米国の主要LGBTQメディア擁護団体GLAADは2026年版「ソーシャルメディア安全指数」を公表した。GLAAD(Gay & Lesbian Alliance Against Defamation)は1985年設立の501(c)3非営利法人で、メディア・テクノロジー企業のLGBTQ関連政策を監視・評価する活動で知られる。2022年に始まった年次報告書「Social Media Safety Index」(SMSI)は、TikTok、X、YouTube、MetaのInstagram・Facebook・Threadsの計6プラットフォームを対象に、LGBTQの安全・プライバシー・表現の自由に関する公開ポリシーを定量評価する。
評価方法論は、テクノロジー企業の人権・プライバシー政策を体系的に評価する国際調査機関Ranking Digital Rights(RDR)のBig Tech Scorecardに準拠し、14のLGBTQ固有指標を用いる。最高得点は100点。評価は各プラットフォームの英語版公開ポリシーにのみ基づき、政策執行の実態は方法論上の計測対象外とされている。なお本報告書が評価対象とする企業の一部はGLAADの財政スポンサーであり、同組織はアドボカシー部門と資金調達部門の間にファイアウォールを設けていると明示している。読者はこの関係性を踏まえた上で評価結果を参照されたい。
2026年スコアカード:TikTok以外は全プラットフォームが下落
2026年の評価結果は以下の通りである。
| プラットフォーム | 2026年スコア | 前年比 |
|---|---|---|
| TikTok | 56 | ±0 |
| 41 | −4 | |
| 40 | −5 | |
| Threads | 39 | −1 |
| YouTube | 30 | −11 |
| X | 29 | −1 |
TikTokが唯一スコアを維持した一方、YouTubeが11ポイントという最大の落下幅を記録した。報告書は「SMSIの中心的知見が年ごとに同じプラットフォーム失敗の物語を繰り返していること自体がニュースだ」と指摘する。最高点のTikTokでも56点にとどまり、6プラットフォームのいずれも合格水準に達していない。
Metaの政策後退:最も深刻な変化
2026年SMSIにおける最大の評価対象は、2025年1月にMetaが実施した「ヘイトコンダクト」ポリシーの大規模改訂である。Instagram(41点、前年比−4)、Facebook(40点、同−5)、Threads(39点、同−1)の三プラットフォームすべてが下落した主因はここにある。
改訂の具体的内容として、報告書は以下の変更を文書化している。ゲイ・レズビアンに対する言及に「homosexuality(同性愛)」という用語が採用された。この語は右派団体がLGBTQ当事者を貶める際に頻用する表現である。トランスジェンダーの人々を指す際には「transgenderism(トランスジェンダリズム)」という表現が導入された——これはトランスジェンダーであることを内在的アイデンティティではなくイデオロギーとして枠組みする反トランス用語である。さらに改訂後のポリシーはユーザーがLGBTQの人々を「mentally ill(精神疾患)」または「abnormal(異常)」と呼称することを明示的に許可するようになった。加えて、Messengerのトランス・ノンバイナリーテーマの削除、米国でのファクトチェックプログラムの終了、DEIプログラムの廃止も同時期に実施された。
Metaが設置した独立コンテンツ審査機関「監督委員会」との関係においても、対立の構造が具体的に記録されている。2025年4月、委員会はトランス女性に対する意図的なミスジェンダリングを行う影響力のある反LGBTQ系アカウントの動画2本についてユーザーからの異議申し立てを審査した。委員会多数派はMetaの動画存続決定を支持したが、同時に「transgenderism」という語のコミュニティ標準への導入について懸念を表明し、「国際人権基準に沿った中立的な枠組みで構築されるべきで、例えば『transgenderismとhomosexualityに関する言説』の代わりに『ジェンダーアイデンティティと性的指向に関する言説』と記述すべき」と勧告した。Metaは「用語の更新方法を検討する」とのみ回答し、2026年3月の「監督委員会に関する半期報告書付録」では改訂案の「実行可能性を評価中」と記載するにとどまった。委員会勧告から約1年が経過した現在も変更は実施されていない。
