パリ複雑系研究所(CNRS)、EHESSのCAMS、Sciences Po médialab、CYセルジー・パリ大学Learning Planet Instituteに所属するポール・ブシャール(Paul Bouchaud)とペドロ・ラマシオッティ(Pedro Ramaciotti)による論文「Community Notes undermoderate polarizing content by design creating risks in electoral processes」が、Science Advances誌2026年7月1日号に掲載された。医療社会学やソーシャルメディア研究を横断する分析基盤を持つmédialabは、欧州の分極化観測プロジェクト「European Polarisation Observatory」を運営しており、本論文もそのプロジェクトの枠組みで実施された。X(旧Twitter)が公開しているCommunity Notesの全データと、同社が公開しているオープンソースのアルゴリズム実装を用いて、モデレーション結果を13カ国の政治的イデオロギー推定データと突き合わせるという、プラットフォーム内部のロジックそのものを検証対象にした研究である。
対象データと分析の枠組み
分析対象は2025年3月1日時点でXが公開した188万件のCommunity Notesと、それらに対する1億3517万件の評価(1,150,000人の寄稿者による)。加えて149万人のユーザーが191万件の投稿に対して483万件のノート要請を行っている。Xが定めた前処理プロトコルに従い、評価5件以上のノート、かつ10件以上の評価を行った寄稿者に限定した結果、145万件のノートが886,370件の投稿に紐づき、133.20百万件の評価が821,250人の寄稿者によってなされたデータセットが得られた。評価の内訳はHelpful 59.5%、Not Helpful 37.5%、Somewhat Helpful 3.0%である。ノートの83.5%については投稿本文が2025年3月時点でなお取得可能であったが、残りは著者による削除等ですでに失われていた。以下「ノート」という語は、元投稿を「誤解を招く、または誤情報である」と主張する公開表示用のノート(全体の73.0%)を指す。
Community Notesアルゴリズムの内部構造
Community Notesは、投稿を誤情報だと主張する寄稿者(コントリビューター)が付与した注記を、他の寄稿者が「Helpful」「Somewhat Helpful」「Not Helpful」の3段階で評価する仕組みである。Xはこれらの評価を1・0.5・0の数値に変換し、正則化行列分解によって複数のパラメータを推定する。具体的には、ノート単位の潜在イデオロギー位置θn、評価者単位の潜在イデオロギー位置θr、評価者の甘さを示すβr、ノートの一般的な受容度を示すβn、そして全体のベースラインβ0である。評価者rがノートnに与える評価の予測値は η̂rn = β0 + βn + βr + θn・θr という式で表される。この式が意味するのは、θrの値が正負に広く分布する多様な評価者から高く評価されたノートほどβnが高くなり、逆にθnの絶対値は小さくなるという構造である。Xはこの βn の値が高いノートを選んで「Helpful」表示にしているため、システムは本質的に「両陣営から支持されるノート」を選び出す設計になっている。本論文の著者らはXが公開しているオープンソースコード実装をそのまま用いてこのパラメータ推定を再現し、推定したβnがXの実際のHelpful判定をAUC 0.92、Not Helpful判定をAUC 0.97で予測できることを確認した。これは著者らの再実装がXの本番システムの挙動を高い精度で再現していることを示す検証結果である。
13カ国のイデオロギー空間との照合
本論文の中心的な貢献は、Community Notesが米国以外の国でも同様に機能しているかを検証した点にある。著者らはRamaciotti Moralesら(2023)の手法を用い、Barberá(2015)のフォロワーネットワークによるイデオロギー推定を多次元に拡張したモデルで、23カ国の国会議員(MP)をフォローするXアカウントを対象に対応分析(correspondence analysis)を実施した。少なくとも3人のMPをフォローし、かつ25アカウント以上にフォローされているアカウントのみを対象とし、第一主成分δ1をその国の政治的分極を最もよく説明する軸として抽出した。さらにGlobal Party Survey(政党の位置づけに関する専門家調査)を用いて、この軸をLeft-Right(左右)とAnti-Elite(反エリート・反制度)という解釈可能な2次元に投影している。Community Notesに投稿を持つアカウントが1000以上存在する13カ国(米国、英国、日本、スペイン、フランス、ブラジル、カナダ、ドイツ、アルゼンチン、イスラエル、オーストラリア、ポーランド、メキシコ)が分析対象となった。
