子ども・消費者・公共の安全を守る技術政策を提唱する公共政策NPO「Reset Tech」は2026年4月15日、MetaおよびGoogleが運用する広告プラットフォーム上で展開される偽装健康食品(ニュートラシューティカル:栄養補助食品・機能性食品・植物性抽出物等を包括する用語)広告のインフラを分析した報告書「Clickbait Cures:Unmasking the Deceptive Health Ad Infrastructure on Meta and Google」を公開した。著者はAleksandra Atanasovaで、データ分析にはJan van Dijk、Nick Backovic、Yelyzaveta Voitiuk、Bohdan Smoltsが協力している。Reset Techは技術産業の説明責任を求める立場の団体であり、本報告書の分析視点がプラットフォーム側の規制強化を志向する政策提言団体としての性質を伴う点は念頭に置く必要がある。一方で報告書が提示する個々の広告ID、企業登記情報、規制当局の警告文書へのリンクは検証可能な形で提示されており、経験的根拠の密度は高い。なお本報告書はシリーズ「Clickbait Cures」の第一部であり、広告そのものの分析に焦点を当てる。広告が誘導する偽装レビューサイトや「フェイク権威生態系」の構造分析は、続く第二部で扱われる予定である。
規制の間隙に置かれた「ニュートラシューティカル」という存在
EU・米国・カナダのいずれにおいても、ニュートラシューティカルは医薬品と食品の境界に位置する法的に未確定な分類に置かれている。EUでは指令2002/46/ECにより「食品サプリメント」として食品の枠内で規制され、欧州食品安全機関(EFSA)が科学的意見を提供するに留まり、欧州医薬品庁(EMA)が行う医薬品のような市販前承認は存在しない。米国の食品医薬品局(FDA)も「dietary supplement」という用語を用い、市販前承認を求めない。カナダのみ、ヘルスカナダが天然health製品または「補完食品」として市販前承認を義務づけている。三法域に共通するのは、これらの製品が病気の診断・治療・治癒・予防を標榜する「医療claim」を行うことを禁止し、健康への一般的な効果を示す「health claim」のみを許容するという原則である。Reset Techが分析した広告群は、この共通原則を明確に踏み越え、糖尿病や高血圧といった慢性疾患の治癒を直接的に標榜しており、欧州医薬品庁が2025年9月に発した、EU域外でホストされる数百件の偽Facebookプロフィール・広告・eコマース掲載に関する警告をも上回る規模で展開されていることが、本調査によって示された。
調査手法——390製品・35万件超の広告をどう特定したか
Reset Techは2024年の初期調査(約20製品)を出発点に、2020年から2026年にかけてFacebookおよびGoogle上の広告を継続的に収集し、最終的に390のニュートラシューティカルからなるリストを構築した。製品をリストに含める基準は三つの指標の重複——両プラットフォームでの広告出稿、同一広告主による複数製品の宣伝、偽装販売サイトでの製品掲載——であり、この三角測量によって個別の偽装行為ではなく組織的なキャンペーンであることを論証している。Facebook側ではキャッチフレーズ検索・製品名検索・広告主追跡の三手法を組み合わせ、2020年から2026年の間に22,320の広告主による350,549件の広告を収集した。一方Google側では、Google広告透明性センターがキーワード検索を許さずドメイン名または広告主名でしか検索できないという構造的制約のため、製品ブランド名を含むドメインを起点とする二段階手法を用い、472の広告主による2,073件(コアリスト)の広告を収集した。この検索機能の非対称性自体が、両プラットフォームの監視可能性における重大な差を示している。
Facebookに展開する広告の手口——医療claimから生成AIまで
収集された35万件超の広告は2026年EU加盟27か国全域を標的とし、累積到達者数は8億7800万人に達した。最も標的とされた国はイタリア(79,252件、到達1億3200万人)、ハンガリー(43,846件)、スペイン(32,960件)の順である。広告は35歳以上の利用者層に集中し、男性向け性的健康製品の比重の高さから男性偏重の傾向も確認された。
