移民排斥とアルバータ分離主義が討論の中心に、反アジア人ヘイトは過去最高水準へ――ISD・CASM Technology共同データブリーフィングが定量化するカナダ国内過激主義の2026年3-5月期

移民排斥とアルバータ分離主義が討論の中心に、反アジア人ヘイトは過去最高水準へ――ISD・CASM Technology共同データブリーフィングが定量化するカナダ国内過激主義の2026年3-5月期 ヘイトスピーチ

 本稿が扱うのは、英国のシンクタンクInstitute for Strategic Dialogue(ISD、戦略対話研究所)がデータ分析パートナーCASM Technologyとともに2026年9月1日付で公表した「Online Domestic Extremism in Canada: Data Briefing — March 2026 to May 2026」である。ISDはテロリズム・過激主義・権威主義への対抗を専門とする20年来の組織で、本部をロンドンに置きアンマン、ベルリン、パリ、トロント、ワシントンDCに拠点を持つ。本briefingはカナダ公共安全省(Public Safety Canada)のCommunity Resilience Fundから資金提供を受けた複数年にわたる継続調査の一環であり、四半期ごとにカナダの国内過激主義のオンライン活動を追跡・分析するシリーズの最新版にあたる。報告書自体が明記する通り、本文中の見解は必ずしもカナダ政府の立場を反映するものではない。

 ISDはこの一連のbriefingにおいて、自らの「国内過激主義(domestic extremism)」の定義を一貫して用いている。これは、政治的暴力やテロリズムに限定された従来の安全保障中心の過激主義の枠組みを補完するものとして、非暴力的手段によっても追求され得る過激主義を含めた、より広い射程を持つ定義である。報告書はこの定義を次のように記述する。「国内過激主義とは、人種的・民族的・文化的優越性への言及によって特徴づけられる信念体系であり、想定される差異とアウトグループ(外集団)がもたらすとされる脅威に基づいて不平等を是とする信念の体系を擁護するものである。この過激主義はしばしば白人の権力という枠組みで語られ、ナショナリズム、人種主義、排外主義、反民主主義、女性蔑視、マイノリティ・コミュニティへの敵意、強い国家権力への支持を共通してともなう」。この定義は研究者Barbara PerryとCas Muddeの先行研究を踏まえて構築されており、違法な行為に限定されない点、すなわち「合法だが有害」な言説から犯罪行為、国家安全保障上の脅威までの連続体を捉えようとする点に特徴がある。

 分析対象期間は2026年3月1日から5月31日までの3か月間で、対象プラットフォームはX、Telegram、Facebook、YouTube、TikTok、Instagram、Gab、Rumbleの8種である。データ収集はCASM Technologyが技術面を担い、API提供のあるプラットフォームからの定量データと、API非提供プラットフォームからの定性的な知見を組み合わせている。

アカウント分析――822アカウントのうち活動中は479、Xが主戦場、Telegramはネオナチの牙城

 ISDはこれまでにカナダの国内過激主義アカウント・チャンネルとして822件を8プラットフォーム上で特定している。内訳はX357件、Telegram173件、Facebook152件、YouTube44件、TikTok31件、Instagram31件、Gab22件、Rumble12件である。このうちAPIによるデータ収集が許可されたプラットフォームで、2026年3月1日から5月31日の期間中に活動が確認された(投稿を行った)アカウント・チャンネルは479件で、内訳はX279件、Telegram129件、Facebook36件、YouTube24件、Instagram11件となっている。

 この479件の活動アカウントが同期間に投稿した総数は625,599件で、内訳はX473,127件、Telegram138,826件、Facebook7,869件、YouTube3,221件、Instagram2,556件である。Xが投稿数・アカウント数の両面で圧倒的な主戦場であり続けている点は一貫した傾向で、報告書は「加速主義者、反政府過激派、反イスラム過激派、キリスト教ナショナリスト、エスノナショナリスト、男性優越主義者、白人至上主義者がXの利用を選好している」と述べる。対照的に、ネオナチのみがTelegramを選好するプラットフォームとして際立っている。特筆すべき変化として、極右加速主義者は従来Telegramでの活動がより顕著だったが、今期はXが最も広く利用されるプラットフォームへと転じた。Instagram、Facebook、YouTubeはいずれのサブイデオロギーにおいても利用度が低いままだが、これらのプラットフォーム上で活動するアカウントは相対的に高いエンゲージメントを獲得する傾向があるという。

