拡散に成功するフェイクニュースの書き方とは

拡散に成功するフェイクニュースの書き方 [論文紹介] 論文紹介

 ワクチン、気候変動、COVID-19といった重要なトピックでは、誤った情報が科学的なコンセンサスを揺るがしています。本記事では、Bashayer Baissaらの論文「The News Values of Fake News」を紹介し、拡散されるフェイクニュースの仕組みを解明します。


論文の内容紹介

研究の目的と手法

 本論文は、フェイクニュースがどのように「ニュース性」を構築し、読者を引きつけているかを解明することを目的としています。著者たちは、Discursive News Values Analysis (DNVA) と Key Semantic Domain Analysis (KSDA) を用い、フェイクニュースの言語的特徴を分析しました。

  • コーパスの構築:
    • フェイクニュースはファクトチェックサイト(Snopes, PolitiFactなど)から収集。
    • 主流ニュースは、ブロードシート、タブロイド、ウェブニュース、ニュースブログから収集。
  • 分析手法:
    • DNVA: フェイクニュースに含まれるニュース価値を言語的に解明。
    • KSDA: フェイクニュース特有の意味領域を特定。

主な結果

 著者らは、フェイクニュースが特定のニュース価値をどのように構築しているかを分析し、以下のような結果を得ました。それぞれの特徴には、具体例が示されています。

1. 伝統的なニュース価値

  1. ネガティブ性 (Negativity):
    • フェイクニュースは否定的な感情(恐怖、不安、怒りなど)を引き起こす内容を強調することで、読者に訴求
    • : 「ビル・ゲイツのワクチンが不妊薬を含んでいる」という主張
      • この主張は、「ワクチンによる健康被害」と「富裕層が人口管理を意図している」という陰謀論を結びつけ、読者に強い不信感と怒りが発生
  2. 予想外性 (Unexpectedness):
    • 驚きやショックを伴う表現を用いることで、読者が注目
    • : 「インドのワクチン試験で何千人もの女性が死亡した」という誤報
      • この主張は、通常ではあり得ない大規模な被害を描写し、驚きと恐怖を読者に提供
  3. 共鳴性 (Consonance):
    • 読者の既存の偏見や信念に一致する内容を強調することで、信頼性を向上
    • : 「地球温暖化は自然現象であり、人間活動が原因ではない」という主張
      • 「自然界の変動は通常の現象である」というフレーズを繰り返すことで、特定の読者層の疑念や不信感に訴求
  4. 事実性 (Facticity):
    • データや証拠を提示し、科学的に見せることで信憑性を向上
    • : 「アメリカ環境保護庁のグラフが、1930年代の方が現代よりも熱波が厳しかったことを示している」という主張
      • 実際のデータを歪曲して用いることで、科学的な語りを模倣

2. 新たなニュース価値

  1. 反体制性 (Subversiveness):
    • 主流の語りを批判し、「隠された真実を暴露する」という感覚を読者に印象づけ
    • : 「NASAや気象局が操作されたデータを使い、地球温暖化の嘘を広めている」という主張
      • 科学的な権威を否定し、主流の科学理論を攻撃することで、読者の不信感を煽動
  2. 因果性 (Causality):
    • 誤った因果関係を示し、論理的な物語を構築することで説得力を強化
    • : 「インフルエンザワクチンがCOVID-19の感染リスクを36%増加させる」という主張
      • 偽りの因果関係を持ち出し、読者を誤った結論に誘導
  3. 宗教性 (Religiosity):
    • 宗教的・超自然的なテーマを取り入れ、信念に訴求
    • : 「自称預言者が神の力でハリケーンを止めた」との主張
      • 宗教的な背景を利用して、フェイクニュースの信憑性を向上
  4. 歴史性 (Historicity):
    • 過去の出来事や文脈を取り入れ、信憑性や説得力を補強
    • : 「COVID-19は中国の生物兵器プログラムに由来する」という陰謀論
      • 歴史的背景を歪曲することで、読者の疑念を強化

結論

 フェイクニュースは、これらの伝統的および新たなニュース価値を組み合わせることで、読者を引きつけ、感情的な反応を引き起こし、拡散力を高めています。


フェイクニュースが映し出す社会的背景

 フェイクニュースがこれほど拡散する背景には、現代社会に特有の構造が見え隠れします。例えば、以下の点が挙げられます:

  1. 主流メディアへの不信感
    フェイクニュースが「反体制性」を強調することで拡散する現象は、主流メディアや科学的権威への不信感が深まっている社会の姿を映しています。この不信感は、特に権威に疑念を抱く層で強く見られ、フェイクニュースを「真実の暴露」として受け入れる土壌を作っています。
  2. 感情的な情報消費の普及
    フェイクニュースが感情に訴える構造を持つことは、情報が「合理的に評価される対象」から「感情的に消費される対象」へと変化している現状を示唆しています。これはソーシャルメディアによる拡散速度の加速とも密接に関連しています。
  3. 個人の認知バイアス
    フェイクニュースが読者の偏見や信念に「共鳴」する仕組みは、個人の認知バイアスが情報選択に大きく影響することを物語っています。この現象は、情報の多様性が広がる一方で、個人が自らの信念に適合する情報のみを選択する傾向が強まるというパラドックスを浮き彫りにしています。

まとめ

 フェイクニュースの拡散は、単なる誤情報の問題に留まらず、現代社会の構造的課題を反映しています。このような背景を理解することで、フェイクニュースの影響を減らすためのより深い洞察が得られるかもしれません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました