OECDが2025年2月18日に発表した「States of Fragility 2025」は、世界の脆弱性(フラジャイル)に関する包括的な分析を提供し、国家、社会、経済、環境、安全保障、人間の各側面からリスクとレジリエンスを評価している。本記事では、本レポートの概要を紹介した後、特にデジタル空間の操作や情報環境の活用が、脆弱性にどう関わっているのかに焦点を当てる。
1. OECD「States of Fragility 2025」の概要
OECDの脆弱性分析は、2005年に「脆弱国家」レポートとして始まり、2016年以降は多次元脆弱性フレームワークを用いた包括的な評価へと発展している。今回の2025年版では、全177の国・地域を対象に、「極度の脆弱性(Extreme Fragility)」「高い脆弱性(High Fragility)」「中~低い脆弱性(Medium to Low Fragility)」というカテゴリーに分類し、それぞれの特徴とリスクを分析している。
主なポイント
- 脆弱性の集中
- 世界177の国・地域のうち、61の国・地域が「高い」または「極度の脆弱性」と評価されている。
- これらの国・地域には世界人口の25%(約21億人)が暮らしているが、極度の貧困層の72%を占め、2040年には92%に達する可能性がある。
- 脆弱性の主な要因
- 政治的二極化、経済的困難、安全保障の不安定化が顕著。
- 武力紛争の増加(冷戦終結以来最多の紛争件数)。
- 経済の停滞(極度の脆弱性を抱える国ではCOVID-19後の回復が進まず、成長率はマイナス)。
- ジェンダー格差の拡大(多くの国で女性の権利が後退)。
- デジタル格差の拡大(インターネット普及率が低く、デジタル空間の活用に大きな地域差)。
2. デジタル環境の戦略的活用と情報の操作
本レポートでは、国家および非国家アクターが、脆弱性を「課題」ではなく「戦略的に活用できる状況」として分析し、利用していることが指摘されている。
特に、ロシアやフーシ派(イエメン)などのアクターが、デジタル環境を用いた情報戦略を展開していることが詳述されている。
ロシアのデジタル戦略と情報環境の操作
- ロシアは、アフリカ、中東、バルカン地域などで、「地政学的競争」の一環として、デジタル技術を利用した情報操作を行っている。
- これは「ハイブリッド戦争」と呼ばれる戦略の一部であり、エリート層への影響、経済的関与、開発支援の提供といった要素と結びついている。
- 具体的な手段としては、デジタル空間を通じた地政学的な混乱の助長、競争相手の影響力の低下、特定の政治的ナラティブの推進が含まれる。
サイバー技術の不均衡と国際的なガバナンスの欠如
- デジタル技術の発展は、一部の国に集中し、国際的なパワーバランスを変化させている。
- 特に、デジタルプラットフォームの統制が困難な状況が続き、情報環境の操作が容易になっている。
3. 高脆弱性国におけるデジタル技術と情報環境の影響
OECDレポートは、デジタル空間の活用が国家の影響力を拡大する手段となり、脆弱国の不安定要因を加速させる可能性があることを指摘している。
影響を受ける要素
- 政治的影響
- デジタル空間を活用した情報戦が、国家間の地政学的競争を激化させている。
- 例:アフリカにおいて、一部の国がデジタル技術を用いた影響力拡大を目指している。
- 経済的影響
- デジタルプラットフォームの統制が困難であるため、特定のナラティブが市場に影響を与える。
- 社会的影響
- デジタル空間が、社会の二極化を加速する要因になっている。
- 例:一部の国で、SNSを活用した政治的不安定化が進行。
4. 結論: デジタル空間の管理と国際的な規制の必要性
本レポートは、デジタル環境が国家戦略の一部として活用される現状を指摘し、これが国家間の競争、国内の不安定化、社会的な対立の激化に影響を与えていることを示している。
今後の課題
- デジタル空間の国際的なガバナンス強化
- 国家・非国家アクターが情報環境を戦略的に活用する現状に対し、国際的な規制枠組みが必要。
- デジタル技術の普及と平等なアクセスの確保
- デジタル技術の不均衡を是正し、特定の国やアクターの影響が過度に拡大しないようにする。
- 情報環境の透明性の確保
- デジタル空間における情報の出所、ナラティブの形成過程を明確にし、利用者が適切な判断を下せるようにする。
本レポートは、デジタル環境の操作が国家間のパワーバランスや社会の安定にどのような影響を与えているのかを示す重要な指針となる。
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