結果として、13カ国すべてにおいて、Community Notesが学習した潜在イデオロギー軸(θn)は、各国のδ1軸(政治的分極を最も説明する方向)と強く整合していた。ユーザーのδ1上の位置がそのユーザーの投稿に付くノートのθnの符号を予測する精度は、AUCで0.729(イスラエル)から0.850(ポーランド)の範囲に分布し、13カ国平均で0.808±0.037であった。Left-Right/Anti-Eliteの2次元平面における予測でも平均AUC 0.813±0.035という近い水準の結果が得られている。米国では特にこの整合が顕著で、共和党所属の連邦議会議員の投稿に付されたノートの95.0%がθn<0、民主党議員の投稿に付されたノートの94.6%がθn>0であり、ユーザーの左右位置からノートのθnの符号を予測するAUCは0.822に達した。ただし日本とブラジルの事例では、Community Notesが学習した軸(論文中でCNと表記)は単純な左右軸に還元できず、Anti-Elite的な要素をより強く帯びていることが図4のF・Gパネルで示されている。すなわちCommunity Notesが検出する「分極軸」は国によって、単純な保守・革新対立ではなく、エリート・制度への信頼という別の軸に近い形で現れる場合があるという含意である。
モデレーション結果の格差構造
Community Notesのアルゴリズムによって実際に公開表示(Helpful Status)に至るノートは、提案された「投稿は誤情報だ」と主張するノート全体のうちわずか11.97%にとどまる。Not Helpful判定は2.81%、残る85.22%は多様な評価者からの評価数が不足し、判定不能のまま公開されない。5人以上のユーザーがノートを要請した投稿に限っても、実際にHelpful Statusに至ったノートが付いたのは17.1%にすぎない。Helpful Statusに至るまでの時間は、2025年1〜3月のデータで中央値がノート投稿から4時間47分、元投稿の公開から15時間17分であった。
アカウント単位で見ると、この承認率には著しい偏りがある。イーロン・マスクの投稿では注記された投稿のうち3%しかHelpful Statusに至らず、カマラ・ハリス陣営の投稿に至っては0.1%未満である。対照的に、パロディ・エンターテインメント・陰謀論系アカウントの投稿は高い割合でHelpful Statusに達する。2022年のポリシー変更以前に青バッジ(blue check)の「public interest」認証を受けていたアカウントの投稿は9.7%がHelpful Statusに達したのに対し、未認証アカウントでは14.0%であった。米国内では、左派寄りアカウントの投稿は8.3%がHelpful Statusに至るのに対し、右派寄りアカウントの投稿では12.9%であり、この非対称性はRenaultら(2025、PNAS)の既存研究とも一致する。ただし著者らは、この分析が削除されていない投稿に限定されていることに注意を促しており、左派系ユーザーがHelpful Statusのノートが付いた投稿をより頻繁に削除している可能性があるため、この格差の一部は削除パターンの差によって説明されうるとしている。
選挙関連ノートの系統的な未モデレーション
論文の核心的な実証結果は、2024年米大統領選挙、2024年英国総選挙、2024年フランス議会選挙、2025年ドイツ連邦議会選挙という4つの選挙について、選挙関連ノートのHelpful Status到達率を同時期の全体平均と比較した分析である。
| 選挙 | 選挙関連ノートの承認率 | 同時期の全体承認率 |
|---|---|---|
| 米国2024年大統領選 | 6.9% | 14.7% |
| 英国2024年総選挙 | 8.2% | 10.9% |
| フランス2024年議会選挙 | 12.8% | 16.8% |
| ドイツ2025年連邦議会選挙 | 8.6% | 11.9% |
4カ国すべてにおいて、選挙関連ノートは同時期の他の話題のノートよりも一貫して低い承認率を示している。この差は分析期間を選挙の1カ月前から1週間後までに固定し、キーワードによるブートストラップで95%信頼区間を算出したうえでも確認されている。比較対象として、詐欺(スキャム)を報告するノートは20.5%、加工・改変メディアを指摘するノートは17.1%がHelpful Statusに達しており、これらは選挙関連ノートの承認率をはるかに上回る。つまり同じアルゴリズムでも、政治的に分極化していない話題(詐欺や偽動画)は問題なくモデレートされる一方、選挙という国内政治の構造的分断線を直接活性化する話題では、システムが設計上「両陣営が合意できるノートしか表示しない」ため、内容の正確性とは無関係にモデレーションが機能不全に陥る。
