2024年11月、第29回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP29)が、アゼルバイジャンのバクーで開催されました。アゼルバイジャンは化石燃料の主要な生産国であり、そのエネルギー政策は地球温暖化を加速させているという指摘があります。また、人権侵害や言論の自由の制約といった負のイメージも、同国がCOP29の議長国としてふさわしいかを問う声もありました。
そんな中、アゼルバイジャン政府がソーシャルメディアを通じて議論をコントロールし、自国を称賛するためのプロパガンダ活動を展開していたことが指摘されています。本記事では、2024年11月22日に発行されたClimate Action Against Disinformation coalition(CAAD)によるレポート「Robo-COP29: Bots Boosted COP29 Petrostate Host’s Propaganda」の内容を紹介します。
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RoboCOP29レポートの概要
COP29のホスト国アゼルバイジャンがソーシャルメディア上で大規模なボットネットワークを使用し、自国を称賛するプロパガンダ活動を展開していたことを明らかにしました。この活動は、批判的な意見を抑制し、国際的なイメージを操作することを目的としており、X(旧Twitter)、Facebook、YouTubeといった主要なプラットフォームで確認されました。
1. ボットネットワークの目的と戦略
- 目的: アゼルバイジャン政府は、COP29に関連する否定的なニュースや批判を覆い隠し、自国を肯定的に見せるためにボットネットワークを活用しました。
- 戦略: ボットアカウントを使用して、公式のアゼルバイジャン関連コンテンツを大量に拡散し、ハッシュタグ「#COP29」や「#COP29Azerbaijan」を肯定的な投稿で埋め尽くすことで、批判的な声を目立たなくさせました。
2. プラットフォーム別の詳細な活動
a. X(旧Twitter)
- 批判的投稿の減少: 7月には、「#COP29」や「#COP29Azerbaijan」を使用したトップ10の投稿のうち、7つがアゼルバイジャンのアルメニアとの紛争における役割を批判していました。しかし、9月にはこれらのトップ投稿がすべて公式のCOP29アゼルバイジャンアカウントからの肯定的なものに置き換えられました。
- 疑わしいアカウントの活動パターン:
- 554の疑わしいアカウントが特定され、そのうち464アカウントが「#COP29 #COP29AZERBAIJAN」という同一のテキストを、COP29の2週間前に合計5,632回投稿していました。
- 投稿の大部分は、公式アカウント(@COP29_AZ)、アゼルバイジャン大統領イルハム・アリエフ氏、そして大統領補佐官ヒクメット・ハジエフ氏の投稿を引用リツイートする形で行われました。
- 活動のタイミング:
- 投稿の約3分の2は、10月23日と24日の2日間に集中。この期間は、『ガーディアン』紙のジャーナリスト、ダミアン・キャリントン氏が、アゼルバイジャンが今後10年でガス生産を3分の1増加させると報じた日とその翌日にあたります。
- さらに、11月5日には、同じアカウント群が再び活動を活発化。これは、キャリントン氏がアゼルバイジャンでの環境活動家の逮捕を報じ、『ボストン・グローブ』がアゼルバイジャンの責任を追及するオピニオン記事を掲載し、『ヒューマン・ライツ・ウォッチ』が同国の批評家に対する弾圧を報告した時期と一致します。
b. Facebook
- Abzas Mediaへの攻撃:
- 独立系メディア「Abzas Media」がCOP29に関連するボット活動について投稿した際、その投稿に対して675もの敵対的なコメントが寄せられました。これは、シェア数26、リアクション数44に対して異常に多い数字です。
- コメントを投稿したアカウントの多くは、フォロワー数が1~5人程度で、プロフィール画像は他のソーシャルメディアやウェブサイトから取得したもの、あるいはAI生成のものでした。
- 一部のアカウントは、不自然な投稿履歴や水印の入った画像を使用しており、偽装アカウントである可能性が高いとされています。
- 組織的なコメントの特徴:
- コメント内容は愛国的なメッセージや批判的な意見への攻撃が中心で、同じような文言が繰り返されていました。
- アカウントの作成時期や活動時間帯も類似しており、組織的な操作が疑われます。
c. YouTube
- プロモーション動画の大量視聴:
- アゼルバイジャン政府は、COP29に関連する公式動画を広告として大量に配信し、2つの動画で合計150万回以上の再生回数を獲得しました。
- 動画の内容は、COP29への歓迎メッセージや、アクセシビリティに関するものでした。
- コメント活動:
- 他のプラットフォームほど明確なボット活動は確認されていませんが、類似したコメントや不自然なアカウントからの反応が一部見られました。
3. ボット活動の影響と問題点
- 批判的な声の抑制: ボットネットワークによる大量の肯定的投稿は、アゼルバイジャンに対する批判的な意見を覆い隠し、国際的な議論の場での情報バランスを崩しました。
- 情報操作のリスク: このような組織的な情報操作は、一般ユーザーの認識や意見形成に影響を与え、気候変動に関する健全な議論を妨げます。
- プラットフォームの対応不足: これらのボットアカウントは、ソーシャルメディア企業が積極的な取り締まりを行う前に研究者によって発見され、多くが現在も活動を続けています。プラットフォームが協調的不正行為を効果的に防止できていないことが明らかになりました。
4. レポートの結論と提言
- ソーシャルメディア企業への批判: ボットを利用した世論操作は新たな問題ではないにもかかわらず、プラットフォームが予測可能なプロパガンダの急増を防ぐことに失敗していると指摘しています。
- 政府や規制当局への要請: 約100の専門家や組織が、政府に対してソーシャルメディア企業が気候変動に関する偽情報に責任を持つよう、強制力のある措置を取ることを求める公開書簡に署名しました。
- ユーザー保護の必要性: 有害な虚偽情報からユーザーを守るために、ソーシャルメディア企業はより積極的な対策を講じるべきであり、NGOや個人ユーザーに負担をかけるべきではないと強調しています。
結論
COP29のアゼルバイジャンにおけるプロパガンダ活動は、国家が偽情報を利用して自国の問題を覆い隠し、自己を正当化しようとする危険性を浮き彫りにしました。この問題は気候変動に限らず、国際政治や国内政策など幅広い分野で起こり得るものです。
日本においては、正確な情報発信とプロパガンダへの迅速な対応がますます重要になります。政府やメディアだけでなく、個人もまた、情報の受け手としてその信頼性を確認する役割を果たさなければなりません。
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