 ISD分析官は479件の活動アカウントをサブイデオロギー別に分類しており、その内訳と活動量は次の通りである。

サブイデオロギー活動アカウント数投稿数総エンゲージメント
エスノナショナリスト151209,36037,530,111
白人至上主義者142111,8955,606,528
反政府過激派66124,4498,816,342
反イスラム過激派6390,17015,047,911
ネオナチ5513,631668,401
キリスト教ナショナリスト3121,2541,494,153
極右加速主義者274,917133,411
男性優越主義者98,9153,014,649

 エスノナショナリストは活動アカウント数、投稿数、総エンゲージメントのすべてで首位にあり、その総エンゲージメント3,753万件超は、2位である反イスラム過激派の1,504万件超のほぼ2.5倍に達する。一方、白人至上主義者はアカウント数(142)・投稿数(111,895件)ともに相応の規模を持つにもかかわらず、エスノナショナリスト・反イスラム過激派・反政府過激派のいずれと比較しても獲得エンゲージメントは大きく見劣りする。投稿1件あたりの平均エンゲージメントで見ると、序列は逆転する。男性優越主義者が338件と最高値を記録し、エスノナショナリスト(179件)、反イスラム過激派(167件)がこれに続く。アカウント数がわずか9件に過ぎない男性優越主義者が、投稿単位の訴求力では他のどのサブイデオロギーよりも高い水準にあるという構図は、アカウント数や総投稿数だけでは活動の実質的な影響力を測れないことを示している。加速主義者とネオナチのアカウントは、引き続き最も低いエンゲージメント水準にとどまっている。

 なお、ISDのカテゴリー分類にはあらかじめ重複が組み込まれている。エスノナショナリストとキリスト教ナショナリストは重なり合う場合があり、白人至上主義者のサブカテゴリーとしてネオナチと極右加速主義者が位置づけられる。すなわちネオナチ・加速主義者としてコードされたアカウントはすべて白人至上主義者としてもコードされるが、逆は必ずしも成り立たない。このため、各カテゴリーの数値を単純合算するとアカウント総数(479)を上回る。

ヘイトスピーチ――標的は移民が最多、反アジア人ヘイトは過去8四半期で最高水準に

 ISDは自然言語処理を用いて、625,599件の投稿のうちユダヤ人、移民、ムスリム、アジア系カナダ人、黒人、先住民、アラブ系カナダ人、そして今期新たに標的グループとして追加されたLGBTQ+コミュニティに対するヘイトスピーチを分類した。その結果、16,669件(全体の2.6%)がヘイトスピーチとして分類され、前四半期(1 December 2025 – 28 February 2026、3.1%)から0.5ポイントの減少となった。この比率は2024年1月以降の8四半期で最も高かった2025年9-11月期(3.2%)からは緩やかな下降局面にあることになるが、報告書シリーズを通じた最低値である2025年3-5月期の1.9%と比較すればなお高い水準にある。

報告対象期間総投稿数ヘイト投稿数ヘイト比率
2024年1月1日-8月30日1,022,42713,0551.4%
2024年9月1日-11月30日282,2889,8943.5%
2024年12月1日-2025年2月28日413,2889,5122.3%
2025年3月1日-5月31日440,0108,4631.9%
2025年6月1日-8月31日473,71311,5522.4%
2025年9月1日-11月30日591,25319,1503.2%
2025年12月1日-2026年2月28日578,28418,2093.1%
2026年3月1日-5月31日625,59916,6692.6%

 標的グループ別の内訳は次の通りである。一部の投稿は複数のグループを同時に標的としているため、合計は16,669件を上回る。

標的グループ前期(2025年12月-2026年2月)今期(2026年3月-5月)今期の比率
移民5,6625,42833%
アジア系カナダ人2,4062,94617.6%
ムスリム3,0252,73816.4%
ユダヤ人3,6892,60915.6%
LGBTQ+コミュニティ3,1962,44114.6%
黒人系カナダ人9579645.8%
先住民コミュニティ6998735.2%
アラブ系カナダ人66570.3%

