RAND研究所が2025年1月16日に発表したレポート「The Denazify Lie: Russia’s Use of Extremist Narratives Against Ukraine」は、ロシアがウクライナ侵攻を正当化するために展開したプロパガンダ活動を詳細に分析しています。このレポートでは、特にSNSプラットフォームであるXとTelegramがどのように活用され、どのような影響をもたらしているのかが解説されています。本記事では、レポートの内容を元にこれら2つのプラットフォームにおけるプロパガンダ戦略を紹介し、最終的な政策提言までをまとめます。
SNSプラットフォームにおけるプロパガンダ戦略
X
- 拡散の仕組み
- レポートによると、約3800万件の投稿が分析対象となり、プロパガンダの多くが匿名アカウントやプロロシア派のインフルエンサーによって拡散されていることが判明しました。
- ボットアカウントが活用され、自動的にリツイートを繰り返すことで、短期間で広範囲に情報が拡散されます。
- 主なテーマ
- 「非ナチ化」を中心とした語りが多く、ウクライナ政府を「ネオナチ」として描写する内容が目立ちます。
- 感情的な訴求を狙った恐怖や怒りを煽る投稿が特徴的です。
- アメリカやNATOを批判する内容も多く、「ウクライナ戦争は西側諸国の陰謀である」という陰謀論も広く拡散されています。
- 具体例
- 「ウクライナ政府は極右政権で、国民を弾圧している」という内容の投稿が広くリツイートされています。
- ロシア軍の行動を正当化し、西側諸国の軍事支援を非難する内容も頻繁に見られます。
- 影響範囲
- 英語やスペイン語を含む多言語での投稿が行われ、国際的なオーディエンスにリーチしています。
- ただし、西側諸国では批判的な視点が多く、影響が限定的であるケースもあります。
Telegram
- 拡散の仕組み
- 約16,223のチャンネルから42,000件以上の投稿を分析。Telegramでは、チャンネル間の情報共有が頻繁であり、閉鎖的なネットワークを通じて情報が拡散しています。
- 高い匿名性がプロパガンダ活動を容易にしています。
- 主なテーマ
- Xと同様に「非ナチ化」を中心とする語りが見られますが、戦況報告やビジュアルコンテンツ(画像・動画)の使用が顕著で、視覚的な訴求力が強いのが特徴です。
- 恐怖や怒りだけでなく、同情を引き出す内容も多く、人道的な危機を誇張する投稿が目立ちます。
- 具体例
- 「ウクライナ軍が民間人を攻撃している」といった誤情報が拡散されています。
- ロシア軍の「成功」を強調するビデオや画像が頻繁に共有され、プロパガンダとしての視覚的効果が発揮されています。
- 影響範囲
- 特にセルビア語圏やブルガリア語圏など東ヨーロッパ地域での影響が大きく、これらの地域ではロシアの語りが一定の支持を得ています。
- 一方、Telegramの閉鎖的な構造により、影響範囲が特定のネットワークに限定される場合もあります。
プロパガンダ活動の影響と課題
レポートは、ロシアのプロパガンダが社会や国際社会に与える影響について以下のように指摘しています。
- 社会的不安の助長: プロパガンダが社会的分断や対立を助長し、特に移民や難民に対する偏見を煽る要因となっています。
- 誤情報の拡散: 感情的な訴求を通じて、正確な情報へのアクセスが妨げられる結果、政策決定や公共意識に悪影響を与える。
- 暴力的過激主義の促進: REMVE語りが極右や極左の団体によって利用され、暴力的行動を正当化する口実として使用されています。
政策提言
レポートは、これらのプロパガンダに対抗するための具体的な提言を示しています。
- 直接的なカウンターメッセージングの慎重な運用
- ロシアのREMVE語りは限定的な成功にとどまる場合が多いため、広範囲なカウンターメッセージングは逆効果になる可能性があります。必要に応じて、ターゲット地域や特定のアクターに限定した対応が推奨されます。
- 現地アクターの支援
- 東ヨーロッパを含む影響の大きい地域で、信頼できるメディアやNGOを通じた正確な情報提供を強化する。
- プラットフォームごとの対策強化
- Xでは、ボットや偽アカウントの排除を強化。
- Telegramでは、極端な情報を共有する主要チャンネルの監視と対策を強化。
- 国際的な協力の促進
- 国際機関や各国政府間での情報共有を進め、プロパガンダの拡散を早期に検知・対応する仕組みを構築する。
- 教育とメディアリテラシーの向上
- プロパガンダの手法や影響について市民への教育を行い、情報を批判的に評価する能力を育てる。
RANDのレポートが指摘しているように、ロシアのREMVE語りはその成功が限定的である一方、特定の地域やネットワークでは一定の影響力を持っています。そのため、対応策は慎重かつ地域特化型である必要があります。これらの特徴を理解し、政策や教育を通じた包括的なアプローチを採用することが求められます。
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