440回のX投稿が機関解体と外交官入国禁止に変わるまで――MIT Technology Review/Type Investigations共同調査が実証データで辿る「検閲産業複合体」論、フリンジからトランプ政権政策への経路

440回のX投稿が機関解体と外交官入国禁止に変わるまで――MIT Technology Review/Type Investigations共同調査が実証データで辿る「検閲産業複合体」論、フリンジからトランプ政権政策への経路 言論の自由

 本稿が扱うのは、MIT Technology ReviewとType Investigations(非営利調査報道機関、Wayne Barrett Projectの資金提供)が2026年8月7日に共同発表した調査記事「How ideas of a vast censorship network moved from the online fringe to Trump policy」である。著者はMIT Technology Reviewのシニアレポーターであるアイリーン・グオ(Eileen Guo)、オープンソース調査ジャーナリストのジゼラ・ペレス・デ・アチャ(Gisela Perez de Acha)、応用社会神経科学を背景に持つオープンソース研究者マーティン・ソナ(Martin Sona)の3名である。著者のうち1人は国際開発分野(アフガニスタン)での勤務経験を持ち、うち2人はオープンソース調査団体Bellingcatとの協働経験があることが記事末に開示されている。

 調査が追跡するのは、「検閲産業複合体(censorship-industrial complex、以下CIC)」と呼ばれる言説――政府機関・学術機関・市民社会団体・ビッグテック企業が偽情報対策を名目に保守派やポピュリスト言論を組織的に抑圧しているとする枠組み――が、2016年前後のオンライン周辺言説から、2025年のトランプ政権による複数の連邦機関廃止、大統領令、EUとの外交的緊張にまで至った経路である。著者らはこの言説の拡散過程を、Twitter/Xの有料API終了により研究者にとって事実上アクセス困難になった状況下で、advanced search機能を用いたキーワード検索(「censorship-industrial」「censorship industrial complex」とその表記ゆれ)によって2011年9月から2026年3月までの範囲で収集した約30,000件のツイート、削除済みアカウントのアーカイブ版、ポッドキャスト音源、公開された政府記録、動画、そして10万件を超えるソーシャルメディア投稿の分析によって再構成している。この手法上の制約――キーワードに依存した収集であるため、語彙が定着する以前の周辺言説を過小に捉える可能性がある点――は、後述する数値を読む際に留保すべき点である。

マイク・ベンツという発信者――Frame Gameから国務省、FFOへ

 記事が最も詳細に描くのは、この言説の最も活発な生産者であるマイク・ベンツ(Mike Benz)の経歴である。ベンツは2016年、ブルックリンの企業弁護士だった当時、「Frame Game」という匿名アカウントをYouTube、Twitter、Gabで開始した。記事はこのアカウントの内容を「白人アイデンティティ主義的・反ユダヤ主義的な見解と、オルトライト系の『多様性産業』および検閲への不満を混在させたもの」と特徴づけており、具体的にはヒトラーの『我が闘争』への肯定的言及、「白人虐殺」への警告、そして「検閲はほぼ排他的にユダヤ的な現象である」という発言(ベンツ自身はユダヤ系であると自認している)が含まれていたと記述する。白人ナショナリスト系出版物『Counter-Currents』は2018年5月にこのアカウントを「上昇株」「親白人的かつユダヤ批判的なオンライン活動家」と評しており、フォロワーにはVDareの執筆者スティーブ・セイラー(Steve Sailer)から元KKK総長デビッド・デューク(David Duke)まで含まれていたという。2023年にNBCニュースがこの経歴を報じた際、ベンツは「Frame Gameはユダヤ人を憎む人々にそれをやめさせるためのユダヤ人によるプロジェクトだった」と釈明しつつ「自分は非常に限定的な形で寄与しただけだ」と述べる一方、「はっきり言っておくが、私はこれを非常に誇りに思っている」とも語っている。Frame Gameは2018年に投稿を停止し、ベンツは住宅都市開発省(HUD)のスピーチライターに転じた。

 2020年11月から2021年1月にかけて、ベンツは国務省で国際コミュニケーション・情報政策担当次官補代理を務めた。この経験について、2023年3月のシェレンバーガー(Shellenberger)のポッドキャストでベンツは「インターネットに関連するすべての対外政策が私の管轄下にあった。巨大政府と巨大テックがいかにシームレスに融合しているか、その内部核心を見ることができた」と語っている。2022年4月、ベンツはオンライン自由財団(Foundation for Freedom Online、FFO)を設立する。FFOは非営利法人として正式登録されておらず、資金提供者もごく少数に限られているが、自らを「言論の自由の番犬」と称し、メディアリテラシー推進活動、ブランド安全キャンペーン、非営利ジャーナリズム(調査団体Bellingcatを含む)、そして政府機関と何らかの関係を持つ個人・組織全般を「検閲」の証拠として指摘する報告書を継続的に発表していった。その代表事例が、国務省のグローバル・エンゲージメント・センター(GEC)が2022年に制作した15歳以上を対象とする教育ゲーム「Cat Park」への攻撃である。このゲームはプレイヤーが都市公園反対キャンペーン(感情的な見出しやAI画像操作を用いる)を作成した後、自分自身がプロパガンダの手法に利用されていたことに気づくという、ディスインフォメーション耐性とデジタルメディアリテラシーの教育を目的とするものだったが、FFOはスティーブン・ミラー(Stephen Miller)が設立した非営利組織アメリカ・ファースト・リーガル(America First Legal、AFL)から入手した資料をもとに、これを国務省が「政府腐敗を告発するソーシャルメディア投稿を『フェイクニュース』と結びつけるよう若者を潜在的に訓練する試み」と断じるレポートを発表した。このレポートは保守系メディア『Just the News』とロシアの国営メディア『RT News』の双方に引用され、2023年には下院外交委員会の共和党議員がこれを根拠に国務省への文書開示要求を行い、2024年末には議会がGECの予算削減を議決するに至っている。

環境の胚胎――2016年から2021年、周辺言説の形成

 CIC言説が生まれる土壌は、ベンツ個人の活動に先立って複数の出来事によって形成されていた。2016年、Facebookの元従業員が匿名で、同社の「トレンドトピック」機能がリベラル寄りの話題を優遇していると主張し、Facebookは人間の編集者を廃止する形で対応した。より大きな転機となったのがCOVID-19パンデミックである。デラウェア大学政治コミュニケーション研究所所長ダナガル・ヤング(Dannagal Young)は、この時期を「保守派の急進化における転換点」と分析し、「誰もが検閲されているわけではなく、自分たちだけが検閲されているという感覚」が形成されたと述べる。ヤングはまた、「ロシアの情報工作員が作成したコンテンツは、実際に米国内の人々が言いそうなことと大きく異ならないほど、ロシア側が『予習』を徹底していた」とも指摘しており、外国発の情報操作と国内の政治的不満が言説上区別しにくい形で重なっていたことを示唆している。2021年1月6日の議事堂襲撃事件後、複数のソーシャルメディア企業がトランプ大統領のアカウントを停止したことは、この言説にとって決定的な素材となった。ベンツはこれを「トランプは2020年、政府とその配下にある外部NGO・ペンタゴン系フロント団体のネットワークによって、彼が発するほぼすべてのナラティブを大量検閲され、忘却の彼方へと追いやられた末に敗北した」と表現している。

「検閲産業複合体」という言葉の確立――2022年のディスインフォメーション統治委員会事件

 言葉としてのCICが定着する決定的な契機は2022年4月に訪れた。バイデン政権が国土安全保障省内にディスインフォメーション統治委員会(Disinformation Governance Board)を設立すると発表し、東欧における対ロシア・プロパガンダ対策の経験を持つ専門家ニナ・ヤンコウィッツ(Nina Jankowicz)がその主導者として指名された。発表から1週間、Fox Newsの報道の70%がヤンコウィッツまたは同委員会に関するものとなり、司会者ショーン・ハニティ(Sean Hannity)は彼女を「国内最大級の偽情報の扇動者・流布者の一人」と呼んだ。国務省高官ダレン・ビーティー(Darren Beattie、当時は右翼扇動家)は彼女を「バイデンの新たな真理省大臣」と、ベンツは「英国王室の登録エージェント」と形容した。この結果、ヤンコウィッツはハラスメントキャンペーンと殺害の脅迫にさらされ、自身への「誤情報抑圧の公然たる共謀」を主張する訴訟の対象ともなり、「悪質な個人攻撃と身体的脅迫」を理由にわずか3週間で辞任、委員会自体も一度も開催されないまま消滅した(この訴訟は2024年に最高裁で却下されている)。

