GLOBSECの『Czech Election Assessment Report』は、チェコの選挙期に観測された外国情報操作・干渉(FIMI)を、「どの投稿が嘘か」ではなく、どの媒体・どのインフラ・どの運用技術が、どの時間幅と量で連結し、選挙の判断環境をどう歪めうるかとして分解して記述する。構成は、①脅威アクター、②代理・洗浄(laundering)インフラ、③協調的不正挙動(CIB)と増幅、④ナラティブ別の作戦線、⑤運用技術の革新、⑥協調の行動指標、⑦量的インパクトと累積効果、⑧ハイブリッド事案、という流れで、具体のアウトレット名・プラットフォーム・数値指標・時系列のピークを置いて論理を接続する。
脅威アクターの置き方:ロシアを中心に、“洗浄と増幅の仕組み”として描く
レポートはロシアを主要アクターとして位置づける。ただし、「単一の司令塔がすべてを直接指示した」という描き方は採らない。選挙期に可視化されたのは、親クレムリン系の素材が、チェコ語圏の流通形態に合わせて翻訳・転載・再掲され、Telegram/X/TikTok/広告といった別レイヤーへ移されることで、出自を曖昧化したまま反復される、という流れである。中心に置かれる要素は、(a)制裁回避を含む代理インフラ(b)再掲ネットワーク(c)短尺動画とハッシュタグを使った可視性獲得(d)クロスプラットフォームの増幅カスケードである。
代理・洗浄インフラ:neČT24、Pravda network、CZ24.newsが作る“擬似的な国内合意”
neČT24:制裁回避の「継承モデル」を運用単位として扱う
レポートが明確に書き込むのは、neČT24が単なる問題サイトではなく、制裁回避の継承モデルとして機能している点だ。EUによるSputnik CZ制裁(2022年3月)後、neČT24は即座に立ち上がり、編集チームの同一性と戦略目的の継続が示される。媒体の器(ドメイン)が変わっても、Telegram/X/ウェブ/Facebookへ展開し、年齢層・デジタル熟練度の違いをまたいで浸透させる設計が維持される、という観察が置かれる。ここで「継承」は比喩ではなく、制裁をすり抜けるための運用技術として扱われている。
Pravda network:200,000+アイテムの“工業的再掲”が情報洗浄のパイプラインになる
Pravda network(チェコ向けノードを含む)は、レポート内で「洗浄インフラ」として最も大きく扱われる。観測期間として明記されるのは2025年9月1日〜10月9日で、この39日間に200,000件超のアイテムが再掲された。うち選挙関連は822本で、選挙に直接触れる素材は巨大母集団の一部として置かれるが、焦点は再掲の機構にある。Telegramなどから吸い上げた投稿が「記事」に変換され、翻訳・体裁整形・再掲によって、独自取材であるかのような外観を獲得する。レポートはこの工程を、出自の見えにくさと「もっともらしさ」の付与(plausibility)として描く。
また、選挙期のピーク運用についても具体的に示される。選挙当日の10月4〜5日に選挙関連素材の投稿が集中し、選挙関連コンテンツの約25%がこの2日間に載る、という“サージ”が指摘される。論点は、判断が最も敏感な局面で、再掲の仕組みがどのように加速したかに置かれる。
CZ24.news:地域合意の“国内化”を担うリレー
CZ24.newsは、Telegramで観測される素材がニュース形式に組み替えられ、再掲ネットワークに接続される際の国内ノードとして扱われる。レポートは、チェコ語チャンネル(CZ24.news、Pravda networkなど)を使って、親ロシア的な含意が地域の常識として見えるように整えられる点を位置づける。個々のTelegram投稿の表示回数として、1投稿あたり4,150〜4,800ビューというレンジが示され、さらに「3〜6のアウトレットにミラーリングされる」ことで累積露出が上がる、と説明される。単発の強拡散ではなく、多層の反復による総露出が描かれる。
協調的不正挙動(CIB):TikTokの協調ネットワークと、Xでの短尺動画の搬送
TikTokネットワーク:146アカウント、10.55百万いいね、76,000動画という“工業規模”