 移民に対するヘイトは従来の報告書と同様に最も多い類型であり続けている。今期最も注目すべき変化は反アジア人ヘイトで、全ヘイト投稿に占める比率が前期比4.4ポイント上昇し、ヘイトの標的として2番目に多い類型となった。報告書はこれについて「これまでのどの四半期よりも顕著であり、従来のピークであった2025年6-8月期(その時点でアジア系カナダ人は2番目に多い標的だった)をも上回る」と述べている。反アジア人ヘイトは、特に南アジア系(South Asian)を対象としたものが多いことが特徴として繰り返し指摘されており、カナダの国内過激主義言説において近年一貫して存在感を強めている類型である。一方でユダヤ人とLGBTQ+コミュニティへのヘイトは今期減少し、先住民コミュニティへのヘイトは1.8ポイント増加した。

 プラットフォーム別では、ヘイトスピーチ全体の80%がXに集中し、Telegramが18%を占める。Facebook、Instagram、YouTubeにおけるヘイト含有投稿は、これら2プラットフォームと比較すれば僅少である。イデオロギー別では、エスノナショナリストが6,729件と最大量のヘイト投稿を発信しており、そのうち36%が移民を標的とするもので、これはいずれのイデオロギー集団の中でも最も高い対移民ヘイトの比率である。エスノナショナリストはまた、LGBTQ+コミュニティ、アジア系、ムスリムを標的とするヘイト投稿でも最大の発信量を記録した。白人至上主義者は5,588件と2番目に多いヘイト投稿量を発信し、そのうち30%がユダヤ人を標的としたもので、黒人系カナダ人を標的とする投稿の比率でも最大を占めた。

 今期観測されたヘイトスピーチの主要な急伸は3件特定されている。3月31日(トランスジェンダー可視化の日、Transgender Day of Visibility)には、LGBTQ+コミュニティを標的とした憎悪投稿の増加が観測された。同日最も「いいね」を集めた投稿の一つは「トランスジェンダー啓発の日だから子供を学校に行かせなかった、精神疾患を祝うつもりはない」という趣旨の内容だった。4月29日の急伸は特定の単一のニュースや出来事に結びつくものではなく、インド出身者を中心とするアジア系カナダ人を標的とする内容が中心で、高エンゲージメントの投稿はインド系の人々について「知能が低く、リスクを計算する能力がない」と主張し、「自らと社会にとっての危険」として描くものだった。5月25日の急伸は、Tim Hortonsが技能実習制度(temporary foreign workers program)への依存をやめ地元労働者1万人を新たに雇用する計画を発表したニュースへの反応で、この発表は国内過激主義アカウントから嘲笑をもって迎えられ、移民に対するヘイトを助長する機会として利用された。

暴力煽動――中東情勢とインド系移民政策をめぐる引き金

 ISDは自然言語処理を用いて、直接的な脅迫、暴力の扇動、脅迫的言辞、暴力の礼賛、暴力的レトリック、暴力を伴うヘイトスピーチ、インフラへの攻撃という7類型からなる分類器で暴力煽動的な投稿を識別している。625,599件の投稿のうち2,198件(0.35%)が暴力的言説として分類され、前四半期(0.46%)からわずかに減少した。過去6四半期の推移は次の通りである。

報告対象期間総投稿数暴力的投稿数暴力比率
2024年12月1日-2025年2月28日413,2881,5000.36%
2025年3月1日-5月31日444,0101,2990.29%
2025年6月1日-8月31日473,7131,6880.36%
2025年9月1日-11月20日591,2532,8690.49%
2025年12月1日-2026年2月28日578,2842,6550.46%
2026年3月1日-5月31日625,5992,1980.35%

 今期最大の急伸は3月1日(56件)で、多数のカナダ国内過激主義者がイラン最高指導者アヤトラ・アリー・ハメネイの標的殺害を含む中東情勢に反応した。この際、複数のアカウントが著名な極右論客ローラ・ルーマー(Laura Loomer)による、アメリカ国内の全ムスリムを「一斉検挙」し、イスラム勢力との「開戦」を呼びかける主張を拡散した。2番目の急伸は3月14日(50件)で、再び中東情勢を受けたもので、米国政権に対して「ムスリムの暴君ども」を打倒するよう促す投稿や、ムスリムが殺害されたことへの歓喜を表明する投稿が目立った。