広告言説の中核は糖尿病・前立腺炎・関節痛・視力低下・静脈瘤など多岐にわたる慢性疾患への直接的な治癒claimである。糖尿病に言及する広告は16,733件(到達3140万人)に上り、「2日間で血糖値が下がる」「インスリンはもう要らない」といった文言が確認された。2型糖尿病の標準治療薬メトホルミンの服用中止を促す広告は1,221件確認され、チェコ語版では「メトホルミンは病と早死への道である」とまで主張する例もあった。全EU言語に翻訳された統一キャッチフレーズ「薬局はなぜ沈黙しているのか」は少なくとも3,000件の広告で使用され、これは中央集権的なコンテンツ生産と組織的な翻訳作業の証拠とみなされる。広告は不安・嫌悪・緊急性を喚起する感情操作的な構成を取り、医師・著名人(スペインの歌手アレハンドロ・サンス、イタリアの女優モニカ・ベルッチ等、80名以上を確認)の写真を無断使用した「なりすまし」型訴求、ファイザー・バイエル等の製薬企業ロゴの不正使用(5,400件のサンプルで確認)、生成AIによる偽の医師動画やニュース風映像、そして検知回避のための広告クローキング(多枚組み広告内に無関係な画像を多数配置し最後に問題のある画像を一枚だけ挟む手法等)が組織的に用いられていた。これらはMetaの広告ポリシーが明示的に禁止する「治癒不能な疾病の治療を標榜する広告」「身体醸成への否定的自己認識を誘発する画像」「商標侵害」「広告クローキング」のいずれにも該当する。
広告主ネットワークの構造——ドペルゲンガー作戦との資産共有
Reset Techが識別した22,320の広告ページのうち、約70パーセントが医療・健康関連の名称やブランディングを用いており、少なくとも10の実在団体(世界糖尿病基金、米誌Men’s Health、仏紙ル・モンド等)および「欧州医薬品庁」を名乗る複数の偽装ページが確認された。最も重大な発見は、これらの広告ページ群が単発の詐欺集団ではなく、自動生成された大規模な非正規アカウント網——Meta自身の「協調的非正規行動(CIB:Coordinated Inauthentic Behavior)」禁止規定の対象となるべき資産群——の一部であるという点である。エストニア拠点とみられる3,312ページ(ユーザー名が無意味なイタリア語・英語の単語対で構成される)からなるネットワークは、2024年に作成され99パーセントが2026年3月時点でも活動を継続していた。さらに重要な点として、Reset Techが2023年以降に独自に追跡してきた既知の自動生成ネットワーク——ロシアの影響力工作「Doppelganger(ドペルゲンガー、欧州を標的とした親クレムリン系のなりすまし情報操作)」や投資詐欺、オンラインゲーム詐欺にも使用されてきた242,000ページ規模のネットワークの一部(293ページ)や、200万ページ規模の別ネットワークの一部(713ページ)——が、本キャンペーンのニュートラシューティカル広告にも転用されていたことが確認された。これは影響力工作・投資詐欺・健康偽情報という異なる種類の有害コンテンツが、同一の使い捨てアカウント基盤を共有しているという、研究上重要な示唆を持つ。
広告主の資産にはさらに、第三国の企業や個人が運用する正規ページを乗っ取って転用した形跡も確認された。少なくとも83ページが乗っ取り・流用された痕跡を持ち、その一例としてインド映画「Yaara」(2020年)の公式ページが2024年に投資詐欺広告へ転用され、その後ニュートラシューティカル広告へと再転用された事例が確認されている。同ページのカバー画像は、健康関連広告の出稿開始前日に医療テーマの画像へ差し替えられており、用途転換が計画的に行われたことを示す。
Metaの対応の不十分さ——広告は削除するが広告主は放置
Metaは2026年3月時点で収集対象広告の67パーセント(237,306件)を削除していたが、削除の大半は「もう利用できません」という非特定的な通知であり、ポリシー違反として明示的に削除されたのはわずか17,206件(4.9パーセント)に過ぎなかった。さらに重要なのは、広告主ページ自体の停止率がわずか24パーセント(22,320件中5,339件)に留まる点である。エストニア拠点ネットワークのように、停止を免れたまま再活性化可能な状態で待機する資産が多数残存しており、Reset TechはこれをEUデジタルサービス法(DSA)第34条・第35条が超大規模オンラインプラットフォーム(VLOP)に義務づける公共衛生への体系的リスクの識別・評価・低減義務への違反と位置づける。加えてDSA第39条は広告を最終掲出から1年間アーカイブに保持することを義務づけているが、2025年3月以降に開始された広告のうち45パーセントが2026年3月時点で既に閲覧不能となっており、広告予算データも開示されていないため、キャンペーンの実際の資金規模を外部から検証することができない。
