VIGINUMが技術報告書「Rokh Solis」を公開——2026年フランス統一地方選を標的とした情報操作工作

VIGINUMが技術報告書「Rokh Solis」を公開——2026年フランス統一地方選を標的とした情報操作工作 情報操作

 フランス国家安全保障防衛総局(SGDSN)傘下の対外デジタル干渉監視機関VIGINUMは、2026年6月11日、2026年3月のフランス統一地方選において複数のLa France Insoumise(LFI、急進左派政党「不服従のフランス」)所属候補を標的とした情報操作工作「Rokh Solis」の技術報告書を公開した。VIGINUMは2021年に設立された国家機関であり、その任務は外国による情報操作・干渉(FIMI:Foreign Information Manipulation and Interference)の検知と特性評価に特化している。報告書の評価軸そのものが「外国による干渉に該当するか」という法的・政治的判断を内包する点は、国家機関が作成した文書として念頭に置く必要がある。ただしVIGINUMが提示した個別の技術的痕跡——ドメイン登録情報、IPアドレス、画像メタデータ、SNSアカウントの行動パターン——は、Reuters、Libération、Haaretzといった独立系報道機関による検証でも裏付けられており、結論に至る経験的根拠の質は高い。

三候補を標的とした情報操作様式「Rokh Solis」の発見経緯と全体構造

 VIGINUMは2026年3月、LFIとその所属候補を誹謗する目的で構築されたウェブサイト群およびSNSアカウント群からなる新たな情報操作様式を検知し、これを「Rokh Solis」と名付けた。標的となったのは3月15日・22日の統一地方選でマルセイユ、トゥールーズ、ルーベの市長選に出馬したLFI所属候補3名、セバスチャン・ドログ(マルセイユ)、フランソワ・ピケマル(トゥールーズ)、ダヴィッド・ギロー(ルーベ)である。VIGINUMは中核となる4つのウェブサイト——blogdesophie.com、delogupourpalestine.com、piquemalzero.com、lalternative2026.com——が、いずれも2026年2月9日から19日の間に作成され、同一のIPアドレス、同一の画像メタデータ(生成AIツールGeminiおよびデザインツールCanvaの利用痕跡を含む)、同一のWordPressテンプレートを共有していることを技術的に確認し、これらが単一の運用者または単一の運用集団によって構築された一つの生態系であるという結論に高い確信度で到達した。さらにlalternative2026.com関連アカウントの分析から、対抗的な言説を展開する別の2サイト——forsane-alizza.euおよびrcn-france.org——も同一生態系に連結していることが判明し、計6サイトがRokh Solisを構成する。

標的候補関連デジタル資産中心的な攻撃言説
セバスチャン・ドログ(マルセイユ)blogdesophie.com、X/Facebook「Le Blog de Sophie」元協力者を名乗る匿名人物による強姦被害の告発
セバスチャン・ドログdelogupourpalestine.comガザ支援を名目に自身の裸体写真を販売すると称する偽の書簡
フランソワ・ピケマル(トゥールーズ)piquemalzero.com、Facebook2ページ児童性的虐待・暴力・ハマス支援の告発、児童保護団体の名称詐称
ダヴィッド・ギロー(ルーベ)Facebook2ページパレスチナ支持の立場に対する批判

 VIGINUMはこの段階で、Rokh Solisの言説戦略が二系統に分岐していると整理する。一つはLFIという政党全体の信用を毀損する一般的な言説であり、もう一つは個別候補に対する刑事告発型の中傷である。後者は候補者の政治的立場とは無関係に、性犯罪や暴力といった社会的に強い嫌悪を引き起こす罪状を選択的に割り当てる手法を取り、政策論争を経由せずに候補者の社会的信用そのものを破壊することを狙っている。

候補者個人を狙った誹謗中傷工作の技術的内実

 blogdesophie.comは単一ページの構成で、ドログの元協力者を名乗る匿名女性が「沈黙を破る」ための告白ブログという体裁を取る。同サイトの管理者用ダッシュボードと見られる画面が誤って一時的にアップロードされており、VIGINUMはこの画面から運用者が用いたツール群に加え、フランスでは通常使用されない日付表記「2026/2/12」が記録されていたことを確認した。同サイトに連動するFacebookページ「Le Blog de Sophie」は2026年2月19日に開設され、3月5日までの間に7件の投稿を行い、2月27日には音声を変造した匿名女性による証言動画を公開した。さらにVIGINUMは、マルセイユ市内5か所(クールジュリアン通り67番地、同39番地のレスパス・ジュリアン付近、ピエール・ムーラン通り10番地、エンドゥーム通り396番地、シャルル・リヴォン大通り直下のトンネル付近)に同サイトへのQRコードを記載した貼り紙9枚が掲出されていたことを特定した。同ページの初回投稿は、開設当日のうちにフォロワーを持たない美容関連と称する500のFacebookページから一斉に「いいね」を獲得しており、組織的な増幅の痕跡が明確である。連動するXアカウント「@LeBlogdeSophie0」は2025年3月6日に作成された既存アカウントを2026年2月18日に改名して転用したものであった。