 この事件から数ヶ月後の2023年2月、保守系メディア『The Federalist』寄稿者マーゴット・クリーブランド(Margot Cleveland)がシグナル(Substack系のニュースレタープラットフォーム)に「トランプ・デレンジメントはいかにして検閲産業複合体を生んだか」と題する記事を発表する。クリーブランドはここで「バイデン政権は『ディスインフォメーション委員会』設立計画こそ撤回したが、より陰湿な『検閲複合体』はすでに存在し、警戒すべき速度で拡大している。その資金と協力関係は政府、学術界、テック大手、非営利団体、政治家、ソーシャルメディア、既存メディアにまで及ぶ。誤情報・偽情報・悪意ある情報への対処を装いながら、これらの集団は極左の会話支配能力――ひいては国家と世界の支配能力――を脅かす言論を沈黙させようとしている」と記述した。クリーブランド自身は「これは間違いなくキャッチーな言葉だ。1950年代から存在する軍産複合体という概念があるから、人々はこの言葉が何を意味するかすぐに理解する」と語っている。この記事は168アカウントによって共有され、CIC言説として初めて大規模な拡散を記録した事例となった。

2023年3月、Twitter Filesと議会証言――爆発的拡散の実測値

 言説が最大の転機を迎えたのは2023年3月である。イーロン・マスクが買収後のTwitter社内文書をジャーナリストのマイケル・シェレンバーガーとマット・タイビ(Matt Taibbi)に提供し、両者はこれを「言論の自由抑圧」の証拠として報じた。同月9日、下院議員ジム・ジョーダン(Jim Jordan、オハイオ州共和党)が主催する公聴会で、シェレンバーガーは68ページの証言を提出し、政府機関と請負業者による「広範なネットワーク」と「嫌悪される人物のブラックリスト」の存在を主張、「これらのブラックリストに載った人物を検閲・非増幅・さらには追放するよう、ソーシャルメディアプラットフォームに圧力をかけ、懐柔し、要求している」と述べた。この証言はX上で270万回以上表示され、タイビの証言映像は430万回、関連ツイートは合計4,000万回表示に達した(比較として、2023年当時のX投稿の平均表示回数は1,200回程度である)。著者らのツイート分析でも、2011年9月から2026年3月までの約30,000件のCIC関連ツイートのうち、この2023年3月がまさにピークとして検出されている。なお、タイビはメール取材に対し「2020年当時Twitter社内で見られた振る舞いは米国内の保守系コンテンツに偏っていたが、我々はこれと同種の手法が世界各地で左右両陣営に対して用いられているのを見た」とも述べ、左派の検閲対象者も定期的に擁護してきたと主張している。

 著者らはこの言説の担い手構造も定量化している。CIC関連コンテンツを投稿した13,475件のX/Twitterアカウントのうち71%は一度しか投稿しておらず、言説の大半が少数の中核的発信者によって主導される構造であることを示している。その中核に位置するのがベンツで、2022年12月から2026年3月までの期間、「検閲産業」「検閲産業複合体」に直接言及する投稿を440回以上行い、「censor」の派生語を含めれば2,200回を超える。これはタイビ、シェレンバーガー、ビーティーの同期間の合計投稿数を大きく上回る。YouTube動画に限ると、ベンツは平均して3分半に1回のペースで「検閲」に関連する語を口にしているという分析結果も示されている。シェレンバーガー自身、2023年のポッドキャストで「我々は当初、Twitterなど一部ソーシャルメディアプラットフォームによる悪質な検閲を懸念していたに過ぎなかったが、そこから政府による検閲そのものへの懸念へと移行した。いわば比喩的に象を手探りしていたようなもので、マイク、君の仕事に出会うまで、その象が何なのか我々には理解できていなかった」とベンツの役割を評価している。