データプライバシーの領域でも後退が記録されている。2025年12月、Metaはプライバシーポリシーを更新し、同社の生成AIプロダクト(Llamaなど)とのユーザーインタラクションデータをターゲット広告に利用することを明記した。EU・英国以外では、ユーザーはこのデータ利用をオプトアウトできない。また同社はユーザーの性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する収集・推定情報がアルゴリズムシステムの開発にどのように利用されているかについて、依然として明確な説明を提供していない。2024年の米国大統領選挙後、MetaはDEIコミットメントと採用目標を撤廃した。2025年の多様性採用データの公開もなく、報告書は2022年7月に5万人以上の正社員が受講した市民権研修についての最後の公開報告が2023年3月であると指摘する。
YouTubeの11ポイント急落:ジェンダーアイデンティティ削除の影響
YouTubeは30点(前年比−11)となり、全プラットフォーム中最大の下落幅を記録した。最も重大な変化は、ヘイトスピーチポリシーの保護特性リストからジェンダーアイデンティティと表現が削除されたことである。この変更は前年のSMSIで文書化されたが、2026年評価においても維持されており、トランスジェンダー・ノンバイナリー・ジェンダーノンコンフォーミングの人々がプラットフォーム上のヘイトと差別に対してより無防備な状態に置かれている。さらにYouTubeは、LGBTQユーザーが自己表現として関連スラングを使用する場合の例外規定も削除した。
DEI領域では、親会社Alphabetが2025年初頭にトランプ政権のDEI大統領令への対応として多様性採用目標の撤廃を発表した後、LGBTQを含む従業員多様性データの公開を停止した。同社はかつて2024年版多様性年次報告書でLGBTQを自認する従業員比率のデータを公開し、この指標でピア企業の中でリードしていた。その報告書に相当するものは2025年には公表されていない。内部体制の透明性も後退しており、コンテンツモデレーター向けのLGBTQに特化したトレーニングが現在も継続されているかどうか、公開ポリシーからは確認できなくなっている。Alphabetの「インクルージョン・ワーキンググループ」についての最後の公開言及は2023年2月であり、同グループが現存するかも不明確である。
広告ターゲティングの領域では、2026年1月にYouTubeが「パーソナライズド広告」ポリシーを更新し、「性的指向」「トランスジェンダー識別」などを含む「センシティブな関心カテゴリー」に基づく広告ターゲティングを広告主が実施できる仕組みを詳細化した。GoogleはこのカテゴリーにGoogleが事前に定義したオーディエンスを使用することは許容するが、広告主が独自に作成したオーディエンスリストには適用しないという構造になっている。報告書は今回の評価でこの指標の判定基準を明確化し、YouTubeが唯一、SOGIに基づくターゲティングを全面禁止するプラットフォーム横断的ポリシーを持たないプラットフォームであると指摘した。
TikTokの横ばいとデータプライバシーの矛盾
TikTokは56点で前年から変動なし。他プラットフォームとの比較では最高スコアを維持しており、報告書はTikTokのヘイトスピーチ・ハラスメントポリシーが評価対象6プラットフォームの中で最も包括的なLGBTQ保護を提供していると評価する。ミスジェンダリングとデッドネーミングの双方を明示的に禁止する2プラットフォームのうちの1つであり、Metaと並んでコンバージョン「セラピー」を促進するコンテンツを禁止する唯一のプラットフォームでもある(ただしMetaは執行に「追加情報・文脈が必要」としているのに対し、TikTokは全面禁止)。
2026年1月、TikTokは米国安全保障上の懸念を受けた政府の禁止措置提案への対応として米国事業を独立法人化し、ByteDanceから分離した「TikTok USDS Joint Venture LLC」として継続運営することが確定した。この再編後に利用規約・プライバシーポリシーが更新された際、一部のユーザーが「移民ステータス、性的指向、ジェンダーアイデンティティの新たな追跡」が導入されたと主張した。報告書はこれを事実誤認として記録しており、当該記述は旧ポリシーに既に存在していた。一方で2026年1月の更新が実際に導入した実質的変更は、精密位置情報追跡、AIインタラクションデータの収集、オフプラットフォーム広告ネットワークの拡大の3点である。
