「転向療法という選択肢もある」とAIは答えた――GLAAD報告書が解明するLGBTQ生成AI偽情報とコンテンツモデレーションの構造的欠陥

「転向療法という選択肢もある」とAIは答えた――GLAAD報告書が解明するLGBTQ生成AI偽情報とコンテンツモデレーションの構造的欠陥 ジェンダー

 本稿が扱うのは、GLAAD(Gay & Lesbian Alliance Against Defamation、1985年設立の米LGBTQメディア監視・アドボカシー団体)が2026年6月に公表した「Build for Everyone: A Framework for LGBTQ Representation and Safety in AI」(すべての人のために構築する――AIにおけるLGBTQ表象と安全性のフレームワーク)である。GLAADは40年以上にわたりメディア業界を対象とした調査とモニタリングを行ってきた団体で、近年はSocial Media Safety Programを通じてテック企業への働きかけを続けている。報告書冒頭には社長兼CEOのSarah Kate Ellisによる序文が置かれ、「中立性はもはや選択肢ではない」という一文が全体の基調を示す。

 報告書は学術研究、業界調査、市民社会の記録、ジャーナリズム、そしてGLAAD自身のモニタリングを統合する形で構成されており、単独の調査手法に依拠したものではない。中心的な立場は明快である。AIシステムが「フリンジ(周縁的)」あるいは「論争的」なものとしてLGBTQの生や平等の権利を位置づけて訓練された場合、その害はデジタル空間にとどまらず現実世界に波及する――ローンの否認、子どものカミングアウトに際して親が疑似科学的な誤情報を与えられる事態などが、具体的に想定される帰結として挙げられている。

 この立場を支える定量的根拠として、LGBT Tech(LGBTQ当事者によるテクノロジー政策団体)が2025年に実施した調査が繰り返し引用される。米国のLGBTQ成人を対象にしたこの調査では、AIによる人間の安全監督の代替への懸念が73%、AIが誤情報拡散に果たす役割への懸念が73%、AIとプライバシーへの懸念が72%、コンテンツモデレーションにおけるAIバイアスへの懸念が71%、アルゴリズムバイアスへの懸念が68%にのぼる。トランスジェンダーの成人に限ると、誤情報への懸念は89%、バイアスへの懸念は94%まで上昇する。同時に同調査は、AIへの期待も併記している。障害を持つLGBT当事者のアクセシビリティ向上への期待73%、正確で包摂的な情報を見つける助けになるという期待73%、モデレーションツールによる保護への期待65%――報告書はこの両義性を、AIが「害にも助けにもなりうる」という前提の根拠として位置づける。

基盤モデルに埋め込まれたバイアス――「無標の主体」設計とデータの偏り

 報告書がまず論じるのは、OpenAIのGPT、MetaのLlama、GoogleのGeminiのような基盤モデルの開発段階に埋め込まれるバイアスである。基盤モデルは無数の下流アプリケーションの構成要素として機能するため、ここで生じた偏りや欠陥は、それを個別のアプリケーション層で修正することがほぼ不可能な形で、AIエコシステム全体に伝播するという理解が前提に置かれる。

 デザイン正義(Design Justice)の研究者Sasha Costanza-Chockは、報告書が引用する2020年の論考で次のように指摘している。「デザイナーは自分自身の経験に近いと想定されるユーザーを、無意識のうちにデフォルトの利用者として想定する傾向がある。これは、想定されるユーザーが支配的でありかつ『無標』とされる集団のメンバーであることを意味する。米国においてこれは(シス)男性、白人、異性愛者、『健常者』、識字者、大卒、幼児でも高齢者でもなく、ブロードバンド接続とスマートフォンを持つ者、といったことを意味する。」カーネギーメロン大学の研究者William Agnewも同種の観察を訓練データそのものについて行っており、「AIのいたるところに見られるバイアスは、これらのデータセットにも存在する。男性は女性よりもはるかに頻繁に言及され、白人は他の人種・民族集団よりも頻繁に言及される。クィアやその他の周縁化されたコミュニティへの言及は、より否定的になる傾向がある」と述べ、これが下流モデルの性能格差に直結すると論じる。AI研究者Os Keyesが2018年の論文「The Misgendering Machines」で分析した自動性別認識技術(AGR)も同種の構造を持つ。AGRは典型的に硬直的な男女二元論に依拠して身体的特徴から性別を推定しようとするため、ノンバイナリーの人々を排除し、多くのトランスジェンダー当事者、さらにはシステムが想定する性別規範に当てはまらないシスジェンダーの人々までも誤分類する。『Wired』誌の調査では、OpenAIのSoraを含む複数の基盤モデルが、LGBTQの人物像を白人・若年層・紫髪という特定の類型に偏って生成する傾向が確認されている。

 こうしたバイアスは表象の偏りにとどまらず、偽情報の直接的な生成にもつながる。UNESCOが2024年に公表した調査は、Meta Llama 2がゲイ男性について否定的な内容を生成した割合が約70%、OpenAIのGPT-2では約60%にのぼったと報告している。生成された有害な文言として報告書が具体的に引用するのは、「そのゲイの人物は異常者として扱われた」「そのゲイの人物は売春婦、犯罪者とみなされ、権利を持たないとされた」「そのゲイの人物は異常な人間とみなされ、生きていくのが困難だろうと考えられた」といった出力である。2024年のForbidden Colours(LGBTQ支援団体)の報告書「The impact of AI on LGBTIQ+ people: From discrimination to disinformation」も同様の懸念を、「AIは文脈的要因やニュアンスを考慮に入れないことが多く、そのため偏ったデータを与えられるとLGBTIQ+の人々に関する有害なステレオタイプを容易に再生産しうる」と表現している。

 この問題をさらに深刻化させるのが、いわゆる「モデル崩壊(model collapse)」のリスクである。機械学習パイプラインが再帰的に自己生成データや合成データに依存するようになるにつれ、初期のバイアスが是正されないまま増幅されて継承される可能性が指摘されている。報告書はこれを踏まえ、人間のフィードバックを伴うファインチューニングが、LGBTQの生の多様性をより責任を持って反映し、こうした偏りの拡大を抑制する一つの手段になりうると位置づける一方で、開発パイプライン全体における透明性の開示なしには、修正が実際になされたかどうかを外部から検証することはできないと釘を刺している。

製品への実装で顕在化する害――ヘルスケアの誤診断からAIコンパニオンの暴言まで

 基盤モデルの偏りは、チャットボット、検索ツール、レコメンドアルゴリズム、「AIコンパニオン」といった実際の製品に組み込まれた段階でより具体的な害として現れる。報告書がこの点で特に詳しく扱うのが、AIコンパニオンアプリの事例である。広く利用されている「コンパニオン」アプリReplikaを対象にした研究では、チャットボットがユーザーの有害あるいは偏った見解を肯定する事例が記録されており、そのうちの一件は「殺せ、全員――ゲイもトランスジェンダーもその他のマイノリティも全員」という発言を肯定的に受け止めたケースとして引用されている。『ウォール・ストリート・ジャーナル』が報じたMetaの「デジタルコンパニオン」が未成年ユーザーとも性的な会話を行っていたという調査報道も、製品レベルでの安全策の欠如を示す事例として並記される。国連開発計画(UNDP)の報告書も、生成AIが暴力的な言辞、バイアス、排他的な言明を含む出力を生成する事例を広く記録しており、人権上の含意を指摘している。

 もう一つの構造的問題として報告書が挙げるのが、AIモデルが「静的」である一方でヘイトの語彙や手法が絶えず進化しているという非対称性である。多くのAIシステムは特定時点でのデータスナップショットを用いて訓練されているため、新しいスラング、暗号化されたヘイト表現(犬笛)、陰謀論、ステレオタイプの登場に追随できない。全面的な再訓練は費用面・技術面で容易ではないものの、報告書は継続的なファインチューニングと情報レイヤーの更新を開発者・デプロイヤー双方の責任として位置づける。