 delogupourpalestine.comは同一のWordPressテンプレートを用いており、連動するFacebookページ「Qui est Sébastien Delogu ?」には、ドログの姓を「Delgou」と誤記する一貫した綴り間違いが、メールアドレスやInstagram・Telegramの連携アカウント名にまで及んでおり、運用者がフランス語の固有名詞に通暁していない可能性を示唆している。

 piquemalzero.comは大手レンタルサーバーNamecheapで運用され、ハッシュタグ「#piquemalcestmal」を伴うFacebookページ「Je suis François Piquemal et je ne suis rien」と連動した。VIGINUMは、ピケマル本人の公式Facebookページの投稿コメント欄において、同サイトへのリンクを記載した投稿が2026年3月6日午前0時1分から2分の間に21の非正規アカウントによって一斉に書き込まれたことを確認しており、これは人手による分散投稿ではなく自動化されたスクリプトの作動を強く示唆する時間的集中度である。

 並行して、1977年設立の実在の児童保護団体「Enfance et Partage」の名称を詐称するFacebookページが2026年2月に開設された。同団体の公式ページは1万人以上のフォロワーを持つのに対し、詐称ページのフォロワー1900人は非正規アカウントとしての特徴を備えていた。詐称ページは開設直後こそ実在団体の投稿をそのまま転載していたが、2月22日以降は政治・宗教指導者の児童への性加害が免責される構造を非難する独自コンテンツに転じ、2月25日から27日にはピケマルがトゥールーズの高校教員時代に児童への性加害容疑で捜査対象となったとする虚偽の言説を3件拡散した。これらの投稿への反応は皆無であり、ドログ・ピケマル向けの他の資産と比較しても可視性は著しく低かった。

増幅ネットワークの構造分析——非正規アカウント群の使い回し

 VIGINUMは、上記3件のFacebookページに付された計338件のコメントを分析し、138の固有ユーザーを識別した。このうち3アカウントが3ページすべてにコメントし、48アカウントが少なくとも2ページにコメントしており、特に2026年2月21日12時40分という単一の分単位で9件のコメントが集中投稿された事例が確認されている。これらのアカウントは2026年2月に作成または改名された男性プロフィールで、多くが米国——特にシカゴ——の位置情報を表示していた。

 さらに別系統として、Facebookグループへの投稿拡散を担う39の非正規アカウント群が識別された。これらはAI生成のプロフィール写真と、フランス語圏で頻出する人名(クレール・マルタン、エリーズ・マルタン、ソフィー・デュポン等)を用い、一部は同一のコンテンツを転載し合う関係にあった。これらのアカウントの大半は2025年9月7日という単一の日付にまとめて複数のFacebookグループへ参加しており、対象は当初フランスの右派・左派双方の政治系グループであったが、2026年2月23日には「Arabes à Toulouse DZ」「Les Musulmans de Marseille」といった地域・宗教コミュニティ系グループへの参加が確認され、運用者が選挙終盤に向けて地域の宗教コミュニティを標的とする方向に戦術を転換したことを示している。

 特筆すべきは、この39アカウント群の一部が過去・将来の別作戦に再利用された痕跡である。「Maxime Meireles」という名のアカウントは現在「Romi Shushan」と改名されテルアビブ・ヤッフォを所在地として表示し、「Amélie Charpentier」は「Shirel Matana」としてリションレジオンを表示する。また「Manon Berger」は後述する「Forsane Alizza」関連アカウントへと転用された。さらにこのクラスターの一部は2025年10月の米ニューヨーク市長選(民主党候補アンドリュー・クオモ関連投稿の転載)にも関与しており、別系統として48のポルトガル語圏アカウント群がアンゴラの与党アンゴラ解放人民運動(MPLA)関連コンテンツの増幅に動員されていたことも判明している。両クラスター間では相互の「いいね」付与が確認されており、VIGINUMはフランス向け・アンゴラ向けの双方の作戦が単一の運用者に帰属する可能性を指摘している。

