エストニアの偽情報対策最前線:ロシアプロパガンダへの挑戦

エストニアの偽情報対策最前線:ロシアプロパガンダへの挑戦 情報操作

 現代社会において、偽情報の影響は国境を越えて広がっています。EU DisinfoLabが2025年1月10日に公開したレポート「The Disinformation Landscape in Estonia」では、エストニアにおける偽情報の実態や、それに対抗する取り組みが詳しく記述されています。本記事では、エストニアが直面している偽情報の具体例と、その背景にあるプロパガンダのナラティブについて詳しく掘り下げます。

関連記事: スロベニアの偽情報状況を読み解く:具体例と主要ナラティブ


偽情報の実例:エストニアを揺るがした事例たち

1. COVID-19パンデミック時の混乱

 2020年、エストニアではパンデミック初期に「地域封鎖」や「アルコール販売禁止」といった偽情報がソーシャルメディアで急速に拡散しました。この混乱は、政府が迅速に情報を否定しなければ、さらなるパニックを引き起こす可能性がありました。

 たとえば、「午後4時に発表される」という架空のプレスリリースが、首都タリンやその周辺地域が封鎖されるとの内容で広まりました。同時に「防衛警察」や「内務省」など信頼される機関が発信元として挙げられ、数時間のうちに何万人ものエストニア人に拡散されました。政府が公式声明を出すまでに、すでにデマは広がり切っていました。

2. NATO兵士に対する性的暴行の虚偽告発

 エストニア南東部のNursipalu地域では、NATOの訓練場拡大に反発する地元住民による抗議活動が行われました。この状況を利用して、「NATO兵士が地元女性に性的暴行を加えた」という虚偽情報が拡散しました。このデマは、SNSを通じて迅速に広がり、政治家の発言を交えたことでさらに信憑性を帯びました。

 調査の結果、この主張は事実無根であることが明らかになりましたが、このデマはNATOへの不信感を植え付ける目的で成功裏に利用されていました。

3. 学校への爆破予告

 2023年10月、エストニアの学校や幼稚園に爆破予告メールが送られ、SnapchatやTikTokを通じて偽の爆発映像や被害報告が拡散しました。この情報は、若年層をターゲットにして恐怖を煽る戦術の一環と考えられています。

 警察の調査では、これらのメールが実際には実行可能な脅威ではなく、学校運営を妨害し、恐怖と混乱を引き起こすことが目的であったと結論付けられました。


ロシアのプロパガンダとナラティブ:エストニアを狙う偽情報の背景

1. ソ連時代の美化

 ロシアはエストニアの歴史を歪曲し、「ソ連統治下では豊かな生活が送れた」とするナラティブを広めています。たとえば、元エストニア首相のカヤ・カラスがソ連時代の抑圧を批判する中、彼女の家族写真を利用して「抑圧は存在しなかった」と主張するキャンペーンが行われました。

 このような主張は、エストニア人の歴史的記憶を揺るがすだけでなく、西側諸国へのプロパガンダの一環として利用されています。

2. 電子投票への不信感

 エストニアはインターネット投票を導入した世界有数の国ですが、毎回選挙のたびに不正選挙のデマが流布されます。最近では、廃棄されたコンピュータ部品を「投票データが破棄された証拠」としてSNSに投稿するデマが発生しましたが、これは芸術展示会の一部だったことが後に判明しました。

3. 戦争恐怖心を煽る戦略

 ロシアは「エストニアがウクライナに兵士を派遣している」という虚偽情報を広めています。このようなナラティブは、エストニア国内のロシア系住民や国際的な世論に恐怖感を植え付ける目的があります。


エストニアの対策と教訓

 エストニアでは、Delfiなどのファクトチェック機関や、ロシアの情報空間を監視するツールを活用するPropastopといったコミュニティが偽情報対策の最前線で活動しています。また、高校ではメディアリテラシー教育が義務化され、次世代の情報リテラシー向上が図られています。

 エストニア政府は、国家防衛計画やデジタルアジェンダを通じて、偽情報対策を包括的に推進しています。特にメディアリテラシーの推進が国家戦略として明記されており、今後のさらなる進化が期待されています。


まとめ

 エストニアの経験は、偽情報対策の重要性を示す好例です。特に、教育や地域活動と連携した包括的な取り組みは、他国にも適用可能なモデルとなるでしょう。現代の情報戦争において、エストニアの成功と課題から多くを学ぶことができます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました