中央アンデス地域（ボリビア、ペルー、エクアドル）は、ロシアの影響が軍事、経済、外交、情報領域にまで及んでいる。FIU’s Jack D. Gordon Institute for Public Policyが2025年1月30日に公開した『Shadow Games: Russian Disinformation, Criminal Networks, and Strategic Encroachment in the Central Andes』は、この地域でのロシアの活動を詳細に分析したレポートだ。本記事では、レポートの主要なポイントを具体例とともに紹介し、ロシアの戦略の実態を浮き彫りにする。
1. ロシアの偽情報戦略：ボリビア政府との連携
ロシアの偽情報戦略は、ボリビアのMAS政権と深く結びついている。ロシア大使館や政府系メディアが、以下のようなプロパガンダを広めている。
- ウクライナ戦争の正当化：「ウクライナ政府はネオナチであり、ロシアは自衛のために戦っている」
- 反米ナラティブの強化：「米国はボリビアの政権転覆を画策している」
- 独立メディアへの圧力：2023年、ボリビアの反政府系新聞「Página Siete」が閉鎖に追い込まれた。
また、SNSではロシアのボットネットワークが活動し、偽情報を拡散している。ボリビアの外交官の多くがロシアの国営メディア（RTやスプートニク）を主要情報源とし、反米プロパガンダを積極的に取り入れていることも確認されている。
2. 軍事・安全保障分野でのロシアの関与
ロシアは、軍事協力を通じてボリビアとペルーの安全保障分野に影響を及ぼしている。
ボリビア
- 2009年、ロシアと対麻薬戦争協力協定を締結。
- 2014年、ボリビア海軍がロシアから軍事装備（ヘリコプター、軽火器、強襲車両）を購入。
- 監視技術の導入：「スマートシティ」システムを活用し、治安管理を強化。
ペルー
- 2004年、ロシアと軍事協力協定を締結。
- 2008年〜2013年、ロシア製兵器を多数購入。
- ロシア製ヘリコプターの維持：国内に整備施設があり、依存度が高い。
エクアドル
- 2008年、ロシア製Miヘリコプターと防空システムを購入。
- 2024年、エクアドル政府は旧ソ連製武器をウクライナに供与しようとしたが、ロシアの圧力を受け撤回。
3. ロシアと犯罪ネットワークの関係
ロシアは、麻薬取引や資金洗浄などの違法活動にも関与している可能性がある。
- ロシアの犯罪ネットワークとボリビアの麻薬組織のつながり。
- ブラジルのPCC（第一首都コマンド）との関係が指摘されている。
- ロシアの影響を受けたボリビア政府高官が汚職に関与。
- リチウム開発をめぐる不審死：元YLB（国営リチウム公社）マネージャーJuan Carlos Montenegroが死亡。
4. ロシアの外交戦略と影響力
ロシアは、中央アンデス諸国の政府関係者や政治家を取り込み、影響力を拡大する「グレーゾーン外交」を展開している。
- 国連での投票行動への影響：ボリビアはウクライナ侵攻関連の決議でロシア寄りの立場を取ることが多い。
- 外交的取引の裏側：ロシア寄りの政策の背景には、エネルギー契約や軍事協力が絡んでいる。
- 左派政治家のロシア支持：ロシアのプロパガンダを信奉し、広める政治家が増加。
5. まとめと考察
『Shadow Games』のレポートは、ロシアが偽情報、軍事協力、犯罪ネットワーク、外交戦略を駆使し、中央アンデス地域に影響を与えていることを示している。特にボリビアでは、ロシアの影響力が政府レベルで浸透し、偽情報の拡散や政治的弾圧に利用されている。ペルーやエクアドルでは影響は限定的だが、政局次第で拡大する可能性がある。
コメント
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