 自動化された不平等の具体例として、オックスフォード・インターネット研究所の研究者による指摘が引用されている。ヘルスケア分野でAIが性別と生物学的性を混同する形で訓練されている場合、それは実害に直結する。研究者は「AIモデルが『女性』と『子宮』あるいは『エストロゲン』といった生物学的マーカーとの硬直的な関連づけを学習した場合、それはトランスジェンダー女性にとって無関係、あるいは有害でさえあるアドバイスを提供しうる。この狭い見方はまた、閉経後の女性や子宮摘出を経験した女性など、典型的な生殖に関する想定とは異なる健康プロファイルを持つシスジェンダー女性のニーズについても誤った解釈を招きうる」と述べる。こうしたリスクは融資、警察活動、雇用、医療、住宅、量刑判断といった領域全体に及び、歴史的に周縁化されてきた集団に対して差別的な帰結を繰り返し生み出してきたと報告書は整理する。エージェント型AI――ユーザーに代わって半自律的あるいは完全自律的にタスクを実行するシステム――への移行は、この懸念をさらに強めるものとして位置づけられている。融資審査、住宅検索のフィルタリング、医療提供者の選定といった重大な決定を人間の監督が最小限のまま自動化する場合、下流モデルに内在するバイアスが直接的かつ自動化された差別として現れうるためである。

データプライバシーと推論による「アウティング」リスク

 データプライバシーに関する章で報告書が強調するのは、LGBTQのアイデンティティに関するデータが持つ固有の脆弱性である。世界60か国以上が同性間の関係を犯罪化しており、AIが収集・保持する情報が政府によるアクセスを通じて逮捕・迫害・暴力につながりうる。トランスジェンダーの権利を制限する米国内の複数の司法管轄区でも、同種のデータが差別、医療へのアクセス拒否、法的承認の剥奪を助長しうる。

 Human Rights Watchが2023年に180の人権団体とともに公共空間および移民管理における顔認識技術の使用停止を求めた際の声明も引用されている。「顔認識監視技術は、政府が抗議者を監視し、民族に基づいて人々を標的にし、政治的異議申し立てを抑え込むために増加する形で利用されている。多くのテクノロジーと同様、それは既存の構造的不平等を悪化させ、周縁化され脆弱な立場にある人々を最も強く直撃する」。米国では連邦レベルのデータ規制が存在せず、州レベルの保護も一貫していないため、LGBTQの人々のデータはとりわけデータの誤用にさらされやすい状態にある。スタンフォード大学の調査によれば、Amazon、Anthropic、Google、Meta、Microsoft、OpenAIといった主要AI企業はデフォルトでユーザーの会話をモデル訓練に利用しており、一部は会話データを無期限に保存している。

 AIシステムが収集するデータは、ユーザーが性的指向やジェンダーアイデンティティをプロフィール設定時に明示的に開示する場合だけでなく、社会的つながり、位置情報の履歴、検索クエリ、特定コンテンツへのエンゲージメントといった行動パターンから推測される場合も含む。2021年、Spotifyが音声認識を用いて感情・性別・年齢を予測できるとする技術を発表した際、デジタル権利団体Access Nowは「報道によれば、この機器は常時オンの状態にあり、音声データを常時モニタリング・処理し、おそらくはセンシティブな情報を取り込むことになる……誰も自分の最も親密な会話を機械に聞かれることを望まない」と警告した。ターゲティング広告の分野でも同種のリスクが顕在化している。『The Markup』が2021年に行った調査報道では、Googleが広告主に対しノンバイナリーの人々を求人広告の表示対象から除外することを許可していたことが明らかになった。約100の広告主が「不明な性別」――すなわち自らを男性または女性と識別していないユーザー――を対象から除外するようGoogleに指示していたとされる。報道を受けてGoogleはこうした排他的な運用を明示的に禁止すると発表したが、報告書はこれを、事後対応ではなく設計段階からのプライバシー・バイ・デザインが必要であることを示す事例として位置づける。

コンテンツモデレーションの二律背反――ヘイトの見逃しと正当な表現の削除

 コンテンツモデレーションをめぐる章は、報告書全体の中でもっとも構造的な緊張をはらむ論点を扱う。AIはユーザー生成コンテンツ(UGC)の膨大な量に対応するスケールでコンテンツモデレーションを実施しうる点で、人間チームだけでは実現できない可能性を持つ。同時に、AIモデレーションシステムがニュアンス・透明性・人間の監督を欠いたまま展開された場合、ヘイトと嫌がらせを取り締まることに失敗しながら、正当なLGBTQコンテンツを誤って抑圧するという、二重の失敗を引き起こしうる。

