EU制裁とオンラインプラットフォームの対応:法的枠組みと実際の事例から見る課題

EU制裁とオンラインプラットフォームの対応:法的枠組みと実際の事例から見る課題 情報操作

 ロシアによるウクライナ侵攻以降、EUはロシアやベラルーシの政府系メディア、プロパガンダ活動に関連する個人・団体に対して厳しい制裁を課しています。この制裁は、EU内での経済活動を制限し、プロパガンダの拡散を防ぐことを目的としています。しかし、Alliance4Europe、Science Feedbackが2024年12月11日に公開したレポート「Sanctioned but Thriving: How Online Platforms Fail To Address the Widespread Presence of Entities Under EU Sanctions」では、主要なオンラインプラットフォームがこれらの制裁を十分に遵守していない実態が明らかになりました。本記事では、EUの法律的枠組みと、この報告書で取り上げられた事例を紹介します。

Sanctioned but Thriving

EU制裁の法的枠組み

 EU制裁は、ロシアやベラルーシのプロパガンダ活動を抑えるための重要な手段です。これには、以下のような規制が含まれます。

制裁法の基本

  • EU制裁法(Council Regulation No. 269/2014, No. 765/2006)
    • 制裁対象者への経済資源の提供を禁止。
    • 制裁対象者が広告収益やサブスクリプション機能を通じて利益を得ることを防ぐ。
  • デジタルサービス法(DSA)
    • プラットフォームが違法コンテンツを迅速に削除し、違法行為が拡散しないようリスク軽減措置を講じる義務を課す。

罰則の概要

  • 制裁やDSAに違反した場合、以下のような罰則が科されます。
    • 罰金: 年間グローバル収益の最大6%。
    • 資産凍結: 制裁対象者に関連する資産の凍結。
    • サービス停止命令: 繰り返しの違反がある場合、EU内でのサービス提供を停止させられる可能性。

法的枠組みが守られていない実態

 レポートでは、EUの規制がオンラインプラットフォーム上でどのように無視されているかを事例ごとに示しています。以下に、主要なプラットフォームでの課題を詳述します。

(1) Telegram:制裁対象アカウントの残存と収益化

問題点
  • 制裁対象アカウントの残存:
    • Telegramでは、EU制裁リストに載っているロシア国営メディアの公式チャンネルが削除されずに残存。
    • これらのアカウントは、EU内からも自由にアクセス可能。
  • 収益化の問題:
    • Telegramの広告収益分配プログラム(Telegram Ad Platform)を利用し、制裁対象アカウントが収益を得ている可能性が指摘。
    • 広告収益の50%がアカウント所有者に分配されるため、制裁対象者が間接的に経済資源を得ている状況。
具体例
  • Sputnik News LithuaniaRossiya Segodnya:
    • これらの公式チャンネルは合計で約350万人のフォロワーを持ち、広告収益を得ている可能性。
    • 制裁対象であるにもかかわらず、Telegram上で活発に活動。
影響
  • 制裁の目的である「経済資源の遮断」が達成されていない。
  • Telegramが制裁対象者に収益機会を提供しているため、EU制裁違反の可能性がある。

(2) Meta(Facebook):アンプリファーアカウントの拡散と収益化

問題点
  • アンプリファーアカウントの存在:
    • Meta(Facebook)では、制裁対象のメディアやコンテンツを拡散する「アンプリファーアカウント」が残存。
    • これらのアカウントは、制裁対象コンテンツを直接配信する公式アカウントとは異なり、非公式な形で影響力を拡大。
  • 収益化の問題:
    • 一部のアンプリファーアカウントが、Metaのサブスクリプション機能や広告収益を通じて経済的利益を得ている。
具体例
  • Poutine TV:
    • フランス語でRT(Russia Today)のコンテンツを再投稿するアカウント。
    • フォロワー85,000人を持ち、サブスクリプション機能を通じて月額4.99ユーロを徴収。
    • EU制裁対象メディアの影響力を間接的に強化。
影響
  • Metaのプラットフォームを通じて、制裁対象コンテンツが間接的に拡散され、制裁の実効性が損なわれている。
  • プラットフォーム運営者の監視体制の不備が浮き彫り。

(3) YouTube:ライブストリーミングを利用した制裁回避

問題点
  • ライブストリーミングでの制裁回避:
    • 制裁対象のロシア国営メディアが、YouTubeで「使い捨てアカウント」を利用してライブ配信を継続。
    • アカウントが削除されても、新しいアカウントを作成することで迅速に復帰。
具体例
  • TelegramとYouTubeの連携:
    • Telegramチャンネル「Restream」は、YouTubeのライブストリーミングリンクを共有。
    • 約3,000人のフォロワーを持つこのチャンネルは、3か月間で59本のライブ配信リンクを共有。
    • YouTube側の削除対応が遅れるため、制裁対象メディアのライブ配信が広く拡散。
影響
  • ライブ配信という特性上、迅速な対応が求められるにもかかわらず、対応の遅れが制裁違反を助長。
  • YouTubeのアルゴリズムや監視体制の限界が露呈。

(4) Google Search:ミラーサイトの検索結果表示

問題点
  • ミラーサイトの拡散:
    • 制裁対象メディアのミラーサイトがGoogleの検索結果に表示され、EU内からアクセス可能。
    • これにより、制裁対象コンテンツが別の形で利用され続けている。
具体例
  • Pravda Network:
    • ロシア政府が支援するプロパガンダサイト群で、61のミラーサイトが存在。
    • 各国向けに異なる言語で自動翻訳されたプロパガンダコンテンツを提供。
    • Google検索で容易に見つかるため、制裁の効果が大きく低下。
影響
  • Googleは知的財産権侵害コンテンツの削除には一定の成功、しかし制裁対象コンテンツの取り締まりには遅れ。
  • 検索エンジンが制裁違反を間接的に支援している形。

(5) ベラルーシ制裁への対応不足

問題点
  • ロシアに比べて、ベラルーシの制裁対象アカウントやコンテンツへの対応が特に遅れている。
具体例
  • Belteleradiocompany:
    • ベラルーシ国営メディアの公式アカウントが複数のプラットフォームで残存。
    • ベラルーシ政府や防衛産業関連企業の活動も規制されていない。
影響
  • ベラルーシ制裁がロシア制裁と同等の重要性を持つにもかかわらず、対応が不十分であることが問題視。

考察: EU法規制の課題と今後の展望

 EUの制裁とデジタルサービス法は、オンラインプラットフォーム上での違法行為を抑制するための強力な枠組みです。しかし、このレポートから以下の課題が浮かび上がります。

  1. 規制の徹底が不十分:
    • 制裁対象アカウントの削除や経済資源遮断が不完全であり、プラットフォーム間で対応に大きな差。
    • 特にTelegramやYouTubeでは、新しい回避手段が次々と出現しており、対応が追いついていない。
  2. 罰則の実効性向上が必要:
    • 罰金やサービス停止命令などの規定があるものの、実際に適用されるケースが少ない。
    • 各国規制当局の監視体制を強化し、プラットフォームの責任を明確化する必要がある。
  3. 透明性と技術的解決策:
    • プラットフォームがコンテンツモデレーションのプロセスを透明化し、AIやアルゴリズムを活用した制裁対象コンテンツの検出精度向上が求められる。

結論

 本レポートは、EUの法規制が持つ理論上の強力さと、実際の運用における不十分さのギャップを明らかにしています。オンラインプラットフォームは、制裁対象コンテンツへの対応を強化し、EU規制を遵守するための具体的なアクションを求められています。

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