欧州の選挙では、偽情報や外国勢力の干渉が大きな課題となっている。2025年3月4日に開催されたEDMO(European Digital Media Observatory)のオンラインセミナーでは、ドイツ、ルーマニア、ポーランドにおける最新の事例が紹介され、各国でどのような偽情報が拡散されたのか、どのような対策が取られたのかが議論された。
ルーマニア――アルゴリズムを利用したプロパガンダの成功例
ルーマニアの2024年大統領選では、TikTokとTelegramを駆使した情報操作が選挙結果に大きな影響を与えた。候補者カリン・ジョルジェスクは、従来の政治家とは異なり、ほぼ完全にソーシャルメディア戦略に依存して知名度を高めた。
TikTokを活用した爆発的な拡散
- ジョルジェスクの関連動画は、2週間で720万以上の「いいね」を獲得。
- 特定のハッシュタグ(#echilibrusiverticalitate、#prezidentiale2024)を活用し、数百万回のインプレッションを記録。
- ボットネットワークや自動化ツールを活用し、同じメッセージを大量投稿。
- 1時間で100万ビューに達する投稿もあり、圧倒的な拡散力を発揮。
この戦略は、ルーマニア国内外の専門家によって「アルゴリズム的プロパガンダ」と呼ばれ、特定の人物の支持を強化するためにSNSの仕組みを意図的に利用する手法として注目された。
Telegramによる組織的な操作
TikTok単体ではなく、Telegramも活用された。ジョルジェスク陣営の支持者は、各地域ごとに設立されたTelegramグループを通じて情報を共有し、TikTok上での拡散戦略を組織化していた。
- 各地域のグループには明確な指示があり、「1日30分の活動」で選挙運動に貢献できるとされた。
- 支持者は事前に用意されたメッセージを編集し、「オリジナル」の形でTikTokに投稿。
- 2024年6月以降、大規模な動員が進み、選挙期間中に一気に拡散。
ルーマニアの情報機関(SRI)によると、こうした動員活動は「選挙の公正性を損なう可能性のある組織的な操作」とされ、当局も対応を迫られた。
ドイツ――ロシア発の偽情報とAI活用の脅威
ドイツでは、選挙期間中にロシア発の偽情報が拡散され、政治家への個人攻撃が目立った。
主な偽情報の内容
- 選挙の不正を示唆するデマ
- 「郵便投票が改ざんされた」「投票用紙が意図的に無効化された」など。
- 個人攻撃
- 緑の党のロベルト・ハベックや、キリスト教民主同盟(CDU)のフリードリヒ・メルツに関する虚偽の健康情報。
- ロシアの影響
- フェイクニュースサイトを利用した「ストーム1516作戦」が発覚。
- AI生成の偽画像・偽動画が拡散され、視覚的な印象操作が行われた。
ドイツでは、こうした偽情報を検証するための専門家ネットワークが稼働し、SNSプラットフォームと連携した迅速な対応が行われた。
ポーランド――選挙直前の情報戦と米国の影響
ポーランドでは2024年5月に大統領選が予定されており、すでに偽情報が拡散し始めている。特に、ウクライナ支援やNATOの信頼性に関する疑念を煽る情報が増加している。
注目される偽情報の傾向
- 「ポーランドのNATO加盟は危険」「米国はポーランドを見捨てる」といった不安を煽る情報。
- 「ウクライナ難民がポーランドの社会福祉を圧迫している」とする誤情報。
- エロン・マスクがポーランドの政治関連の投稿をリツイートし、選挙に間接的な影響を与えている可能性。
ポーランドでは、選挙前の数か月間にこのような偽情報がさらに活発化することが予想され、当局やメディアが警戒を強めている。
課題と今後の対策
セミナーでは、各国の事例を通じて、今後の選挙対策に向けたいくつかのポイントが議論された。
- 政治的な対応の強化
- EDMOの専門家は、偽情報対策は技術的な問題ではなく、「政治的な課題」だと強調。
- 欧州全体で規制強化が求められる。
- データアクセスの透明化
- SNSプラットフォームのアルゴリズムをより公開し、研究者がリアルタイムでデータ分析できる環境を整備。
- クロスプラットフォーム規制の必要性
- TelegramやTikTokなど、異なるSNSを利用した選挙操作に対応するため、一元的な規制が必要。
- 市民のメディアリテラシー向上
- 短期的なファクトチェックではなく、長期的な教育プログラムを整備。
選挙における情報戦は今後も続くが、各国の取り組みを共有しながら、より効果的な対策を講じる必要がある。特に、技術と政治の両面からアプローチしなければ、偽情報の拡散を完全に抑えることは難しいだろう。
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