ギリシャにおける親ロシア偽情報:ゼレンスキー「贅沢支出」ナラティブの実態

ギリシャにおける親ロシア偽情報:ゼレンスキー「贅沢支出」ナラティブの実態 情報操作

 地中海地域のデジタルメディア監視を行うMedDMO(Mediterranean Digital Media Observatory)が2025年3月24日に発表したレポート「Greece: Report on Pro-Russian disinformation targetting Zelensky」は、ギリシャで展開されている親ロシア系偽情報のひとつ、「ウクライナ政府関係者による西側支援金の私的流用」ナラティブの具体的内容を分析している。

 このレポートでは、ギリシャにおいて2022年以降、ゼレンスキー夫妻やその側近が西側の軍事・経済支援を用いて高級不動産や贅沢品を購入しているという虚偽の主張がどのように流布されてきたのかを、個別の事例に基づいて明らかにしている。


なぜギリシャが対象となったのか

 ギリシャはEU加盟国としてウクライナへの支援を行っているものの、国内世論は分裂している。2024年のPew Research Center調査によれば、ゼレンスキーへの信頼は72%が否定的であり、さらに同年末のMRB調査ではプーチンの支持率がゼレンスキーを上回っていた。このような政治的不信と分極化が、ロシア発の偽情報にとって「受け入れられやすい土壌」となっている。


繰り返される贅沢支出ナラティブの具体例

 本レポートで取り上げられている偽情報の中でも、ゼレンスキー夫妻や関係者による「高級品購入」の主張は、その作り方・広め方のパターンが共通しており、典型的なプロパガンダ構造を示している。

◼️ゼレンスキー大統領への偽情報

  • 超豪華列車所有(2023年5月)
     → 実際にはウクライナ国鉄の一般列車の写真を用いた捏造
  • ヨット2隻を7500万ドルで購入(2023年12月)
     → 偽の売買契約書、船は未販売状態だった
  • 英王室の邸宅 Highgrove House 購入(2024年4月)
     → 架空メディア「The London Crier」が出所。サイトは投稿数件のみ
  • キプロスのカジノホテル購入(2024年6月)
     → 実在のオフショア企業Film Heritage Inc.の名前を利用したが、関係なし
  • イタリア・トスカーナのワイナリーをStingから購入(2024年8月)
     → 所有者は変わっておらず、地元行政も否定
  • ヒトラーのメルセデスを1500万ユーロで購入(2024年10月)
     → 背景と車を合成した偽画像を使用
  • フランス・クールシュヴェルの高級ホテル購入(2024年12月)
     → 所有者はモンテカルロの企業であり、虚偽のサイトが作られていた
  • カリブ海の高級別荘購入(2025年1月)
     → 偽文書と偽証言、ギリシャ版Pravdaで拡散

◼️オレナ・ゼレンスカに関する事例

  • Cartierで110万ドル分のジュエリー購入(2023年)
     → 偽物のInstagramアカウントとレシートによるでっちあげ
  • Bugatti Tourbillon(未発売)を450万ユーロで購入(2024年)
     → 存在しない社員の動画、ブガッティ社は否定

偽情報の仕組み:ナラティブラウンダリング

 これらの偽情報は、「ナラティブラウンダリング(narrative laundering)」と呼ばれる手法を通じて広められている。具体的には以下の3段階で構成される:

  1. 捏造
     新設メディアやSNSアカウントで、裏付けのない情報を発信
  2. 増幅
     ロシア大使館やPravda系列メディア、Telegramで拡散
  3. 正当化
     繰り返しの拡散によって「信憑性がある情報」に見せかける

 この構造はすべての事例において共通しており、逆画像検索、ドメイン履歴調査、企業への問い合わせなどの基本的な検証手法で否定可能だったという点もまた重要である。


政治的利用とローカルな加担者

 興味深いのは、こうした偽情報が単に海外から輸入されるだけでなく、ギリシャ国内の政治家によっても拡散されていることだ。共産党や極右政党「Greek Solution」の議員らが積極的に偽情報をシェアし、ナラティブの“地元化”が行われている。


結論:構造化された偽情報とそれに適応する言説空間

 本レポートが示すのは、単なるデマの羅列ではない。偽情報が戦略的に設計・流通・拡張されているという構造的現実である。特にギリシャのように、政治的不信と分断が顕著な国においては、こうした偽情報が「補強されやすいナラティブ」として根を張る余地がある。

 ゼレンスキーの贅沢品購入という一見分かりやすいスキャンダルは、実のところ、国際世論に対するロシアの攻撃そのものとして設計されたものである。

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