クロアチアとスロベニアを担当するEDMO地域ハブ、Adria Digital Media Observatory(ADMO)は、2026年9月21日にD4. 1 Annual report on monitoring of VLOPsを公開した(ADMO 2.0報告書シリーズ第7号)。EDMO(European Digital Media Observatory)は欧州委員会の資金で運営される偽情報研究・ファクトチェックのネットワークで、加盟国ごとに地域ハブを置いており、ADMOはその一つである。第2期にあたるADMO 2.0はドゥブロヴニク大学が調整役を務め、ザグレブ大学政治学部、リュブリャナ大学、メディアモニタリング企業Presscut、クロアチアの市民団体Gong、スロベニアの調査報道・ファクトチェック組織Oštro、放送局RTL Hrvatska、オープンソースのウィキ基盤を開発するXWiki、AFPが参加し、EUのデジタル・ヨーロッパ・プログラム(助成契約101225820)から資金を得ている。報告書に著者名の記載はない。
本報告は、EUのデジタルサービス法(DSA、規則2022/2065)と偽情報行動規範が、人口約210万人の小言語国スロベニアの視点からどこまで検証可能な形で実施されているかを、Meta、Google、TikTok、X、Microsoftの5社が2025年下半期について公表した透明性報告と、スロベニアの規制当局の文書をもとに評価したものである。あらかじめ明記すべき点が二つある。第一に、ADMOの構成員であるOštroは、本報告の中でFacebookとInstagramにおけるMetaのスロベニア向けファクトチェック提携先として登場し、評価する側と評価される仕組みの当事者が組織的に重なっている。ただし報告がOštroに触れるのは、Metaの開示ではOštroが作成した記事の数を特定できないという限界の指摘に限られる。第二に、本報告は偽情報の流通量を独自データで測定した研究ではなく、プラットフォームの自己申告データが国と言語の単位でどこまで検証に耐えるかを点検した「報告の監査」であり、報告自身もこの位置づけを明言している。
スロベニアの実施体制と分析設計
スロベニアは2024年4月13日施行のDSA国内実施法(ZIUETDS)によって国内体制を整えた。同法第3条は、通信ネットワーク・サービス庁(AKOS)を、DSAが各加盟国に設置を義務づける監督当局であるデジタルサービス調整官(DSC)に指定し、情報コミッショナーをもう一つの所管当局としている。監督は原則としてAKOSが担い、情報コミッショナーの所管は、広告の透明性とセンシティブなデータによるプロファイリング広告の禁止を定めたDSA第26条1項・3項、および未成年者保護を定めた第28条に限られる(ZIUETDS第7条)。
これに対し偽情報行動規範には、相当する国内の実施枠組みが存在しない。行動規範は2018年に採択され、2022年に強化され、2025年にDSA上の行動規範として正式に統合されたが、EUレベルの自主規範であることに変わりはなく、実施は署名企業の約束に依拠している。さらに超大規模プラットフォームと超大規模検索エンジンの体系的義務は、偽情報リスクの緩和措置を含め、DSA第56条により欧州委員会の専属管轄に置かれている。報告は、偽情報の具体的な内容や行為によってはマスメディア法、刑法典、債務法典、消費者保護法などの国内法も関係しうると付記している。
分析期間は資料ごとに異なり、プラットフォームの報告は2025年7月1日〜12月31日、AKOSの活動は2025年の暦年全体、DSA透明性データベースは分析時点のスナップショットである。対象はFacebook、Instagram、YouTube、TikTok、X、LinkedInの6サービスで、コンテンツモデレーション、偽情報対策、ファクトチェック、自動モデレーション、不服申立て、到達範囲の制限と推奨表示からの除外、研究者アクセス、そしてスロベニア単位およびスロベニア語単位のデータの有無を点検している。資料は2系統を併用する。半期ごとのDSA透明性報告はモデレーション、通報、不服申立て、自動化を主に扱い、行動規範に基づく報告は偽情報対策をより直接に扱う。報告は、自己申告であること、比較可能性の欠如、異なる違反類型の合算、言語別データの乏しさを理由に、偽情報の実際の蔓延度ではなく、公開された措置、報告の透明性、独立した検証の可能性を評価の軸に据えている。
プラットフォーム別の開示状況
| 項目 | Facebook/Instagram | YouTube | TikTok | X | |
|---|---|---|---|---|---|