 中東情勢に起因しない急伸としては3月4日(48件)が挙げられる。カナダ連邦政府がインド人留学生への奨学金予算の追加拠出を発表したことへの反応として、多数の国内過激主義者が連邦政府を標的に暴力的脅迫を発信し、この発表を「インド系国民に有利な政策」と非難した。投稿は「裏切り者を吊るせ」という呼びかけや、連邦職員を殺害する前に拷問にかけるべきだという主張を含んでいた。

 なお総投稿量そのもの(暴力煽動に限らない全体)の観点では、今期最多の投稿数を記録したのは3月13日で、これは単一の出来事に起因するものではなく、反イスラム・反移民・反トランスジェンダーのコンテンツが混在していた。この日の一部は米国・イスラエル・イランをめぐる戦争の文脈にあり、カーニー首相がカナダ軍を危険にさらしていると非難する投稿や、イラン王政派への支持、トランプがイランとキューバの体制を排除すべきだとする主張が見られた。

主要トピック――移民排斥がトップ、後退するロシア・ウクライナ言説

 ISDはLLM支援による自動トピックモデリングを用いて、カナダ国内過激主義者の間で交わされた主要な言説テーマを識別している。今期の意味論的マッピング分析で最も突出したのは、大規模な国外追放を求める言説、マーク・カーニー首相への攻撃、アルバータ分離主義を支持する議論の三つだった。報告書はアルバータ分離主義についての議論そのものは本質的に過激主義的なものではないと注記している。上位10トピックとその投稿数は次の通りである。

トピック投稿数
国外追放推進・反移民10,405
反カーニー5,625
アルバータ分離主義3,574
トランプをめぐる議論3,104
QAnon系陰謀論2,892
反リベラル2,277
白人至上主義1,985
ロマーナ・ディドゥロ支持1,957
カトリック教会内部の分裂1,913
反ユダヤ主義1,845

 最多を占めた国外追放推進・反移民トピックは、大規模な「remigration(再移住)」政策を求める声を中心に、人口構成の変化への懸念、カナダのアイデンティティへの脅威に対する不安、理想化された過去への郷愁を頻繁に伴う。政治エリートへの攻撃もこのトピック内でしばしば見られる。

 反カーニートピックはマーク・カーニー首相への攻撃を中心とし、グローバリスト・エリート層の利益を促進し、カナダ経済と国家主権に有害な政策を支持しているという非難が繰り返された。カーニーに対しては、外国勢力との関係や、私的・政治的利益のためにカナダの国益に反して行動しているという申し立ても含まれる。報告書は、2026年6月にカナダ国内の極右活動家がカーニーを脅迫した容疑で起訴されたことを付記している。

 アルバータ分離主義は3番目に多いトピックで、資源に対する連邦政府の統制や、連邦の過干渉および州指導部への不満といった一般的な不満が表明されている。ユーザーは独立、あるいは少なくともより大きな自治を求め、アルバータ州首相ダニエル・スミスが呼びかけた住民投票への支持を表明した。

 トランプをめぐる議論は、その外交政策、陰謀論、対カナダ姿勢など主題が多岐にわたる内容だった。トランプへの立場は割れていたが、カナダの国内過激主義者による言及は敵対的というよりも中立ないし肯定的な傾向が強かった。

 QAnon系陰謀論トピックでは、当局者・著名人・法執行機関・メディアが大規模銃乱射事件、マインドコントロール実験(MKウルトラ計画など)、児童人身売買、隠蔽工作といった協調的犯罪に関与しているという非難が頻出した。主要なテーマにはフリーメイソン、制度的腐敗、そしてメディアやSNS(特にFacebook)がこれらの犯罪疑惑についての情報を隠蔽しているという主張が含まれる。

