Global Protection Forum Report 2025が描く「偽情報」――遮断・監視・威嚇・搾取の連鎖としての情報環境

Global Protection Forum Report 2025が描く「偽情報」――遮断・監視・威嚇・搾取の連鎖としての情報環境 情報操作

 Global Protection Cluster(保護分野の国際調整体)が2026年1月に公表した『Global Protection Forum Report 2025: What’s Next? Protection in Prioritised Humanitarian Action』を扱う。2025年11月に開催されたGlobal Protection Forumの各セッションを、発言者名を付さない要約ノートとして束ねた公式報告書で、週を通じた論点の流れが「Session 1〜6」の構造で記録される。中心テーマは「Prioritised Humanitarian Action(優先順位化された人道対応)」で、資源不足が恒常化する局面で、Protectionが現場でどう成立し、どの条件の組み合わせで崩れるのかを、複数コンテクストの実務言語で描く。本稿の焦点は偽情報・情報環境である。報告書は偽情報を、通信、監視、アクセス、暴力、搾取、記録と並ぶ現場条件として配置し、その集中的な記述をSession 3「Protection and Technology」に置く。

報告書全体が描く「優先順位化」の地平

 報告書の前提は、2025年の民間人が直面するProtection課題が、武力紛争の激化、気候関連危機、政治的不安定、そして「人道空間の縮小」によって同時に押し上げられているという現状認識にある。IHL/IHRL違反の広がり、説明責任の回路が細る感覚、現場アクセスの制約、資金の目減りが重なり、Protectionは「やるべき活動の集合」より「成立条件の管理」として立ち上がる。各セッションは、この成立条件を別々の断面(グローバル動向、優先順位づけの実務、技術・情報環境、食料安全保障との連関、当事者参加、司法・権利)から照らし、断面間で共通する摩擦点(アクセス、情報、資源、権利の持続性)を反復する。本稿はその中でも、情報環境がどのように「成立条件」として書き込まれているか、そして偽情報がどの局面で何と結びつき、何を変形させるものとして記述されているかに集中する。

Session 3:Protection and Technology

偽情報が「現場条件」として書かれる配置

 Session 3は、デジタル技術が紛争・暴力状況・避難を含む人道的文脈の生活に不可欠であるという前提から入り、戦の遂行とProtection対応を同時に変形させる力として技術を記述する。動的で包摂的な対応、コミュニティ関与の拡張、サービスアクセスの改善を通じたレジリエンスの強化が可能性として置かれ、その同じ変化がProtectionリスクを増幅させる条件になる、という二重性がセッションの骨格になる。偽情報はここで、情報の正誤や是正手順の問題としてではなく、通信遮断、監視、情報戦、搾取、威嚇、記録の可否と連結した現場条件として配置される。したがって、偽情報の説明は単発の「被害」では終わらず、オンライン空間の支配、インフラ破壊、暗号化空間への移動、記録不能の連鎖の中で、援助関係者やコミュニティの安全・アクセス・正義の回路をどう揺らすか、という形で出てくる。

ICRCが列挙する「デジタル・リスク」の射程

 ICRCのパートとして、紛争環境におけるデジタル・リスクの具体的傾向が列挙される。ヘイトスピーチ/偽情報を含む有害情報の拡散、意図的・非意図的な接続遮断(インターネット遮断など)、サイバー作戦とサイバー活動、軍や警察活動に統合されるAIエージェントが可能にするリスク、ドローン利用などの技術的発展が並ぶ。これらは「新たな暴力状況を生み、Protection対応を必要とする領域を生成する」ものとして位置づけられ、影響すべき新しいアクターとしてサイバー領域の主体やテクノロジー企業の名が挙がる。偽情報はこの列挙の中で、他の脅威要素と並列されるのではなく、後段の事例記述において、遮断・監視・威嚇とともに「現場を動かす手段」として具体化される。