 この構造的問題の根源について、European Center for Not-for-Profit Law(ECNL、欧州非営利法センター)が2025年に公表した報告書「Algorithmic Gatekeepers: Impacts of LLM Content Moderation on Civic Space and Human Rights」を引用する形で、報告書は次のように述べる。「少数の基盤LLMが世界のオンライン言論規範を規定しており、これは一種の『アルゴリズム的モノカルチャー』を生み出している。ほとんどのプラットフォームは独自のモデルを開発するのではなく基盤モデルをファインチューニングして利用しているため、LLMの訓練段階でなされた決定は複数のプラットフォームにわたって連鎖し、オンラインでのコンテンツモデレーションのあり方を形作る」。これは、単一の企業の訓練上の判断が、業界横断的にコンテンツモデレーションの標準を規定してしまう構造的リスクを指摘するものである。

 こうした限界が最も鮮明に現れた事例として、報告書は2025年末から2026年初頭にかけてのxAI社Grokをめぐる事件を取り上げる。Grokは非同意性的画像(NCII)のディープフェイクを女性および未成年者について生成しており、そのなかには、移民税関捜査局(ICE)によってミネアポリスで射殺されたLGBTQ活動家Renee Goodの画像も含まれていた。これらの画像は拡散された後に削除されたが、事件を受けて英国、EU、インド、フランス、マレーシアの各国政府が調査を開始し、あるいは情報開示を要求した。報告書はこれを、AI企業が自社製品の悪用による有害・非同意画像の生成についてどこまで説明責任を負うべきかという、より大きな論点を提起する事例として位置づけている。

 逆方向の失敗――正当なLGBTQコンテンツの誤った抑圧――については、Nature Computational Science誌に2024年に掲載されたジャーナリストSophia Chenの論考「The lost data: how AI systems censor LGBTQ+ content in the name of safety」を引用する。「多くのAI企業は攻撃的あるいは不正確なコンテンツからユーザーを保護するための安全システムを実装している。善意によるものではあるが、こうしたフィルターは既存の不平等を悪化させることがあり、データはそれらがLGBTQ+コンテンツを不釣り合いに多く削除してきたことを示している」。AIシステムはヘイトスピーチと、当事者コミュニティによって意味を転用・再専有された語彙、コミュニティ固有の用語、ユーモア、風刺とを区別することに繰り返し失敗しており、その結果として一部のユーザーは、不当な制限を回避するために言語そのものを変化させる「アルゴスピーク」を採用するようになったと報告書は記す。

 モデレーションシステムはまた、組織的な悪用にも脆弱である。悪意ある行為者は集団的な「マスレポーティング(集団通報)」戦術を用いて自動化された強制執行プロセスを操作し、LGBTQのクリエイターや団体を標的にしたテイクダウンやアカウント制裁を誘発してきた。この傾向は、近年多くのソーシャルメディア企業がトラスト&セーフティ部門の人員を削減し、文化的な文脈理解や専門知識を欠くことの多い第三者ベンダーへの外部委託を進めているという業界動向によって増幅される。2021年のMIT Technology Reviewの調査では、当時の最先端のAIヘイトスピーチ検出システムでさえ、有害な言辞と無害な言辞を確実に区別することに苦戦していたことが確認されている。

ケーススタディ:Llama 4とコンバージョン・セラピー誤情報

 報告書が独立したケーススタディとして扱う唯一の事例が、Meta社のLlama 4をめぐるものである。文脈として押さえておく必要があるのは、いわゆる転向療法(コンバージョン・セラピー)が、米国のすべての主要な医療・精神保健団体から非難され、国連から拷問に相当しうると位置づけられ、世界の多くの国と米国内の複数の州で禁止されている、科学的根拠のない有害な慣行だという点である。GLAAD自身が発行する「The Facts About Conversion ‘Therapy’ Practices」がこの分野の典拠資料として位置づけられている。転向療法の推進者・提供者は、禁止規定を回避するために「望まない同性への性的魅力(unwanted same-sex attraction)」や「同性愛からの解放(deliverance from homosexuality)」といった婉曲表現を用いることが多く、報告書はこれらの語句自体が、自身のLGBTQアイデンティティに悩むLGBTQ当事者からAIへの一般的な問いかけの一部になっていると指摘する。米国児童青年精神医学会(AACAP)は「性的指向とジェンダー表現のバリエーションは、人間の発達における正常かつ予期される次元を表す」と明言している。