| スロベニアの月間利用者 | 1,246,722/1,057,287 | 記載なし | 記載なし | 297,293 | 約200,000 |
| 行動規範の署名 | 署名 | 署名 | 署名 | 非署名 | 署名 |
| 偽情報カテゴリの国別データ | 行動規範報告で一部あり | 行動規範報告で一部あり | 行動規範報告で一部あり | なし | 行動規範報告で一部あり |
| スロベニア語のモデレーター | 13人 | 14人 | 23人(チェコ語・スロバキア語と共通) | 開示なし | 0人 |
| スロベニアでの偽情報関連の削除 | 13,000件超/350件超(合算指標) | 15本 | 370本 | 開示なし | 12件 |
| 不服申立ての結果 | 復元1件/11件 | 申立て5件中2本復元 | 申立て125件中104件撤回 | 開示なし | 申立てなし |
Meta:合算指標が「偽情報」の切り出しを妨げる
MetaはDSA透明性報告で「誤情報・偽情報・外国情報操作」カテゴリの措置を開示しているが、このカテゴリは国別にも言語別にも分解されていない。スロベニアについて開示されているのは、両サービス共通で情報提供命令3件・違法コンテンツへの措置命令0件というスロベニア当局からの命令件数、スロベニア語での自動判定の正確度・適合率・再現率(ただしモデレーション全般の数値で偽情報固有ではない)、そして両サービスとも13人というスロベニア語に十分な能力を持つモデレーター数である。
行動規範報告(Facebook、Instagram)は、より具体的な数字を含んでいる。
| 項目 | ||
|---|---|---|
| 第三者ファクトチェッカーの判定でラベルを付された閲覧コンテンツ | 18万件超 | 5,900件超 |
| ラベル付きコンテンツの再共有で、スロベニアの利用者が共有を完了しなかった割合 | 47.9% | 58.8% |
| ポリシー違反による削除 | 13,000件超 | 350件超 |
| 不服申立て処理時間の中央値 | 26.08時間 | 3.96時間 |
| 不服申立て後の復元 | 1件 | 11件 |
Metaはスロベニアとスロベニア語コンテンツのファクトチェック提携先にOštroを挙げ、Facebookではスロベニアに関連するコンテンツのラベル付けに第三者ファクトチェッカーの記事16,000件超が使われたとしている。報告は、同じ記事が複数国のラベル付けに使われうるため、これを国内やスロベニア語で行われた検証件数とは読めず、Oštro作成分の数も特定できないと注意している。削除件数は「有害な健康誤情報」「不正な行動」「投票・国勢調査への妨害」という三つのポリシー違反をまとめた数字で、不服申立ては両サービスとも100件未満だった。この合算のため削除のうち偽情報に直接関わる割合は算出できず、言語別の分解もない。広告にも同じ合算指標が使われており、スロベニアで両サービス合計44万件超の広告が削除され、うち980件超が上記三つのポリシー違反によるものだった。
YouTube:投稿者の所在地という集計単位
GoogleのDSA透明性報告は、スロベニアに関する数字を比較的多く含んでいる。投稿者の所在地でスロベニアに帰属したコンテンツに対し、完全に自動化された手段のみで行われた措置は102,851件、スロベニア語モデレーターは14人である。YouTubeはこの内訳が投稿者の所在国によるものでコンテンツの言語によるものではないと明記しており、いずれもモデレーション全般の数字である。一般・選挙・医療の各誤情報ポリシーに基づく措置はサービス全体の単位でしか公表されておらず、スロベニア語コンテンツがどれだけ検知・削除・制限されたかは特定できない。行動規範報告によれば、誤情報ポリシー違反によるスロベニアでの削除は15本で、いずれも視聴回数1万回未満だった。削除への不服申立ては5件で、うち2本が復元された。操作手法を見抜く力を養うメディアリテラシー施策のスロベニアでの表示は687,317回である。
TikTok:複数言語を兼任するモデレーター
TikTokはDSA透明性報告で、サービス全体の偽情報関連の自主的措置を631,638件と開示しており、うち426,732件が完全自動の検知に基づき、295,599件がコンテンツ削除に至った。これも国別・言語別の分解はない。スロベニア単位で開示されているのは全違反類型を通じた自動化の数字で、完全自動の措置が723,844件、自動によらない措置が216,328件だった。スロベニア語のモデレーターは23人とされるが、TikTokは社内でチェコ語・スロバキア語・スロベニア語を一つの区分にまとめて同じモデレーターが担当していると説明しており、報告は23人をスロベニア語専任の人数とは解釈できないとしている。