スーダン:デジタルが相互扶助と戦争の双方を動かす

 Session 3の中心事例の一つがスーダンで、デジタル・ツールがローカルレスポンダーの情報共有・調整・資金流入(モバイル送金)にとって重要であることが具体に書かれる。相互扶助グループ、学生イニシアティブ、女性組織、コミュニティ・キッチン、Emergency Room Respondersがデジタルで状況情報を共有し、避難などの介入を組織する。資源の最大90%がディアスポラ等から来ており、国家的な現金危機を回避する手段としてモバイルバンキングが使われる。公式人道システムの縁で動く主体が、技術を用いてコミュニティ対応を主導する像がここで描かれる。

 同時に、紛争当事者がインターネット接続を民間人統制・監視に用いる局面が書かれ、オンラインが情報戦の主要戦線として立ち上がる。ボットファーム、国際PR企業の関与が記され、残虐行為動画がコミュニティ威嚇に使われる。停電とインターネット遮断は既存不平等を強化し、統治されないネット空間が被害者の同定と搾取の機会を作る。支配を競う環境の中で、コミュニティ自己防護を支える情報が、逮捕や嫌がらせ回避のため暗号化空間へ「地下化」する。ここでAIとコンテンツ操作が民族分断を煽り、偽情報が援助関係者についても流通することが明示される。引用として「when the lights go out then atrocities happen」が置かれ、インターネット遮断が「警鐘を鳴らす能力」を制限すること、情報が安全に記録されず外部に残らない場合、コミュニティが正義への道筋を想像しにくくなることが続けて書かれる。偽情報は、この鎖の中で「援助関係者をめぐる虚偽の語り」として現れ、遮断・威嚇・搾取・記録喪失と同じ地平で扱われる。ここにあるのは「誤情報の被害」の話ではなく、通信と可視性の喪失が、威嚇の手段(残虐動画)、統制の手段(監視)、動員の手段(組織的言説)、そして援助関係者の安全・アクセスを揺らす虚偽の語りへと接続していく、条件の連鎖としての記述である。

GBV対応:デジタル調整、仮想セーフスペース、ガザの完全デジタル移行

 「Technology and the GBV response」では、GBV対応アクターがデジタル・ツールを採用し、実務者間の調整、サービス提供状況とリファラル経路の共有に使っていることが書かれる。シリアでは急速に変化する状況下で最大100のパートナーが迅速に調整できたという記述があり、Laahaを含む「仮想の女性・少女のセーフスペース」ツールが多国で適応されているとされる。物理的センターにアクセスできない場合の代替空間として仮想モデルが置かれる。ガザの例では、民間インフラの大規模破壊の下で、GBVパートナーが完全にデジタルなケースマネジメントへ移行しており、提供者がノートPCではなく携帯電話で運用できること、提供者自身が避難を強いられ移動し続ける状況でこの形が重要になることが明記される。ここで情報環境は、支援の入口を作る技術基盤として描かれつつ、同じ環境が当事者の脆弱性を増幅しうる条件(可視性、追跡、情報流通)を孕むものとして、Session 3全体の二重性の中に収まる。

ウクライナ:停電の常態化と「デジタル保護」

 ウクライナは「高度にデジタル化された環境の最前線」として描かれる。1日最大12時間の計画停電が一般化する中で、電力供給の予定に関する調整された信頼情報があり、人道アクターはそれに合わせて活動計画を組み、個人も日常を調整する。空爆警報をモバイルアプリが通知し、家族の意思決定と人道オペレーションの実施判断に結びつく。デジタルIDシステムが文書の迅速な復旧を可能にし、支援や補償申請の入口になる。数十万人規模の子どもがオンラインまたはハイブリッドで教育を受け、人道対応もデジタルのセーフスペースを活用する。

 同時に、子どもへの「デジタルな危害」が具体に書かれる。メッセージアプリやオンラインゲームが搾取の入口になり、見知らぬ相手が子どもに接触し、軍事施設の写真撮影や座標送信のような「一見無害な作業」を容易な金銭で誘い、深刻さがエスカレートする。子どもは主にイデオロギーではなく金銭的誘因で関与し、脆弱性ゆえに狙われる。ここで重要なのは、リスクの扱いが「捜査・起訴」へ直結する語りではなく、子どもを被害者として認識し、スティグマ化を避け、予防措置を子どもフレンドリーに設計するという実務上の条件として提示される点である。UNSCのChildren in Armed Conflict Planへの署名、デジタル勧誘に関する規定、戦争終結後も搾取メカニズムが残存しうるという見通しが続き、情報環境が「戦時の一時的現象」ではなく、戦後のProtection条件にも連続することが示される。