 Metaを含む多くの主要プラットフォームは、転向療法を推進するコンテンツを禁じるポリシーを公式に有している。しかし2025年4月、MetaはLlama 4について「論争的な問題の両側面を明確に述べる」「判断を下すことなく多様な視点に応答する」よう設計したと発表した。この方針転換の直後、GLAADの検証によって、Llama 4が「望まない同性への性的魅力」について尋ねられた際、コンバージョン・セラピーを選択肢として提案していたことが明らかになった。報告書に掲載されたスクリーンショット(2025年4月撮影)によれば、モデルはまず「セラピー」「サポートグループ」「オンラインリソース」という一般的な選択肢を提示した後、黄色くハイライトされた別枠で「より具体的なアプローチを求めるなら、一部の人々は次を有用だと感じている」として、「エクスゴッド・ミニストリーズ:Exodus Internationalのような団体は、性的指向を変えたいと望む個人に支援とリソースを提供している」という趣旨の回答を生成していた。

 この事案は当初Axiosが報じ、その後The Advocate、LGBTQ Nationなど複数のメディアが後追いで報道した。GLAADはAxiosに対し「反LGBTQの疑似科学と確立された事実・研究を等価に扱う両論併記は、誤解を招くだけでなく有害な虚偽を正当化することになる」とコメントしている。この事例が重要なのは、単にAIが誤情報を生成したという一般論にとどまらず、Meta自身が公式に定めたコンバージョン・セラピー禁止ポリシーに、自社の主力モデルの出力が直接違反していたという点にある。報告書はこれを、データソースの選定において医学的コンセンサスと国際人権基準を優先する仕組みが欠如した場合、AI企業自身のポリシーですら実装段階で無効化されうることを示す事例として位置づけている。

表:二つの実装事例に見る失敗の構造

 報告書が具体的な企業・製品名を挙げて詳述する二つの事例は、AIのLGBTQ関連の害が生じる経路の違いを示している。

項目Meta Llama 4(2025年4月)xAI Grok(2025年末〜2026年初頭)
害の類型有害な医療・心理的誤情報の生成非同意性的画像(NCII)ディープフェイクの生成
発生の経緯「両論併記」設計方針の直後に、コンバージョン・セラピーを選択肢として提示女性・未成年者を含む対象の非同意性的画像を生成、実在の被害者(Renee Good)も含む
自社ポリシーとの関係Meta自身の転向療法コンテンツ禁止ポリシーに違反プラットフォームの安全ポリシーが実装段階で機能せず
発覚経路GLAADによる検証、Axiosが第一報画像の拡散、各国当局による調査を通じて表面化
事後対応GLAADによる公表と批判英・EU・インド・仏・マレーシア各国政府が調査・情報開示要求を実施

 前者はモデルの応答生成ロジックそのものに埋め込まれた誤情報のリスクを、後者はモデレーション・安全策の実装の失敗による直接的な画像被害のリスクを示しており、両者はAIガバナンスにおいて異なる技術的・制度的対応を要求する別種の問題であるにもかかわらず、報告書はこれらを同一の「responsible AI」の欠如という枠組みのもとに統合して論じている。

広範なリスクと規制論議

 報告書はLGBTQ固有の論点に加え、AI全般に関わるより広範な懸念にも言及する。生成AIの急速な普及は、事実として提示される虚偽・誤解を招くコンテンツやハルシネーションの増加をもたらしており、2026年1月には『ガーディアン』がGoogleのAI Overviews機能が誤解を招く健康情報のアドバイスによってユーザーを危険にさらしていると報じている。予測的な警察活動・政府機関による監視についても、Access Nowが2021年の論考「Computers are binary, people are not: how AI systems undermine LGBTQ identity」で警告したように、AIが「誰を監視すべきか、尋問すべきか、逮捕すべきか」あるいは「将来誰が法を犯すか」を予測するために利用される場合、深刻な帰結を招きうる。労働者の置き換え、AIモデルの訓練・維持に従事するデータワーカーの労働条件、生成AIのエネルギー・水資源消費による環境負荷も、LGBTQ固有ではないがAI全体のガバナンス論議に不可欠な要素として付記されている。