より重要な問題として、報告書はTikTokのユーザー向け公開文書間の矛盾を指摘する。「インクルージョン・アンド・ビロンギングガイド」は「TikTokは性的指向に関する情報を収集しない」と明記し、ユーザーが自ら開示した場合はプライバシーツールで管理・完全削除できると説明する。しかし公式プライバシーポリシーは、ユーザーがプロフィール・投稿・コメントなどを通じてこれらの情報を開示した場合、州プライバシー法に従って処理することができると別途規定している。同ポリシーはさらに「年齢・性別・興味などの追加情報を推定するために収集情報を使用する」とも記述している。アカウントを削除せずに性的指向・ジェンダーアイデンティティ情報の収集・推定・処理を実質的に防ぐ手段をユーザーに提供していないことが、この矛盾の核心である。
X:最低水準の維持と透明性報告の消滅
Xは29点(前年比−1)。TikTokと並んでターゲット型デッドネーミングとミスジェンダリングを禁止する2プラットフォームのうちの1つだが、このポリシーには「地域の法律で要求される場合」という限定条件が付され、実質的に被害者自身による申告を前提とし、公人には限定的な保護しか提供しない。
透明性の面では、業界標準とされてきた詳細な透明性報告の公開をXが2025年ヘイトスピーチ執行データについて行わなかったことが記録されている。最新のTransparency Reportは2024年後半を対象としたものが最後であり、新オーナー就任後のヘイトスピーチ急増を示す複数の学術研究が公表されている中での情報遮断となっている。DEIについては、オーナー自身がDEI慣行・採用に公然と反対を表明しており、LGBTQ従業員に関するデータの公表も行われていない。
LGBTQを標的とする偽情報の拡散構造
報告書はプラットフォームポリシー評価と並行して、実際の被害状況と偽情報エコシステムの構造を詳細に記録する。
量的規模として、GLAADのALERTデスクが2025年に全米で1,000件以上の反LGBTQ事件を記録した。ISDのデータによれば、過激派チャンネルは2024年選挙・就任式を挟む6か月間に反LGBTQ投稿を97,000件以上発信し、合計330万件以上のいいね・コメント・シェアを獲得した。就任式前後の期間に限ると、LGBTQ全体を標的とするヘイトは2倍に増加し、トランスジェンダーの人々が標的の中心となった。LGBT Techの2025年調査では、LGBTQ成人の68%がオンラインハラスメントを経験し、45%が頻繁に発生すると報告している。トランスジェンダー成人については90%がオンラインハラスメントを、83%が対面での嫌がらせを経験している。
偽情報のナラティブとしては、「トランスジェンダーの人々は暴力的テロリスト」というトロープが主流・フリンジ両方のプラットフォームで追跡されている。報告書はFactCheck.orgの調査を引用しつつ、過去10年間の銃乱射事件でトランスまたはノンバイナリーの個人が犯人である割合は0.1%未満であることを記録する。「LGBTQの人々は子どもを性的に狙うグルーマー」という根拠のない神話も依然として拡散を続けている。
医療偽情報の構造は特に詳細に分析されている。「社会的感染」理論——トランスジェンダーであることが社会的に感染するという複数の研究機関が否定した主張——は、すでに20州以上でトランスユーザーの若者に対するジェンダーアファーミングケアの撤回を正当化するために援用されている。思春期抑制剤を「化学的な傷つき」と表現する言説が医学的に確立した治療法を恐怖と反対の対象として枠組みし、プラットフォーム上でアルゴリズム増幅を受けながら州議会の立法審議に流入する経路を報告書は具体的に追跡する。
AIによる被害の複合化も新たな重点として取り上げられている。2025年末から2026年初頭にかけて、XのAIアシスタント・Grokが女性・子どもの非同意的な性的ディープフェイク(NCII)を数百万件規模で生成・拡散した事例が記録されている。その中には、ミネアポリスでICEに射殺されたLGBTQの女性Renee Goodの遺体を性的に加工した画像が死後24時間以内に流通したケースが含まれており、英国・EU・インド・フランス・マレーシアの各当局が調査または情報開示要求を実施した。さらに長期的リスクとして、プラットフォームが反LGBTQ的ヘイトコンテンツの削除を怠った場合、そのコンテンツが将来のAIシステムの学習データに取り込まれることでバイアスが再生産・拡大されるフィードバックループの存在を報告書は指摘する。