行動規範報告のスロベニア向け数字は次のとおりである。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 誤情報ポリシー違反による削除(スロベニアで投稿された動画) | 370本 |
| 同ポリシーに基づき「おすすめ」フィードの推奨対象から外された動画 | 589本 |
| 削除への不服申立て/当初決定の撤回 | 125件/104件(成功率83.2%) |
| ファクトチェックの判定を受けた削除 | 5本(有害誤情報ポリシーに基づく全削除の1.4%) |
| 「未検証」ラベルを付された動画 | 6本 |
| 共有時の警告表示を見て共有を取りやめた利用者の割合 | 30.61% |
| ウクライナ戦争関連のメディアリテラシー施策(検索への介入表示) | 表示129,253回、クリック801回 |
| 誤情報広告ポリシーに基づく広告の削除 | 12件 |
TikTokはファクトチェックの対象となる欧州経済領域の23言語にスロベニア語を含めているが、国単位のデータは言語別に分かれておらず、削除やラベル付けを受けた動画のうち実際にスロベニア語だったものの数は不明である。
X:行動規範に署名していないことによる空白
Xは分析対象期間中、DSAの超大規模プラットフォームに指定されていたが、行動規範には署名していないため比較できる行動規範報告が存在しない。DSA透明性報告によれば、スロベニアの月間利用者は297,293人で、スロベニア当局からの命令は情報提供命令3件、措置命令0件だった。サービス全体では偽情報カテゴリについて4,874件の通報を受けているが、報告はこれが該当を主張する通報の件数でありプラットフォームが確認した事例ではないと注意しており、国別・言語別の分解もない。自主的な措置は対応する利用規約カテゴリで0件とされているが、報告は、Xが操作されたメディアへのラベル付けや表示制限を別途記述している点を挙げ、措置が皆無だったことを意味しないとしている。自動モデレーションやスロベニア語モデレーターに関する個別データもなく、スロベニア語の偽情報への対応量もシステムの有効性も評価できない。
LinkedIn:モデレーター0人と翻訳技術
LinkedInのDSA透明性報告では、スロベニアの月間利用者は約20万人で、当局からの命令は記録されていない。サービス全体の偽情報関連の自主措置は5,081件(削除4,103件、表示順位の引き下げ978件)で、うち163件が完全自動の検知に基づくが、国別・言語別の分解はない。スロベニア語については全違反類型を通じて完全自動の措置が693件、それ以外が66件とされている。スロベニア語モデレーターは0人で、LinkedInはスロベニア語がサイトの対応言語に含まれないことを理由に挙げ、審査ツールに翻訳技術が組み込まれており必要に応じて追加の翻訳サービスも使えると説明している。このため報告は、0人という数字をスロベニア語コンテンツが審査されていないことと解釈すべきではないとしている。行動規範報告によれば、スロベニアでの誤情報としての削除は12件で不服申立てはなく、主な配信対象国をスロベニアとする広告で誤情報ポリシーにより制限されたものはなかった。
DSA透明性データベース:所在地29.9億件と言語3,474件
DSA透明性データベースは欧州委員会が運営する公開データベースである。DSA第17条はホスティング事業者に対し、コンテンツを削除・制限する際に利用者へ「理由の説明」を示すことを義務づけ、第24条5項はオンラインプラットフォームにその決定と理由の説明を遅滞なく欧州委員会へ提出させ、機械可読な形で公開することを定めている。半期ごとの透明性報告が定められたカテゴリの集計値を示すのに対し、このデータベースは個々の判断の単位で迫れる点に特徴があり、詳細検索ではプラットフォーム、決定の根拠とカテゴリ、詳細なキーワード、制限の種類、コンテンツの種類、適用地域、コンテンツの言語、検知と決定における自動化の有無で絞り込める。
報告が重視するのは「適用地域」と「コンテンツの言語」という二つの変数である。データ構造上、前者は必須項目、後者は任意項目で、地理としてのスロベニアと言語としてのスロベニア語を区別できる設計にはなっている。ところが調査時点で、適用地域をスロベニアとして絞り込むと約29.9億件の理由の説明が返ったのに対し、コンテンツの言語をスロベニア語にすると3,474件にとどまった。適用地域は複数国や広域を含みうるため言語の分析には言語フィルタの方が直接的だが、任意項目である以上、スロベニア語として記録された件数はその言語圏での審査量だけでなく、各プラットフォームがこの欄をどれだけ一貫して埋めるかにも左右される。報告は、スロベニア語の記録の不在や少なさを審査の不在や少なさと解釈することはできないと結論している。