AI:生成AI、深層偽造、ポルノ偏在、ガバナンスの実務論

 AIのパートは、影響圏を「当事者コミュニティ側の環境に入り込むAI」と「人道対応内部で用いるAI」に分ける。AIは一般に人間知能が要る作業を行う機械/プログラムとして記述され、生成AIのリスクとしてmisinformation/disinformation/deepfakesが挙がる。深層偽造のうち99%がポルノグラフィックだという数字が置かれ、ジェンダー暴力と情報環境が接続される形になる。偽情報はここで、政治的動員だけでなく、性的搾取・名誉毀損・排除といったProtectionリスクの増幅器として位置づけられる。

 ドローンと自律兵器の議論では、武装ドローンがIHLの通常規則(比例性、区別、予防)に服すること、戦場に人が物理的に存在しないことで武力行使が容易になること、監視用途の一般化が記される。攻撃の確実性やより標的化された対応を通じた民間人保護の可能性が語られる一方、ドローンが民間人の移動や人道サービスへのアクセスを監視する用途に使われ、人道アクセス上の懸念が生まれることが記録される。廉価化と普及の下で、品質・トレーサビリティ標準を含む規制の必要が「他の兵器と同様の水準」で語られる。結語では、デジタル技術採用が「恐怖」と「取り残されるリスク」の間に置かれ、資源削減下でも準備が要るという調子でまとめられ、AI利用に関する実務上の要件として、人道原則に基づく設計・展開・利用、明確なアカウンタビリティ枠組み、スタッフの利用ガイダンス、プロトコルと倫理基準の整備が列挙される。ここでは章番号のような内部参照ではなく、「実務の参照枠を整備する」という要請そのものが重要であり、偽情報はこのAI・コンテンツ操作の地平の上に、遮断と監視の条件と結びついて乗る現象として書かれている。

Session 6:Justice as Protection

記録・説明責任・権利回復の入口条件としての情報環境

 最終Session 6は「Justice as Protection」として、権利に基づくコミットメントを人道行動の中心に据える構えで進む。報告書がここで扱うのは、司法が資金削減局面で後景化しやすい状況の中で、法的保護が救命・生活維持(lifesaving/life sustaining)としてどう機能するかという論点である。Justiceは抽象概念でなく「lived outcome(生きられた成果)」として語られ、法的保護が尊厳形成に関わるという書き方になる。

 このセッションは、Session 3がスーダン事例で繰り返した「遮断」「記録不能」「正義への道筋の想像困難」というモチーフを、法的保護の入口条件として受け止める位置にある。説明責任は、出来事が共有され、証拠として残り、当事者が手続へアクセスできるという条件に依存し、これらの条件は通信・情報環境と切り離せない。ここで偽情報は主役としては現れないが、Session 3で描かれた情報戦、威嚇、コンテンツ操作、遮断が、記録と検証の回路を細らせることで、権利回復や説明責任の実務条件に波及する、という接続が報告書の構成上に置かれている。

報告書が示す偽情報の取り扱い方

 本報告書が偽情報を置く場所は明確である。偽情報は、規制論やファクトチェックの作法としてではなく、Protectionの成立条件を揺らす情報環境の一成分として書かれる。Session 3のスーダン記述はその典型で、オンライン情報戦(ボット、PR)、残虐動画による威嚇、停電・インターネット遮断、統治されない空間での被害者同定と搾取、自己防護情報の暗号化空間への移動、AI・コンテンツ操作による民族分断、援助関係者に関する虚偽情報という鎖が、同じ段落の連なりとして置かれる。偽情報は鎖の中で「援助関係者への虚偽情報」という形を取り、アクセスと安全、警鐘の回路、記録と正義の想像力に接続する。生成AIの記述は、深層偽造がポルノに偏在する数字を置き、GBVの文脈と情報操作を結びつける。ここでの偽情報は、「信頼を損ねる」という抽象語ではなく、「遮断と監視の下で、誰が危険を訴えられ、何が残り、何が消えるか」を左右する条件として機能している。

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