 反リベラルトピックでは、リベラル層・左派、および自由党が繰り返し批判・嘲笑の対象となり、不誠実さ、無能さ、腐敗の非難とともに、メディアの偏向に対する不満が表明された。白人至上主義トピックでは、白人であることの礼賛と非白人集団への蔑視・排除の呼びかけが結びつき、反黒人・反アジア人・反先住民感情がよく見られる主題として、「実質的な反白人差別が存在する」という主張が展開された。

 ロマーナ・ディドゥロ支持トピックは、自らを「カナダ王国」の「女王」と称する反政府運動指導者ロマーナ・ディドゥロを扱う。支持者らは彼女が発する「王室勅令」を論じ、主権を主張し政策を規定するために「自然法」を援用する。ディドゥロの追随者らは強い忠誠心を表明し、主流の制度を攻撃する言説を展開した。カトリック教会内部の分裂トピックでは、一部のキリスト教ナショナリスト系ユーザーが、教会内の進歩派と伝統派の対立について議論し、教皇権威、典礼上の慣行、ジェンダーおよびセクシュアリティをめぐる論点を扱った。反ユダヤ主義トピックでは、政治・文化機関・経済に対するユダヤ人の支配を主張するヘイトスピーチと陰謀論が広まり、ホロコースト否定、白人至上主義集団によって広められた「ZOG(シオニスト占領政府)」陰謀論への言及、ユダヤ人に対する非人間化的な言辞が含まれた。

 今期の重要な変化として、報告書は過去の報告期間で頻繁に上位に現れていたロシア・ウクライナ紛争をめぐる言説が、今期は目立って後退し、上位10トピックに含まれなかった点を明記している。

地理的分析――オンタリオとアルバータ、そしてカムループスの先住民埋葬地否定論

 ISDはカナダ国内で言及された州・都市、およびカナダ以外の国について、2026年3月1日から5月31日の全言及を収集し、国内過激主義者が言及するオンライン上の地理的焦点を特定した。最も言及の多かった州はオンタリオ(9,418件)、アルバータ(7,624件)、ブリティッシュコロンビア(4,612件)である。

言及数
オンタリオ9,418
アルバータ7,624
ブリティッシュコロンビア4,612
ケベック3,015
サスカチュワン845
マニトバ567
ノバスコシア453
ニューブランズウィック146
ニューファンドランド・ラブラドール137
プリンス・エドワード・アイランド135

 オンタリオに言及した高エンゲージメント投稿には、オンタリオ州警察が裁判所命令に基づき高齢男性を自宅から退去させたとされる動画があり、この投稿は220万回再生を記録し、実際にはそのような事実の証拠がないにもかかわらず「医療扶助死(MAID、Medical Assistance in Dying)」の実例として枠づけられていた。オンタリオへの言及にはこのほか、10年以上前に撮影された、故障したとされる改札機の上に現金が置かれたままになっているトロントの地下鉄の写真を用いて、「今日ではそのような状況は起こらない(=盗まれる)」と主張する投稿も含まれていた。アルバータへの高エンゲージメント言及は、アルバータ分離運動に関連するもののほか、州内で発生した事件を反移民・反イスラムのヘイトを拡散する材料として利用した投稿も見られた。ブリティッシュコロンビアへの言及には、同州内の事件をマイノリティコミュニティ、とりわけアジア系コミュニティを否定的に描くために利用した投稿や、タンブラー・リッジ(Tumbler Ridge)における銃乱射事件と生存者に関する情報の更新が含まれていた。

 都市別で最も言及が多かったのはオタワ(2,986件)、トロント(2,583件)、バンクーバー(829件)である。

都市言及数
オタワ2,986
トロント2,583
バンクーバー829
モントリオール789
カルガリー652
ブランプトン609
エドモントン454
ウィニペグ284
カムループス267
サリー190

 主要都市以外で突出した注目を集めたのがカムループス(267件)で、これは同地域の寄宿学校(residential school)跡地で発見されたとされる集団墓地に関する否定論(denialism)の拡散に関連する言及である。ブリティッシュコロンビア州サリー(190件)は、この地域を「乗っ取った」とされる「インド系ギャング」をめぐる文脈での言及に加え、バンクーバー周辺の土地に対するマスクィーム・ファーストネーション(Musqueam First Nation)の権原をめぐる議論の中でも言及された。