イスラム共同体を巡る二極化工作——「アルテルナティブ2026」と対抗言説の同時構築

 lalternative2026.comは「市民発の取り組み」を自称し、各都市でムスリム市民の利益を最も代表する候補者を特定すると標榜するサイトであり、LFIまたはその支援候補108名を、宗教的法体系の導入や宗教的標章着用の容易化に賛同する候補者として地図上にマッピングした。同サイトのロゴおよび挿絵は生成AIツールGeminiで作成されており、運用者は検索エンジン最適化のため有料のコンテンツ配信サービスABNewswire.comを利用し、Associated Press(AP通信)の自社サイトやプレスリリース配信サイトOpenPRに同サイトを紹介する記事を掲載させた。この有料配信による信用付与の試みとは対照的に、VIGINUMが確認したSNS上での同サイトの共有はわずか5件にとどまり、TikTokアカウント「@renaissancecatholiquefr」とFacebookページ「Forsane Alizza」による各1回の共有を含む。投資された資源と達成された可視性の落差は、Rokh Solis全体に通底する特徴である。

 lalternative2026.comの言説に正当性を与えるため、運用者は対抗関係にある二つの架空エコシステムを並行して構築した。一方は「Forsane Alizza(フォルサン・アリザ)」の名を冠する。これは2010年から2012年にかけてフランス国内で活動した実在のイスラム過激派団体(構成員約15名、反ユダヤ主義・反冒瀆を主軸とする活動を展開し現在は解体済み)の名称を流用したものであり、サラフィー主義的言説を展開しつつlalternative2026.comの「ムスリム共同体支援」構想を称揚する役割を担った。他方は「Renaissance Catholique Nationale(ルネサンス・カトリック・ナショナル)」を名乗るrcn-france.orgであり、1988年創設の実在の保守カトリック団体「Renaissance Catholique」の名称を模した架空団体として、「フランスの衰退」と「イスラム過激主義の台頭」への警鐘を主軸にlalternative2026.comの存在を告発する言説を展開した。同サイトに連動するTikTokアカウント「@renaissancecatholiquefr」は2024年9月12日に作成され、2024年11月から2025年6月にかけては英語圏向けに「#TheWestIsNext」のハッシュタグを用いた反ムスリム言説を発信していた経歴を持つ(同ハッシュタグは2023年10月のハマスによるイスラエル攻撃以降、親イスラエル系の言説圏で用いられ、イスラエルを西側の防波堤として位置づけ欧米を次なる標的として描く文脈で使用されてきた)。同アカウントは2026年2月9日、パリのパンテオン広場・ソルボンヌ大学前で同団体の旗を掲げる人物の映像を、2月24日にはlalternative2026.comへの警鐘動画を公開した。さらにVIGINUMはrcn-france.orgの言説と類似する文言を用いたWhatsAppメッセージが、英国の電話番号から国民連合(RN)所属議員らの個人携帯に送付された事案(フランスのメディアAtlanticoが2025年10月8日に報じた)にも言及し、これを同一生態系に連結させている。

 この二系統の言説は、ムスリム共同体の社会的位置づけを軸にフランスのデジタル公共圏を分極化させ、双方の陣営それぞれにおいてエンゲージメントと可視性を高めることを狙ったものとVIGINUMは分析する。

外国主体の関与を示す技術的痕跡

 VIGINUMは、Rokh Solisを構成するデジタル資産の技術的調査から、外国主体の関与を示す複数の痕跡を識別した。lalternative2026.comの画像ファイルのメタデータにはヘブライ文字が含まれており、forsane-alizza.euのデザインデータからはイスラエルを所在地とするCanvaユーザーのヘブライ語表記の名称が検出された。TikTokアカウント「@renaissancecatholiquefr」は位置情報としてイスラエルを示し、2025年8月3日に改名される以前は「@IrelandRealNews」の名称を音声ファイルの内部表記に残していた。同様にイスラエルを所在地とするInstagram/TikTokアカウント「@trueirishvoice」の存在も確認され、運用者集団が過去にアイルランドや英国を標的とした作戦にも関与していたことを示唆している。

 さらにX上の非正規アカウント群の分析からは、フランス語で親イスラエル系組織ELNET(European Leadership Network、欧州における親イスラエル系ロビー団体)および同団体が2023年10月のハマスによる攻撃後に立ち上げたキャンペーン「Agir Ensemble」関連の投稿を専門的に転載するクラスターが識別された。アカウント「@LeBlogdeSophie0」のフォロワー416名のうち403名が単一の日付(3月4日)に作成されており、後続の大量凍結後に残存した9アカウントの大半がこのELNET関連クラスターに属していた。これらの技術的痕跡は、Rokh Solisの運用に外国主体——少なくとも間接的にはイスラエルを起点とする主体——が関与していることを示す、間接的だが収斂的な証拠群を構成する。