資金構造――Informing America FoundationとAmerica First Legal

 言説の拡散を支えた資金の流れについて、記事はジョン・ソロモン(John Solomon、『The Hill』を離れた後の2019年に設立)が主導する情報化アメリカ財団(Informing America Foundation、IAF)を中心に描いている。ベンツが非営利団体の財務書類に直接名前を記載された唯一の年である2023年と2024年について、記事は「ベンツはこの2年間で、ある一団体だけから53万ドルの支払いを受けている」と記述する。IAFの資金は複数の右翼系ポッドキャストネットワーク「Real America’s Voice」(スティーブ・バノン、ジャック・ポソビエック、故チャーリー・カーク、ソロモン自身の番組を含む)、および地元の中立的な報道に見せかけながら実際には党派的な論調で運営される、いわゆる「ピンクスライム」系ニュースサイト群に流れており、ベンツはこれらの媒体に定期的に出演していた。ソロモン自身はIAF設立の「構想者」の一人であることは認める一方、「公式指導部」への参加や補助金発行への関与を否定し、自身は2021年からすでに「検閲産業複合体」という用語を使用していたと主張、メール取材に対して「連邦政府が助長した検閲に関する陰謀論など存在しない。それは実際に起きたことだ」と回答している。

事例研究――USAID解体に至る経路

 記事が最も具体的に描く政策転換の経路が、米国国際開発庁(USAID)の解体に至る過程である。起点は2022年7月、FFOが発表したレポートで、ブラジルにおけるWhatsApp/Telegram上の偽情報対策プログラムを「USAIDなどが資金提供する検閲の一形態」と断じたことに始まる。同年後半にはUSAID資金による「デジタル検閲に関する偽情報対策ガイドブック」――実態はUSAID海外職員向けの偽情報認識ガイド――への批判が続き、2022年から2024年後半にかけて、ベンツとFFOは「USAID検閲」ナラティブにおいて支配的な発信源の地位を占めていた。決定的な転機は2024年11月、ベンツがジョー・ローガン(Joe Rogan)のポッドキャストに出演し、数百万人規模(イーロン・マスクを含む)の視聴者に向けて「USAIDは事実上の『スイッチプレイヤー』であり、国家安全保障の観点からはペンタゴンを、国益の観点からは国務省を、そして秘密工作の観点からは諜報コミュニティを支援している」と主張したことである。マスクはこのインタビューの要約投稿(「デモクラシーがいかに定義し直され、あなたを黙らせるために使われたか、マイク・ベンツがすべてを明らかにした」との文言を含む)をリツイートした。

 2025年2月、下院外交委員会の公聴会で元USAID高官アンドリュー・ナティオス(Andrew Natios)は「ベンツが君たちに語ったことはナンセンスだ」と証言し、下院議員アンナ・ポーリナ・ルナ(Anna Paulina Luna、フロリダ州共和党)がベンツから提供されたとみられる資料――軍とUSAIDなどが「暴動扇動」「国家不安定化」「偽情報作成」で協力しているとする図表――について質問した際、ナティオスはそのスライドがUSAID作成のものではないと指摘したが、ルナは納得せず、自身のX投稿で「USAIDはこれ以上ないほど『沼』的だ」と述べ、ベンツはこれに星条旗の絵文字で応じた。ナティオスは後に「あの公聴会全体に愕然とした」と述べ、Fox News、『60 Minutes』、ローガンのポッドキャストへの出演を試みて反論を試みたものの「彼らはあまりに急速に動いたため、我々は間に合わなかった」と振り返っている。2025年3月末、政権はUSAID閉鎖を正式に通知した。同庁の解体は、HIV/AIDS対策プログラム、母子保健支援、食糧援助の削減を直接的に伴うものだった。

2025年、政策実装――大統領令と機関解体

 2025年1月20日、トランプ大統領は「言論の自由の回復と連邦検閲の終結(Restoring Freedom of Speech and Ending Federal Censorship)」と題する大統領令に署名し、バイデン政権が米国民の言論の自由を「踏みにじった」と主張した。この大統領令を起点に、以下の機関・組織が相次いで縮小・廃止された。

