2024年8月26日、Metaは米国における第三者ファクトチェックプログラムを廃止し、Xの「コミュニティノート」に類似したユーザー主導の仕組みを導入することを発表した。この決定は、誤情報対策において専門家によるファクトチェックよりも、ユーザーの集合知を活用する方向に舵を切るものである。
しかし、Metaと提携するファクトチェック組織にとっては、資金提供の打ち切りにつながる重大な問題であり、この方針転換には批判が相次いだ。例えば、スペインのファクトチェック組織 Maldita.es は、Xのユーザー主導のファクトチェック機能におけるファクトチェックの役割を強調し、アルゴリズムの問題を指摘するレポートを発表している。このレポートでは、「Xのファクトチェック機能は、政治的な合意を基準に表示が決定されるため、事実性を重視していない」と批判されている。
こうした議論がある中で、人々がニュースの真偽をどの程度見極められるのかを包括的に分析した論文が発表された。それが、「Spotting false news and doubting true news: a systematic review and meta-analysis of news judgements」(2025年2月21日公開)である。
論文の概要
この論文は、67の実験研究をメタ分析し、40か国・約19万4千人のデータを用いて、人々がニュースの真偽をどのように判断するかを評価している。その主な結果は以下の通りである。
- 人々は偽ニュースを見抜く能力を持っている
- 参加者は偽ニュースを誤りと見抜くのが得意で、真実のニュースを正しいと判断するのはやや苦手だった(Cohen’s d = 0.32)。
- つまり、誤情報に騙されることよりも、正しい情報を疑う「懐疑バイアス」が存在する。
- 政治的バイアスよりも、政治的対立に対する懐疑が影響
- 政治的に一致するニュースと対立するニュースの両方で、真偽の判断能力に差はなかった。
- しかし、政治的に対立するニュースに対しては、より懐疑的になる傾向があった(Cohen’s d = 0.78)。
- 真実のニュースへの懐疑が問題視される
- 研究では、偽ニュースを信じることよりも、真実のニュースを疑う傾向がより深刻であることが示された。
- つまり、人々は偽情報を信じやすいというよりも、正確な情報を過小評価しやすい。
- したがって、誤情報を否定するだけでなく、真実のニュースの受容を高めることが誤情報対策の鍵となる。
ファクトチェック組織への批判的視点
この研究の結果を踏まえると、ファクトチェック組織が主張する「専門家による事実チェックが不可欠であり、ユーザー主導のシステムは不十分である」という意見には疑問が生じる。
- 人々は偽ニュースを見抜く能力を持っており、必ずしも専門家に依存する必要はない
- ファクトチェック組織も政治的バイアスを持つ可能性があり、必ずしも中立とは限らない
- 誤情報の削減だけでなく、正確なニュースを信頼してもらう仕組みの構築が必要である
もちろん、ファクトチェック組織の存在意義を否定するものではない。しかし、Metaの決定を単に「誤情報対策の後退」と捉えるのではなく、「真実のニュースの受容を高めるにはどうすべきか」という視点から考えることが求められるのではないだろうか。
コメント
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