イスラエル企業ブラックコアとその周辺生態系

 技術的痕跡をさらに掘り進めた結果、VIGINUMはイスラエルの影響力産業に属する企業「Blackcore」の存在に行き着いた。同社の実在性はVIGINUM独自の調査に加え、Reuters、Libération、Haaretzの報道によっても裏付けられている。Blackcoreはイスラエル企業登記簿に法人格としての登録が確認できない実体であり、ドメイン「blackcore.online」は2025年8月22日(X上の増幅用アカウント群がユーザー名を一斉変更した時期と一致する)に取得された。同社のウェブサイトは政府向けの「影響力・安全保障・技術ソリューション」を提供する企業として自社を紹介しており、サブドメイン「demo.blackcore.online」では、Facebook・Instagram・TikTokに展開する累計1600の保有アバター、大量の個人向けメッセージ送付、Facebookグループへの組織的参加といった手法を自社の強みとして明示的に宣伝していた。これはRokh Solisで実際に確認された手法そのものと一致する。サブドメイン「angola-plan.blackcore.online」は2026年2月にアンゴラ政府向けに実施された研修への言及を含み、前節で触れたアンゴラ向け増幅クラスターとの関連を補強する。

 技術調査はさらに広範な企業生態系を浮かび上がらせた。

関連主体性質・役割関連人物
Blackcore影響力工作のインフラ運用、法人格未確認Nati Eliyahu Masood(開発者と推定)
Electric Marinade/Omri SystemsFacebookグループ検索ツール(LLM活用)、アバター管理ツールのホスティング基盤、法人格未確認
Galacticos AIアバターデータ生成ツールの開発元Guy Geyor(galacticos.ai登録者)
Iron Mind AB(スウェーデン法人)アバター管理ツール関連の正規法人Nir Dobicky(別名Niro Knox、Rocketpod・Social Worxも運営)
Cygun LTD(イスラエルのサイバー企業育成機関)Galacticos AI等への支援・人脈提供Yigal Unna(イスラエル国家サイバー総局〈INCD〉初代総局長、軍情報部隊ユニット8200および国内治安機関シンベトでの経歴を持つ)

 正規法人として確認されたのはGalacticos LTD、SNI、Iron Mind ABの3社であり、Blackcore、Electric Marinade、Omri Systemsは法人格が確認できていない。VIGINUMはさらに、Electric Marinadeのメールサーバー基盤が、パレスチナ支援を標榜する架空慈善団体「Sadaqah Palestine」関連ドメインとも接続していることを確認した。同団体のXアカウントを増幅する非正規アカウント群は、Nir Dobicky本人のXアカウントの投稿コメント欄にも出現しており、さらにスコットランド自治政府首相ジョン・スウィニーおよびスコットランド民族党(SNP)の公式アカウントに対し、2026年1月6日から5月8日の間に256のアカウントから1400件のコメントを投稿していたことが判明した。これはフランスの地方選工作と並行して、同一の運用基盤がスコットランドの政治アクターを標的とする別作戦にも用いられていたことを示す。

 ただしVIGINUMは、Blackcoreがイスラエルのサイバー産業を構成する多数の企業群の一部に位置づけられる以上、現時点でこの民間企業の正確な役割と関与範囲を十分な確信度で特定することはできないと留保を付しており、Rokh Solisの委託主体——すなわち誰がBlackcoreまたは類似企業に依頼してこの作戦を実行させたのか——についても、これを特定する材料は得られていないと明記している。

効果なき干渉が示す論点——VIGINUMの結論

 VIGINUMは、Rokh Solisを構成する各デジタル資産が選挙前の期間において一貫して低い可視性しか獲得できなかったことを認めている。piquemalzero.comの拡散に投入された21の非正規アカウント、blogdesophie.com初動を支えた500のFacebookページ、lalternative2026.comの有料SEO配信といった組織的増幅の試みは、いずれも実際の閲覧・反応・拡散という観点では限定的な成果しか上げていない。それでもVIGINUMは、本作戦の複雑性、運用期間の長さ、関与した資産の規模を踏まえ、Rokh Solisが国家の基本的利益を害する外国デジタル干渉の要件を満たすと結論づけている。

 この判断枠組みは、FIMI研究において繰り返し議論される論点を体現している。すなわち、ある情報操作の脅威性を測る基準を、実際に達成された説得効果や選挙結果への影響に置くのか、それとも投入されたインフラの規模・組織性・意図に置くのかという問題である。Rokh Solisの事例は後者の立場を採用する根拠を提供する。本作戦は失敗したからこそ無害だったわけではなく、フランス国内の選挙、米国の地方選、アンゴラの政権広報、スコットランドの政治アクターという複数の標的に同一の人的・技術的基盤を転用できる柔構造を持っていたことが明らかになっており、可視性の低さは運用者の能力的限界ではなく、たまたまこの局面で増幅が奏功しなかった結果に過ぎない可能性が高いためである。VIGINUMは調査の継続を予告しており、Rokh Solisの運用者の正体に関するさらなる特性評価が今後の課題として残されている。

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