機関・組織措置備考
USAID全体解体(2025年3月末通知)HIV/AIDS対策、母子保健、食糧援助を含むプログラムが削減
CISA(国土安全保障省サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁)機関削減
FBI外国影響タスクフォース廃止
GEC(グローバル・エンゲージメント・センター)予算削減議会が2024年末に議決
R/FIMI(外国情報操作・干渉対策室、GECの後継組織)閉鎖(2025年4月)国務次官ダレン・ビーティーが職員に直接通告
スタンフォード・インターネット・オブザーバトリー事実上の機能停止
選挙完全性パートナーシップ事実上の機能停止

 R/FIMI閉鎖の場面は記事冒頭で詳細に描かれている。ある匿名の元職員は「いつか我々のオフィスが閉鎖される日が来るだろうとは、皆薄々聞いていた」と証言する。イーロン・マスク率いる政府効率化部門(DOGE)による数ヶ月にわたる組織削減の末、2025年4月のある朝、職員は30分後に招集されたミーティングでビーティーから直接「オフィスは閉鎖され、職員の雇用は終了する」と告げられた。この元職員によれば、室内の空気は「意気消沈と怒りの間を揺れ動き、多くの若く献身的な職員が泣き崩れていた」という。ルビオ国務長官はその後、「我々は国務省を通じて、米国における政府主導の検閲を終わらせた」と述べている。

EUとの緊張――DSA攻撃から外交官入国禁止まで

 CIC言説はトランプ政権の対欧州外交にも直接反映された。ベンツは2022年5月、保守系メディア『Townhall』への寄稿で、EUの「デジタルサービス法(Digital Services Act、DSA)」を「ヨーロッパの旗艦的なオンライン検閲法」と形容し、「グローバルなテックプラットフォームは通常コンテンツモデレーション方針を標準化するため、米国のテック企業も自国内で同様の検閲措置を適用せざるを得なくなる」と論じた(DSAの実際の内容は、加盟各国の法律に違反するコンテンツ――ヘイトスピーチや偽情報関連法制など――の削除を各国法に応じてプラットフォームに求めるものである)。2025年2月、ミュンヘンでの演説でJ・D・バンス副大統領は欧州の言論の自由が「後退している」と警告し、同月中にトランプ大統領はDSAなど「言論の自由を損ない、検閲を助長する」EUの「行為・政策・慣行」に対する報復関税の検討を盛り込んだ大統領令に署名した。同年8月にはルビオ国務長官が外交官に対しDSAへの「直接的なロビー活動」を指示したとされる。

 同じ2025年春、バンス副大統領は国務省チームにDSAによる「検閲」事例の収集を密かに指示したという。調査対象国はドイツ、フランス、アイルランド、英国――いずれも米国の同盟国――で、元職員によれば、バンスが関心を示したのはベラルーシ・ハンガリー・セルビア・ロシアにおける人権活動家やジャーナリスト、学者の投獄(これは既に追跡対象だったため対象外とされた)ではなく、「極右イデオロギーに関連する投稿」「中絶関連の投稿」であり、バンス自身のミュンヘン演説への言及も調査対象に含まれていたという。この調査の結果判明したのは「Xから削除された、10件に満たないコンテンツの事例であり、いずれも進行中の暴力的過激主義に関する法執行捜査に関連するもの」に過ぎなかった。バンス側報道官はそのような報告を命じた事実を否定しているが、「以前の発言」を指摘するにとどめている。

 2025年12月、欧州委員会がXに120万ユーロの制裁金を科すと、米国側は報復としてDSA推進派とされる欧州人5人に対し入国禁止を発動した。対象にはグローバル・ディスインフォメーション・インデックス(GDI)のクレア・メルフォード(Clare Melford)が含まれ、ルビオ国務長官はこれらの人物を「検閲産業複合体の代理人」と呼んだ。この入国禁止措置は「見解に基づく差別の可能性が高い」として裁判所により執行が差し止められている。並行して2025年2月には、各国政府によって削除されたコンテンツへのアクセスを(とりわけ欧州の利用者に)提供する新たなウェブポータル「freedom.gov」が国務省によって開設された。2026年2月にはジョーダン下院議員が欧州の検閲に関する「第2弾」報告書を発表し、追加の組織を名指ししている。