レポート中で最も規模が数値化されているのがTikTokの協調ネットワークだ。146の協調アカウントが取り上げられ、累積指標としてフォロワー309,000、いいね10.55百万、動画76,000本が提示される。手動とアルゴリズムの両面から行動マーカーを抽出し、フラグ付けされたアカウントの大半(140/144)がLIKELY_BOTと分類されたことが書かれる。根拠として、高い投稿速度、個人的内容の欠落、政治ハッシュタグの反復投入、プロフィール情報の不完全さが列挙され、2025年作成アカウントが43%という比率が、選挙前の計画的投入を示す指標として置かれる。象徴的な運用例として、#czechelectionsの反復投入が挙げられ、ハッシュタグ氾濫(flooding)が手口として明示される。
X/Twitterクラスター:TikTok素材を“搬送”して公共的談論空間に押し込む
TikTokが若年層の可視性を獲得する装置であるのに対し、X側は短尺動画を公共的な可視空間に搬送する役割として描かれる。61アカウントの匿名クラスターが、TikTokの403のユニークチャンネルから動画を体系的に再投稿し、クロスプラットフォームの増幅カスケードを形成したとされる。量的結果は、61アカウントで930,000ビューという形で提示される。
ナラティブ別の作戦線:政党正統性、ウクライナ支援、選挙の公正、社会分断
政党正統性:Babiš優遇と与党攻撃を“非対称増幅”として記述する
政党・政治家に関する扱いで、レポートが示すのがPravda network上のセンチメント偏りだ。Andrej Babiš関連のコンテンツの83.67%が肯定的である一方、Petr Fiala首相に言及するコンテンツの80.30%が否定的とされる。加えて、neČT24が選挙終盤3週間にかけてBabišやANO幹部に反復的な露出機会(インタビューの場)を与え、選挙直前に露出が積み増される設計が示される。
ここに外部媒体としてロシア側の国営紙が絡む。Rossiyskaya Gazetaが10月1日にBabišを好ましい結果として位置づけ、EU・NATOの結束とウクライナ支援を弱める方向性に結びつけた、という叙述が続き、国内の再掲・露出非対称が国際的含意と接続される。
同時に、与党連合SPOLU、STAN、PiratesがTikTok協調ネットワークで腐敗として枠づけられる点、X上のクラスターや匿名コミュニティが親ウクライナ政治家を「裏切り者」とラベリングする点が並置され、支持形成と敵対者劣化が一体の作戦線として組まれていることが示される。
ウクライナ支援:資源枯渇フレーム、腐敗フレーム、難民脅威フレームを媒体別に割り当てる
ウクライナ支援をめぐる作戦線は中核に置かれる。提示されるのは単一主張ではなく、媒体横断で反復される枠組みだ。「ウクライナ支援がチェコの資源を枯渇させ、生活を圧迫し、戦争に引きずり込む」という含意がエコシステム全体で流される。Pravda networkは支援を無謀と描き、neČT24は弾薬支援プログラムの腐敗主張を促進し、CzechFreePressはロシア側の語りを再掲してウクライナを侵略者として描く、といった形で、同じ方向の含意が媒体ごとに異なる「根拠の外観」をまとって供給される。
NewsFront SKは地域性を利用し、ハンガリー・スロバキア・チェコを「対話と自制」の軸として描き、EU/NATOを戦争政策として暗に対置する。隣接国間の言語・文化的親近性を使い、地域合意の外観を作る、という指摘が入る。難民については、Xの匿名コミュニティが難民を犯罪・治安リスク・負担として描く枠組みを体系的に展開したとされ、支援弱体化が国内問題へ翻訳される。
選挙の公正と制度信頼:他国事例を前例として持ち込み、選挙直前に疑念を供給する
選挙制度への攻撃は具体のストーリーとして提示される。neČT24が9月28〜30日に複数投稿を行い、憲法裁判所、Rapid Response System(RRS)、政府が選挙を「盗む」準備をしていると主張し、2024年12月のルーマニア選挙無効化をテンプレートとして使った、と書かれる。投稿の到達として7,500〜8,000ビューが示され、制度アクターを名指しし、他国事例を前例として持ち込むことで、選挙日程の直前に疑念を供給する運用が描かれる。
同じ流れで、対策そのものへの逆攻勢が置かれる。neČT24がRRSを検閲装置として描き、米国・ブリュッセルに整合する国家抑圧の道具だというフレームを流す。制度不信と対策不信が同一の作戦線に置かれる。
さらに投票日当日の具体例として、10月4日にneČT24がロシアの政治学者Vadim Trukhachevへのインタビューを掲載し、親クレムリンの立場を専門家意見として最も敏感なタイミングで提示したと書かれる。この記事は4つの問題アウトレット(Asociace nezávislých médií、Pravý prostor、Právě dnes、Oral.sk)に再掲され、同時再掲による増幅が形成された、と具体名で記述される。
社会分断:難民の非人間化と、政治暴力の正規化を行動変容として扱う
社会分断のパートでは、敵意言説としての描写が中心になる。Xの匿名コミュニティがウクライナ難民を非人間化し、特定の蔑称で呼び、動物に例え、犯罪・経済負担として描く、といった要素が列挙される。さらに、親ウクライナ政治家やジャーナリストを「裏切り者」と呼び、政府を犯罪集団として描き、選挙後の大量逮捕や捜査を要求する言説が見られたとして、政治的暴力の正規化が指摘される。真正の社会的緊張(移民・統合の摩擦)を利用し、敵意の方向づけに転用する手口として位置づけられる。
量的リーチ推計:インシデント別の到達指標を並べ、累積として扱う
レポートは、データ制約に触れつつも、観測できた指標で“見える範囲の推計”を表形式で示す。neČT24の9月増幅は59,300ビュー、Pravda networkは(9月1日〜10月9日)200,000+総アイテム中822の選挙投稿、TikTok協調ネットワークは309,000フォロワー/10,550,000いいね/76,000動画、Xの匿名クラスターは30日で930,000ビュー(61アカウント)、Telegramは(最大アカウントの事例として)9月1日〜10月10日に3,194投稿で1,170,000ビュー、Telegram個別投稿は4,150〜4,800ビュー(購読者約30,500)といった形で、媒体ごとの到達規模を同一平面に置く。さらに、詐欺広告事案は316広告でEU域内3,390,000リーチという数字で置かれる。ここでは、個別指標の大小よりも、反復と多層化による累積露出が問題として扱われる。
ハイブリッド事案:純粋なFIMIではないが、疑念増幅として選挙環境に混ざり込む
Stačilo!のデータ漏洩:debug.log放置、約4,000人分、拡散指標まで含めて追う
ハイブリッド事案として詳細に書かれるのが、Stačilo!運動の個人情報漏洩だ。2025年10月1日、公式サイトstacilo.czにdebug.logがアクセス制御なしで置かれ、約4,000人の寄付者の氏名、メール、住所が含まれるデータベースが露出した。技術参照としてスロバキア拠点の企業名(magastudio.sk、mediagrape.sk)が記録されていた。研究者の一部がこれら企業の対露関係を示唆したが、公式確認はない、という留保も含めて記述される。もし外国企業が無償でサイト運用をしていた場合、チェコ法上の外国由来の現物寄付に該当し得る、という制度論点にも接続する。
拡散についても具体名が出る。コンテンツクリエイター(Prague Pérák)やYouTuber(Mikael Oganesjan)が取り上げ、Xスレッドで43,500ビュー、YouTubeで44,000ビューと到達が示される。真正の漏洩が、外国浸透の疑念(未検証の主張)へ接続されて広がる、という混線が焦点になる。
「Šokující Česká 24」投資詐欺広告:政治家なりすましが信頼侵食として作用する
もう一つのハイブリッドとして置かれるのが、投資詐欺の広告キャンペーン「Šokující Česká 24」だ。Facebookページが信用できそうなドメインを使い、ユーザーを詐欺的投資スキームへ誘導した事案として説明される。犯罪が主で政治目的が主ではない一方で、Petr PavelやVít Rakušanといった政治家のなりすましを用い、民主制度への信頼を損ね、懐疑を増幅し得る、と位置づける。量的には316広告、EU域内3,390,000リーチが示される。
まとめ
本レポートが描くのは、選挙期の情報操作が、媒体ごとに役割を分担しながら層をまたいで接続され、出自の見えにくさと反復露出によって判断環境に影響し得る、という構造である。制裁後に媒体を継承するモデル、Telegram素材を記事に変換して再掲する工程、短尺動画とハッシュタグで可視性を作る運用、TikTokからXへ素材を搬送して可視空間に押し込む動きが、選挙直前・投票日といった敏感な局面で加速する。さらに、データ漏洩や投資詐欺のようにFIMI専用ではない事案も、疑念や不信を増幅する形で選挙環境に混ざり込み得る。


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