Googleでの展開——非EU圏の個人広告主による広告審査の形骸化
Google側で収集された2,073件の広告は、Facebookと比較すると煽情的な表現や有名人へのなりすましは少なく、主にテキスト広告による「50パーセント割引」等の緊急性訴求が中心であった。しかし広告主の構造には別種の問題が確認された。広告主の80パーセントがEU域外に拠点を置き、その内訳はブラジル(62パーセント)、ベトナム(9パーセント)が上位を占め、EU域内拠点の広告主はわずか20パーセントに留まった。広告主の92パーセントはGoogleの本人確認を通過した「認証済み」アカウントであったが、医薬品販売の正規免許を持つ広告主は一件も確認されず、個人のフリーランサーやデジタルマーケティング業者が大半を占めていた。Reset TechはGoogleの広告ポリシーが「政府機関による規制措置や警告を受けた製品」の宣伝を明示的に禁じているにもかかわらず、調査対象期間中に広告停止に至った広告主が一件も確認できなかったと指摘する。Googleの広告透明性センターはキーワード検索を許さないため、研究者・規制当局による体系的な監視そのものが構造的に困難である点も、DSA第39条が求める透明性義務との関係で問題視されている。
カナダ市場における注射用ペプチドの並行事例
報告書はEU域外の事例として、カナダ向けに販売される未承認の注射用ペプチド製剤の広告も分析している。カナダ保健省は2025年8月、安全性への重大な懸念を理由に同種製品42件を押収する警告を発出していたが、Reset TechがMetaの広告ライブラリで関連検索語44件を用いて調査したところ、注射を示唆する明確な広告324件が活動中であることが判明した。広告ページの管理者所在地が判明した事例では、いずれもカナダ国外(米国、ベトナム、バングラデシュ、インドネシア)であり、ベンダーサイトの一部には中国関連のドメイン登録情報・香港でホストされるDNS基盤・中国語の痕跡が確認された。これはEUにおける事例と同様、規制対象国の外部から運用される広告インフラが各国の規制執行を回避する構造が、地域を問わず再現されていることを示す。
結論——投資される回避技術と、追いつかない執行
| 比較項目 | ||
|---|---|---|
| 収集広告数(コアリスト) | 350,549件 | 2,073件 |
| 広告主数 | 22,320 | 472 |
| EU域内拠点の広告主比率 | 不明(多くが匿名運用) | 約20% |
| 広告削除率 | 67%(うちポリシー違反明示は4.9%) | 不明(広告主の停止例は確認されず) |
| 広告主ページ停止率 | 24% | 0件確認 |
| 既知の非正規ネットワークとの重複 | 確認(Doppelganger等と資産共有) | 未確認(検索機能の制約により検証不能) |
Reset Techは、これらの広告キャンペーンが個別の悪質業者の問題ではなく、Meta・Googleという二つの超大規模プラットフォームに共通する執行構造そのものの欠陥に起因すると結論づける。両社とも個別の広告を事後的に削除することに終始し、広告主ページや広告主アカウントという「資産」そのものを体系的に排除する仕組みを欠いている。その結果、停止された資産は別キャンペーンへ転用可能な状態で温存され、影響力工作・投資詐欺・健康偽情報といった異なる脅威カテゴリ間でインフラが共有される土壌が生まれている。390製品のうち20パーセントが既に規制当局から危険・違法と認定されているにもかかわらず広告が継続している事実は、両社のDSA上の体系的リスク低減義務が実効性を欠いていることを具体的な数値で示すものであり、Reset Techは広告ライブラリの検索可能性の拡充、広告予算データの開示、そして個別広告ではなく広告主単位での執行への転換を主要な提言として示している。

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