データが示す発信構造――誰がこの物語を担っているのか

 記事の分析パートが示す最大の知見は、CIC言説の担い手が構造的に少数に集中している点である。前述の通り13,475アカウントのうち71%が一度しか投稿しておらず、残る少数の「反復的発信者」がボリュームの大半を生んでいる。ベンツの発信量(440回以上、派生語込みで2,200回超)は、タイビ・シェレンバーガー・ビーティーの合計を上回る。この非対称性は、CIC言説が有機的・分散的に形成された大衆運動というよりも、限られた発信者の高頻度な情報生産と、それを増幅する既存の右派メディア生態系(Fox News、Just the News、RT News、Real America’s Voiceおよびピンクスライム系サイト群)、そして政治的に接続された訴訟団体(AFL)や資金提供財団(IAF)という制度的基盤の組み合わせによって拡大したことを示唆している。もう一つの非対称性がUSAIDの事例に典型的に表れている。バンスの指示で集められた「検閲の証拠」が実際には10件未満(いずれも法執行関連)にとどまっていたにもかかわらず、政策的帰結は連邦機関そのものの解体という規模で実現した。この証拠の希薄さと政策的帰結の規模との乖離は、記事全体を通じて繰り返し確認される構造である。

記事が提起する論点――陰謀論の構造とパラドックス、地政学的空白

 記事はCIC言説の構造を、陰謀論一般に共通する特性の枠組みで位置づけている。シラキュース大学のマイケル・バーカン(Michael Barkun)は「これが政治にとって持つ意味は本当に恐ろしい。会話や議論をほぼ不可能にしてしまうからだ。相手が、あなたの発言はすべて何らかの虚偽の体系に基づいていると信じているなら、どうやって会話が成り立つのか」と述べている。偽情報研究者ニナ・ヤンコウィッツは、自身が標的にされた経験を踏まえ「彼らが人々を告発している当のもの――検閲――を、今まさに彼ら自身が実行し続けている」と逆説を指摘する。元国連言論の自由特別報告者でカリフォルニア大学アーバイン校法学教授のデビッド・ケイ(David Kaye)はさらに踏み込み、「政権はおそらく、米国人が欧州やブラジルによって検閲されていると一般に感じてはいないことを理解している。だからこそ欧州・ブラジル、そしてより広いCICという概念に焦点を当てることで、米国人がこの100年ほどで最も大規模な検閲に直面しているという事実から目を逸らそうとしているのだろう」と述べつつ、「ただし実際にその検閲を担っているのはトランプ政権の方だ」と付け加えている。

 記事はまた、この言説に基づく機関解体が生んだ地政学的な空白にも言及している。GECおよびR/FIMIの機能縮小以降、イランは複数の情報筋によれば「物語戦争に勝利しつつある」AI生成プロパガンダの制作を進めており、ロシアは米企業のAI学習データセットにロシア側のプロパガンダを「注入」しようとする動きを見せ、これによりAIチャットボットがロシア的な物語を再生する可能性が高まっているとされる。中国は国内AI企業に国家主導の影響工作キャンペーンへの関与を指示しているとされる一方、これらを監視する米国側の対抗部門はトランプ政権下で大幅に縮小された。皮肉な事例として、2025年7月にはルビオ国務長官本人になりすましたAI生成の偽アカウントがX経由で各国議員・外交官に接触する事案が発生しており、ある前国務省職員は「ルビオがディープフェイクを心配し始めたちょうどその頃、実際にそれが起きたのには驚いた。しかも(国務省で)その対応に当たっていた担当者たちは解雇されていた」と皮肉を込めて振り返っている。

 記事全体を通じて描かれるのは、プラットフォームによる実際の行き過ぎた削除(記事は訂正記事で、ハンター・バイデンのラップトップに関する報道の抑制が実際に起きた事実を明記している)という「一粒の真実」を起点にしながら、少数の反復的発信者・資金提供構造・既存の右派メディア生態系・政治的に接続された訴訟団体が連鎖的に作用し、検証可能な証拠の乏しさとは不釣り合いな規模の政策的帰結――複数の連邦機関の解体、大統領令、外交官の入国禁止、同盟国との関税を巡る緊張――を生み出した経路である。

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