引用ソースと専門家ファクトチェックとの関係
ノートの96.2%は根拠となるURLを含んでいる。著者らがBBC Media Guidesを基に手動で補完した2,134の主要メディアのリストと照合すると、既存の報道機関の記事がノートの少なくとも25.9%に引用されており、次いでXの他の投稿(17.4%)、Wikipedia(8.9%)が続く。一方、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)加盟団体やDuke Reporter’s Labに掲載された専門ファクトチェック団体のサイトが引用されているノートは全体のわずか3.5%にとどまる。米国データでは、専門家ファクトチェック記事は左派寄り評価者(θr<0)によって60.3%[58.0, 62.8]と偏って引用される一方、専門家ファクトチェックを根拠に含むノートはHelpful Statusへの到達率が21.3%[18.3, 24.1]と平均を大きく上回り、特に右派寄りの著者によるノートでこの効果が顕著で26.9%[23.3, 30.8](左派寄り著者では17.6%[14.0, 20.7])に達する。加えて、ノートで引用されるメディアの政治的傾向はAd Fontes Mediaのバイアス評価と評価者の潜在イデオロギーθrとの間でピアソン相関ρ=0.744(p<10⁻⁴)を示しており、寄稿者は自らのイデオロギーに沿ったメディアを根拠として選ぶ傾向が定量的に確認される。
論文全体の含意と限界
投稿内容のトピック分類(Manifesto Projectのコーディングスキームに基づくManifestobertaモデルを使用)によると、政治的内容は全投稿の65.2%、全評価の76.6%を占め、スポーツが6.3%で次点である。政治トピックの内訳では、Political Authority(特定政党への賞賛・批判、25.6%)、Law and Order(犯罪・警察・司法、12.4%)、Equality(弱者集団・経済的再分配・差別、7.2%)、Environmental Protection(6.6%)、Freedom and Human Rights(言論・報道・集会の自由、6.2%)が上位を占めた。国別分布では米国が全ノートの48.2%を占め、日本10.1%、スペイン6.2%、フランス5.6%、英国6.6%、ブラジル5.1%と続く。EU域内では、国別のCommunity Notes寄稿者数と、DSA(デジタルサービス法)の透明性義務に基づき開示されているアクティブログインユーザー数との間にピアソン相関ρ=0.823(p<10⁻⁴)が見られた。
著者らは限界として、分析が2025年3月1日時点のスナップショットに基づき時系列変動を捨象していること、国別の分類がMPフォローと言語使用に基づくヒューリスティックであること、削除された投稿を分析から除外していることによる観察バイアス(Helpful Statusのノートが付いた投稿ほど著者に削除されやすい)を挙げている。また、Community Notesの寄稿者は自己選抜されたユーザーであり、Xはその人口統計的・政治的属性に関する情報を一切開示していない点も明記されている。
論文は、YouTube、TikTok、そしてXのオープンソースアルゴリズムを明示的に基盤として採用したMetaが、同種のクラウドソース型モデレーションシステムを次々と導入している現状を踏まえ、本研究の比較分析が時宜を得たものだと位置づけている。専門家によるファクトチェックには規模・即応性・効率の面での限界があるとする議論が存在する一方で、Community Notesのような合意ベースのシステムは、事実性ではなく「両陣営からの合意」を基準に選別を行うため、国内政治の構造的分断線を直接刺激する話題――典型的には選挙――において内在的な限界を抱える。著者らは、専門家によるファクトチェックとクラウドソース型モデレーションの間で、爆発的に拡散する分極的な争点についてのモデレーション成果を比較するリスク評価が必要だと結論づけている。両者の処理件数を直接比較することは方法論的に困難だとしつつも、本研究の結果は、前者を後者に置き換えることが、選挙のような政治的に重要な争点のモデレーションにおいて、他の種類の主張と比較した際に実証可能かつ構造的な非対称性を生み、結果として看過できないリスクを生成していることを示している。

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