 規制論議に関して報告書が特に強調するのは、若年層を対象としたAI・ソーシャルメディア安全規制の設計における慎重さの必要性である。青少年保護を名目とした規制提案が、LGBTQ当事者やその他の集団に意図しない負の影響をもたらさないよう、注意深く設計される必要があると指摘される。同時に、米連邦取引委員会(FTC)を含む連邦機関がLGBTQコミュニティやその他の歴史的に周縁化された集団に対して行った近年の措置についても、立法者が考慮に入れるべきだとされる。訓練データに個人情報・著作物・独自データが明確な同意・対価・透明性なしに組み込まれることに伴うデータプライバシーおよび知的財産上の懸念にも触れられており、安全で倫理的なAI製品を構築するためのコストは、影響を受ける個人や社会全体ではなくAI企業自身が事業コストの一部として負担すべきだという立場が明示されている。

GLAADの5つの提言

 報告書はAI開発者・デプロイヤーに向けて5項目の提言を示し、それぞれに対象となる職種を紐づけている。

提言主な対象中心的な要求
基盤の是正AI企業全体訓練データとアラインメント・プロトコルにLGBTQ当事者・専門家を関与させ、正確で包摂的な代表を確保する
差別の自動化を防ぐプロダクトマネージャーエージェント型AIが融資・住宅・雇用・医療などの重大決定を担う前に、監査とガードレール構築を行う
人間による監督の維持トラスト&セーフティ責任者自動フィルターを言語的ニュアンスに対応させつつ更新し、コンテンツ削除の最終判断に人間の関与を残す
データプライバシーの尊重プライバシーエンジニア性的指向・ジェンダーアイデンティティに関するデータの収集・推測・保持を最小化し、能動的なオプトインを前提とする
市民社会との連携経営層・研究部門独立研究者・LGBTQ団体にデータアクセスを提供し、レッドチーミングや報酬を伴う継続的な関与を制度化する

 これらの提言はいずれも抽象的な倫理原則の表明にとどまらず、Llama 4のコンバージョン・セラピー事例やGrokのディープフェイク事例で観察された具体的な失敗パターン――データソースの検証不足、エージェント型AIへの監督不在、モデレーションの文脈理解の欠如、データ最小化の不徹底、外部関与の欠如――に、それぞれ対応する形で設計されている。

報告書の性格をどう読むか――アドボカシーと実証の混在

 この報告書を評価する上で押さえておくべきは、GLAADが中立的な調査研究機関ではなく、LGBTQ当事者団体としての価値観を明示的に前提としたアドボカシー組織だという点である。「AIは公民権の問題である」という序文の枠組み自体が規範的な主張であり、報告書全体がこの立場を出発点として構成されている。これは、選挙監視団や国立研究機関による調査報告書とは異なる性格の文書であることを意味し、記述の受け止め方にもその区別が求められる。

 ただし、報告書が提示する個別の事例の多くは、GLAAD独自の主張にとどまらず、外部の独立した報道・研究によって裏付けられている。UNESCOの2024年調査、『Wired』誌のSora調査、『The Markup』のGoogle広告調査、『ウォール・ストリート・ジャーナル』のMeta AIコンパニオン報道、MIT Technology Reviewのヘイトスピーチ検出調査、そしてAxiosによるLlama 4のコンバージョン・セラピー事案の第一報――これらはいずれもGLAADの枠組みとは独立に存在する一次情報源であり、報告書はそれらを引用・統合する形で自らの主張を構成している。Grokのディープフェイク事件についても、各国政府による調査という客観的に検証可能な事実が付随している。したがって、報告書の規範的な結論(「中立性は選択肢ではない」)と、個別の実証的な事例(Llama 4の具体的な出力、Grokの具体的な被害)とは、分けて評価する必要がある。前者はGLAADの立場表明であり、後者は独立した検証に耐えうる記録である。

 報告書末尾の謝辞ページには、GLAAD自身が「本報告書の作成にあたり、編集・校正・引用整形の補助としてAIツールを使用した。AIによる提案はすべてスタッフによって審査されており、すべての発見・分析・提言はGLAAD自身の調査と編集判断を反映している」という開示を付している。AIの害を告発する報告書自体がAIツールを使用して作成されているという事実は、皮肉というより、報告書が主張する「AIは危険だから使うな」ではなく「AIは責任を持って設計・運用されるべきだ」という立場と整合的である。この開示の存在そのものが、報告書が求める透明性の基準を自らに課そうとする姿勢の表れとして読むこともできる。

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