の限界として、論文はこの設問が「より信頼できるサイトを利用して実際の暴露量が少ない」場合と「偽情報を見ていても気づいていない」場合を区別できないと明示している。報告された数値はあくまで主観的な目撃感覚であり、実際の暴露頻度とは乖離している可能性がある。
「見分けにくくなった」:2023年44%から2025年47%へ
2025年時点でカナダ人の47.1%が「3年前と比較して真偽の見分けが難しくなった」と回答した。「変わらない」が42%、「見分けやすくなった」が11%である。SSPC第3波(2023年)では同種の質問に対して44%が「より難しい」と回答していた。ただし前節で述べた方法論上の相違から、この3ポイントの変化を単純に経年増加と解釈することには慎重さが必要である。
年齢別の分布は、他の指標と異なり年齢層間の差異がほぼ見られない点が特徴的である。15〜24歳(42.5%)から75歳以上(49.1%)まで、すべての年齢層で40〜50%の範囲に収まっており、情報環境へのリテラシー差や利用媒体の違いにもかかわらず、識別困難感は年齢を横断して共通している。
学歴との関係は逆説的な構造を示す。高校未満の学歴層では40.3%が「より難しくなった」と回答するのに対し、学士号取得者では51.9%、学士以上では50.0%と、高学歴ほど識別困難感が高い。論文はこの結果を、高学歴層が複雑な情報環境により多くさらされ、情報評価の難しさに対してより自覚的であることの反映として解釈している。先行研究(Yu et al. 2026)はデジタル短尺動画プラットフォームにおけるメディアリテラシーと情報断片化の関係を論じており、高学歴層が複雑な情報環境に自覚的に向き合っていることは他のエビデンスとも整合する。
人種的マイノリティでは「より難しくなった」が40.0%であるのに対し、非マイノリティ・非先住民では50.0%と10ポイントの差がある。回帰モデルで他の属性を統制してもこの差は有意に残存し、構造的な差異として確認されている。ジェンダー別では女性(48.6%)が男性(45.5%)よりわずかに高く、回帰後も有意差が保たれる。先行研究(Kyrychenko et al. 2025)によれば、女性は男性より偽情報を信じやすい傾向があるが、自らの識別能力についてより正確な自己評価を持つとされており、この知見が今回の女性の識別困難感の高さと関連している可能性を論文は示唆する。
懸念度は横ばい:61%が「非常に」または「極めて」懸念
オンライン上の偽情報に「非常に」または「極めて」懸念していると回答した割合は、SSPC(2023年)の59%からCSS(2025年)の61%へとほぼ横ばいで推移している。両調査の方法論的差異を踏まえると、この変化は実質的に安定していると解釈するのが妥当である。
年齢別では、懸念度は年齢とともに上昇する傾向がある。15〜24歳では48%にとどまるのに対し、65〜74歳では67%が高度な懸念を示す。若年層がSNSを主要な情報源として利用しながらも懸念度が相対的に低い点は、情報環境への慣れや、偽情報をより日常的なリスクとして内面化している可能性を示唆する。学歴別でも同様の傾向が観察され、高校未満(45%)と学士以上(69%前後)の間に24ポイント超の差がある。暴露頻度・識別困難感・懸念度のすべてにおいて高学歴層が高い値を示すパターンは一貫しており、情報リテラシーの高さが偽情報問題への感度の高さと表裏一体になっていることを示す。2023年と2025年の間でこれらの傾向は比較的安定しており、年齢・学歴と懸念度の関係は構造的な特徴として定着していることがうかがえる。
メディア信頼と社会的信頼が識別能力感と連動する
メディアへの信頼度と偽情報識別困難感の関係について、2025年のCSSデータは明確なパターンを示す。カナダのメディアに「強い信頼」を持つ層で「見分けが難しくなった」と回答した割合は44.1%であるのに対し、信頼度が低い層では48.8%と5ポイント近い差がある。同様のパターンは社会的信頼の指標でも再現される。「ほとんどの人は信頼できる」と考える層では識別困難感が44.7%であるのに対し、「人付き合いには慎重であるべき」と考える層では49.1%となる。
この関連性は相関関係であり、因果の方向性は本論文の設計からは決定できない。カナダ学術会議(2023年)はメディア信頼と偽情報の関係を先行研究として参照しており、論文はその文脈に本知見を位置づけている。信頼度の低い層が偽情報識別により苦労しているのか、あるいは識別困難な経験を重ねた結果として信頼度が低下しているのかは、横断調査では判別できない。それでもこのパターンは、メディア不信と識別困難感が共存する層がカナダ社会に一定規模存在することを実証的に示している。両指標の差は5ポイント前後とそれほど大きくはないが、サンプル規模を踏まえると統計的には安定した差であり、信頼構造と認知的負荷の交差点を示すデータとして位置づけられる。メディアへの信頼が高い層が識別困難感を相対的に感じにくい背景には、信頼できる情報源を持つことによる認知的な手がかりの多さが影響している可能性がある。
データが示す構造的含意
本研究が浮き彫りにする最も注目すべき知見の一つは、高学歴層と偽情報認識の逆説的な関係である。暴露頻度でも識別困難感でも、高学歴層は相対的に高い値を示す。論文はこれを能力の欠如ではなく、複雑な情報環境への自覚的な関与と解釈しており、リテラシー介入の対象と効果についての単純な前提に疑義を投じている。
人種的マイノリティのSNS依存(70%)とニュース機関利用の相対的低さ(60%)は、情報アクセスの構造的な不均等を示す。回帰統制後も有意に残存するこの差は、単に年齢や学歴に還元されず、メディアへのアクセスや信頼の形成に関して属性横断的な介入の必要性を示唆する。
識別困難感が2023年から2025年にかけて増加傾向にある可能性(44%→47%)は、AIによる合成コンテンツやディープフェイクの拡散が社会的に体感されはじめていることと時間的に一致する。論文はこの点を指摘しつつも、両調査の方法論的差異から因果的な推論には踏み込まない慎重な姿勢を保っている。懸念度が61%で安定している一方で識別困難感が増加傾向にあるという構図は、「心配しているが、より迷っている」カナダの情報環境の現状を定量的に記録したものとして参照価値がある。
論文URL:https://www150.statcan.gc.ca/n1/pub/75-006-x/2026001/article/00006-eng.htm

コメント
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