 カナダ以外で最も言及の多かった国は米国(24,363件)で、これは単一のトピックに集中したものではなかった。高エンゲージメントの投稿には、ケンタッキー州選出下院議員トーマス・マシー(Thomas Massie)の予備選敗北や、マイアミ発の動画制作集団NELK Boysが制作した動画への言及が含まれる。イランへの言及は、イランをめぐる戦争についての最新情報や陰謀論を扱ったものが中心だった。3番目に多く言及された英国は、2026年5月に開催された「Unite the Kingdom」集会をめぐる議論が中心で、この集会を取材するためのジャーナリストの入国が阻止されたとする主張とともに、カナダの国内過激主義者が集会の参加人数や雰囲気を称賛する投稿が見られた。

国(カナダを除く)言及数
米国24,363
英国9,237
イスラエル6,930
中国4,897
インド3,522
ウクライナ2,366
ロシア2,175
フランス2,012
オーストラリア1,846

方法論の骨格――アカウント発見からLLM分類器、トピックモデリングまで

 ISDはアカウント発見のプロセスを、2024年1月から8月を対象とした初回のデータブリーフィング作成時に確立した三段階の手順に基づいて構築している。第一段階はISDが手がけた過去のカナダ右派過激主義に関するプロジェクトの既存リストと、カナダにおける過激主義動員に関する既存の研究・報道の網羅的レビューである。第二段階は技術パートナーであるCASMとの協働による自動アカウント発見分析で、既知のカナダ国内過激主義者から推奨されている、あるいはこれらと交流のあるアカウント・チャンネルを特定する。第三段階はISD分析官による、定義上の閾値に照らしたレビューである。ISDとCASMはこの手順を四半期ごとに繰り返し、初期設定の段階で見落とされていた、あるいは新たに出現したアカウント・チャンネルを追加している。

 アカウントの組み入れ判定は、(a)明確にカナダを拠点としていること、かつ(b)明示的に右派過激主義者(または「国内過激主義者」)を自認していること、あるいは(c)既存文献・先行研究に照らして明確に特徴づけられること、あるいは(d)投稿内容のサンプルレビューに基づき明確に特徴づけられることのいずれかを満たす場合に行われる。(d)の場合、ナショナリズム・人種主義・排外主義・反民主主義・強い国家権力志向を明確に促進するコンテンツを5件以上投稿していることをISDは確認しており、判定根拠はスクリーンショットとともにコーディング文書に記録される。Terrorgramのようなカナダに影響を及ぼすことが知られる越境的な運動の関連アカウントも組み入れの対象となる。

 ヘイトスピーチの判定は、カナダ刑法における「保護された特性(人種、宗教、性的指向など)を有する集団を対象に、公共の場または公共の場所で表明され、その保護された特性を理由に憎悪を表現するために過激な言辞を用いるもの」というヘイトクライムの定義枠組みと概ね整合的に設計されている。ISDは収集した1,064,966件の投稿全体をキーワードでフィルタリングし、標的グループに関連するキーワード・語句を含まない投稿はヘイトスピーチではないと判定した上で、LLMプロンプト分類器にかけている。分類器はターゲットグループごとに手動でラベル付けされたデータセットに対してテストされ、プロンプトの文言や例示、ガイダンスを変えた複数のバリエーションで検証された。ラベル付けデータセットには、ヘイトかどうかの判定に加えて、判定が分かれ得る「境界事例(boundary case)」かどうかを示すラベルも付与されており、評価は境界事例を含む場合と含まない場合の双方で行われ、明確な事例の判定精度を境界事例よりも優先する形で結果が検討された。使用されたモデルはGPT-4oとGPT-4o-miniである。

 暴力的言説の分類器も同様にCASMとISDが訓練したもので、362の完全一致する単語・語句を用いて暴力への言及がある投稿をまず抽出し、これをLLMプロンプト分類器(同じくGPT-4oとGPT-4o-mini)にかけて、直接的脅迫、暴力の扇動、脅迫的言辞、暴力の礼賛、暴力的レトリック、暴力を伴うヘイトスピーチ、インフラへの攻撃という7類型のいずれに該当するかを判定している。

