欧州評議会報告書にみる移民をめぐる偽情報構造:制度誤報・Salience Trap・反論判断基準の分析

欧州評議会報告書にみる移民をめぐる偽情報構造:制度誤報・Salience Trap・反論判断基準の分析 偽情報対策全般

 欧州では移民問題が長年にわたり政治・メディアの中心議題であり続けている。だが、この議題が扱われるたびに、事実関係とは異なる言説が急速に広まり、それらが訂正されないまま政策議論に影響を与える状況が繰り返されてきた。2025年11月、欧州評議会の移民・難民部門(DMR)が開催したラウンドテーブルは、この問題の背景にある構造を明らかにしようとした初の試みである。12名の専門家が参加し、偽情報、ヘイトスピーチ、報道の制度的仕組み、心理学的メカニズム、そして法制度に関する誤解がどのように交差して現在の混乱を生んでいるかが議論された。

 報告書ROUNDTABLE ON FACT-BASED COMMUNICATION ON MIGRATION SUMMARY REPORTは単なる概説ではなく、具体的な事例、実証研究、制度運用の観察を組み合わせて、偽情報が「訂正できない問題」として存在し続ける理由を立体的に描いている。本稿ではその全体像を紹介しつつ、とくにこの文書が示した三つの重要な論点──英国における制度誤報の増幅構造、態度形成を左右する「Salience Trap」概念、そして偽情報に反論すべきかどうかを決める“3Ps”という実務的基準──を中心に掘り下げる。これら三つは互いに補い合い、移民領域に特有の“訂正不能性”を理解するための枠組みとなる。


英国メディアの「75%誤報」に見る制度的誤解の増幅メカニズム

 報告書で最も具体的な素材として提示されたのは、英国のメディアにおける欧州人権条約(ECHR)関連報道の誤りである。オックスフォード大学 Bonavero Institute の2025年調査では、移民とECHRに関する主要紙の記事の約四分の三に事実誤認が含まれていたとされる。この数字は異常であるだけでなく、誤情報が偶発的ではなく構造的に生まれていることを示している。個々の記者が誤った情報を掲載したというレベルではなく、政治的動機を持つアクターが“象徴的事例”を意図的に際立たせ、それがメディア内部で自動的に複製されていくという過程が確認された。

 この“象徴事例”とは、制度の欠陥を示す典型例として繰り返し報じられた特定の判例であり、それ自体が誤解に基づいていた。ところが、複数の媒体が互いにこの事例を引用するため、読者側には「制度全体がこのように機能している」という印象が強固に形成されていく。この連鎖的引用の仕組みは、報告書が“ratcheting effect”と呼ぶ現象で、誤った理解が段階的に積み上がることで訂正がほとんど不可能になる。

 さらに、制度領域の誤解を深刻化させたのは、「反証可能なデータが存在しなかった」という現象である。英国の移民裁判所が実際にどのように判断しているのか、ECHR の適用範囲は何かといった基本的な情報が、政府側から十分に公開されていなかった。そのため、誤報を検証するための材料自体が公共空間に欠けていた。こうした状況では、fact-checking は根拠をもてず、訂正は制度的に封じられる。誤報が長期的に維持されるのは、読者の理解力の問題ではなく、制度・政治・メディアの三つが結びついた構造が誤解を再生産するからである。

 制度誤情報が恐ろしいのは、訂正の難しさに加えて、制度そのものへの不信を生み、それが次の誤解を育む“供給源”になる点だ。ECHR に関する誤解が蓄積されると、「条約が国家主権を妨げている」という政治的主張が受け入れられやすくなり、さらに制度情報が感情的に扱われるようになる。その結果、制度は本来の意味を失い、象徴的に操作される対象となる。報告書は、この循環こそが移民領域の議論を持続的に歪ませる根因だと描く。