コンテンツ抑圧の二重構造
報告書が繰り返し強調するのは、ヘイトコンテンツへの対応不足と正当なLGBTQコンテンツの過剰規制が同一プラットフォーム上で同時に生じているという構造的矛盾である。2024年末、Metaは自社の「センシティブコンテンツ」ポリシーのもとで、検索・発見機能における「#lesbian」「#trans」といったLGBTQ関連ハッシュタグへの10代ユーザーのアクセスを数か月間にわたって公告なしにブロックしていた。キャスティングコールのためにトランス俳優を募集した投稿がInstagramに「人身売買」として凍結されるケースも記録されている。これらはコンテンツモデレーションシステムがLGBTQ固有のコンテキストを識別するための訓練が不足していることの帰結であり、報告書はLGBTQ固有の理解を持った人間モデレーターへの投資を怠り、AIによる自動削除に過度に依存していることが根本要因だと分析する。
こうした失敗の構造的背景として、エンゲージメント最大化を収益基盤とするソーシャルメディアのビジネスモデルが分析される。アルゴリズムは怒り・煽動・対立を含むコンテンツを優先的に拡散するよう設計されており、これが誤情報と有害コンテンツの流通を促すインセンティブを構造的に内包している。その費用を負担するのは歴史的に周縁化されてきたコミュニティのユーザーである。
データプライバシーの政治的リスク
報告書が指摘するプライバシーリスクは、単なるデータ管理の問題ではなく政治的リスクとして分析されている。プラットフォームは性的指向・ジェンダーアイデンティティに関連するユーザー行動・属性を収集・推定し、ターゲット広告に活用している。この同一インフラが、LGBTQであることが犯罪化または社会的に忌避される国・地域において当局によって悪用された場合、強制的なアウティング、暴力、法的迫害につながりうる。
米国内では、未成年者向けのソーシャルメディア安全法案(KOSA、COPPA 2.0など)に組み込まれた年齢確認システムが、IDドキュメントのジェンダー表記と自認するジェンダーが一致しないトランスジェンダーの人々を不均衡に排除するリスクがあるとの指摘も記録されている。2026年初頭には、LGBT Techを中心にGLAAD・ACLU・民主主義テクノロジーセンター・全米LGBTQタスクフォースを含む広範な連合が、16歳未満のソーシャルメディア使用を一律禁止する法案に反対する声明を発出した。声明はこれらの禁止措置が「LGBTQ+ユーザー、有色人種の若者、非支持的・敵対的な環境にいる若者を含む周縁化された若者に不均衡な害をもたらす」と主張している。
方法論と留意事項
SMSIの評価は各プラットフォームの英語版公開ポリシーのみを対象としており、ポリシーの実際の執行実態は計測されていない。報告書自身が「政策執行の評価は方法論上困難であり、企業側の透明性欠如によってさらに複雑化している」と明示している。各プラットフォームがポリシー上でいかなる文言を採用しているかを追跡する点において一貫した比較可能性を持つが、ユーザーが実際に経験するモデレーションの現実とは乖離がある可能性がある。報告書が同時に記録するGLAADのALERTデスクによる事件モニタリングやMake Meta Safe報告書(GLAAD・Ultraviolet・All Outが共同実施した86カ国7,000人超の調査)は、政策評価では捕捉されない執行実態の側面を補完するものとして参照される。Make Meta Safe調査では、2025年のポリシー改訂以降、回答者の72%がフィード上でヘイトコンテンツを目撃し、92%が有害コンテンツの増加を懸念し、77%がMeta各プラットフォームでの自由な表現に安全を感じなくなったと報告している。
バイアス開示:GLAADは米国最大のLGBTQメディア擁護団体であり、本報告書の評価対象であるMeta・YouTube等の企業はGLAADの財政スポンサーである。評価スコアはRDRの確立した方法論に準拠しているが、指標設計・調査解釈はGLAADのアドボカシー的観点を反映している。

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