偽情報研究のためには「市民的言説または選挙への悪影響」という広いカテゴリと、誤情報・偽情報に関する詳細キーワードが使えるが、データベースに入っているのは決定とその理由でありコンテンツそのものではないため、プラットフォームが何を偽情報と分類したのかを研究者が独立に検証することは基本的にできない。アクセスにも制約があり、欧州委員会のQ&Aによれば次のとおりである。
| 項目 | 制約 |
|---|---|
| 通常の検索画面での閲覧期間 | 提出から180日 |
| 日次データファイルでの取得期間 | 提出から540日 |
| 1回の検索で得られる件数 | 先頭10,000件まで |
| CSV形式での直接出力 | 先頭1,000件まで |
報告は、長期の時系列を得るには方法面でも技術面でも負担が大きいと指摘している。
AKOSの国内実施:制度は整ったが使われていない
AKOSの2025年DSA年次報告によれば、2025年にAKOSが受けたDSA違反の苦情は32件で、2024年の7件から大幅に増えた。
| 処理 | 件数 | 詳細 |
|---|---|---|
| 違反の可能性ありとして事業者の設立国のDSCへ移送 | 11 | アイルランド8件、オランダ3件 |
| DSAの適用範囲外 | 10 | うち4件を国内の他の所管当局へ、1件をドイツのDSCへ移送 |
| その他の理由で終結 | 11 | 申立人の無応答など |
国内で監督手続きに至った苦情はなく、情報コミッショナーへのDSA関連の苦情も0件だった。国内事業者の直接監督では、AKOSは欧州データベースへの登録(第24条)と透明性報告の作成(第15条・第24条)という二つの義務を主に体系的に監視し、前者では手続きを開始した例はなく、後者では国内事業者3社に手続きを開始して3社とも手続き中に不備を是正した。情報コミッショナーは自らの所管で監督手続きも軽犯罪手続きも開始しておらず、DSA第9条・第10条に基づく国内の司法・行政当局からの違法コンテンツ措置命令や情報提供命令もAKOSには届いていない。
新設の制度の利用状況を見ると、第22条に基づく信頼できる通報者(その通報をプラットフォームが優先的かつ遅滞なく処理しなければならない専門組織)については、AKOSが2025年に認定手続きを2件開始し、オンライン暴力、未成年者保護、違法な言論の分野でZavod PIPに初の地位を与え、2件目は2026年初頭に知的財産権侵害の分野でDruštvo Koprivaの認定に至った(AKOSの案内)。第21条に基づく裁判外紛争解決機関は認定がなく、申請もなかった。偽情報研究に最も直接関係する第40条の審査済み研究者によるデータアクセスについては、AKOSは2025年に国内の窓口を設けて申請の手引きを整えた。スロベニアには超大規模プラットフォームの設立事業者がないため、AKOSの役割は申請を予備的に審査して設立国のDSCに回すことが中心となるが、2025年末までに審査済み研究者の地位を与えた例はなく申請もなかった。報告はこれを、制度は整ったが実際には使われていない状態と表現している。
協力関係では、AKOSはデジタル変革省、情報コミッショナー、警察、市場監督庁との連携を強め、超大規模プラットフォームの重大な体系的リスクの特定にも参加した。欧州デジタルサービス評議会には2025年に通常会合6回と臨時会合3回に出席し、すべての作業部会に参加している。そのうえで本報告が最も示唆的な点として挙げるのは、AKOSの年次報告が偽情報を国内実施の独立した領域として扱っておらず、「偽情報」という語自体が一度も使われていないことである。国内での偽情報リスクの分析も、プラットフォームの対策に関するデータも、その有効性の評価も載っておらず、国内の体系的リスクの具体例として挙げられているのは主に脆弱な集団への危険と各種犯罪・違反である。
結論と4つの提言
報告の結論は、データ量の増加が透明性の増加を意味しないというものである。データは複数の報告、表計算ファイル、プラットフォームに散らばり、カテゴリも計測単位も異なるため比較が難しい。中心的な発見として報告が掲げるのは地理的透明性と言語的透明性の区別で、大半のプラットフォームはスロベニアについて何らかのデータを出しているものの、その単位は利用者の国、市場、プロフィール上の所在地、投稿地点のいずれかでありコンテンツの言語ではないため、「スロベニアのデータ」は「スロベニア語コンテンツのデータ」と同じではない。
報告は、スロベニア語で、またはスロベニア国内で、どれだけの、どのような偽情報が検知・ラベル付け・制限・削除され、それがどこまで到達したのかという問いに、どの資料も包括的には答えていないとする。DSA透明性報告は手続き・自動化・不服申立ての監視に、行動規範報告はファクトチェックと偽情報対策の把握に向いており、両者の併用が必要だが、カテゴリの違いが社間比較を阻んでいる。国内実施は統合の途上にあり、スロベニアの情報環境のリスク監視はEUレベルの監督と、プラットフォームが出すデータの粒度に依存している。そのうえで報告は4点を提言する。第一に、主要指標を国と言語の両方で体系的に分解し、比較可能なカテゴリと方法論を使うこと。第二に、措置の件数に加え、介入前後の到達範囲、対応までの時間、不服申立て、言語ごとの自動システムの性能といった有効性を開示し、国・言語圏ごとの偽情報の性質・規模・拡散パターンを把握できるデータを出すこと。第三に、小言語圏の研究を念頭に第40条の研究者アクセスを強化すること。第四に、高度な技術処理を経なければ要点に届かない公開は不十分であり、利用しやすい提示を伴う透明性を設計することである。
分析:小言語圏の「見えなさ」はどこで生じるか
以下は本報告の記述を踏まえた筆者の分析であり、報告自体の主張ではない。
本報告の価値は、「国」と「言語」という二つの集計単位のずれを、プラットフォームごとの開示の仕様に即して具体的に示した点にある。このずれは三つの層で生じている。集計単位そのものの層では、YouTubeは投稿者の所在地、TikTokは投稿地点、Metaはスロベニアへの関連づけ、LinkedInは広告の主配信国を使っており、同じ「スロベニア」でも各社が数えている対象が異なる。人員体制の層では、TikTokの23人は3言語を兼任し、LinkedInは0人で翻訳技術に頼っており、モデレーター数が開示されていても言語ごとの審査能力は比較できない。検証基盤の層では、DSA透明性データベースの言語欄が任意項目にとどまっている。英語やドイツ語のように国境をまたぐ大言語圏とは異なり、スロベニアのように国と言語がほぼ重なる環境では本来国単位の数字で言語単位を代替しやすいはずだが、各社の集計仕様がその対応を断ち切っている点に、小言語圏特有の皮肉がある。
TikTokのスロベニアでの数字は、報告が踏み込んでいない含意を持つ。104件の決定撤回は不服申立ての83.2%であると同時に、誤情報ポリシーに基づくスロベニアの全削除370本に対しても約28%にあたる(筆者算出)。申立てをする利用者に偏りがある可能性は残るものの、削除の4本に1本以上が後に誤りとされた計算になり、サービス全体では措置の約3分の2が完全自動の検知に基づいていることと併せれば、言語ごとの自動判定の有効性の開示を求める報告の第二の提言は具体的な根拠を持つ。また、ファクトチェックの判定による削除が全体の1.4%にすぎないことは、小言語圏の偽情報対策の大部分がファクトチェッカーとの提携ではなく社内のポリシー執行によって回っていることを示している。
AKOSに研究者アクセスの申請がなかったという記述は、時間軸を踏まえて読む必要がある。非公開データへのアクセス手続きを定めた欧州委員会の委任規則が採択されたのは2025年7月2日であり、施行されてデータアクセス・ポータルで申請受付が始まったのは同年10月29日だった。2025年末時点のゼロは実質約2か月の運用期間に対する数字であり、第40条は設立国のDSCへの直接申請も認めているため、AKOSを経由しない申請の有無はこの数字からは判断できない。
AKOSの年次報告に「偽情報」という語が出てこないことは、怠慢というより制度設計の帰結として読める。超大規模プラットフォームの偽情報リスクは欧州委員会の専属管轄にあり、行動規範には国内の実施枠組みがなく、主要プラットフォームの設立国はアイルランドなどである。こうした条件のもとで小国のDSCが偽情報について持つ直接の手段は限られ、国内の監視能力はプラットフォームが自主的に出すデータの粒度に依存せざるをえない。2023年に行動規範から離脱したXが、自主措置ゼロで国別データもないDSA報告しか出していないことは、行動規範の報告が欠けたときに国単位の可視性がほぼ失われることを端的に示している。同じ枠組みで他のEDMOハブが各国の監査を重ねれば、小言語国に共通する開示の欠落を比較可能な形で示せる可能性があり、その意味で本報告は単発の国別評価にとどまらず、監査の雛形としての価値を持つ。


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