Salience Trap──「何が語られるか」ではなく「語られる量」が態度を決める

 次に報告書が重視するのは、移民をめぐる態度形成がどのように生じているかを示す研究知見である。Dennison & Geddes による長期分析によれば、欧州の移民観は十年以上ほぼ変動していない。移民に肯定的か否定的かという基本的な傾向は、事件や選挙のたびに大きく動くわけではない。ところが、現実の政治・メディアでは、移民問題が“急激に大問題として浮上する瞬間”がある。この矛盾を説明するのが「Salience Trap」である。

 Salience(顕在化)とは、「ある問題をいま重要だと感じる程度」を指す。人々は、移民について新しい事実を与えられたから態度を変えるのではなく、移民というテーマに突然大量の報道が集中した瞬間に、幼少期から形成されてきた深層態度を一気に活性化させる。深層態度は安定しているが、顕在化すると政治的態度として表面化する。問題なのは、この活性化が報道内容の善し悪しとは完全に独立している点である。肯定的な内容であっても、報道量が増えれば移民が「危機」として知覚される。

 この逆説は、移民領域における偽情報対策を極めて困難にする。誤情報に反論しようとして報道量が増えれば、salience が上昇し、態度はかえって悪化する。つまり、誤情報を訂正する行為そのものが、別の経路から問題を悪化させてしまう可能性がある。報告書はこの点を慎重に指摘し、「増やせばよい情報」と「増やすべきでない情報」を区別する必要を強調している。しかし後者を判断する手がかりは直感では得られず、精緻な枠組みが必要になる。


偽情報に反応すべきかを判断する“3Ps”という実務的枠組み

 偽情報に対する反応が状況を悪化させる可能性を前提に、報告書が紹介するのが UNSW Kaldor Centre の“decision tree”である。この枠組みは、誤情報が既に流通している場合でも、Prominent(可視性)・Persuasive(説得力)・Proximate(近接性)の三条件が揃わなければ反論しないほうがよいとする。単に誤っているから訂正すればよいわけではなく、反論の影響を慎重に評価する必要がある。

 可視性とは、偽情報がどの程度広まっているかを示す。局所的であれば、反論によってかえって可視性が上がる危険がある。説得力とは、受け手がそれを信じる可能性が高いかどうかであり、冗談や誇張に反論すると、誤情報の印象を強めてしまうことがある。そして近接性とは、受け手に直接関係し影響を及ぼすかを判断する指標である。これら三つが揃って初めて、反論が“必要かつ有効”と認められる。

 反論すべきと判断された場合でも、“fact-sandwich”という構造化された手法が求められる。まず事実を提示し、次に誤情報を示し、その誤謬を説明し、最後に再び事実に戻る。この形式は、誤情報そのものの記憶定着を抑えつつ、必要な訂正を行うためのものである。偽情報に対する反論は、相手の主張を広める危険と常に隣り合わせであり、その危険を最小化するためにこの手法が設計されている。

 この枠組みが示しているのは、反論とは知識の問題ではなく、条件付きでしか許容されないリスク管理の一種だということである。移民領域のように salience が政治的影響を持つ領域では、無条件の反論が逆効果になり得るため、3Ps は意思決定の支柱となる。


偽情報が“訂正できない問題”として続く理由

 英国における制度誤報、Salience Trap、そして3Ps。これら三つは異なる領域の知見のように見えるが、実際には互いを補完し合い、移民領域の議論がどのようにして訂正不能になるのかを説明する一つの構造を形成している。制度誤情報は一度象徴化されると訂正のためのデータが欠落し、政治的に利用され続ける。Salience Trap は、訂正のための報道量が態度悪化につながる構造を作り出す。3Ps は、反論が許される状況が極端に限られていることを示す。こうして偽情報は、誤りであるにもかかわらず、訂正されるどころか制度議論の一部として定着してしまう。問題は“正しい情報の不足”ではなく、正確な情報が流通できない構造そのものが政治・制度・メディアの接点で組み上がっているという点にある。

コメント

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