 トピックモデリングは、625,599件の投稿に加え、カナダ国旗を用いて自らをカナダ在住者と識別する4chan「/pol/」板のユーザーの投稿を継続的に収集した上で実施された。意味論的マッピングのパイプラインは全メッセージに適用され、4chanメッセージの5%、X(Twitter)メッセージの50%、それ以外の全プラットフォームのメッセージの100%を対象として、合計409,836件のメッセージをサンプリングした。ハッシュタグ・ユーザーメンション・絵文字・URLを除去し、その結果空になったメッセージをさらに除去する前処理を経て、337,057件のメッセージが残った。48通りのクラスタリングハイパーパラメータの構成についてグリッドサーチを行い、適切なクラスタ数(約200)が得られ、かつ未分類点を最小化する点でデータに対する適合度が良好な構成を選定した結果、217個の異なるクラスタが得られ、そのうち53.8%(181,235件)はいずれのクラスタにも十分類似しない「外れ値」カテゴリーに分類された。残る155,822件のメッセージが217クラスタに分類され、各クラスタは分析官が10~20件の関連投稿のランダムサンプルに基づいて手動で評価し、テーマ・サブテーマへと定性的にグルーピングされた。数値表現の計算には多言語埋め込みモデル「bge-m3」を、次元削減にはUMAP、クラスタリングにはHDBSCANを用い、これらのプロセス全体をBERTopicパッケージで統合している。地名・人名・組織名の固有表現抽出(NER)にはspaCyの言語モデル「en_core_web_lg」を用い、抽出された地名についてはさらにMordecai3という地理的パーシングツールを適用し、国・カナダの準州や州・カナダの都市への正規化を行った。

結論

 本briefingが示す2026年3-5月期の像は、二つの異なる方向の動きが併存するものである。一方でヘイトスピーチの全体比率(2.6%)と暴力煽動の比率(0.35%)はいずれも前四半期から緩やかに低下し、報告書シリーズの過去1年間で見られた上昇局面(2025年9-11月期の3.2%をピークとする)からの一定の落ち着きを示している。他方で、標的別の内訳を見れば、反アジア人ヘイトが前期比4.4ポイント増という急伸を記録し、シリーズ開始以来最も可視化された水準に達している。この増加は南アジア系コミュニティに対するものが目立つとされ、4月29日の急伸はインド出身者を「リスクを計算できない危険な存在」として枠づける投稿によって牽引された。全体の比率が下がる局面でも特定の標的への攻撃が過去最高値を更新するという構図は、集計値のみでは個々のコミュニティが直面するリスクの変化を捉えきれないことを示している。

 トピック面では、移民排斥・国外追放要求(1万件超)がカナダの国内過激主義言説の圧倒的な中心であり続け、これにマーク・カーニー首相への攻撃、アルバータ分離主義が続いた。アルバータ分離主義をめぐる言説は、ダニエル・スミス州首相が主導する住民投票という現実の政治過程と結びついており、報告書が繰り返し注記するように、この論点についての議論自体が過激主義を意味するわけではない。一方でロシア・ウクライナ紛争が上位トピックから姿を消したことは、過去数四半期にわたって同紛争が繰り返し上位に登場していた経緯を踏まえれば、カナダの国内過激主義言説における関心の焦点が、国際情勢から国内の移民政策・分離主義・特定政治家への攻撃という、より内向きの争点へと移行している可能性を示唆する。

 プラットフォーム構造の面では、Xが投稿量・ヘイトスピーチ量(80%)ともに圧倒的な集積地であり続ける一方、Telegramはネオナジ系アカウントの拠点として固定化され、かつ極右加速主義者がTelegramからXへと軸足を移したという変化が観測された。これは、単一のプラットフォーム政策や規制の変化が、サブイデオロギー間で異なる形で影響を及ぼしうることを示す一例といえる。地理分析が示すカムループスの先住民寄宿学校埋葬地否定論やサリーの「インド系ギャング」言説は、全国的な政治争点(移民、分離主義)とは異なる、特定の地域的出来事・地域社会に根ざしたヘイト動員の存在を裏づけており、報告書が地理分析を継続する目的である「潜在的な標的、動員の地域、地域固有の不満の特定」という狙いと符合する内容である。

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